平成15年8月4日
中央労働委員会事務局審査第二課
 審査官   井上 博夫
 Tel 03−5403−2172
 Fax 03−5403−2250

西日本旅客鉄道(委託業務打切り)不当労働行為再審査事件
(平成13年(不再)第61号)命令書交付について

 中央労働委員会(会長 山口浩一郎)は、平成15年8月4日、標記事件に係る命令書を関係当事者に交付したので、お知らせします。
 命令の概要は、次のとおりです。

I 当事者
   再審査申立人 全大阪金属産業労働組合(大阪市大正区)
 組合員 約750名(平成13年4月現在)
   再審査被申立人 西日本旅客鉄道株式会社(大阪市北区)
 従業員 約41,000名(平成13年4月現在)

II 事案の概要
 1 申立外大誠電機工業株式会社(「大誠電機」)は、西日本旅客鉄道株式会社(「JR西日本」)吹田工場構内における車両の検査、修理等に伴う車両の入換作業を国鉄時代から請け負い、平成8年からは、車両が吹田工場に入出場する際の誘導作業をも請け負い、本件発生時、従業員6名(「出張所従業員」)をこれら2作業(「本件入換誘導業務」)及びその附帯作業(3作業を併せて「本件請負業務」。その契約を「本件請負契約」)に従事させていた。本件請負契約は毎年更新されていたが、JR西日本は同業務の外注を廃止して自社で行うことを決定し、同11年9月30日をもって本件請負契約は終了となった。これに伴い、大誠電機は、出張所従業員を同日付けで全員解雇した。
 本件は、全大阪金属産業労働組合(「組合」)が、JR西日本は大誠電機分会(「分会」。「組合」と併せて「組合等」)に所属する分会員の労働組合法上の使用者に該当するものであるとして、JR西日本が、(1)組合等が申し入れた分会員の雇用確保等に関する団体交渉を拒否したこと、(2)組合等が申し入れた団体交渉予定日に分会員を1日中監視するなどして組合活動を妨害したこと、(3)大誠電機をして、JR西日本に対して団体交渉を申し入れないとの誓約をすることを拒否した分会長を出勤停止処分とさせたこと及び(4)大誠電機をして、本件請負契約の打切りを理由に、分会員を解雇させたことが、それぞれ不当労働行為であるとして、大阪府地方労働委員会(「大阪地労委」)に対し、(1)ないし(3)について同11年8月9日に救済を申し立て、(4)について同12年9月25日に上記に追加して救済を申し立てた事件である。
 3 初審大阪地労委は、平成13年12月4日、JR西日本は分会員の労働組合法上の使用者には当たらないとして、上記救済申立ての却下を決定したところ、組合はこの決定の取消しを求めて同月11日、再審査を申し立てた。

III 命令の概要
 1 主文
 本件再審査申立てを棄却する。
 2 判断の要旨
(1) JR西日本の使用者性について
 作業実態等について
 本件入換誘導業務の遂行に当たっては、その一部にJR西日本従業員との共同作業やJR西日本からの指示があったこと等は否定できないものの、出張所従業員は、作業主務者の具体的、直接的指揮のもとに、JR西日本から独立した形で業務に当たっていたとみるのが相当である。また、附帯作業として明示されていない安全に関する看板の設置等の作業は、構内の安全を確保するための作業であり、これを附帯作業と理解することは格別不自然であるとはいえず、JR西日本が本件請負契約の範囲を超えて指示を行っていたとしても、その一事を以て出張所従業員がJR西日本の指揮・監督下にあったものとはいえない。さらに、出張所従業員は、他社から請け負っていた作業を、請負業務の手待時間にほぼ毎日、JR西日本の指示とは無関係に行っていたものであって、この点からもJR西日本に対して独立性を有していたことが認められる。
 労働条件の決定について
 大誠電機が自ら出張所従業員の賃金を決定していたことは明らかである上、JR西日本が、出張所従業員の個々の賃金の決定に関与していたとみることもできない。勤務時間等については、本件入換誘導業務の特殊性から、JR西日本が影響力を有していることは否定できないものの、雇用主と同程度にこれを管理し、現実的かつ具体的に支配決定しているとまでみることはできない。また、JR西日本が出張所従業員の年次有給休暇の取得に関与していたとの疎明は全くされておらず、JR西日本が休暇を実質的に支配していたとの組合の主張は採用できない。
 人事管理について
 大誠電機従業員の採用や配置は、大誠電機が行っていたことが認められ、JR西日本が支配していたとする組合の主張は採用できない。
 分会長の出勤停止処分については、大誠電機が意思決定を行ったものであり、JR西日本が具体的にこれに関与したとの疎明がない以上、同人に対して人事権を行使したと認定することはできない。
 また、本件請負契約が更新されなかったことによって、大誠電機が出張所従業員を解雇せざるを得ない結果を招いたことは認められるものの、このことは、大誠電機の企業経営の結果として生じたもので、JR西日本の本件請負契約の打切りの意図が分会員を解雇することにあったと認めるに足りる疎明はない。
 したがって、JR西日本が分会長の出勤停止処分や分会員の解雇にまで支配を及ぼしたとの組合の主張は採用できない。
(2) 結論
 以上のとおり、JR西日本は、出張所従業員の行う本件請負業務の遂行過程で、出張所従業員に対して若干の指示を行い、影響力を及ぼしている状況は認められるものの、出張所従業員を直接の指揮監督下に置いていたものと到底みることはできず、組合等が申し入れた団体交渉の交渉事項について、雇用主と部分的にも同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定できる地位を有していたとみることはできない。
 したがって、JR西日本は、出張所従業員に対する関係において、労働組合法上の使用者に該当するものではなく、JR西日本に対する救済申立てを却下した初審判断は相当である。

【参考】
 1 本件審査の概要
 初審救済申立日 平成11年 8月 9日 及び 同12年 9月25日
 (大阪地労委平成11年(不)第71号)
 初審命令交付日 平成13年12月 4日
 再審査申立日 平成13年12月11日(中労委平成13年(不再)第61号)

 2 初審命令主文 本件申立てを却下する。



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