平成15年8月18日
中央労働委員会事務局審査第二課
審査官  井上博夫
Tel 03−5403−2173
Fax  03−5403−2250

東日本旅客鉄道(千葉動労スト処分)不当労働行為再審査事件
(中労委平成8年(不再)第8・10号)命令書交付について

 中央労働委員会(会長 山口浩一郎)は、平成15年8月18日、標記事件に係る命令書を関係当事者に交付したので、お知らせします。
 命令の概要等は、次のとおりです。

I 当事者
 8号事件再審査申立人・10号事件再審査被申立人
 東日本旅客鉄道株式会社(東京都渋谷区)〔従業員約74,000名(平成14年4月1日現在)〕
 10号事件再審査申立人・8号事件再審査被申立人
 国鉄千葉動力車労働組合〔組合員約600名(平成14年1月10日現在)〕

II 事案の概要
 1 本件は、国鉄千葉動力車労働組合(千葉動労)が平成2年3月19日午前零時から最大72時間のストライキの実施(予定スト)を、東日本旅客鉄道株式会社(会社)に予告していたが、それを繰り上げて同月18日正午から実施(繰上スト)したことに対し、会社が、同ストは違法であるとして、(1)社長談話の発表、新聞広告記事の掲載等の広報を行ったこと、(2)組合役員らの会社施設等への入構を妨害したこと、(3)スト参加組合員の勤務取扱いを「争議」としなかったこと、(4)組合役員、スト参加組合員に対し、出勤停止、減給等の処分を行ったことが不当労働行為であるとして、千葉動労から千葉県地方労働委員会(千葉地労委)に救済申立てのあった事件である。
 2 初審千葉地労委は、平成8年4月16日、会社に対し、繰上ストを行うきっかけとなった組合役員入構拒否は、スト妨害、ストへの不当介入とみられてもやむを得ず、繰上ストは正当な争議行為であるとした上、上記のうち、(2)の一部、(3)及び(4)は不当労働行為に該当するとして、勤務取扱いの変更及び処分の撤回等の一部救済命令を交付した。
 会社は救済部分を、組合は棄却部分を不服として、それぞれ再審査を申し立てたものである。

III 命令の概要
 1 主文
 本件初審命令主文(救済部分)を取り消し、同部分に関する組合の本件救済申立てを棄却する。
 組合の本件再審査申立てを棄却する。
 2 判断の要旨
(1) 繰上ストの正当性について
 千葉動労は、会社が、平成2年3月18日朝から千葉運転区及び津田沼運転区において、組合役員等の入構を拒否したり、組合事務所前にトタンフェンスを設置したことを、ストライキに対する弾圧であると受け止め、これに対する対抗手段として繰上ストを行ったものであるとする。しかし、会社のこれらの措置は、平成元年12月スト及び同2年1月ストの際、千葉動労の多数の組合員らがストライキ前日から会社の警告ないし退去要求を無視して、会社施設内に立ち入り、滞留し、代替乗務員に対し、罵声、暴言を浴びせ、その写真を撮影するなどの行為が多発したため、予定ストの際にもそのような事態が発生しないよう防止し、業務の継続のために必要かつ相当な対抗措置としてとられたものであって、繰上ストには、繰り上げて行うことを正当化するほどの事情、即ち、千葉動労が主張するストライキの統制と実効性を確保するためにそうせざるを得なかったという緊急性、必然性はない。
 千葉動労が、繰上ストを会社に告げたのは3月18日正午の5分前ころの口頭通告が初めてであり、会社が繰上ストを予測して事前に適切な対策を講じることが可能な状況にあったとは認められない。
 会社は、国民生活に不可欠な公益事業である旅客鉄道運輸事業を営むものであることからすると、猶予をおかずに、直ちにストライキを行えば、必要な代替乗務員を確保できない等業務の遂行に重大な混乱をもたらすことは、千葉動労としても十分認識できたというべきである。したがって、繰上ストは、その手続、手段、態様においても、正当性を欠くものといわなければならない。
 以上からすれば、繰上ストは、争議行為として正当性を欠くというべきである。
(2) 不当労働行為の成否について
 社長談話の発表、新聞広告記事の掲載等の広報について
 社長談話と広告記事は、会社としての見解の表明と多大な迷惑をかけた利用客に対する謝罪を目的とするものであり、新聞記事の掲載は会社総務部長の同ストに対する見解であるが、いずれも、繰上ストの事実経過に関する部分は基本的に誤りはなく、繰上ストが違法であるという認識も不当とはいえない。
 入構拒否、トタンフェンスの設置について
 会社として予定スト時における業務の継続のために必要かつ相当な対抗措置であり、不当とはいえない。
 休養室の使用拒否について
 仮眠のための休養室は、翌朝からの勤務に支障のないように乗務員に使用させるのであって、ストライキ参加を予定し、勤務に就くことを予定していない者には使用させないとした会社の措置は、合理的理由があるというべきである。
 本件勤務取扱いについて
 繰上ストに参加した組合員100名の本件勤務取扱いは、繰上ストが争議行為として正当性を欠くものである以上、当然の措置である。
 本件処分について
 本件処分対象者141名の処分事由は、繰上スト指導責任、繰上ストへの参加及び会社施設内での滞留、不退去又は嫌がらせ等を内容とするものであるが、繰上スト参加者への処分は、同ストが争議行為として正当性を欠く以上やむを得ず、また、滞留等は、就業規則に違反する行為であるのみならず、その態様をみると、いずれも、ストライキに通常伴う組合員の行動の範囲、程度を超えて、会社施設の通常利用を妨げ、又はスト時の代替乗務員や会社の担当者の平穏な業務遂行を妨げる程度に至っていたものといわざるを得ず、処分はやむを得ない。
 そして、本件処分について、その処分が重すぎることを窺わせる事情もない。
 したがって、会社のとったこれらの措置をもって、労働組合の正当な行為をしたことを理由とする不利益取扱いであり、組合の運営に対する支配介入ということはできない。
(3) 結論
 以上のとおりであるから、組合の本件救済申立てはすべて理由がなく、初審命令のうち、同申立てを認容した部分は失当である。
 よって、主文のとおり命令する。

【参考】
 1 本件審査の概要
 初審救済申立日 平成2年3月30日(千葉地労委平成2年(不)第3号)
 初審命令交付日 平成8年4月16日
 再審査申立日 平成8年4月25日(使)、同年5月2日(労)
 2 初審命令主文要旨
(1)会社は、繰上ストに参加した千葉動労組合員の勤務の取扱いを「否認」又は「不参」から「争議」に変更しなければならない。
(2)会社は、本件処分を撤回し、処分がなかったものとして取り扱わねばならない。
(3)文書手交。
(4)その余の申立ては、棄却する。



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