中央労働委員会の保有する個人情報の開示、訂正、利用停止決定等に係る審査基準

第1 目的

 この審査基準は、行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第58号。以下「法」という。)第18条第1項及び第2項、第30条第1項及び第2項並びに第39条第1項及び第2項の決定に関し、決定権者(中央労働委員会会長及び法第46条の規定に基づき当該決定に係る権限を委任された者をいう。以下同じ。)が当該決定をするかどうかを判断するために必要とされる基準を定めることにより、法の適正かつ円滑な施行を図ることを目的とする。

第2 保有個人情報

 この審査基準において「保有個人情報」とは、法第2条第3項に規定する保有個人情報をいい、保有個人情報に該当するかどうかを判断するに際しての基本的な考え方は、別添1のとおりである。

第3 開示決定等に係る審査基準

 開示の原則
 決定権者は、開示請求(法第13条第1項に規定する開示請求をいう。以下同じ。)があったときは、2から6までに定める場合、及び事案を他の行政機関の長又は独立行政法人等に移送する場合を除き、当該開示請求をした者(以下「開示請求者」という。)に対し、当該開示請求に係る保有個人情報の全部を開示する旨の決定(以下「開示決定」という。)をするものとする。

 不開示情報が記録されている場合
 決定権者は、開示請求に係る保有個人情報に法第14条に規定する不開示情報(以下「不開示情報」という。)が記録されている場合にあっては、7による場合を除き、当該保有個人情報の全部を開示しない旨の決定(以下「不開示決定」という。)をするものとする。
 開示請求に係る保有個人情報が不開示情報に該当するかどうかを判断するに際しての基本的な考え方は、別添2のとおりである。

 保有個人情報を保有していない場合
(1) 中央労働委員会において開示請求に係る個人情報を保有していない場合は、決定権者又はその事務を補助する職員は、9の場合を除き、可能である場合には、当該開示請求を行おうとする者に対して、当該開示請求に係る開示請求書を受理する前に、この旨を説明し、その者が同意した場合は、当該開示請求書を開示請求手数料とともに返戻するものとする。当該開示請求に係る開示請求書を受理した場合は、決定権者は、不開示決定をするものとする。この場合において、決定権者は、9の場合を除き、法第18条の書面に、当該保有個人情報を保有していない旨を記載するものとする。
(2) 保有個人情報(行政機関の保有する情報の公開に関する法律(平成11年法律第42号。以下「情報公開法」という。)第5条に規定する不開示情報を専ら記録する行政文書に記録されているものに限る。)のうち、まだ分類その他の整理が行われていないもので、同一の利用目的に係るものが著しく大量にあるためその中から特定の保有個人情報を検索することが著しく困難であるものは、法第4章(第4節を除く。)の規定の適用については、行政機関に保有されていないものとみなし(法第45条第2項)、3(1)と同様に取り扱うものとする。

 開示請求の対象が保有個人情報に該当しない場合
 開示請求の対象が法第45条第1項に該当する場合又は刑事訴訟法(昭和23年法律第131号)第53条の2に規定する訴訟に関する書類及び押収物その他の法が適用されないものである場合においては、決定権者又はその事務を補助する職員は、3の場合に準じて、開示請求書の返戻又は不開示決定をするものとする。開示請求の対象となるものが法第2条第3項に規定する保有個人情報に該当しない場合においても、同様とする。

 開示請求書に法第13条第1項に規定する記載事項に形式上の不備がある場合
 開示請求書に法第13条第1項に規定する記載事項に形式上の不備がある場合若しくは同条第2項に規定する開示請求に係る保有個人情報の本人(未成年又は成年被後見人にあっては、本人の法定代理人)であることを示す書類に不備がある場合又は開示請求手数料が納付されていない場合等であって、決定権者が同条第3項に基づき補正を求めたにもかかわらず、なお当該開示請求書に形式上の不備がある場合にあっては、決定権者は、不開示決定をするものとする。この場合において、記載事項等に関する判断に際しての考え方は、別添3のとおりである。

 他の法令による開示の実施との調整
 開示請求に係る保有個人情報に関し、他の法令の規定により法第24条第1項本文に規定する方法と同一の方法で開示することとされている場合(法第25条第2項の規定による場合を含む。)には、決定権者は、当該保有個人情報を当該他の法令に基づき開示するものとし、法に基づく開示は行わないものとする。

 部分開示
 決定権者は、開示請求に係る保有個人情報に不開示情報が含まれている場合において、不開示情報に該当する部分を容易に区分して除くことができるときは、開示請求者に対し、当該部分を除いた部分につき開示するものとする。この場合において、不開示情報が記録されている部分を容易に区分できるかどうかを判断するに際しての基本的な考え方は、別添4のとおりである。
 開示請求に係る保有個人情報に法第14条第2号の情報(開示請求者以外の特定の個人を識別することができるものに限る。)が含まれている場合において、当該情報のうち、氏名、生年月日その他の開示請求者以外の特定の個人を識別することができることとなる記述等の部分を除くことにより、開示しても、開示請求者以外の個人の権利利益が害されるおそれがないと認められるときは、当該部分を除いた部分は、同号の不開示情報に含まれないものとみなして、前段と同様の取扱いとする。

 裁量的開示
 決定権者は、開示請求に係る保有個人情報に不開示情報が含まれている場合であっても、個人の権利利益を保護するため特に必要があると認めるときは、開示請求者に対し、当該保有個人情報を開示するものとする。

 保有個人情報の存否に関する情報
 開示請求に対し、当該開示請求に係る保有個人情報が存在しているか否かを答えるだけで、不開示情報を開示することとなるときは、決定権者は、当該保有個人情報の存否を明らかにしないで、不開示決定をするものとする。この場合において、どのような場合がこの場合に該当するかについての判断をするに際しての基本的な考え方は、別添5のとおりである。

第4 訂正決定等に係る審査基準

 訂正請求の対象
 訂正請求の対象は、「事実」とし、評価・判断には及ばないものとする。
 ただし、評価した行為の有無、評価に用いられたデータ等は事実に該当する。

 訂正請求に対する措置
 決定権者は、保有個人情報の訂正(追加又は削除を含む。)請求(法第27条第1項に規定する訂正請求をいう。以下同じ。)があったときは、次に定める場合、及び事案を他の行政機関の長又は独立行政法人等に移送する場合を除き、当該訂正請求をした者(以下「訂正請求者」という。)に対し、当該訂正請求に係る保有個人情報を訂正(一部の訂正する場合も含む。)する旨の決定(以下「訂正決定」という。)をするものとする。
 訂正決定等を行う場合の基本的な考え方は、別添6のとおりである。
(1)訂正請求に理由があると認められない場合
(2) 訂正することが、当該保有個人情報の利用目的の範囲を超える場合
(3) 訂正請求に係る保有個人情報が法第27条第1項各号に該当しない場合
(4) 訂正請求が保有個人情報の開示を受けた日から90日を経過した後になされた場合
(5) 訂正請求書に法第28条第1項に規定する記載事項に形式上の不備がある場合
(6) 他の法律又はこれに基づく命令の規定により特別の手続きが定められている場合

第5 利用停止決定等に係る審査基準

 利用停止請求に対する措置
 決定権者は、保有個人情報の利用の停止、消去又は提供の停止(以下「利用停止」という。)請求(法第36条第1項に規定する利用停止請求をいう。以下同じ。)があった場合に、次に定める場合を除き、当該利用停止請求をした者(以下「利用停止請求者」という。)に対し、利用停止(一部を利用停止する場合を含む。)をする旨の決定(以下「利用停止決定」という。)をするものとする。
 利用停止決定等を行う場合の基本的な考え方は、別添7のとおりである。
(1)利用停止請求に理由があると認められない場合
(2) 利用停止請求に係る保有個人情報が法第27条第1項各号に該当しない場合
(3) 利用停止請求が保有個人情報の開示を受けた日から90日を経過した後になされた場合
(4) 利用停止請求書に法第37条第1項に規定する記載事項の形式上の不備がある場合
(5) 利用停止をすることにより、当該保有固有情報の利用目的に係る事務の性質上、当該事務の適正な遂行に著しい支障を及ぼすおそれがあると認められる場合
(6) 他の法律又はこれに基づく命令の規定により特別の手続が定められている場合


別添1 保有個人情報に関する判断基準(法第2条第3項関係)
別添2 不開示情報に関する判断基準(法第14条関係)
別添3 開示請求書の記載事項等に関する判断基準(法第13条関係)
別添4 部分開示の方法に関する判断基準(法第15条関係)
別添5 存否に関する情報が不開示情報になることに関する判断基準(法第17条関係)
別添6 訂正決定等に関する判断基準(法第30条関係)
別添7 利用停止決定等に関する判断基準(法第39条関係)



(別添1)


保有個人情報に関する判断基準(法第2条第3項関係)


第1 個人情報(法第2条第2項)

 個人情報の定義
 「個人情報」とは 生存する個人に関する情報であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)をいう(法第2条第2項)。

 「個人情報」についての考え方
(1) 「個人に関する情報」
 「個人に関する情報」とは、個人に関連する情報全般を意味する。したがって、個人の属性、人格や私生活に関する情報に限らず、個人の知的創作物に関する情報、組織体の構成員としての個人の活動に関する情報も含まれる。
(2) 「当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別すことができるもの」
 「その他の記述等」とは、氏名及び生年月日以外の記述又は個人別に付された番号その他の符号等をいう。映像や音声も、それによって特定の個人を識別することができる限りにおいて「その他の記述等」に含まれる。
 「特定の個人を識別することができる」とは、当該情報の本人である特定の個人が誰であるかを識別することができることをいう。
(3) 「他の情報と照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む」
 法の対象とする個人情報は、当該情報そのものから本人が識別されるものであることが原則である。しかしながら、当該情報のみでは特定の個人を識別できない場合であっても、他の情報と照合することにより特定の個人を識別することができる場合は対象とすることが適当である。
 照合の対象となる「他の情報」には、その保有者が他の機関である場合も含まれ、また、公知の情報や、図書館等の公共施設で一般に入手可能なものなど一般人が通常入手し得る情報が含まれる。特別の調査をすれば入手し得るかもしれないような情報については、通例は「他の情報」には含めて考える必要はないものと考えられる。しかし、事案によっては、個人の権利利益を保護する観点からは、個人情報の取扱いに当たって、より慎重な判断が求められる場合がある。決定権者は、当該個人を識別するために実施可能と考えられる手段について、その手段を実施するものと考えられる人物が誰であるか等をも視野に入れつつ、合理的な範囲で考慮することが適当である。
 なお、行政機関の保有する電子計算機処理に係る個人情報の保護に関する法律(昭和63年法律第95号)では「法人その他の団体に関して記録された情報に含まれる当該法人その他の団体の役員に関する情報」を個人情報の定義から除外しているが、法では除外していない。これは、個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号。以下「基本法」という。)における個人情報の定義(第2条第1項)でも除外されていないため、これと整合を取り、保護の範囲を拡大したものである。

