労働委員会命令データベース

(この事件の全文情報は、このページの最後でご覧いただけます。)

[命令一覧に戻る]
概要情報
事件番号・通称事件名  大阪府労委令和5年(不)第61号
不当労働行為審査事件 
申立人  Xユニオン(組合) 
被申立人  Y法人(法人) 
命令年月日  令和6年11月29日 
命令区分  全部救済 
重要度   
事件概要   本件は、組合員Aの降格等を議題とする3回の団体交渉における法人の対応が不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 大阪府労働委員会は、①法人が、会議における録音及び反訳文の開示を行わなかったこと、及び②組合の質問に誠実に回答せず、自身の主張の論拠を示さなかったことについて労働組合法第7条第2号、③上記の録音及び反訳文について、団体交渉では開示せず、裁判になれば提出すると発言したことについて同条第3号に該当する不当労働行為であると判断し、法人に対し、(ⅰ)組合から令和5年3月29日付け等で申入れのあった団体交渉について、会議における組合員A2の発言に関連した部分の録音及び反訳文を開示した上で、誠実に応じなければならないこと、(ⅱ)文書手交を命じた。 
命令主文  1 法人は、組合から令和5年3月29日付け、同年5月17日付け、同年6月28日付け及び同年7月19日付けで申入れのあった団体交渉について、同年2月28日の会議における組合員A2の発言に関連した部分の録音及び反訳文を開示した上で、誠実に応じなければならない。

2 法人は組合に対し、下記の文書を速やかに手交しなければならない。
 年 月 日
Xユニオン
 執行委員長 A1様
Y法人     
理事長 B
 当法人が行った下記の行為は、大阪府労働委員会において、労働組合法第7条に該当する不当労働行為であると認められました。今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。
(1)令和5年2月28日の会議の録音及び反訳文を開示しなかったこと。(2号該当)
(2)令和5年4月24日、同年5月29日及び同年8月3日の団体交渉において、誠実に協議に応じなかったこと。(2号該当)
(3)令和5年2月28日の会議の録音及び反訳文の開示を拒否し、裁判になれば開示すると述べたこと。(3号該当) 
判断の要旨  1 令和5年4月24日、同年5月29日及び同年8月3日開催の団体交渉(以下、それぞれ「5.4.24団体交渉」、「5.5.29団体交渉」、「5.8.3団体交渉」、合わせて「本件各団体交渉」)における法人の対応は、不誠実団体交渉に当たるか。(争点1)

(1)「理事長が本件各団体交渉に出席しなかったことが不誠実団体交渉に当たる」旨の組合の主張について

ア 一般に、団体交渉を行う使用者側の担当者は、必ずしも代表者である必要はなく、当該交渉事項についての交渉権限や、実際にその場で行ったことについての処理権限を有していればよいと解される。

イ 本件各団体交渉には、法人側から、理事長は出席せず、代理人弁護士及び本部長が出席しており、本部長は、給与規定について説明を行うなど、必要に応じて発言をしていた。また、代理人弁護士は、法人の回答書を読み上げるとともに、A2の降職について、その理由や経過を一定説明しており、確かに、組合の質問に対して、仮払金と工賃について混同する発言を行うなど、一部事実を誤認していたと思われる面があったことは否めないが、そのことをもって、ただちに交渉権限を有していないとまではいえない。
 さらに、本件各団体交渉において、理事長でないと説明できない事項が具体的にあったとの事実の疎明もない。

ウ これらから、本件各団体交渉には、本部長及び代理人弁護士が交渉権限を有して臨んでおり、その場での処理権限も有していたというべきで、したがって、理事長が出席しないことが不誠実団体交渉に当たるとまではいえない。

(2)「法人が令和5年2月28日の(理事長、本部長、A2が出席し、A2の処遇等に関する話合いが行われた)会議(以下「5.2.28会議」)の録音及び反訳文の開示を行わなかったことが不誠実団体交渉に当たる」旨の組合の主張について

