労働委員会関係裁判例データベース

(この事件の全文情報は、このページの最後でご覧いただけます。)

[判例一覧に戻る] [顛末情報]
概要情報
事件名  住友ゴム工業(第2次救済申立て) 
事件番号  神戸地裁平成22年(行ウ)第50号 
原告  ひょうごユニオン 
被告  兵庫県(処分行政庁:兵庫県労働委員会) 
補助参加人  住友ゴム工業株式会社 
判決年月日  平成24年2月22日 
判決区分  全部取消 
重要度   
事件概要  1 Y会社の元従業員2名(X1及びX2)及び死亡した元従業員X3の妻(X4)が加入するX組合が、Y会社に対し、Y会社における石綿の使用実態の明確化や退職者に係る企業補償制度の創設等を求め、平成18年10月12日付けで申し入れた団体交渉に、X組合分会の組合員にはY会社と雇用関係にある労働者は含まれていないことを理由にY会社が応じなかったことが、不当労働行為に当たるとして、X組合が救済申立て(平成18年11月13日付け前件申立て)を行った後、X組合が、再度、同旨要求のほかY会社が実施した退職者の健康診断結果の公表等を加え、平成21年5月14日付けで申し入れた団体交渉に、Y会社が、X組合に対し団体交渉応諾義務はなく、このことは現在係争中であることを理由に応じなかったため、X組合が、本件団体交渉の応諾等を求めて救済申立て(平成21年7月6日付け本件申立て)を行った事件である。
2 兵庫県労委は、①X組合分会の組合員は、定年退職者であり、雇用関係の解消の有効性について、当事者間で争いはなく、②本件団体交渉での問題事項は、在職中に発生した労働条件をめぐる紛争ではなく、③本件団体交渉申入れは、退職時から約9年ないし24年経過し、合理的期間の範囲内とは認められないため、例外的に「使用者が雇用する労働者」(労組法7条2号)と認めるべき場合に当たらないとして、申立てを却下した。
 本件は、これを不服として、X組合が神戸地裁に行政訴訟を提起した事件であるが、同地裁は、兵庫県労委の却下決定を取り消した。
判決主文  1 兵庫県労委が、兵庫県労委平成21年(不)第7号事件について平成22年3月4日付けでした原告の申立てを却下するとの決定を取り消す。
2 訴訟費用のうち、補助参加により生じた費用は、補助参加人の負担とし、その余の費用は、被告の負担とする。  
判決の要旨  1 「使用者が雇用する労働者」の意義及び使用者の団体交渉応諾義務について
(1) 労組法7条2号は、使用者が団体交渉を正当な理由なく拒むことを不当労働行為として禁じており、団体交渉を通じて正常な労使関係が樹立されることを目的としているといえる。すると、同号にいう「使用者が雇用する労働者」とは、原則的には、現に当該使用者が「雇用」している労働者を前提としていると解される。
 もっとも、現実に派生する労働条件等を巡る問題は様々であり、雇用関係の前後にわたって生起する場合もあり(雇入れが反覆される臨時的労働者の労働条件を巡る紛争、解雇後、解雇の効力に争いがある場合や退職条件・賃金等の労働条件の紛争がある場合等)、そのような例においては、当該労働者を「使用者が雇用する労働者」と認めて、その加入する労働組合と使用者との団体交渉を是認することが、むしろ上記労組法の趣旨に沿う場合が多いと考えられる。
 他方、雇用関係終了後、雇用関係にあった者が労働組合に加入して、雇用関係存続中の労働条件に関して使用者であった者に対して団体交渉申入れがされた場合、無限定に団体交渉応諾義務を是認すれば、かえって無用な紛糾を生じ、団体交渉を通じた正常な労使関係の樹立という上記労組法の趣旨に背馳する結果となる場合があるといえる。
(2) 団体交渉を通じ、労働条件等を調整して正常な労使関係の樹立を期するという上記労組法の趣旨からすれば、使用者が、かつて存続した雇用関係から生じた労働条件を巡る紛争として、当該紛争を適正に処理することが可能であり、かつ、そのことが社会的にも期待される場合には、元従業員を「使用者が雇用する労働者」と認め、使用者に団体交渉応諾義務を負わせるのが相当といえる。
 その要件としては、①当該紛争が雇用関係と密接に関連して発生したこと、②使用者において、当該紛争を処理することが可能かつ適当であること、③団体交渉の申入れが、雇用関係終了後、社会通念上合理的といえる期間内にされたことを挙げることができる。そして、上記合理的期間は、雇用期間中の労働条件を巡る通常の紛争の場合は、雇用関係終了後の近接した期間といえる場合が多いであろうが、紛争の形態は様々であり、結局は、個別事案に即して判断するほかはない。
2 Y会社の団体交渉応諾義務について
(1) X1らは、石綿ばく露の可能性のある業務に従事していたもので、Y会社の業務に従事したことにより、健康被害が発生している可能性があり、X1らは健康管理手帳の交付を受けていることからすると、本件は、従来の雇用関係と密接に関連して発生した紛争といえる。
(2) また、上記のことからすれば、Y会社は、石綿の使用実態を明らかにしたり、健康被害の診断、被害発生時の対応等の措置をとることが可能であり、かつ、それが社会的にも期待されるといえる。
(3) 次に、本件団交要求が合理的期間内にされたといえるかを検討すると、X1らがY会社を退職してから相当の期間が経過しているものの、その責をX1らに帰することは酷であり、石綿関連疾患には非常に長い潜伏期間があり、長期間経過後発症するという石綿被害の特殊性を考慮すれば、社会通念上合理的期間内に前件団交要求及び本件団交要求がされたと解するのが相当である。
(4) 以上によれば、X1らは、労組法7条2号の「使用者が雇用する労働者」であり、X組合は、X1らを代表する労働組合と解するのが相当であり、本件に関し、Y会社に団体交渉を拒否する正当事由があると認めることもできないから、Y会社には団体交渉応諾義務がある。
 もっとも、亡X3がX組合に加入した事実はないから、仮に、亡X3が「使用者が雇用する労働者」に該当するとしても、X組合がその代表者であるとはいえず、Y会社は、(亡X3の遺族)X4の代表者としてX組合が団体交渉を求めても、これに応じる義務を負わない。
3 まとめ
 以上によれば、X組合は、X1らを代表する労働組合であり、本件団交要求は、X1らとY会社間の安全配慮義務を巡る紛争に関するものであるから、Y会社は、本件団交要求について、X組合と団体交渉応諾義務を負う。
4 結論
 よって、X組合による救済申立てを却下した本件決定には、労組法7条2号の解釈を誤った違法があるから、これを取り消す。
その他   

[先頭に戻る]

顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
兵庫県労委平成21年(不)第7号 却下 平成22年3月4日
 
[全文情報] この事件の全文情報は約210KByteあります。 また、PDF形式になっていますので、ご覧になるにはAdobe Reader(無料)のダウンロードが必要です。