第2 保有個人情報(法第2条第3項)

 保有個人情報の定義
 「保有個人情報」とは、行政機関の職員が職務上作成し、又は取得した個人情報であって、当該行政機関の職員が組織的に利用するものとして、当該行政機関が保有しているものをいう(法第2条第3項本文)。
 ただし、行政文書(情報公開法第2条第2項に規定する行政文書をいう。以下同じ。)に記録されているものに限る(法第2条第3項ただし書)。

 「保有個人情報」についての考え方
 法では、行政機関における個人情報の取扱いに関する規律及び本人からの開示、訂正、利用停止の請求の対象を「保有個人情報」としている。保有個人情報の要件は、基本的に情報公開法における行政文書の定義と整合性が取れるようにしている。
(1) 「行政機関の職員が職務上作成し、又は取得した個人情報であって、当該行政機関の職員が組織的に利用するものとして、当該行政機関が保有しているもの」
 「行政機関の職員が職務上作成し、又は取得した」とは、行政機関の職員が当該職員に割り当てられた仕事を遂行する立場で、すなわち公的立場において作成し、又は取得したことをいう。
 「組織的に利用する」とは、作成又は取得に関与した職員個人の段階のものではなく、組織の業務上必要な情報として利用されることをいう。
 「行政機関が保有している」とは、情報公開法における行政文書の保有の概念と同様である。すなわち、当該個人情報について事実上支配している(当該個人情報の利用、提供、廃棄等の取扱いについて判断する権限を有している)状態をいう。したがって、例えば、個人情報が記録されている媒体を書庫等で保管し、又は倉庫業者等をして保管させている場合は含まれるが、民間事業者が管理するデータベースを利用する場合は含まれない。
(2) 「行政文書に記録されているものに限る。」
 個人情報には、紙等の媒体に記録されたものと、そうでないもの(口頭によるもの等)があるが、法の規律を安定的に運用するためには、個人情報が記録されている媒体がある程度固定されている必要があり、文書、図画、電磁的記録等何らかの媒体に記録されていることを前提とした。その上で、情報公開法との整合性を確保する観点から、行政文書に記録されているものに限ることとした(行政文書の定義については、中央労働委員会が保有する行政文書の開示請求に対する開示決定等に係る審査基準の別添1の2と同様に取り扱うものとする。)。したがって、職員が単に記憶しているにすぎない個人情報は、保有個人情報に該当しない。また、情報公開法は、官報、白書、新聞、雑誌、書籍その他不特定多数の者に販売することを目的として発行されるもの等を行政文書の定義から除いているが、これらに記録されている個人情報も、保有個人情報に該当しないことになる。



(別添2)


不開示情報に関する判断基準(法第14条関係)


第1 個人に関する情報(法第14条第1号及び第2号)

 本人の生命、健康、生活又は財産を害するおそれがある情報(第1号)
 法の開示請求権制度は、本人に対して当該本人に関する保有個人情報を開示するものであり、通例は本人の権利利益を害するおそれはないものと考えられる。しかし、開示が必ずしも本人の利益にならない場合もあり得ることから、そのような場合には不開示とすることができるようにしておく必要がある。
 例えば、カルテの開示の場合、インフォームドコンセントの考え方から相当程度の病状等を開示することが考えられる場合がある一方で、患者の精神状態、病状の進行状態等から、開示が病状等の悪化をもたらすことが予見される場合もあり得る。また、児童虐待の場合のように、虐待の告発等の児童本人に関する情報を親が法定代理人として開示請求する場合も想定される。このような場合において、本人に関する保有個人情報であることを理由として一律に行政機関の長に開示義務を課すことは合理性を欠くこととなる。
 本号が適用される局面は、開示することが深刻な問題を引き起こす可能性がある場合であり、その運用に当たっては、具体的ケースに即して慎重に判断する必要がある。

 開示請求者以外の個人に関する情報(第2号本文)
 開示請求に係る個人情報の中に、本人以外の第三者(個人)の情報が含まれている場合があるが、第三者に関する情報を本人に開示することにより当該第三者の権利利益が損なわれるおそれがあることから、第三者に関する情報は不開示情報としている。
 なお、「個人に関する情報」は、「個人情報」とは異なるものであり、生存する個人に関する情報のほか、死亡した個人に関する情報も含まれる。
(1) 「(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)」
 「事業を営む個人の当該事業に関する情報」は、個人に関する情報に含まれるが、当該事業に関する情報であるので、法人等に関する情報と同様の要件により不開示情報該当性を判断することが適当であることから、本号の個人に関する情報から除外したものである。
(2) 「当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により開示請求者以外の特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合することにより、開示請求者以外の特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)」
 「当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により開示請求者以外の特定の個人を識別することができるもの」については、別添1の第1の2(2)と同様に取り扱うものとする。
 また、「他の情報と照合することにより、開示請求者以外の特定の個人を識別することができることとなるものを含む。」については、別添1の第1の2(3)と同様に取り扱うものとする。
(3) 「開示請求者以外の特定の個人を識別することはできないが、開示することにより、なお開示請求者以外の個人の権利利益を害するおそれがあるもの」
 行政機関の保有する個人に関する情報の中には、匿名の作文や、無記名の個人の著作物のように、個人の人格と密接に関連したり、開示すれば財産権その他の個人の正当な利益を害するおそれがあると認められるものがあることから、特定の個人を識別できない場合であっても、開示することにより、なお個人の権利利益を害するおそれがある場合について、補充的に不開示情報として規定している。

 「法令の規定により又は慣行として開示請求者が知ることができ、又は知ることが予定されている情報」(第2号イ)  開示請求者以外の個人に関する情報であっても、あえて不開示情報として保護する必要性に乏しいものについては、ただし書により、本号の不開示情報から除くこととしたものである。
(1) 「法令の規定により開示請求者が知ることができる情報」
 「法令の規定」には、何人に対しても等しく当該情報を開示すること又は公にすることを定めている規定のほか、特定の範囲の者に限り当該情報を開示することを定めている規定が含まれる。
(2) 「慣行として開示請求者が知ることができる情報」
 慣習法としての法規範的な根拠を要するものではなく、事実上の慣習として知ることができ、又は知ることが予定されていることで足りる。
 当該保有個人情報と同種の情報について、本人が知ることができた事例があったとしても、それが個別的な事例にとどまる限り「慣行として」には当たらない。また、情報公開法第5条第1号イの「慣行として公にされ」ている情報は、慣行として開示請求者が知ることができる情報に含まれる。
 「慣行として開示請求者が知ることができる情報」に該当するものとしては、開示請求者の家族構成に関する情報(妻子の名前や年齢、職業等)等が考えられる。
(3) 「知ることが予定されている情報」  実際には知らされていないが、将来的に知らされることが予定されている場合である。「予定」とは将来知らされることが具体的に決定されていることは要しないが、当該情報の性質、利用目的等に照らして通例知らされるべきものと考えられることをいう。
 例えば、複数の者が利害関係を有する事項についての調査結果を当事者に通知することが予定されている場合において、開示請求の時点においては、未だ調査結果の分析中であったため通知されていなかった場合が想定される。

 「人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、開示することが必要であると認められる情報」(第2号ロ)
 不開示情報該当性の判断に当たっては、当該情報を不開示にすることの利益と開示することの利益との調和を図ることが重要であり、開示請求者以外の個人に関する情報について、不開示にすることにより保護される開示請求者以外の個人の権利利益よりも、開示請求者を含む人の生命、健康等の利益を保護することの必要性が上回るときには、当該情報を開示しなければならないこととするものである。現実に、人の生命、健康等に被害が発生している場合に限らず、将来これらが侵害される蓋然性の高い場合も含まれる。
 この比較衡量に当たっては、個人の権利利益にも様々なものがあり、また、人の生命、健康、生活又は財産の保護にも、保護すべき権利利益の程度に差があることから、個別の事案に応じた慎重な検討が必要である。

 公務員等の職及び職務の遂行に関する情報(第2号ハ)
 公務員等の職及び職務の遂行に関する情報は、情報公開法第5条第1号ハにおいて、不開示情報から除外されており、法においても、同様に、不開示情報から除外することとしたものである。
(1) 「当該情報がその職務の遂行に係る情報であるとき」
 「職務の遂行に係る情報」とは、公務員等が行政機関その他の国の機関、独立行政法人、地方公共団体又は地方独立行政法人の一員として、その担任する職務を遂行する場合における当該活動についての情報を意味する。例えば、苦情相談に対する担当職員の応対内容に関する情報などがこれに含まれる。
(2) 「当該情報のうち、当該公務員等の職及び当該職務遂行の内容に係る部分」
 公務員等の職及び職務の遂行に関する情報には、当該公務員等の氏名、職名及び職務遂行の内容によって構成されるものが少なくない。このうち、その職名と職務遂行の内容について、情報公開法では、政府の諸活動を説明する責務が全うされるようにする観点から不開示としないこととされているが、法においても、同様に不開示とはしないこととしている。
(3) 公務員等の職務遂行に係る情報に含まれる当該公務員等の氏名について
 公務員等の職務遂行に係る情報に含まれる当該公務員等の氏名については、開示した場合、公務員等の私生活等に影響を及ぼすおそれがあり得ることから、私人の場合と同様に個人情報として保護に値すると位置付けた上で、本号イに該当する場合には例外的に開示することとなる。
 人事異動の官報への掲載その他行政機関等により職名と氏名を公表する慣行がある場合や、行政機関等により作成され、又は行政機関等が公にする意思をもって(あるいは公にされることを前提に)提供した情報を基に作成され、現に一般に販売されている職員録に職と氏名が掲載されている場合には、「慣行として開示請求者が知ることができ、又は知ることが予定されている」場合に該当する。