ア 組合が求める5.2.28会議の録音及び反訳文が団体交渉において開示されるべき必要な資料であるか

(ア)組合は、「法人がA2が主幹としての適格性を欠く根拠として、5.2.28会議におけるA2の発言を挙げ、その発言の録音もあると主張したため、録音及び反訳文の開示を求めた」と主張する一方、法人は、「5.2.28会議でのA2の発言は、主任への降職の理由ではなく、録音を開示する必要はない」旨主張する。

(イ)確かに法人は、5.4.24団体交渉で手交された法人回答書及び当該団体交渉において、A2の降職の理由は、①理事長決裁済の仮払申請書について、理事長等に確認等をすることなく、A2の判断のみで(金額部分に)二重線を引く対応をしたこと、②この点について、A2は問題点を理解しておらず、決裁手続きを軽視する姿勢は幹部職員としての適格性はないといわざるを得ないことにあると説明しており、5.2.28会議でのA2の(「不承認で出金というのは特に問題ない」との)発言が降職の直接の根拠である旨、述べているわけではない。
 しかし、法人は、5.5.29団体交渉で手交された法人回答書において、5.2.28会議で法人が決裁手続きの問題点を指摘したことに対してA2が上記の発言をしたことを挙げ、経理責任者の適格性を大きく疑わせることになる旨述べている。そうすると、同会議でのA2の発言の有無は、降職の直接の根拠とまではいえないにしても、二重線を引いたことや、決裁手続きの理解等に関する発言であり、降職理由に密接に関連するものとみざるを得ない。

(ウ)これらから、法人には、組合の要求や主張に対する回答や自己の主張の根拠を具体的に説明したり、必要な資料を提示するなどの努力をすべき義務があり、5.2.28会議の録音及び反訳文は、A2の降職の理由に関連するものといえるから、団体交渉において開示されるべき資料である。

イ 法人が5.2.28会議の録音及び反訳文を開示しないことに合理的な理由があるか

(ア)法人は、5.2.28会議では、団体交渉での争点とは別の法人の運営に関わる事項についても話されているため、当該会議全体の録音の開示は認められるべきではないと主張する。
 しかし、仮に運営に関わる部分については開示できないとしても、当該発言の前後のみを切り取った部分開示ならば可能というべきである。
 この点、組合も、5.8.3団体交渉において、当該発言の部分や前後の文脈がわかる録音と反訳の開示でも構わないと述べているが、これに対しても、法人は開示しない旨回答している。
 これらから、法人の主張は採用できない。

(イ)また、法人は、「発言部分の録音を開示した場合、A2は録音の発言内容を確認した上で、その内容に合わせて、主張を変遷させるおそれがあり、円滑な団体交渉が阻害されることになる」旨主張する。しかし、仮に、主張が変遷することになったとしても、その点を団体交渉等で議論すれば事足り、録音等を開示しない理由にはなりえない。

(ウ)これらから、法人が5.2.28会議の録音及び反訳文を開示しないことに合理的な理由はないといわざるを得ない。

ウ 以上のとおり、法人が5.2.28会議の録音及び反訳文のうち、少なくともA2の発言に関連する部分を開示しなかったことについて、法人は、組合の要求に対する回答や自らの主張の根拠を具体的に説明し、必要な資料を提示したとはいえないから、不誠実団体交渉に当たる。

(3)「法人が、組合の質問に誠実に回答せず、自身の主張の論拠を示すことなく、団体交渉を阻害する発言を繰り返したことが不誠実団体交渉に当たる」旨の組合の主張について

ア 5.4.24団体交渉について
 代理人弁護士が仮払金と工賃を混同しており、組合が本部長にこの点につき説明を求めたところ、本部長は一切発言せず、及び、法人はA2に対し、手元にない法人の規程〔注工賃規程等〕の内容を説明するよう繰り返し求めた。
 本来、代理人弁護士が業務内容を誤認しているのであれば、法人を代表して出席している本部長が説明する必要がある。さらに、団体交渉の場において、組合員が手元にない規程の内容についてただちに説明しなければならないことはないにもかかわらず(法人が)繰り返し追及したことによって、結果団体交渉は紛糾し、円滑な進行に支障が生じた。
 このような法人の態度は、実質的な協議を行う姿勢を欠いた不誠実なものというべきである。

