平成15年10月28日 |
中央労働委員会事務局審査第三課
審査官 藤森 和幸
電話 |
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FAX |
03-5403-2250 |
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白浜第一交通不当労働行為再審査事件
(平成14年(不再)第50号)命令書交付について
中央労働委員会(会長 山口浩一郎)は、平成15年10月26日、標記事件に係る命令書を関係当事者に交付したので、お知らせします。
命令の概要は、次のとおりです。
I |
当事者
1 |
再審査申立人
白浜第一交通株式会社(和歌山県西牟婁郡(にしむろぐん)白浜町、平成14年8月1日従業員数48名) |
2 |
再審査被申立人
全国自動車交通労働組合総連合会白浜南海タクシー労働組合(平成14年8月1日組合員数9名) |
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II |
事案の概要
1 |
本件は、親会社の変更に伴い平成13年4月16日白浜南海タクシー株式会社から商号変更がなされた再審査申立人(会社)が、(1)再審査被申立人(組合)の新賃金体系等に関する団体交渉の申入れを無視したこと、(2)組合の前委員長に対して退職の利益誘導を行ったこと、(3)チェック・オフを停止したこと、(4)平成8年5月24日に締結した労働協約(平成8年協定書)の破棄を通告したこと、(5)組合掲示板を撤去したこと、(6)制服の保証金を徴収したこと、(7)中小企業退職金共済契約を解約したこと、(8)組合役員の「無給休暇」(組合活動に対して実際には賃金控除を行わない取扱いとしてきた休暇。)を一方的に廃止したこと、(9)配車差別を行ったこと、がそれぞれ不当労働行為に当たるとして、和歌山県地方労働委員会(和歌山地労委)に救済申立てを行ったものである。 |
2 |
初審和歌山地労委は、(1)新賃金体系実施、制服保証金徴収及びチェック・オフ停止に関する団体交渉に速やかに誠意をもって応じること、(2)組合掲示板を直ちに復旧すること、(3)チェック・オフを直ちに再開すること、(4)平成8年協定書の効力を確認し、同協定書に基づき所要の措置を講じること、(5)中小企業退職金共済契約を復活する措置を講じること、(6)組合役員の「無給休暇」を理由とする賃金の減額を停止し、減額分を支給すること、(7)上記(1)ないし(6)及び配車差別についての文書を手交することを命じ、その余の申立て(上記1(2)及び(6))を棄却したところ、会社はこれを不服として再審査を申し立てた。 |
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III |
命令の要旨
1 主文の要旨
(1) |
平成8年協定書についての初審命令(上記II2(4))を、同協定書の破棄通告がなかったものとして取り扱わなければならないに変更した。 |
(2) |
中小企業退職金共済契約の復活についての初審命令(2(5))を取り消した。 |
(3) |
組合役員の「無給休暇」についての初審命令(2(6))を、同休暇に対する賃金の控除がなかったものとして取り扱うとともに、団体交渉において賃金制度の協議と併せて組合活動に伴う賃金の取扱いについて誠意をもって協議しなければならないに変更した。 |
(4) |
初審命令(2(7))の手交文書の内容を一部変更した。 |
(5) |
その余の再審査申立てを棄却した。 |
2 判断の要旨
(1) |
会社再建のための緊急性・必要性の明白な措置との主張について
会社は、会社の措置は倒産状態にあった会社を再建するため支出を抑えることを目的としたもので、その緊急性・必要性は明白であり不当労働行為ではないと主張するが、同措置が緊急かつ必要なものであるとの会社の疎明はなく、倒産状態にある会社の再建の措置であることのみをもって会社の如何なる行為も不当労働行為に当たらないとの主張は採用できない。 |
(2) |
団体交渉の拒否について