第2 法人等に関する情報(法第14条第3号)

 「法人その他の団体に関する情報又は開示請求者以外の事業を営む個人の当該事業に関する情報」(第3号本文)
(1) 「法人その他の団体(国、独立行政法人等、地方公共団体及び地方独立行政法人を除く。)に関する情報」
 「法人その他の団体(国、独立行政法人等、地方公共団体及び地方独立行政法人を除く。)」には、株式会社等の商法上の会社、財団法人、社団法人、学校法人、宗教法人等の民間の法人のほか、政治団体、外国法人や法人ではないが権利能力なき社団等も含まれる。
 一方、国、独立行政法人等、地方公共団体及び地方独立行政法人については、その公的性格にかんがみ、法人等とは異なる開示・不開示の基準を適用すべきであるので、本号から除き、その事務又は事業に係る不開示情報は、第7号において規定している。
 「法人その他の団体に関する情報」は、法人等の組織や事業に関する情報のほか、法人等の権利利益に関する情報等法人等と関連性を有する情報を指す。
 なお、法人等の構成員に関する情報は、法人等に関する情報であると同時に、構成員各個人に関する情報でもある。
(2) 「開示請求者以外の事業を営む個人の当該事業に関する情報」
 「事業を営む個人の当該事業に関する情報」は、事業に関する情報であるので、(1)に掲げた法人等に関する情報と同様の要件により、事業を営む上での正当な利益等について不開示情報該当性を判断することが適当であることから、本号で規定している。

 「人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、開示することが必要であると認められる情報」(第3号ただし書)
 本号のただし書は、第2号ロと同様に、当該情報を不開示にすることによって保護される法人等又は事業を営む個人の権利利益と、これを開示することにより保護される人の生命、健康等の利益とを比較衡量し、後者の利益を保護することの必要性が上回るときには、当該情報を開示しなければならないとするものである。
 現実に人の生命、健康等に被害が発生している場合に限らず、将来これらが侵害される蓋然性が高い場合も含まれる。なお、法人等又は事業を営む個人の事業活動と人の生命、健康等に対する危害等との明確な因果関係が確認されなくても、現実に人の生命、健康等に対する被害等の発生が予想される場合もあり得る。

 「当該法人等又は当該個人の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるもの」(第3号イ)
(1) 「権利、競争上の地位その他正当な利益」
 「権利」には、信教の自由、集会・結社の自由、学問の自由、財産権等、法的保護に値する権利一切を含む。
 「競争上の地位」とは、法人等又は事業を営む個人の公正な競争関係における地位を指す。
 「その他正当な利益」には、ノウハウ、信用等法人等又は事業を営む個人の運営上の地位を広く含む。
(2) 「害するおそれ」
 「害するおそれ」があるかどうかの判断に当たっては、法人等又は事業を営む個人には様々な種類、性格のものがあり、その権利利益にも様々のものがあるので、法人等又は事業を営む個人の性格や権利利益の内容、性質等に応じ、当該法人等又は事業を営む個人の権利の保護の必要性、当該法人等又は事業を営む個人と行政との関係等を十分考慮して適切に判断するものとする。
 なお、この「おそれ」の判断に当たっては、単なる確率的な可能性ではなく、法的保護に値する蓋然性が求められる。

 任意に提供された情報(第3号ロ)
 法人等又は事業を営む個人から開示しないとの条件の下に任意に提供された情報については、当該条件が合理的なものと認められる限り、不開示情報として保護しようとするものであり、情報提供者の信頼と期待を基本的に保護しようとするものである。なお、行政機関の情報収集能力の保護は、別途、第7号等の不開示情報の規定によって判断されることとなる。
(1) 「行政機関の要請を受けて、開示しないとの条件で任意に提供された情報」
 行政機関の要請を受けずに、法人等又は事業を営む個人から提供された情報は含まれない。ただし、行政機関の要請を受けずに、法人等又は事業を営む個人から提供申出があった情報であっても、提供に先立ち、法人等又は事業を営む個人の側から開示しないとの条件が提示され、行政機関が合理的理由があるとしてこれを受諾した上で提供を受けた場合には、含まれる。
 「行政機関の要請」には、法令に基づく報告又は提出の命令は含まないが、行政機関の長が報告徴収権限を有する場合でも、当該権限を行使することなく、任意に提出を求めた場合は含まれる。
 「開示しない」とは、法や情報公開法に基づく開示請求に対して開示しないことはもちろんであるが、第三者に対して当該情報を提供しないという意味である。また、特定の行政目的以外の目的には利用しないとの条件で情報の提供を受ける場合も通常含まれる。
 「条件」については、行政機関の側から開示しないとの条件で情報を提供して欲しいと申し入れる場合も、法人等又は事業を営む個人の側から行政機関の要請があったので情報は提供するが開示しないでほしいと申し出る場合も含まれるが、いずれにしても双方の合意により成立する。
 また、条件を設ける方法については、黙示的なものを排除する趣旨ではない。
(2) 「法人等又は個人における通例として開示しないこととされているものその他の当該条件を付することが当該情報の性質、当時の状況等に照らして合理的であると認められるもの」
 「法人等又は個人における通例」とは、当該法人等又は個人の個別具体的な事情ではなく、当該法人等又は個人が属する業界における通常の取扱いを意味し、当該法人等又は個人において開示しないこととしていることだけでは足りない。
 開示しないとの条件を付すことの合理性の判断に当たっては、情報の性質に応じ、当該情報の提供当時の諸般の事情を考慮して判断するが、必要に応じ、その後の変化も考慮する趣旨である。開示しないとの条件が付されていても、現に当該情報が公になっていたり、同種の情報が既に開示されているなどの事情がある場合には、本号には当たらない。

第3 国の安全等に関する情報(法第14条第4号)

 我が国の安全、他国等との信頼関係及び我が国の国際交渉上の利益は、国民全体の基本的な利益であり、そのような国の安全等が害されるおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報を不開示情報としたものである。この場合の考え方は、次のとおりである。

 「国の安全が害されるおそれ」
 「国の安全」とは、国家の構成要素である国土、国民及び統治体制が害されることなく平和で平穏な状態に保たれていること、すなわち、国としての基本的な秩序が平穏に維持されている状態をいう。具体的には、直接侵略及び間接侵略に対し、独立と平和が守られていること、国民の生命が国外からの脅威等から保護されていること、国の存立基盤としての基本的な政治方式及び経済・社会秩序の安定が保たれていることこなどが考えられ、必ずしも国防に関する事項に限られるものではない。
 「国の安全が害されるおそれ」とは、これらの国の重大な利益に対する侵害のおそれ(当該重大な利益を維持するための手段の有効性を阻害され、国の安全が害されるおそれがあると考えられる場合を含む。)をいう。

 「他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ」
 「他国若しくは国際機関」(他国等)には、我が国が承認していない地域、政府機関その他これに準ずるもの(各国の中央銀行等)、外国の地方政府又は国際会議その他国際協調の枠組みに係る組織(アジア太平洋経済協力、国際刑事警察機構等)の事務局等を含む。
 他国等との「信頼関係が損なわれるおそれ」とは、他国等との間で、相互の信頼に基づき保たれている正常な関係に支障を及ぼすようなおそれをいう。例えば、開示することにより、他国等との取決め又は国際慣行に反することとなる、他国等の意思に一方的に反することとなる、他国等に不当に不利益を与えることとなるなど、我が国との関係に悪影響を及ぼすおそれがある情報が該当すると考えられる。

 「他国若しくは国際機関との交渉上不利益を被るおそれ」
 他国等との現在進行中の又は将来予想される交渉において、我が国が望むような交渉成果が得られなくなる、我が国の交渉上の地位が低下するなどのおそれをいう。例えば、交渉(過去のものを含む。)に関する情報であって、開示することにより、現在進行中の又は将来予想される交渉に関して我が国が採ろうとしている立場が明らかにされ、又は具体的に推測されることになり、交渉上の不利益を被るおそれがある情報が該当すると考えられる。

 「おそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報」
(1) 開示することにより、国の安全が害されるおそれ、他国等との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国等との交渉上不利益を被るおそれがある情報については、一般の行政運営に関する情報とは異なり、その性質上、開示・不開示の判断に高度の政策的判断を伴うこと、我が国の安全保障上又は対外関係上の将来予測としての専門的・技術的判断を要することなどの特殊性が認められる。
 この種の情報については、司法審査の場においては、裁判所は、本号に規定する情報に該当するかどうかについての行政機関の長の第一次的な判断を尊重し、その判断が合理性を持つ判断として許容される限度内のものであるか(「相当の理由」があるか)否かを審理・判断することが適当と考えられることから、このような規定としたところである。
(2) 本号の該当性の判断においては、行政機関の長は、「おそれ」を認定する前提となる事実を認定し、これを不開示情報の要件に当てはめ、これに該当すると認定(評価)することとなるが、このような認定を行うに当たっては、高度の政策的判断や将来予測としての専門的・技術的判断を伴う。裁判所では、行政機関の長の第一次的判断(認定)を尊重し、これが合理的な許容限度内であるか否かという観点から審理・判断することになる。

第4 公共の安全等に関する情報(法第14条第5号)

 国の安全等に関する情報と同様に、公共の安全と秩序を維持することは、国民全体の基本的利益であり、刑事法の執行を中心とした公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報について不開示情報とすることとしたものである。この場合の考え方は、次のとおりである。