イ 5.5.29団体交渉について
 組合が、A2が仮払申請書に二重線を引いたことによって、現場にどのような混乱があったか質問したところ、法人の代理人弁護士は、具体的な回答は行わなかった。しかし、職場に混乱が生じたと法人は主張しているのであるから、具体的にどのような支障が生じたのかについては、法人は説明する義務があるといえる。そうすると、法人は、組合に対し、誠実に回答を行ったとはいえず、かかる対応は不誠実というべきである。
 また、組合は5.5.29団体交渉において、5.2.28会議の録音及び反訳文の提出を求めたが、法人はこれに応じていない。

ウ 5.8.3団体交渉について
 組合が、「5.2.28会議での発言の文脈を提示できないということは、法人が虚偽の事実を持ち出してA2を責め立てているに等しい行為だと思う」と述べたところ、代理人弁護士は、虚偽である事実を立証するよう求めている。しかし、A2自身が記憶にないと主張している発言について、法人がその根拠も示していない状況において、組合が法人の主張する事実を虚偽だと疑うのは当然ともいえる。それに対して、法人が、虚偽だと立証するよう求めることは、到底誠実な交渉態度とは言い難い。
 また、A2が仮払申請書に二重線を引いたことによる職場の混乱について、法人は、答える必要はない旨述べ、結局どのような支障があったのかについて、団体交渉で説明を行わなかった。
 さらに、組合は、2.28会議の録音及び反訳文の提出を求めたが、法人がこれに応じなかった。

エ したがって、法人の対応は、組合からの質問に対して真摯に対応したものとはいえず、誠実な対応を通じて合意達成の可能性を模索する義務を果たしたとは到底いえないから、不誠実団体交渉に当たる。

(4)以上のとおり、本件各団体交渉における法人の対応のうち、①理事長が本件各団体交渉に出席しなかったことは、不誠実団体交渉に当たるとまではいえないものの、②法人が5.2.28会議の録音及び反訳文の開示を行わなかったこと、③法人が、組合の質問に誠実に回答せず、自身の主張の論拠を示さなかったことは、それぞれ不誠実団体交渉に当たり、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為である。

2 本件各団体交渉における法人の対応は、組合に対する支配介入に当たるか。(争点2)

(1)組合は、「法人が5.2.28会議の録音及び反訳文について、団体交渉では開示せず、裁判になれば提出すると発言したことが、支配介入に当たる」旨主張するので、以下、検討する。

(2)代理人弁護士は、「裁判していただければ開示しますので、裁判をしていただいたら結構である」旨述べている。
 この点について、法人は、「仮に裁判になれば、A2に弁護士の代理人が就くため、弁護士として法律上の厳格な守秘義務が課されているのであれば、何とか開示は可能であるという趣旨であり、組合嫌悪、組合弱体化を目的とした言動ではない」旨主張する。
 しかし、そもそも団体交渉で組合が求めている資料の開示について、団体交渉での解決を図るのではなく、訴訟提起を求めること自体が、団体交渉での協議を軽視しているものといわざるを得ない。また、団体交渉において開示すべき資料を、守秘義務が課されている弁護士が就いていないから開示できないというのは、到底正当な理由になり得ない。

(3)以上のとおり、開示されるべき資料が開示されず、円滑な団体交渉での協議に支障が生じたといえるから、法人の発言は、組合活動の基本である団体交渉を軽視し、団体交渉機能を阻害するものといえ、ひいては組合の弱体化に繋がるものである。
 よって、組合に対する支配介入に当たり、労働組合法第7条第3号の不当労働行為に該当する。 

[先頭に戻る]
 
[全文情報] この事件の全文情報は約363KByteあります。 また、PDF形式になっていますので、ご覧になるにはAdobe Reader(無料)のダウンロードが必要です。