平成15年11月28日 |
中央労働委員会事務局審査第二課
審査第二課長 高梨 和夫
Tel |
03−5403−2157 |
Fax |
03−5403−2250 |
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日本ケミファ不当労働行為再審査事件
(中労委平成14年(不再)第31号)命令書交付について
中央労働委員会(会長 山口浩一郎)は、平成15年11月28日、標記事件に係る命令書を関係当事者に交付したので、お知らせします。
命令の概要は、次のとおりです。
I |
当事者
1 |
再審査申立人
日本ケミファ株式会社(東京都千代田区) |
従業員 |
約700名(平成11年6月30日現在) |
2 |
再審査被申立人
全労連全国一般労働組合埼玉地方本部 |
組合員 |
1,193名(平成12年5月15日現在) |
全労連全国一般日本ケミファ労働組合 |
組合員 |
34名(平成12年5月15日現在) |
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II |
事案の概要
1 |
本件は、会社が、全労連全国一般労働組合埼玉地方本部(埼玉地本)執行委員長Nを埼玉県三郷市にある臨床検査薬事業部から茨城県真壁郡関城町にある茨城工場に配置転換したことが不当労働行為であるとして、救済申立てのあった事件である。
初審埼玉県地方労働委員会(埼玉地労委)において埼玉地本及び全労連全国一般日本ケミファ労働組合(組合)が請求する救済の内容は、Nに対する配置転換の撤回及び原職復帰並びに謝罪文の掲示である。 |
2 |
初審埼玉地労委は、平成14年7月2日、会社に対し、 Nに対する配置転換の撤回及び原職復帰並びに文書手交を命じ、その余の申立て(謝罪文の掲示)を棄却したところ、会社はこれを不服として再審査を申し立てたものである。 |
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III |
命令の要旨
1 |
主文
初審命令を取り消し、再審査被申立人らの救済申立てを棄却する。
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2 |
判断の要旨
(1) |
業務上の必要性について
ア |
会社は当時、新薬が当時の厚生省から承認されないという事態を受けて経営方針を再構築する必要性に迫られていたという事情の下で、当検査薬の生産体制構築が会社における喫緊の課題であったものと推認されるところ、担当役員も出席した平成12年3月2日の会議において当検査薬の製造に向けての準備が遅れていることが臨床検査薬事業部担当の役員の報告により明らかとなったことから、経営判断として、従来のやり方を変えて、臨床検査薬事業部の開発担当者を茨城工場に異動させ、当検査薬の製品標準書原案作成等の業務を行わせることにより生産部門を強化し、当検査薬の生産体制を構築することとし、当初の発売予定である同13年4月の1年前である同12年4月1日の人事異動の時期に合わせて急遽本件配転を決定したことには、特に不自然であるとするほどのものはない。 |
イ |
当検査薬の発売に至るまでの間のみならず、その後も品目を増やしていく過程の中で、茨城工場において多くの業務を行う必要性があると見込まれたところ、実際に問題が起こった時や特定の業務の時だけNが茨城工場に行くという対処では足りず、同人が同工場に常駐して業務を行う必要があると考えた会社の本件配転決定当時の判断には無理からぬところがあり、アレルギー検査薬に精通していた同人が現に同工場に常時勤務していたからこそ円滑に当検査薬の生産体制の構築が進んだものと推認される。したがって、Nは茨城工場において当検査薬の生産体制の構築に相当の役割を果たしていたものと認められる。 |
ウ |
また、会社が、当時、臨床検査薬事業部においてアレルギー検査薬に精通していたN及びSの両名のうち、当検査薬の開発業務を中心的に行っていたSには同12年3月段階で抱えていた当検査薬の製品標準書原案作成のために必要な書類作成の業務を引き続き担当させて当該業務を急がせることとし、当検査薬の開発業務については補助的な役割をしていたNには茨城工場における当検査薬の製品標準書原案作成等の業務を担当させて生産体制を構築するため配転させる判断をしたことには、不合理であるとするほどのものはない。 |
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(2) |
組合活動上の支障について
会社は、平成12年3月28日の団体交渉の席上、組合員が赴任後、組合活動上の支障があって、それについて具体的に申出があった場合は、会社として可能な範囲で配慮する用意がある旨述べているのであるから、組合は、本件配転後、Nが組合等の会議に開始時刻から出席できない等の支障が生じるのであれば、会社に対し早く退社できるよう便宜を図るなどの申出をしてしかるべきであった。にもかかわらず、同人は本件配転後、そのような申出をしたことはなかった。また、組合等の会議に同人の出席が必要不可欠なのであれば、開催日を変更したり開始時刻を遅らせるなどして、まずは組合自身の工夫や調整で出席できるようにすべきであるとの会社の主張も首肯できないものではない。
以上のことに、Nは組合の特別中央執行委員であって、特別中央執行委員は外部の労働組合の役員を引き受けるとの趣旨で新たに設けられた役職であったことを併せ考えれば、組合の会議に同人が開始時刻から出席できなくなったとしても、組合活動にとって支障はあったものの組合としての対応の余地はあったものと認められる。 |
(3) |
不当労働行為の成否について
会社と組合は、かねてからその関係は良好ではなく、多くの不当労働行為事件が東京地労委に係属していたところ、会社は、希望退職者の募集に組合が反対して組合員が1人も応募せず、会社に非協力的であったことを嫌悪して本件配転を行うことよって組合に動揺を与え、組合の弱体化を企図したものとの疑いが残らないでもない。しかしながら、本件配転には業務上の必要性が認められ、その人選においても不合理であると言うことは困難であること等からすると、Nが組合員ないし組合役員でなかったなら本件配転命令が発せられることはなかったであろうと認めることができるほどの客観的、具体的根拠はないものと言わざるを得ず、仮に本件配転に組合嫌悪の念があったとしても、それだけで本件配転を不当労働行為であると認めることはできないと言うべきである。 |
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〔参考〕
本件審査の概要
初審救済申立日 |
平成12年5月15日 |
初審命令交付日 |
平成14年7月 2日 |
再審査申立日 |
平成14年7月16日 |