 「犯罪の予防、鎮圧又は捜査、公訴の維持、刑の執行」
 「犯罪の予防、鎮圧又は捜査、公訴の維持、刑の執行」は、「公共の安全と秩序の維持」の例示である。
 「犯罪の予防」とは、犯罪の発生を未然に防止することをいう。
 「犯罪の鎮圧」とは、犯罪が正に発生しようとするのを未然に防止したり、犯罪が発生した後において、その拡大を防止し、又は終息させることをいう。
 「犯罪の捜査」とは、捜査機関が犯罪があると思料するときに、公訴の提起などのために犯人及び証拠を発見・収集・保全することをいう。犯罪捜査の権限を有する者は、刑事訴訟法によれば、検察官、検察事務官及び司法警察職員であり、司法警察職員には、一般司法警察職員(警察官)と特別司法警察職員(労働基準監督官、海上保安官等)がある。
 「公訴の維持」とは、検察官が裁判所に対し、特定の刑事事件について審判を求め意思表示をすることを内容とする訴訟行為を公訴の提起というが、この提起された公訴の目的を達成するため、終局判決を得るまでに検察官が行う公判廷における主張・立証、公判準備などの活動を指す。
 「刑の執行」とは、犯罪に対して科される制裁を刑といい、刑法第2章に規定された死刑、懲役、禁錮、罰金、拘留、科料、没収、追徴及び労役場留置の刑又は処分を具体的に実施することをいう。保護観察、勾留の執行、保護処分の執行、観護措置の執行、補導処分の執行、監置の執行、過料、訴訟費用、費用賠償及び仮納付の各裁判の執行、恩赦についても、刑の執行に密接に関連するものであることから、開示することにより、これら保護観察等に支障を及ぼし、公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがある情報は、本号に該当する。

2 「公共の安全と秩序の維持」
(1) 「公共の安全と秩序の維持」とは、犯罪の予防、鎮圧又は捜査、公訴の維持及び刑の執行に代表される刑事法の執行を中心としたものを意味する。
 刑事訴訟法以外の特別法により、臨検、捜索、差押え、告発等が規定され、犯罪の予防・捜査とも関連し、刑事司法手続に準ずるものと考えられる犯則事件の調査、独占禁止法違反の調査等や、犯罪の予防・捜査に密接に関連する破壊的団体(無差別大量殺人行為を行った団体を含む。)の規制、暴力団員による不当な行為の防止、つきまとい等の規制、強制退去手続に関する情報であって、開示することにより、公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあるものは、本号に含まれる。
 また、開示することにより、テロ等の人の生命、身体、財産等への不法な侵害や、特定の建造物又はシステムへの不法な侵入・破壊を招くおそれがあるなど、犯罪を誘発し、又は犯罪の実行を容易にするおそれがある情報や、被疑者・被告人の留置・勾留に関する施設保安に支障を生ずるおそれのある情報も本号に含まれる。
(2) 一方、風俗営業等の許可、伝染病予防、食品、環境、薬事等の衛生監視、建築規制、災害警備等の、一般に開示しても犯罪の予防、鎮圧等に支障が生ずるおそれのない行政警察活動に関する情報については、本号ではなく、第7号の事務又は事業に関する不開示情報の規定により、開示・不開示が判断されることになる。

3 「おそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報」
(1) 開示することにより、犯罪の予防、鎮圧、捜査等の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれのある情報については、その性質上、開示・不開示の判断に犯罪等に関する将来予測としての専門的・技術的判断を要することなどの特殊性が認められる。このため、国の安全等に関する情報と同様、司法審査の場においては、裁判所は、本号に規定する情報に該当するかどうかについての行政機関の長の第一次的な判断を尊重し、その判断が合理性を持つ判断として許容される限度内のものであるか(「相当の理由」があるか)否かを審理・判断することが適当であるため、このような規定振りとしているものである。
(2) 本号の該当性の判断においては、第4号と同様に判断されることとなる。(第3の4の(2)参照)。

第5 審議、検討等情報(法第14条第6号)

 行政機関等としての最終的な決定前の事項に関する情報を開示することによってその意思決定が損なわれないようにする必要がある。しかしながら、意思決定前の情報をすべて不開示とすることは、可能な限り開示可能な情報は開示するという観点からは適当ではない。そこで、開示することによって行政機関の適正な意思決定に支障を及ぼすおそれの有無及び程度を個別具体的に考慮し、不開示とされる情報の範囲を画することとしたものである。この場合の考え方は、次のとおりである。

1 対象となる情報の範囲
 「国の機関」とは、国会、内閣、裁判所及び会計検査院並びにこれらに属する機関を指す。これらの国の機関、独立行政法人等、地方公共団体及び地方独立行政法人(国の機関等)について、それぞれの機関の内部又は他の機関との相互間における審議、検討又は協議に関する情報が本号の対象である。具体的には、国の機関等の事務及び事業について意思決定が行われる場合に、その決定に至るまでの過程においては、例えば、具体的な意思決定の前段階としての政策等の選択肢に関する自由討議のようなものから、一定の責任者の段階での意思統一を図るための協議や打合せ、決裁を前提とした説明や検討、審議会等又は行政機関が開催する有識者等を交えた研究会等における審議や検討など、様々な審議、検討及び協議が行われており、これら各段階において行われる審議、検討又は協議に関連して作成され、又は取得された情報を指す。

 「率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ」
 開示することにより、外部からの圧力や干渉等の影響を受けることなどにより、率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれがある場合を想定したもので、適正な意思決定手続の確保を保護法益としている。

 「不当に国民の間に混乱を生じさせるおそれ」
 未成熟な情報や事実関係の確認が不十分な情報などを開示することにより、誤解や憶測を招き、不当に国民の間に混乱を生じさせるおそれがある場合をいう。適正な意思決定を行うことそのものを保護するのではなく、情報が開示されることによる国民への不当な影響が生じないようにする趣旨である。

 「特定の者に不当に利益を与え若しくは不利益を及ぼすおそれ」
 尚早な時期に、あるいは事実関係の確認が不十分なままで情報を開示することにより、不正な投機を助長するなどして、特定の者に不当に利益を与え又は不利益を及ぼすおそれがある場合を想定したもので、3と同様に、事務及び事業の公正な遂行を図るとともに、国民への不当な影響が生じないようにする趣旨である。

 「不当に」
 2から4までにおいて「不当に」とは、審議、検討等途中の段階の情報を開示することの必要性を考慮してもなお、適正な意思決定の確保等への支障が看過し得ない程度のものであることを意味する。予想される支障が「不当」なものかどうかの判断は、当該情報の性質に照らし、開示することによる利益と不開示にすることによる利益とを比較衡量した上で判断される。

 意思決定後の取扱い等
 審議、検討等に関する情報については、国の機関等としての意思決定が行われた後は、一般的には、当該意思決定そのものに影響が及ぶことはなくなることから、本号の不開示情報に該当する場合は少なくなるものと考えられるが、当該意思決定が全体として一つの政策決定の一部の構成要素であったり、当該意思決定を前提として次の意思決定が行われる等審議、検討等の過程が重層的、連続的な場合には、当該意思決定後であっても、政策全体の意思決定又は次の意思決定に関して本号に該当するかどうかの検討が行われるものであることに注意する必要がある。また、審議、検討等が終了し、意思決定が行われた後であっても、当該審議、検討等に関する情報が開示されると、国民の間に混乱を生じさせたり、将来予定されている同種の審議、検討等に係る意思決定に不当な影響を与えるおそれがあれば、本号に該当し得る。

第6 事務又は事業に関する情報(法第14条第7号)

 国の機関、独立行政法人等、地方公共団体又は地方独立行政法人(国の機関等)が行う事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある情報を不開示情報としている。
 これらの国の機関等が行う事務又は事業は広範かつ多種多様であり、開示することによりその適正な遂行に支障を及ぼすおそれのある事務又は事業に関する情報を事項的にすべて列挙することは技術的に困難であり、実益も乏しい。そのため、各機関に共通的にみられる事務又は事業に関する情報であって、開示することによりその適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある情報を含むことが容易に想定されるものを「次に掲げるおそれ」としてイからホまでに例示的に掲げた上で、これらのおそれ以外については、「その他当該事務又は事業の性質上、当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの」として包括的に規定している。

1 「次に掲げるおそれその他当該事務又は事業の性質上、当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの」(第7号本文)
(1) 「次に掲げるおそれ」
 「次に掲げるおそれ」として法第14条第7号イからホまでに掲げたものは、各機関共通的にみられる事務又は事業に関する情報であって、その性質上、開示することによって、その適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると考えられる典型的な支障を挙げたものである。これらの事務又は事業の他にも、同種のものが反復されるような性質の事務又は事業であって、ある個別の事務又は事業に関する情報を開示すると、将来の同種の事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの等、「その他当該事務又は事業の性質上、当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれ」があり得る。
(2) 「当該事務又は事業の性質上、適正な遂行に支障を及ぼすおそれ」
 当該事務又は事業の本質的な性格、具体的には、当該事務又は事業の目的、その目的達成のための手法等に照らして、その適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるかどうかを判断する趣旨である。
 本規定は行政機関の長の恣意的判断を許容する趣旨ではなく、各規定の要件の該当性は客観的に判断される必要があり、また、事務又は事業の根拠となる規定・趣旨に照らし、個人の権利利益を保護する観点からの開示の必要性等の種々の利益を衡量した上で「適正な遂行」といえるものであることが求められる。
 「支障」の程度は、名目的なものでは足りず実質的なものが要求され、「おそれ」の程度も単なる確率的な可能性でなく、法的保護に値する蓋然性が要求される。

