労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名  セフテック 
事件番号  東京地裁平成22年(行ウ)第199号 
原告  全労協全国一般東京労働組合
個人X1 
被告  東京都(処分行政庁:東京都労働委員会) 
参加人  セフテック株式会社 
判決年月日  平成23年12月12日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 組合が、病気治療のため特別休暇を取得していた組合員X1の定年退職後の雇用延長を議題とする団体交渉を申し入れたが、第1回団体交渉以降、話合いは進まず、会社が組合員X1を再雇用しなかったことが、不当労働行為に当たるとして、東京都労委に救済申立てがあった事件である。
2 東京都労委は、申立てを棄却した。
 本件は、これを不服として、組合及びX1が、東京地裁に行政訴訟を提起した事件であるが、同地裁は組合らの請求を棄却した。
判決主文  1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。  
判決の要旨  ○ 会社がX1を再雇用しなかったことが、労組法7条1号の不当労働行為(不利益取扱い)に該当するか(争点)
1 本件の判断の枠組み
 組合らと会社との間に他の紛争が存在していることから直ちに、不当労働行為の存在を推認することはできず、不当労働行為が認められるためには、他の従業員にも適用される再雇用制度の適用として、X1の組合活動を理由とした不利益取扱いであると推認させる程度に、X1に対する適用に向けての判断が不自然であるという事情の存否が論じられる必要がある。
2 健康状態の基準を満たさないとの会社の判断について
(1) X1は、平成14年ころから頚部脊髄症を患い、平成17年ころ、通勤や従前の営業職の業務を遂行することが困難な程度に悪化していたといえる。したがって、会社が、同年12月ころ、X1の健康状態について、業務に支障が生じる程度に悪化しており、2回目の手術を受けたとしても営業職への復帰は難しいと判断したことや、定年退職までの約9か月の特別休暇取得を提案したことは、客観的状況に即した合理性のある判断・提案であって、この過程に特に不自然な事情は存しない。
 X1は、(平成18年)7月には会社から診断書の提出を促されたのに、定年退職日の約10日前に本件診断書が会社に送付されるまで、本件傷病からの回復を示す診断書の提出等をせず、文書等による明確な形に則った復職希望の伝達等をしていない。そうすると、平成17年12月当時、本件傷病が手術を要する程度のものであり、営業職への復帰は困難であると判断した会社が、その後、その判断を覆すに足りる資料が示されなかったと考え、X1について引き続き健康状態の基準を満たさず、再雇用基準を満たさないと判断したこともまた、特に不自然ということはできない。
(2) 組合らは、会社が、本件診断書があるのに、X1について健康状態の基準を満たさないと判断したことが不合理と主張する。
 しかし、本件診断書は、X1の業務内容が「車の運転で営業している」という程度の説明によっていて、具体的な業務内容を前提としておらず、原職に復帰する場合の業務内容を踏まえた「健康状態の基準」に適合する形の判断と言えるかには、疑問の余地がある。そして、X1が1回目の手術後数年を経過して再発し、2回目の手術をするに至った経緯と、会社のその段階で有していた情報を前提とすれば、本件診断書を踏まえても、知り合いの医師への一般的な知見を参考にして、手術後再び業務遂行に支障が出る程度に症状が悪化する可能性があると考えることは、不自然な判断とは評価できない。
(3) 組合らは、会社が、会社の指定する医師の診断をX1に受けさせないままに健康状態の基準を判断していることが不合理と主張する。
 しかし、平成18年1月ころのX1の本件傷病が相当悪化していたことに照らせば、医師の判断を経なければ基準を満たすか判断することが困難な状況であったとはいえないし、X1を直接診断させていないものの、医師の助言を得た上での判断である以上、本件の状況下では、特に不自然な判断とは評価できない。
3 人事考課の基準について
(1)ア 再雇用基準として人事考課の結果を用いることは、高年齢者雇用安定法においても当然、許容され、会社が再雇用基準の1つとして設けた人事考課の基準は、会社への貢献を期待できる人材を再雇用するという趣旨の根拠がある手法と評価できる。
 会社の人事考課の基準は、複数の項目を設け、項目ごとの割合も決められている。その過程に評価者の主観が入る余地はあるが、評価者の主観が全く入らない人事考課は考え難く、人事考課の結果は、上司から従業員に告げられ、異議がある場合、上司及び総務部に説明を求めることができる仕組みであったことに照らせば、全体として、客観性を有する制度と評価できる。
 イ 組合らは、人事考課の基準が公開されておらず、恣意的な運用が行われていたと主張する。
 しかし、上述のようにこの制度には客観性が認められること、これまで組合は、人事考課の開示を具体的に要求していなかったことに照らせば、直ちに人事考課の恣意的な運用があったとは評価し難い。
 ウ 組合らは、組合員X2の人事考課が、組合員であることを理由とした不当なものであったと主張する。
 しかし、X2の人事考課の結果を見ると、A評価のときもあり、上記組合らの主張を人事考課の恣意性の根拠として採用できない。
 エ 組合らは、5段階評価のうち、全体の約4割に止まるB評価を「平均」としていることが不合理と主張する。
 しかし、再雇用基準として成績分布の上位何割程度の者を採用するかは、会社に判断の裁量があるし、定年退職した者に均しく適用される基準が厳しいことが、不当労働行為を根拠付ける不自然なものともいえない。
 オ 組合らは、会社の業績予想をもとに組合らが作成した推移表に照らし、会社の評価基準で拠点成績がA評価以上になることも、個人成績・拠点成績でS、Aになることもほとんどないから、営業職の場合、B評価以上を続けることもまずあり得ない等と主張する。
