平成17年9月27日
中央労働委員会事務局
第三部会担当審査総括官 熊谷正博
 Tel 03(5403)2172
 Fax 03(5403)2250


中労委平成17年(審査)第1号智香寺学園物件提出命令審査申立事件
(原処分・埼玉県労委平成17年(物件)第1号物件提出命令申立事件)
の決定書交付について


 中央労働委員会(会長 山口浩一郎)は、改正労働組合法により設けられた物件提出命令審査申立制度に関する初の判断を、標記事件について行い、平成17年9月22日、関係者に決定書を交付したので、お知らせします。
 決定書の概要等は、次のとおりです。

I 当事者
 審査申立人  学校法人智香寺学園(埼玉県大里郡)
  (教職員数254名(平成16年3月23日現在))
 原処分労委  埼玉県労働委員会(さいたま市浦和区)

II 事案の概要
 本件は、審査申立人学校法人智香寺学園(以下「学園」という。)が設置・運営するU高等学校(以下「高校」という。)に勤務する教員らのうちU高等学校教職員組合(以下「組合」という。)に所属する組合員らの平成15年度及び同16年度夏季・冬季一時金について学園が差別的な考課査定をして減額支給したこと等が不当労働行為であるとして、同16年3月12日に組合及び埼玉県V組合連合並びに組合員9名(以下「組合ら」という。)が埼玉県労働委員会(以下「埼玉県労委」という。)に救済申立てをした事件の審査手続において、同17年2月17日、組合らから、学園の所持する、組合員を含む査定対象者全高校教員に係る、救済対象のうち同15年度夏季・冬季一時金に関する人事考課の各評定表(第一次、第二次及び第三次各評価者によるもの)の提出命令を求めたところ、埼玉県労委は同17年6月23日、学園に対し、(1)一部原本が破棄されている部分については職権により、コンピュータからの印字出力文書の提出、(2)評価者及び救済申立人組合員を除く被評価者全員の氏名の削除等の方法により、概ね組合らの申立ての趣旨に沿った物件提出を命じることを決定し、同年6月28日、学園に通知したため、これを不服として、同年7月4日に審査の申立てがあった事件である。

III 決定の概要
 1 主文要旨
 原処分を取り消す。

 2 判断要旨
(1)物件提出命令発出の要件
 労働組合法第27条の7に基づく物件提出命令は、当該物件が、要証事実の認定のために他に的確な方法を見出し難いものであるという意味での高度の必要性が認められる場合でなければならない。また、物件提出命令を発するかどうかを決定するに当たっては、その提出を命じる必要性と秘密の保護の必要性等を比較衡量して判断すべきである。
(2)本件における要件該当性
 学園は、組合らの主張する平成15年度一時金支給に関する本案申立人組合員についての査定結果及び組合員と非組合員間の平均変動分支給月数の数値上の格差の存在については明確に争っておらず、組合員と非組合員間の一時金の格差の存在を認めていることからすれば、格差の問題は、もはや新たな証拠によることなく認定可能である。
 そして、格差の合理性ないし不当労働行為性が本件における最大の争点であるところ、本件各評定表等によらなければこの争点の判断に必要な事実が認定できないとはいえず、本件各評定表等が提出されたからといって直ちにこれが明らかになるともいえない。これまでの本案審査経過をみると、格差の合理性ないし不当労働行為性についての、本件物件提出命令申立て以外の具体的立証活動は双方からほとんど行われておらず、このような審査状況の下においては、本件各評定表等は格差の合理性の有無の判断において高度の必要性がある証拠であるとは必ずしもいえない。
 他方、学園における人事考課制度運用の状況等、本件における事実関係の下では、これが開示されると、被評価者のプライバシーの侵害、学園の人事考課制度の運営上具体的な支障を来すおそれがあるなど個人及び事業上の秘密に配慮した慎重な取扱いが求められる物件であるというべきである。
(3)結論
 以上のとおり、事実認定のために物件提出を命じる必要性と秘密の保護の必要性等を彼此勘案すれば、本件物件提出命令申立ては、本案申立人組合員に係る分を含めて、労働組合法第27条の7の要件を欠くといわざるを得ず、これを却下すべきものであり、一部職権により提出を命じた部分も失当であるから、原命令は取り消しを免れない。

【参考】
物件提出命令審査申立制度(平成17年1月1日施行・改正労働組合法)の概要
 労働委員会は、当事者の申立てにより又は職権で、調査又は審問を行う手続において、物件の所持者に対し、その提出を命じ、又は提出された物件を留め置く方法により証拠調べをすることができる(法27の7(1)2号)。都道府県労委又は中労委のいずれかが発した物件提出命令を受けた者がこれについて不服がある場合には、中労委に対して不服申立て(都道府県労委が発した命令については審査の申立て、中労委が発した命令については異議の申立て)をすることができる(法27の10)。

本件審査の概要
 本案不当労働行為救済申立日 平成16年3月12日(埼玉県労委平成16年(不)第3号)
 本件物件提出命令申立年月日 平成17年2月17日(埼玉県労委平成17年(物件)第1号)
 本件物件提出命令交付年月日 平成17年6月28日
 本件審査申立年月日 平成17年7月4日(中労委平成17年(審査)第1号)

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