2 「監査、検査、取締り、試験又は租税の賦課若しくは徴収に係る事務に関し、正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を容易にし、若しくはその発見を困難にするおそれ」(第7号イ)
(1) 「監査、検査、取締り、試験又は租税の賦課若しくは徴収」
 「監査」とは、主として監察的見地から、事務又は事業の執行及び財産の状況の正否を調べることをいう。
 「検査」とは、法令の執行確保、会計経理の適正確保、物資の規格、等級の証明等のために帳簿書類その他の物件等を調べることをいう。
 「取締り」とは、行政上の目的による一定の行為の禁止、又は制限について適法、適正な状態を確保することをいう。
 「試験」とは、人の知識、能力等又は物の性能等を試すことをいう。
 「租税」には、国税、地方税がある。「賦課」とは、国又は地方公共団体が、公租公課を特定の人に割り当てて負担させることをいい、「徴収」とは、国又は地方公共団体が、 租税その他の収入金を取ることをいう。
(2) 「正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を容易にし、若しくはその発見を困難にするおそれ」
 監査等の事務は、いずれも事実を正確に把握し、その事実に基づいて評価、判断を加えて、一定の決定を伴うことがある事務である。
 これらの事務に関する情報の中には、例えば、監査等の対象、実施時期、調査事項等の詳細な情報のように、事前に開示すると、適正かつ公正な評価や判断の前提となる事実の把握が困難となったり、行政客体における法令違反行為又は法令違反には至らないまでも妥当性を欠く行為を助長したり、巧妙に行うことにより隠蔽をするなどのおそれがあるものがあり、このような情報については、不開示とするものである。また、事後であっても、例えば、監査内容等の詳細についてこれを開示すると今後の法規制を免れる方法を示唆することになるようなものは該当し得ると考えられる。

3 「契約、交渉又は争訟に係る事務に関し、国、独立行政法人等、地方公共団体又は地方独立行政法人の財産上の利益又は当事者としての地位を不当に害するおそれ」(第7号ロ)
(1) 「契約、交渉又は争訟」
 「契約」とは、相手方との意思表示の合致により法律行為を成立させることをいう。
 「交渉」とは、当事者が、対等の立場において相互の利害関係事項に関し一定の結論を得るために協議、調整などの折衝を行うことをいう。
 「争訟」とは、訴えを起こして争うことをいう。訴訟、行政不服審査法に基づく不服申立てその他の法令に基づく不服申立てがある。
(2) 国、独立行政法人等、地方公共団体又は地方独立行政法人の財産上の利益又は当事者としての地位を不当に害するおそれ」
 国、独立行政法人等、地方公共団体又は地方独立行政法人が一方の当事者となる上記の契約等においては、自己の意思により又は訴訟手続上、相手方と対等な立場で遂行する必要があり、当事者としての利益を保護する必要がある。
 これらの契約等に関する情報の中には、例えば、用地取得等の交渉方針や用地買収計画案を開示することにより、適正な額での契約が困難になり財産上の利益が損なわれたり、交渉や争訟等の対処方針等を開示することにより、当事者として認められるべき地位を不当に害するおそれがあるものがあり、このような情報については不開示とするものである。

 「調査研究に係る事務に関し、その公正かつ能率的な遂行を不当に阻害するおそれ」(第7号ハ)
 国の機関等が行う調査研究(ある事柄を調べ、真理を探究すること)の成果については、社会、国民等にあまねく還元することが原則であるが、成果を上げるためには、従事する職員が、その発想、創意工夫等を最大限に発揮できるようにすることも重要である。
 調査研究に係る事務に関する情報の中には、例えば、(1)知的所有権に関する情報、調査研究の途中段階の情報などで、一定の期日以前に開示することにより成果を適正に広く国民に提供する目的を損ね、特定の者に不当な利益や不利益を及ぼすおそれのあるもの、(2)試行錯誤の段階の情報で、開示することにより、自由な発想、創意工夫や研究意欲が不当に妨げられ、減退するなど、能率的な遂行を不当に阻害するおそれがあるものがあり、このような情報を不開示とするものである。

 「人事管理に係る事務に関し、公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれ」(第7号ニ)
 国の機関等が行う人事管理(職員の任免、懲戒、給与、研修その他職員の身分や能力等の管理に関すること)に係る事務は、当該機関の組織としての維持の観点から行われ、一定の範囲で当該機関の自律性を有するものである。
 人事管理に係る事務に関する情報の中には、例えば、勤務評定や人事異動、昇格等の人事構想等を開示することにより、公正かつ円滑な人事の確保が困難になるおそれがあるものがあり、このような情報を不開示とするものである。

 「国若しくは地方公共団体が経営する企業、独立行政法人等又は地方独立行政法人に係る事業に関し、その企業経営上の正当な利益を害するおそれ」(第7号ホ)
 国若しくは地方公共団体が経営する企業、独立行政法人等又は地方独立行政法人に係る事業に関連する情報については、企業経営という事業の性質上、第14条第3号の法人等に関する情報と同様な考え方で、企業経営上の正当な利益を保護する必要があり、これを害するおそれがあるものを不開示とするものである。ただし、正当な利益の内容については、経営主体、事業の性格、内容等に応じて判断する必要があり、情報の不開示の範囲は法第14条第3号の法人等とは当然異なり、より狭いものとなる場合があり得る。



(別添3)


開示請求書の記載事項等に関する判断基準(法第13条関係)


第1 開示請求書(法第13条第1項)

 書面主義
 開示請求権の行使という重要な法律関係の内容を明確にするため、開示請求は書面を提出して行わなければならないこととしている。書面の提出は、行政機関の請求を受け付ける窓口に持参して行うほか、開示請求書を送付して行うことができる。ファクシミリ及び電子メールによる提出は、本人確認が困難なことから認めていない。

 開示請求書の記載事項
 本項各号に定める事項は、開示請求書の必要的記載事項であり、これらの記載が欠けている場合には、このままでは不適法な開示請求となり法第18条第2項による不開示の決定を行うこととなるが、通常は、開示請求者に対し、欠けている事項について記載するよう法第13条第3項の補正を求めることになる。
 また、各号列記はされていないが、開示請求書に当然に記載すべき事項として、開示請求先である決定権者の名称及び法に基づく開示請求であることを明らかにする記載が必要である。
 なお、開示請求書の記載は日本語で行わなければならない。
(1) 「開示請求をする者の氏名及び住所又は居所」(第1号)
 開示請求者の特定及び連絡先を明らかにするための事項である。
 また、郵便番号、電話番号について、これらの記載がなくとも不適法な請求となるものではないが、法第13条第3項の開示請求書の補正の求め、補正の参考となる情報の提供や、以後の通知、連絡等に際して必要とされる場合があるので、記載されることが望ましい。
 なお、開示請求者の押印は不要である。
(2) 「開示請求に係る保有個人情報が記録されている行政文書の名称その他の開示請求に係る保有個人情報を特定するに足りる事項」(第2号)
 「開示請求に係る保有個人情報を特定するに足りる事項」については、行政機関の職員が、当該記載から開示請求者が求める保有個人情報を識別できる程度の記載があれば足り、請求された保有個人情報が特定されたものとして扱うことになる。
 特定の方法については、求める保有個人情報の内容等により異なるが、個人情報ファイルや行政文書の名称、個人情報の保有に関連する事務事業の名称、記録項目、取得(作成)時期、担当機関名等を適宜組み合わせて表示をすることになる。
 個別具体の開示請求事案における保有個人情報の特定は、決定権者が個別に判断することとなる。例えば、「自己の○○に関する情報」のように記載された開示請求については、「○○」という事柄の具体性の程度にもよるが、一般的には、関連性の程度には種々のものが想定され、どこまでを含むかが記載からは明らかでない場合は、特定が不十分であると考えられる。また、「○○(行政機関又はその下部組織)の保有する自己に関する保有個人情報」のように記載された開示請求についても、保有個人情報の範囲は観念的には一応明確であるものの、一般的には、行政機関の活動は多種多様であって、行政機関が保有している保有個人情報の量等に照らして、法の開示請求権制度上は、特定が不十分であると考えられる。なお、個人情報ファイル簿との照合等により保有個人情報の特定に努めるものとする。
 基本的に、開示請求は、一行政文書(一般的には、一の表題の下に取りまとめられた一定の意図又は意味を表す文書、図画又は電磁的記録)に記録されている保有個人情報ごとに行い、開示決定等も行政文書に記録された保有個人情報ごとに行うこととしている。ただし、開示請求者の便宜を図るため、請求手続上、一定の場合には複数の行政文書に記録されている保有個人情報の開示請求を1件の開示請求として取り扱うことを認めている。具体的には、一の行政文書ファイルにまとめられた複数の行政文書又は相互に密接な関連を有する複数の行政文書を開示請求する場合には、1件の開示請求として、開示請求手数料を徴収することとしている(令第18条第2項参照)。なお、複数の行政文書の開示請求を1件のものと扱う場合でも、開示決定等を分割して行うことは認められる。

第2 本人確認(法第13条第2項)

 個人に関する情報が、誤って他人に開示されてしまうと、本人が不測の権利利益侵害を被る場合もある。このため、本項では、開示請求を行うに当たって、開示請求者が本人であること(法定代理人による開示請求にあっては、開示請求に係る保有個人情報の本人の法定代理人であること)を示す書類を提示し、又は提出しなければならないこととしたものである。
 施行令第11条では、本人確認に必要な書類及びその手続について、開示請求の場面を、(1)行政機関の窓口に開示請求書を提出する場合、(2)行政機関に送付する場合の、二つのケースを想定して、本人確認の方法について規定しているが、その考え方は、以下のとおりである。

 行政機関の窓口に開示請求書を提出する場合における本人確認の書類(施行令第11条第1項)
(1) 「開示請求書に記載されている開示請求をする者の氏名及び住所又は居所と同一の氏名及び住所又は居所が記載されている運転免許証、健康保険の被保険者証、外国人登録証明書、住民基本台帳法(昭和42年法律第81号)第30条の44第1項に規定する住民基本台帳カードその他法律又はこれに基づく命令の規定により交付された書類」(施行令第11条第1項第1号)
 運転免許証等の書類は、通常、本人の申請により本人に交付され、本人が所持しており、社会生活上広く本人であることを証明する書類として使用されているため、施行令でも本人確認の書類としたものである。
 「その他法律又はこれに基づく命令の規定により交付された書類」としては、国 民健康保険、船員保険又は介護保険の被保険者証、児童扶養手当証書、母子健康手 帳、身体障害者手帳、精神障害者保健福祉手帳などが考えられる。
(2) 「当該開示請求をする者が本人であることを確認するため行政機関の長が適当と認める書類」(施行令第11条第1項第2号) 当該開示請求をする者が、施行令第11条第1項第1号に該当する書類を保持し ていないなど、やむを得ない場合には、行政機関の長が個別に本人確認書類として適切であるかを判断する必要があるため、第2号を設けたものである。
 本号に規定する書類の指定は、別途定めるところにより総務課長において行うこととする。