会社は、組合のチェック・オフの停止及び制服保証金の徴収に係る団体交渉の申入れに対して一切応じていない。賃金制度の変更に係る団体交渉の申入れについては、会社が開催した経営再建協議会において、確かに組合が参加して賃金制度についても話題の一つとして取り上げられているが、これをもって団体交渉に応じたものとみなすことはできないのであり、その他団体交渉に応じたとの疎明はない。よって、会社は組合の申し入れた団体交渉を正当な理由がないまま拒否したものであり、これは労働組合法(労組法)第7条第2号に該当する不当労働行為である。 |
(3) |
平成8年協定書の破棄通告について
賃金制度の変更が労使間の最大の対立点となり労使関係が緊張状態にあった時期に、一方的に予告期間をおくこともなく平成8年協定書を破棄する旨通告した会社の行為は、労使関係の安定を著しく損なうものであり、また、新賃金体系を受け入れない組合を嫌悪し、その受け入れを強硬に促すとともに、組合の弱体化ないしは解散を企図するものであって、労組法第7条第3号の不当労働行為に該当するものと判断する。 |
(4) |
チェック・オフの停止、組合掲示板の撤去及び組合役員の「無給休暇」に関する取扱い変更について
会社が、合理的な理由もなく、組合と緊張関係にあった時期に、チェック・オフの停止及び組合掲示板の撤去を実行し、労使慣行を突如一方的に廃止したことは、組合の弱体化、ひいてはその解散を意図した団結権を侵害する行為であって、労組法第7条第3号の不当労働行為に該当するものである。
なお、組合役員の「無給休暇」については、労使慣行として継続していたとまではいえないが、会社が組合活動による欠勤に対して精勤手当や基本給部分の賃金を控除したことは、新賃金体系を前提としたものであり、上記(2)及び(3)のとおり、賃金制度の変更に関する団体交渉の拒否及び平成8年協定書の破棄通告が不当労働行為であることを考慮すれば、同協定書をことさら無視し、組合員であるが故に不利益に取り扱うものであって、労組法第7条第1号及び第3号に該当する不当労働行為である。 |
(5) |
中小企業退職金共済契約の解約について
平成8年協定書に基づき締結した中小企業退職金共済契約を被共済者である従業員の同意や了解を得ることなく解約したことは、平成8年協定書、ひいては組合を無視し、組合の弱体化を企図した労組法第7条第3号に該当する不当労働行為である。 |
(6) |
配車差別について
会社が、組合に対して、無線配車等において非組合員に対して優先的に配車する旨通告し、その後、これを実行したことが窺われるが、これは差別的取扱いを行ったというほかはなく、組合員の収入に打撃を与え、組合員であるが故に経済的に不利益に取り扱うものであって、労組法第7条第1号に該当する不当労働行為である。 |
(7) |
救済方法について
ア |
初審命令書交付後、3回にわたり団体交渉が実施されているが、いずれも、初審命令を履行したものとは認められないので、初審命令を維持することが相当であると判断する。 |
イ |
平成8年協定書の破棄通告が不当労働行為に当たると判断される以上、同破棄通告がなかったものとして取り扱うよう命ずることが適切であり、アのとおり団体交渉を速やかに開催し、その結果に基づき同協定書の取扱いについても誠意をもって協議しなければならないことはいうまでもないことであるので、初審命令を上記1(1)のとおり改めることが相当である。 |
ウ |
チェック・オフの停止がなかったものとして取り扱い、その再開を命ずる初審命令を維持することが相当であるが、同命令の履行に当たって、会社が労働基準法の賃金控除に関する規定に基づく所要の措置を講じなければならない。 |
エ |
中小企業退職金共済契約の解約については、同契約は存続していると推認できることから、初審命令を1(2)のとおり取り消すことが相当である。 |
オ |
組合役員の「無給休暇」については、賃金控除がなかったものとしての取扱いを命じるにとどめ、賃金制度に係る団体交渉において「無給休暇」の今後の取扱いについても誠意をもって協議を行うことが不可欠であるので、初審命令を1(3)のとおり改めることが相当である。 |
カ |
配車差別について、すでに中止されているので、改めて配車差別について命じる必要はない。 |
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【参考】 |
初審救済申立日 |
平成13年10月15日・11月7日(和歌山地労委平成13年(不)第3号) |
初審命令交付日 |
平成14年10月28日 |
再審査申立日 |
平成14年11月8日 |