平成15年10月20日 |
中央労働委員会事務局審査第二課
審査官 井上博夫
Tel |
03−5403−2173 |
Fax |
03−5403−2250 |
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東海旅客鉄道(中津川運転区脱退勧奨)不当労働行為再審査事件
(中労委平成9年(不再)第16号)命令書交付について
中央労働委員会(会長 山口浩一郎)は、平成15年10月20日、標記事件に係る命令書を関係当事者に交付したので、お知らせします。
命令の概要等は、次のとおりです。
I 当事者
再審査申立人 |
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東海旅客鉄道株式会社(愛知県名古屋市)
〔従業員約21,000名(平成15年3月31日現在)〕 |
再審査被申立人 |
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ジェイアール東海労働組合
〔組合員約700名(平成14年9月30日現在)〕
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II 事案の概要
1 |
本件は、東海旅客鉄道株式会社(会社)が、(1)東海鉄道事業本部中津川運輸区(運輸区)の区長や助役らをして、会社主催の業務研究会への出張時や主任運転士への昇進試験の面接練習(面接練習)の場などを利用し、ジェイアール東海労働組合(JR東海労)の中津川運輸区分会(分会)所属の組合員2名をJR東海労から脱退慫慂したこと、(2)運輸区の区長が、分会掲示板の掲示物(上記(1)に関する抗議声明)を撤去要請したことが不当労働行為であるとして、平成6年12月21日、JR東海労が愛知県地方労働委員会(愛知地労委)に対し、救済を申立てた事件である。 |
2 |
初審愛知地労委は、平成9年5月2日、上記1の(1)の一部、面接練習の場でのK首席助役の分会員Tに対する発言が、不当労働行為に該当すると判断した上、会社に対し、分会員に対してJR東海労からの脱退を慫慂することによる同組合の運営への支配介入の禁止を命じ、その余の救済申立ては棄却した。
会社はこれを不服として、再審査を申し立てたものである。 |
III 命令の概要
2 |
判断の要旨
(1) |
抽象的不作為命令について
会社は、本件初審命令主文第1項は、抽象的不作為命令であり、原状回復という不当労働行為制度の趣旨を逸脱し違法である旨主張するが、本件初審命令主文第1項は、会社が、運輸区の首席助役らをして分会所属の組合員に対し、JR東海労からの脱退慫慂行為をしてJR東海労の運営に支配介入をしたことが明らかなのであり、単に労働組合法第7条第3号の条文をそのまま表示したものということはできない。しかも、本件初審命令理由をも併せ読めば、その命令の趣旨を具体的なものと判断できるのであるから、会社の主張は採用できない。 |
(2) |
脱退慫慂について
会社は、K首席助役をして分会員TをJR東海労から脱退慫慂した事実はなく、しかも、同首席助役の分会員Tに対する各発言についての初審命令の事実認定は、分会員T自身の署名、捺印がないなど証拠価値のない同人の陳述書(甲第12号証)とそのもとになったノートコピーに基づいたものであり、誤りである旨主張する。
そこで、以下、順次検討する。 |
ア |
甲第12号証とノートコピーの信憑性について
甲第12号証の内容はノートコピーにはない標題等を一部補足したとみられる部分があるものの、ノートコピーの内容とほぼ同じであると認められ、甲第12号証は、ノートコピーをワープロで打ち直したものと認めるのが相当である。 |
イ |
コピーされたノートの作成者とその内容が事実であるかについて
関係証言等によれば、分会員T自身が本件審査事件の第1回調査期日に申立人側補佐人として出席し、当日会社から提出された準備書面の内容が救済申立て事実を否定するものであったため、分会員T自身がこれに反論するために、脱退慫慂を受けた経緯を整理し、当該整理したノートを分会事務所に持参し、そのコピーを本件脱退勧奨にかかるプロジェクトメンバーである分会長らに手渡したものであり、当該ノートは、分会員T自身が書いたものであると認められる。そして、ノートコピーの記載中にはK首席助役らと分会員Tとの当事者間しか知り得ない事実が存在していることや、記載内容が全体として極自然であること、また、分会が本件脱退勧奨行為が発生したとする直後から抗議行動を起こしていること等を併せ考えれば、ノートコピーの内容は、分会員Tが脱退慫慂を受けたとする当時の状況を素直な表現で書き表したものと認められる。
一方、当委員会において、K首席助役は「甲第12号証に記載のある発言は一切述べていない」旨証言しているが、その証言は具体性に欠け措信できない。 |
ウ |
K首席助役の発言が脱退慫慂に当たるかについて
当時、JR東海労が「のぞみ号」の安全対策問題を取り上げて会社の安全に対する姿勢を批判し、リニア開発の即時中止、品川新駅建設の見直しを会社に求める運動を展開し、同時に、会社とJR東海労との間で多くの紛争案件が生じていたという労使事情の下で、同首席助役の職制上の立場や、面接練習の場で行われたことを踏まえると、K首席助役の、JR東海労にとどまることは昇進において不利益となることを示唆し、また、会社に批判的な組合に所属していなければ昇進の道が開ける旨をほのめかしたとする発言は、いずれも分会員Tに対してJR東海労からの脱退を慫慂したものとみるのが相当である。 |
エ |
なお、当時の運輸区における面接練習の取組状況からすれば、面接練習は従業員に対する指導育成の一環としてみるのが相当であり、個人的な処遇向上を願って、合格を期待する管理者の親心からの手助けであって、職務上の義務から行ったものではないとする会社主張は採用できない。 |
オ |
したがって、上記面接練習の場での分会員Tに対するT首席助役の発言は、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為であるとした初審判断は相当である。
以上のとおりであるので、本件再審査申立てには理由がない。
よって、主文のとおり命令する。 |
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【参考】
1 |
本件審査の概要
初審救済申立日 |
平成6年12月21日(愛知地労委平成6年(不)第8号) |
初審命令交付日 |
平成9年 5月 2日 |
再審査申立日 |
平成9年 5月15日 |
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2 初審命令主文要旨
(1) |
会社は、JR東海労名古屋地方本部中津川運輸区分会の組合員に対し、JR東海労からの脱退を慫慂することによって、同組合の運営に支配介入してはならない。 |
(2) |
その余の申立ては棄却する。 |