 行政機関に開示請求書を送付する場合における本人確認書類(施行令第11条第2項)
(1) 開示請求書を行政機関に送付して開示請求をする場合に、施行令第11条第1項の書類の原本を送付することは適当でないため、複写機により複写したもので足りることとする。
 ただし、慎重を期すため、その者の住民票の写し又は外国人登録原票の写し(30日以内に作成されたものに限る。)を提出させることとするこれは、本人確認書類が複写されることによる信用力の減殺を補強する趣旨である。
(2) 当然のことながら、開示請求書、本人であることを示す書類を複写したもの及び住民票の写し又は外国人登録原票の写しのそれぞれに記載された開示請求をする者の氏名、住所又は居所は一致していなければならず、また、開示決定通知書はその住所又は居所に送付することになる。

 法定代理人が開示請求をする場合における本人確認書類(施行令第11条第3項)
 法定代理人が開示請求を行う場合に、開示請求をする者が開示請求に係る保有個人情報の本人の法定代理人であることを確認する手続について定めるものである。具体的には、戸籍謄本その他その資格を証明する書類(30日以内に作成されたものに限る。)を行政機関の長に提示し、又は提出しなければならないこととする。
 「その他その資格を証明する書類」としては、戸籍抄本、家庭裁判所の証明書(家事審判規則第12条)、登記事項証明書(後見登記等に関する法律第10条)がある。
 なお、法定代理人が本人に代わって開示請求を行う場合、本項の書類とともに、当該法定代理人自身の本人確認書類も提出しなくてはならない。

 開示請求をした法定代理人が、その資格を喪失した場合(施行令第11条第4項及び第5項)
(1) 開示請求をした法定代理人が、開示を受ける前に法定代理人としての資格を喪失した場合には、当該元法定代理人に保有個人情報を開示することは適当でない。このため、当該元法定代理人に対し、直ちに開示請求を受理した行政機関の長(事案が移送された場合は、当該移送先)に資格喪失の事実を書面で届け出ることを義務付けたものである。
(2) 開示請求をした法定代理人から、その資格を喪失した旨の届出がなされたときは、当該請求は、取り下げられたものとみなすことにより、当該開示請求を処理する手続は、その時点で終了する旨を規定している。
 なお、法定代理人が資格を喪失し、この旨の届出を行った場合には、当該開示請求のために納付した手数料の返還の要否が問題となるが、法第26条第1項は「開示請求をする者は、手数料を納めなければならない」と規定しており、開示請求をする時点での納付の義務があるものであり、返還しないこととする。

第3 開示請求書の補正(法第13条第3項)

 「開示請求書に形式上の不備があると認めるとき」
(1) 「形式上の不備」とは、第1項の記載事項が記載されていない場合のほか、同項第2号の保有個人情報を特定するに足りる事項の記載が不十分であるため開示請求に係る保有個人情報が特定されていない場合を含む。また、手数料を納付していない場合、開示請求書が日本語以外の言語で記載されている場合(氏名、住所等の固有名詞又は外国語表記の行政文書の名称等であって、本来外国語で記載される場合を除く。)や本人確認書類の提示等がなされない場合も「形式上の不備」に当たる。
(2) 開示請求の対象が保有個人情報に該当しない場合、開示請求に係る保有個人情報を保有していない場合、開示請求に係る保有個人情報が開示請求の対象外である場合は、「形式上の不備」には当たらないものとする。開示請求の対象となる保有個人情報は、請求の本質的な内容であり、その変更は開示請求の本質を失わせるものであることから、補正の範囲を超えることになるためである。なお、「形式上の不備」に該当しないこれらの請求があった場合には、法第18条第2項による不開示決定を行うこととなるが、例えば、当該請求に係る保有個人情報を保有していない旨を開示請求者に教示するほか、当該保有個人情報を保有している他の行政機関が明らかな場合には当該行政機関を教示するなど、適切な情報提供を行うこととする。

 「相当の期間を定めて、その補正を求めることができる」
(1) 「相当の期間」とは、行政手続法第7条に規定する「相当の期間」と同義であり、当該補正をするのに社会通念上必要とされる期間を意味し、個別の事案に即して行政機関の長が判断する。
(2) 外形上明白に判断し得る不備については、行政手続法第7条の規定により、速やかに補正を求めるか、請求を拒否する決定をするかのいずれかを行わなければならないこととされている。
 法上の手続においては、本項の規定により必ずしも行政機関の長が補正を求める義務を負うものではないが、形式上の不備の補正が可能であると認められる場合には、開示請求者が再度請求を行う手間を省くため、できる限り補正を求めることとする。
(3) 本項の規定により、相当の期間を定めて補正を求めたにもかかわらず、当該期間を経過しても、開示請求書の不備が補正されない場合は、当該開示請求に対して開示しない旨の決定を行うことになる。

 「補正の参考となる情報を提供するよう努めなければならない」
(1) 本規定は、主として、保有個人情報の特定が不十分である場合の行政機関の対応について規定したものである。保有個人情報の特定は、開示請求の本質的な内容であり、開示請求者が行うものであるが、現実には、開示請求者が保有個人情報を特定することが困難な場合が容易に想定されることから、行政機関の長に対し、参考情報を提供する努力義務を課すことにより、開示請求権制度の円滑な運用の確保を図ろうとするものである。  
(2) 「補正の参考となる情報」としては、例えば、保有個人情報が記録されている個人情報ファイルや行政文書の名称、記載されている情報の概要等を教示することとする。
 情報提供の方法については、個別の事案に応じて適宜の方法で行えば足り、口頭でも差支えない。



(別添4)


部分開示の方法に関する判断基準(法第15条関係)


 開示請求に係る保有個人情報に不開示情報が含まれている場合において、不開示情報に該当する部分を容易に区分して除くことができるときは、当該部分を除いた部分につき開示するものとするが、不開示情報が記録されている部分を容易に区分できるかどうかを判断する際の基本的な考え方は、以下のとおりである。

第1 不開示情報が含まれている場合の部分開示(法第15条第1項)

 「開示請求に係る保有個人情報に不開示情報が含まれている場合」
 開示請求について審査した結果、開示請求に係る保有個人情報に、不開示情報に該当する情報が含まれている場合を意味する。
 法第14条では、保有個人情報に全く不開示情報が含まれていない場合の開示義務を定めているが、本項の規定により、行政機関の長は、開示請求に係る保有個人情報に不開示情報が含まれている場合に、部分的に開示できるか否かの判断を行わなければならないことになる。

 「容易に区分して除くことができるとき」
 当該保有個人情報のどの部分が不開示情報に該当するかという区分けが困難な場合だけでなく、区分けは容易であるがその部分の分離が技術的に困難な場合も部分開示の義務がないことを明らかにしたものである。
 「区分」とは、不開示情報に該当する部分とそれ以外の部分とを概念上区分けすることを意味し、「除く」とは、不開示情報に該当する部分を、当該部分の内容が分からないように墨塗り、被覆を行うなど、加工することにより、情報の内容を消滅させることをいう。
 保有個人情報に含まれる不開示情報を除くことは、当該保有個人情報が文書に記録されている場合、文書の複写物に墨を塗り再複写するなどして行うことができ、一般的には容易であると考えられる。
 一方、録音テープ、ビデオテープ、磁気ディスクに記録された保有個人情報については、区分して除くことの容易性が問題となる。例えば、複数の人の発言が同時に録音されているが、そのうちの一人から開示請求があった場合や、録画されている映像中に開示請求者以外の者が映っている場合などがあり得る。このような場合には、不開示情報を容易に区分して除くことができる範囲で、開示すべき部分を決定することになる。
 なお、電磁的記録に記録された保有個人情報については、紙に出力した上で、不開示情報を区分して除いて開示することも考えられる。電磁的記録をそのまま開示することを求められた場合は、不開示情報の部分のみを削除することの技術的可能性等を総合的に判断する必要がある。既存のプログラムでは行うことができない場合は、「容易に区分して除くことができるとき」に該当しない。

 「当該部分を除いた部分につき開示しなければならない」
 本項は、義務的に開示すべき範囲を定めるものである。なお、部分開示の実施に当たり、具体的な記述をどのように削除するかについては、行政機関の長の法の目的に沿った合目的的な判断に委ねられている。すなわち、不開示情報の記録部分の全体を完全に黒く塗るか、文字が判読できない程度に被覆するか、当該記録中の主要な部分だけ塗り潰すかなどの方法の選択は、不開示情報を開示する結果とならない範囲内において、当該方法を講ずることの容易さ等を考慮して判断することとなる。その結果、観念的には一まとまりの不開示情報を構成する一部が開示されることになるとしても、実質的に不開示情報が開示されたと認められないのであれば、行政機関の長の不開示義務に反するものではない。

第2 個人識別性の除去による部分開示(法第15条第2項)

 「開示請求に係る保有個人情報に法第14条第2号の情報(開示請求者以外の特定の個人を識別することができるものに限る。)が含まれている場合」
(1) 第1項の規定は、保有個人情報のうち、不開示情報でない部分の開示義務を規定しているが、不開示情報のうち一部を特に削除することにより不開示情報の残りの部分を開示することの根拠規定とはならない。
 個人識別情報は、通例は特定の個人を識別可能とする情報と当該個人の属性情報からなる「一まとまり」の情報の集合物であり、他の不開示情報の類型が各号に定められた「おそれ」を生じさせる範囲で不開示情報の範囲を画することができるのとは、その範囲の捉え方を異にする。このため、第1項の規定だけでは、個人識別情報については全体として不開示となることから、氏名等の部分だけを削除して残りの部分を開示しても個人の権利利益保護の観点から支障が生じないときには、部分開示とするよう、個人識別情報についての特例規定を設けたものである。
(2) 「開示請求者以外の特定の個人を識別することができるものに限る」こととしているのは、「特定の個人を識別することはできないが、開示することにより、なお個人の権利利益を害するおそれがあるもの」(第14条第2号の後半部分)については、特定の個人を識別することとなる記述等の部分を除くことにはならないためである。