 しかし、推移表の信用性に疑問があり、したがって組合らの「営業職の場合、B評価以上を続けることもまずあり得ない」という主張は、根拠を欠く主張である。
(2)ア X1の定年直近2年間の人事考課の結果は、C、D、C、C、D、Dであり、これらの平均は「B」以上ではないから、人事考課の基準を満たしていないこととなる。そして、各期の個々の評価も、他の関東営業部担当者の平均値や名古屋支店の営業担当者及びX1の後任者と比較した場合、X1の達成率が他の者を相当程度下回っている場合が多いことが認められる以上、各評価をC又はDとしたことが不自然と評価する余地はない。
 イ 組合らは、X1が所属していた特需部門が、会社全体の売上に占める割合がもともと少なく、また、平成16年ころは、特に売上が減少する外的要因があったという特殊性を考慮すべきであると主張する。
 しかし、①そのころに従前からX1が属していた特需部門の売上を減少させた外的要因を考慮しないことが、直ちに不当労働行為を推認させるとは言い難いし、②個人の営業成績は、まず、達成率を基本にみるから、売上の規模の大小が個人の営業成績に直接影響するとは考え難い。また、③達成率を算出する前提となる売上予算(売上目標)は、前年度の売上実績を前提に、達成可能な数字を設定し、これはX1についても同様であったと窺われ、達成率は前年の売上の大小が反映された上で算出されているから、仮に組合らの主張する外的要因が存在したとしても、既にある程度達成率に反映されている。
 したがって、組合らが主張する状況が存在するからといって、X1に対する人事考課がことさらに不自然であることを根拠付けるだけの事情であるとはいえない。
 ウ 組合らは、X1、関東営業部全体及びX1の後任者の47期及び48期の達成率の平均値を算出し、その数値から、X1の営業成績を平均以上でないとする根拠はない旨主張する。
 しかし、①会社の人事考課の方法は、各期の上期、下期の各数値を、それぞれ、年2回の賞与時の評価に反映させる方法であると窺われ、平均値を算出する手法ではないが、このような評価の仕方が、特に不自然であるともいえない。また、②47期下期の達成率は、X1が関東営業部を上回っているものの、その他のX1の達成率は、48期上期、下期、49期上期、下期ともに、名古屋支店や関東営業部の達成率を下回る場合が多かったし、期は異なるもののX1の後任者の50期~52期の達成率と比較しても、全体的にX1の達成率が低いのであり、X1の評価を平均以上でないとしていることを、不自然とみることはできない。
 エ 組合らは、X1が本件特別休暇を取得したことを理由に、評価不能(D)としたことが不合理と主張する。
 まず、①長期間の休暇を取得すれば、評価不能(D)となることは、平成9年ころから運用されていたと窺われるし、②人事考課の基準は、会社への貢献を期待できる人材を再雇用するという趣旨だから、長期間の休暇を取った者を評価不能(D)と位置づけて再雇用制度を考えること自体が、特に不自然とはいえない。次に、③X1については、直近の2回の評価を除く他の期の評価(平成16年度冬期賞与時C、17年度昇給時D、同夏期及び冬期賞与時いずれもC)及びX1の15~17年度の評価はC又はDであることを考えれば、X1が人事考課の基準を満たしたとは言い難い。その意味からも、X1の評価について、不自然と認めるべき事情は存しない。
 オ 組合らは、会社が特別休暇を提案した際に、特別休暇取得中の評価はDとなる旨の説明がなかった点を指摘する。
 しかし、①X1は、平成14年に1回目の手術を受けたときに長期休暇を取得しD評価を受けており、D評価を予期できなかったとはいえないし、②当時、X1は、頚部脊髄症が再発し、手術の必要があるという、健康面で重大な状況にあり、再雇用基準を会社において策定中であった状況下で、将来予測される基準を念頭に、評価がDとなり再雇用基準を満たさない可能性があることを説明することが、現実的に見て期待し難く、上記事情が不自然であったとの評価はできない。
 カ 組合らは、会社が、X1の再雇用に関する団体交渉の場において、再雇用できない理由として健康状態の基準のみを説明し、人事考課の基準については言及しておらず不自然である旨主張する。
 しかし、団体交渉当時、X1が健康状態を理由とする特別休暇取得中であったことから、会社として、納得を得やすいと考えられる健康状態の基準だけで説明しようということも、不自然であるとはいえない。
 キ なお、会社は、平成17年秋ころから再雇用制度の検討を始めていたから、X1から同制度の問い合わせや団体交渉の申入れがなかったにしても、X1に対して同制度に関する一定の方向性を示し得る状態にあった可能性は否定できない。
 しかし、X1が健康状態を理由に特別休暇取得中であり、特別休暇取得を提案した時点で、会社として営業職の復帰は難しいと考えていた経緯からすれば、X1に対して、あえて再雇用制度の方向性を説明するのは、現実的であったとはいえず、この事情も、直ちに不自然であるとの評価をするだけの事情とはいえない。
(3) 組合らは、再雇用されたX3について、総合評価としてC又はDであったのに再雇用された旨主張する。
 しかし、非営業職のX3の評価は、上司評価も考慮要素とされ、X3の定年前2年間の上司評価は、いずれもB以上であるから、組合らの上記主張を認めるに足りる根拠は存しない。
4 結論
 以上によれば、会社がX1について健康状態の基準及び人事考課の基準を満たさず、再雇用基準を満たさないと判断したことには、当時の客観的状況に照らし、不当労働行為としての不利益取扱いを推認させる程度に不自然な行為であったと判断させるだけの事情は認められない。
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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
東京都労委平成19年(不)第13号 棄却 平成21年9月15日
 
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