 「当該情報のうち氏名生年月日その他の開示請求者以外の特定の個人を識別することができることとなる記述等の部分を除くことにより、開示しても、開示請求者以外の個人の権利利益が害されるおそれがないと認められるとき」
 個人を識別させる要素を除去し誰の情報であるかが分からなくなっても、開示することが不適当であると認められる場合もある。例えば、作文などの個人の人格と密接に関連する情報や、個人の未発表の論文等開示すると個人の権利利益を害するおそれのあるものも想定される。
 このため、個人を識別させる部分を除いた部分について、開示しても個人の権利利益を害するおそれのないものに限り、部分開示の規定を適用することとしている。

 「当該部分を除いた部分は、同号の情報に含まれないものとみなして、前項の規定を適用する」
 この規定により、個人識別情報のうち、特定の個人を識別することができることとなる記述等以外の部分は、個人の権利利益を害するおそれがない限り、法第14条第2号に規定する不開示情報ではないものとして取り扱うことになり、第1項の部分開示の規定が適用される。このため、他の不開示情報の規定に該当しない限り、当該部分は開示されることになる。
 また、第1項の規定を適用するに当たっては、容易に区分して除くことができるかどうかが要件となるので、個人を識別させる要素とそれ以外の部分とを容易に区分して除くことができない場合は、当該個人に関する情報は全体として不開示となる。



(別添5)


存否に関する情報が不開示情報となることに関する判断基準
(法第17条関係)


 決定権者は、開示請求に係る保有個人情報が存在していれば、開示決定又は不開示決定を行い、存在していなければ不開示決定を行うことになる。したがって、保有個人情報の不存在を理由とする不開示決定の場合以外の決定では、原則として保有個人情報の存在が前提となっている。
 しかしながら、開示請求に係る保有個人情報の存否を明らかにするだけで、第14条各号の不開示情報を開示することとなる場合があり、この場合には、保有個人情報の存否を明らかにしないで開示請求を拒否できることとするものである。

第1 「当該開示請求に係る保有個人情報が存在しているか否かを答えるだけで、不開示情報を開示することとなるとき」

 開示請求に係る保有個人情報が実際にあるかないかにかかわらず、開示請求された保有個人情報の存否について回答すれば、不開示情報を開示することとなる場合をいう。開示請求に含まれる情報と不開示情報該当性が結合することにより、当該保有個人情報の存否を回答できない場合もある。例えば、犯罪の容疑者等特定の個人を対象とした内偵捜査に関する情報について、本人から開示請求があった場合等が考えられる。

第2 「当該保有個人情報の存否を明らかにしないで、当該開示請求を拒否することができる」

 保有個人情報の存否を明らかにしないで開示請求を拒否する決定も、申請に対する処分であることから、行政手続法第8条に基づき処分の理由を示す必要がある。提示すべき理由の程度としては、開示請求者が拒否の理由を明確に認識し得るものであることが必要であると考えられる。また、個別具体的な理由提示の程度については、当該情報の性質、内容、開示請求書の記載内容等を踏まえ、請求のあった保有個人情報の存否を答えることにより、どのような不開示情報を開示することになるかをできる限り具体的に提示することになる。
 また、存否を明らかにしないで拒否することが必要な類型の情報については、常に存否を明らかにしないで拒否することが必要であり、例えば、保有個人情報が存在しない場合に不存在と答えて、保有個人情報が存在する場合にのみ存否を明らかにしないで拒否したのでは、開示請求者に当該保有個人情報の存在を類推させることになる。



(別添6)


訂正決定等に関する判断基準(法第30条関係)


第1 訂正請求に係る保有個人情報を訂正する旨の決定(法第30条第1項)

 訂正をする旨の決定(法第30条第1項)は、調査等の結果、訂正請求に係る保有個人情報が事実でないことが判明し、当該請求に理由があると認める場合に行うものとする。請求内容に理由があるかどうかを判断するために行う調査は、保有個人情報の利用目的の達成の範囲内で行えば足り、訂正をすることが利用目的の達成に必要でないことが明らかな場合は、特段の調査を行う必要はない。具体例としては、過去の事実を記録することが利用目的であるものについて現在の事実に基づいて訂正することを請求するような場合が考えられる。

第2 訂正請求に係る保有個人情報を訂正しない旨の決定(第30条第2項)

 訂正をしない旨の決定(第30条第2項)は、次に該当する場合に行うものとする。

 訂正請求に理由があると認められない場合
(1) 決定権者は、行政機関による調査の結果、保有人情報の内容が事実であることが判明し、当該訂正請求に理由があると認められないときは、訂正をしない旨の決定を行うものとする。
(2) 決定権者は、行政機関による調査の結果、判明した事実が請求時点において実際に記録されていた内容とも、請求の内容とも異なることが判明した場合には、訂正をしない旨の決定を行うものとする。ただし、必要な場合は、判明した事実に即して、職権により訂正を行うものとする。
(3) 決定権者は、行政機関による調査の結果、訂正請求に係る保有個人情報が事実でないことが判明しない場合又は事実関係が明らかにならなかった場合には、当該請求に理由があると確認できないこととなるから、訂正決定を行うことはできず、訂正をしない旨の決定を行うものとする。

 訂正することが、当該保有個人情報の利用目的の範囲を超える場合
 決定権者は、利用目的の達成に必要な範囲で、保有個人情報の訂正の義務があり、訂正請求の係る保有個人情報の利用目的に照らして、訂正の必要がないときは、訂正しない旨の決定を行うものとする。

 訂正請求に係る保有個人情報が法第27条第1項各号のいずれかに該当しない場合
 訂正請求の対象となる保有個人情報が、法第27条第1項各号に該当しない場合には、決定権者又はその事務を補助する職員は、可能である場合には、当該訂正請求を行おうとする者に対して、当該訂正請求に係る訂正請求書を受理する前に、この旨を説明し、その者が同意した場合は、当該訂正請求書を返戻するものとする。当該訂正請求に係る訂正請求書を受理した場合は、決定権者は、訂正をしない旨の決定をするものとする。

 訂正請求が保有個人情報の開示を受けた日から90日を経過した後になされた場合
 訂正請求が保有個人情報の開示を受けた日から90日を経過した後になされた場合には、決定権者又はその事務を補助する職員は、3に準じて返戻又は訂正しない旨の決定をするものとする。

 訂正請求書に法第28条第1項に規定する記載事項に形式上の不備がある場合
 訂正請求書に法第28条第1項に規定する記載事項に形式上の不備がある場合又は同条第2項に規定する訂正請求に係る保有個人情報の本人(未成年又は成年被後見人にあっては、本人の法定代理人)であることを示す書類に不備がある場合等であって、決定権者が同条第3項に基づき補正を求めたにもかかわらず、なお当該訂正請求書に形式上の不備がある場合には、決定権者は、訂正を行わない旨の決定をするものとする。この場合において、訂正請求書の記載事項等に関する考え方は、第4のとおりである。

 他の法律又はこれに基づく命令の規定により特別の手続が定められている場合
 訂正請求に係る保有個人情報に関し、他の法律又はこれに基づく命令の規定により特別の手続が定められている場合には、当該法律又はこれに基づく命令の定めるところによることとしたものである。

第4 訂正請求書の記載事項等に関する考え方

 訂正請求書(法第28条第1項)
(1) 書面主義
 訂正請求は書面を提出して行わなければならないこととしている。書面の提出は、行政機関の請求を受け付ける窓口に持参して行うほか、訂正請求書を送付して行うことができる。ファクシミリ及び電子メールによる提出は認めていない。
(2) 訂正請求書の記載事項
 法第28条第1項各号に定める事項は、訂正請求書の必要的記載事項であり、これらの記載が欠けている場合には、このままでは不適法な訂正請求となり法第30条第2項による訂正をしない旨の決定を行うこととなるが、通常は、訂正請求者に対し、欠けている事項について記載するよう法第28条第3項の補正を求めることになる。
 また、各号列記はされていないが、訂正請求書に記載すべき事項として、訂正請求先である決定権者の名称及び法に基づく訂正請求であることを明らかにする記載が必要である。
 なお、訂正請求書の記載は日本語で行わなければならない。
 「訂正請求をする者の氏名及び住所又は居所」(第1号)
 訂正請求者の特定及び連絡先を明らかにするための事項である。
 「訂正請求に係る保有個人情報の開示を受けた日その他当該保有個人情報を特定するに足りる事項」(第2号)
 開示を受けた日が特定されれば、訂正請求に係る保有個人情報の特定は可能であることから、「訂正請求に係る保有個人情報の開示を受けた日」を記載することとしたものである。
 開示を受けた日を請求者が失念している場合も想定されるが、その場合は、保個人情報を特定するに足りる情報を記載する必要がある。
 「訂正請求の趣旨及び理由」(第3号)
 「請求の趣旨」とは、「○○を△△に訂正せよ。」のように、当該請求においてどのような訂正を求めるかについての簡潔な結論であり、「理由」は、それを裏付ける根拠である。「訂正請求の趣旨及び理由」は、請求の内容をなす重要なものであり、その記載は明確かつ具体的である必要がある。

 本人確認(法第28条第2項)
 訂正請求を行うに当たっても開示請求の際と同様、訂正請求者が本人であること(法定代理人による訂正請求にあっては、訂正請求に係る保有個人情報の本人の法定代理人であること)を示す書類を提示し、又は提出しなければならない(法第28条第2項)。
 本人確認に必要な書類及びその手続については、開示請求における本人確認方法と同様に取り扱うものとする(別添3の第2参照)。

 訂正請求書の補正(法第28条第3項)
(1) 「訂正請求書に形式上の不備があると認めるとき」
 「形式上の不備」とは、法第28条第1項の記載事項が記載されていない場合をいう。訂正請求に係る個人情報が法第27条第1項第1号から第3号までに該当しない場合や、同条第3項の期限を経過した後に訂正請求がなされた場合は、「形式上の不備」には当たらないと解される。これらは、請求の本質的な内容であり、その変更は訂正請求の本質を失わせるものであることから、補正の範囲を超えることになるためである。なお、「形式上の不備」に該当しないこれらの請求があった場合には、法第30条第2項により訂正をしない旨の決定を行うこととなるが、再度開示請求を行った上で訂正請求を行うことを教示するなど、適切な情報提供を行うものとする。
(2) 「相当の期間を定めて、その補正を求めることができる」
 「相当の期間」とは、行政手続法第7条に規定する「相当の期間」と同義であり、当該補正をするのに社会通念上必要とされる期間を意味し、個別の事案に即して、決定権者が判断する。
 外形上明白に判断し得る不備については、行政手続法第7条の規定により、速やかに補正を求めるか、請求を拒否する決定をするかのいずれかを行わなければならないこととされている。
 法上の手続においては、本項の規定により必ずしも決定権者が補正を求める義務を負うものではないが、形式上の不備の補正が可能であると認められる場合には、訂正請求者が再度請求を行う手間を省くため、できる限り補正を求めるものとする。



(別添7)


利用停止決定等に関する判断基準(第39条関係)


第1 利用停止をする旨の決定(第39条第1項)

 利用停止をする旨の決定(第39条第1項)は、請求に係る保有個人情報が次のいずれかに該当し、当該請求に理由があると認める場合に行うものとする。
(1) 適法に取得されたものでないとき 「適法に取得されたものでないとき」とは、暴行、脅迫等の手段により取得した場合、個人情報の取得について定めた個別法規に違反して取得した場合等をいう。
(2) 第3条第2項の規定に違反して保有されているとき
 「第3条第2項の規定に違反して保有されているとき」とは、いったん特定された利用目的の達成に必要な範囲を超えて個人情報を保有している場合をいう。なお、第3条第3項に違反して、当初の利用目的と相当の関連性を有すると合理的に認められる範囲を超えて利用目的の変更を行っている場合も含まれる。
(3) 第8条第1項及び第2項の規定に違反して利用されているとき
 「第8条第1項及び第2項の規定に違反して利用されているとき」とは、法が許容する限度を超えて利用目的以外の目的で保有個人情報を利用している場合をいう。
(4) 第8条第1項及び第2項の規定に違反して提供されているとき
 「第8条第1項及び第2項の規定に違反して提供されているとき」とは、法が許容する限度を超えて利用目的以外の目的で保有個人情報を提供している場合をいう。
 なお、利用停止は、個人情報の適正な取扱いを確保するために必要な限度で行うものとし、例えば、利用停止請求に係る保有個人情報について、そのすべての利用が違反していればすべての利用停止を、一部の利用が違反していれば一部の利用停止を行うものとする。
 また、例えば、利用目的外の利用を理由として、本人から保有個人情報の消去を求められた場合には、個人情報の適正な取扱いを確保する観点から、当該利用目的外の利用を停止すれば足り、当該保有個人情報を消去するまでの必要はない。

第2 利用停止をしない旨の決定(第39条第2項)

 利用停止をしない旨の決定(第39条第2項)は、次のいずれかに該当する場合に行うものとする。

 利用停止請求に理由があると認められない場合
 利用停止に理由があるかどうかの判断は、当該行政機関の所掌事務、保有個人情報の利用目的及び法の趣旨を勘案して、事実を基に客観的に行うものとする。

(1) 決定権者は、行政機関による調査の結果、当該保有保有個人情報が、法第36条第1項各号に規定する事由に該当しないことが判明し、当該利用停止請求に理由があると認められない場合には、利用停止をしない旨の決定をするものとする。
(2) 決定権者は、行政機関による調査の結果、当該保有保有個人情報が、法第36条第1項第1号に規定する「適法に取得されたものではない」かどうか判明せず、当該利用停止請求に理由があるかどうか明らかでない場合には、利用停止決定を行うことはできず、利用停止をしない旨の決定をするものとする。

 利用停止請求に係る保有個人情報が法第27条第1項各号に該当しない場合
 利用停止請求の対象となる保有個人情報が法第27条第1項各号に該当しない場合には、決定権者又はその事務を補助する職員は、可能である場合には、当該利用停止請求を行おうとする者に対して、当該利用停止請求に係る利用停止請求書を受理する前に、この旨を説明し、その者が同意した場合は、当該利用停止請求書を返戻するものとする。当該利用停止請求に係る利用停止請求書を受理した場合は、決定権者は、利用停止を行わない旨の決定をするものとする。

 利用停止請求が保有個人情報の開示を受けた日から90日を経過した後になされた場合
 利用停止請求が保有個人情報の開示を受けた日から90日を経過した後になされた場合には、決定権者又はその事務を補助する職員は、2に準じて返戻又は利用停止をしない旨の決定をするものとする。

 利用停止請求書に法第37条第1項に規定する記載事項の形式上の不備がある場合
 利用停止請求書に法第37条第1項に規定する記載事項の形式上の不備がある場合又は同条第2項に規定する訂正請求に係る保有個人情報の本人であること(未成年又は成年後見人にあっては、本人の法定代理人であること)を示す書類に不備がある場合等であって、決定権者が同条第3項に基づき補正を求めたにもかかわらず、なお当該利用停止請求に形式上の不備がある場合にあっては、決定権者は、利用停止を行わない旨の決定をするものとする。この場合において、利用停止請求の記載事項に関する考え方は、第3のとおりである。

 利用停止をすることにより、当該保有固有情報の利用目的に係る事務の性質上、当該事務の適正な遂行に著しい支障を及ぼすおそれがあると認められる場合
 決定権者は、利用停止をすることにより、当該保有固有情報の利用目的に係る事務の性質上、当該事務の適正な遂行に著しい支障を及ぼすおそれがあると認められる場合は、利用停止をしない旨の決定をするものとする。

 他の法律又はこれに基づく命令の規定により特別の手続きが定められている場合
 利用停止請求に係る保有個人情報に関し、他の法律又はこれに基づく命令の規定により特別の手続きが定められている場合には、当該法律又はこれに基づく命令の定めるところによることとしたものである。

第3 利用停止請求の記載事項等に関する考え方

 利用停止請求書(第37条第1項)
(1) 書面主義
 利用停止請求は書面を提出して行わなければならないこととしている。書面の提出は、行政機関の請求を受け付ける窓口に持参して行うほか、利用停止請求書の送付により行うこともできる。ファクシミリ及び電子メールによる提出は認めていない。
(2) 利用停止請求書の記載事項
 法第37条第1項各号に定める事項は、利用訂正請求書の必要的記載事項である、これらの記載が欠けている場合には、このままでは不適法な利用停止請求となり法第39条第2項による利用停止をしない旨の決定を行うこととなるが、通常は、利用停止請求者に対し、欠けている事項について記載するよう同条第3項の補正を求めることになる。
 また、各号列記はされていないが、利用停止請求書に記載すべき事項として、利用停止請求先である決定権者の名称及び法に基づく利用停止請求であることを明らかにする記載が必要である。
 なお、利用停止請求書の記載は日本語で行わなければならない。
 「利用停止請求をする者の氏名及び住所又は居所」(第1号)
 利用停止請求者の特定及び連絡先を明らかにするための事項である。
 「利用停止請求に係る保有個人情報の開示を受けた日その他当該保有個人情報を特定するに足りる事項」(第2号)
 開示を受けた日が特定されれば、利用停止請求に係る保有個人情報の特定は可能であることから、「利用停止請求に係る保有個人情報の開示を受けた日」を記載することとしたものである。
 開示を受けた日を請求者が失念している場合も想定されるが、その場合は、保有個人情報を特定するに足りる情報を記載する必要がある。
 「利用停止請求の趣旨及び理由」(第3号)
 「利用停止請求の趣旨」(第3号)とは、法第36条第1項第1号又は第2号により求める措置の内容であり、その記載は明確かつ具体的である必要がある。
 また、「利用停止請求の理由」(第3号)とは、請求者が法第36条第1項第1号又は第2号に該当すると考える根拠であり、請求を受けた行政機関において事実関係を確認するために必要な調査を実施することができる程度の事実が明確かつ具体的に記載されている必要がある。

 本人確認(法第37条第2項)
 利用停止請求を行うに当たっても開示請求の際と同様、利用停止請求者が本人であること(法定代理人による利用停止請求にあっては、利用停止請求に係る保有個人情報の本人の法定代理人であること)を示す書類を提示し、又は提出しなければならないこととした(法第37条第2項)。
 本人確認に必要な書類及びその手続については、開示請求における本人確認方法と同様に取り扱うものとする(別添3の第2参照)。

 利用停止請求書の補正(法第37条第3項)
(1) 「利用停止請求書に形式上の不備があると認めるとき」
 「形式上の不備」とは、法第37条第1項の記載事項が記載されていないことをい う。
 利用停止請求に係る個人情報が、法第37条第1項第1号から第3号までに該当しない場合や、法第36条第3項の期限を経過した後に利用停止請求がなされた場合は、「形式上の不備」には当たらないと解される。これらは、請求の本質的な内容であり、その変更は利用停止請求の本質を失わせるものであることから、補正の範囲を超えることになるためである。なお、「形式上の不備」に該当しないこれらの請求があった場合には、法第39条第2項により利用停止をしない旨の決定を行うこととなるが、再度開示請求を行った上で利用停止請求を行うことを教示するなど、適切な情報提供を行うものとする。
(2) 「相当の期間を定めて、その補正を求めることができる」
 「相当な期間」とは、行政手続法第7条に規定する「相当の期間」と同義であり、当該補正をするのに社会通念上必要とされる期間を意味し、個別の事案に即して、決定権者が判断する。
 外形上明白に判断し得る不備については、行政手続法第7条の規定により、速やかに補正を求めるか、請求を拒否する決定をするかのいずれかを行わなければならないこととされている。
 法上の手続においては、本項の規定により必ずしも決定権者が補正を求める義務を負うものではないが、形式上の不備の補正が可能であると認められる場合には、利用停止請求者が再度請求を行う手間を省くため、できる限り補正を求めるものとする。


お問い合わせ先
 中央労働委員会事務局
 総務課文書広報係
電話(直通) 03(5403)2111
FAX 03(5403)2110



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