平成20年12月15日

中央労働委員会事務局

第三部会担当審査総括室

審査官高橋  孝一

Tel. 03−5403−2265

Fax. 03−5403−2250

神谷商事不当労働行為再審査事件
平成19年(不再)第66号命令書交付について

団体交渉において、賃金に係る会社回答の根拠につき、
資料提示及び役員出席を拒否するなどして十分に説明しなかったことが、
不当労働行為であることを認めた事例。

会社が、組合との団体交渉において、賃金決定の根拠について十分に説明せず、組合が要求した財務資料の提示及び常勤取締役の出席を拒否するなどしたことは、相互理解のために必要な行為をなさなかったものであるから、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当する。

 中央労働委員会第三部会(部会長赤塚信雄)は、平成20年12月15日(以下元号省略)、標記事件に係る命令書を関係当事者に交付したので、お知らせします。命令の概要等は次のとおりです。

I当事者

再審査申立人神谷商事株式会社(以下「会社」)

本社/東京都渋谷区従業員数/60名(19年9月4日現在)

再審査被申立人労働組合東京ユニオン(以下「組合」)

事務所/東京都新宿区組合員数/900名(19年9月4日現在)

II事案の概要

本件は、会社が、18年度の春季要求、夏期一時金及び年末一時金等に関する団体交渉(以下「一連の団交」)において財務資料の提示及び常勤取締役の出席を拒否するなどした対応が、不当労働行為に該当するとして、東京都労働委員会に救済申立てがあった事件 である。

初審都労委は会社に対し、一連の団交に常勤取締役を出席させ、会社回答の根拠を具体的に説明し、財務資料を提示するか、これに代わるべき具体的数値を示すなどして誠実に対応すること及びこれに係る文書交付及び掲示を命じたが、会社はこれを不服として再審査を申し立てた。

III命令の概要

主文

本件再審査申立てを棄却する。

初審命令文主文第1項を「再審査申立人は、再審査被申立人が申し入れた平成18年度の昇給、夏期一時金及び年末一時金に係る団体交渉において、実質的な交渉を行える常勤取締役を出席させた上で、財務資料を提示するか又はこれに代わるべき具体的数値を示すなどして、賃金決定の根拠を具体的かつ合理的に示して説明し、誠実に対応しなければならない。」と訂正する。主な訂正は下線部

判断要旨

(1)会社の一連の団交における対応は不誠実か

会社回答の根拠の説明

組合が財務諸表などを開示要求したのは、 要求額の正当性や妥当性を検証するなどの必要があったからで相当である。そこで、会社は、資料などを示して具体的な説明を行い、見解の対立解消に努めるべきところ、その対応は、要求を拒否する回答書を読み上げた上、回答根拠を求められても極めて抽象的かつ不合理な回答をするにとどまり、財務資料も提示しなかった。

会社 は賃金額を決定する「労働の価値」と称する指標について組合に対し、具体的説明をすべきところこれをせず、上記返答に終始するのみ であった。 また、一連の団交において組合が要求した賃金額は、従前の妥結額に固執することなく改めて決せられるべきものであるし、過去の中労委和解において将来の賃金額の決定基準に係る合意は認められないから、会社がこれに依拠する理由はない。

団交出席者等の選定

X部長らは、要求を拒否する回答書を読み上げ、回答は変更しないと返答するに終始するなど、組合と議論を交わすというよりも、会社の回答や方針を一方的に伝えることのみに終始していたと見てとれる。また、長期中断していた団交が14年6月に再開されて以降、組合側に、会社に常勤取締役の団交出席をためらわせる不穏な行動があったと認めるに足りる証拠はない。

以上からすれば、一連の団交における会社の交渉態度は、労使の相互理解のために必要な行為をしなかったものであり、不誠実であるとして労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当する。

(2)20年3、4月の団交における会社の対応による救済利益の消滅について

会社は、20年3、4月の団交の際、X部長を常勤取締役に就任させ、同取締役は会社回答の根拠を説明し、財務関係の数値を口頭で開示しているが、同取締役の答弁の趣旨は、賃上げ額は会社が独自に決めるものということに尽きるものであり、前年度と同回答になった根拠の説明をしていないことは、対応として不十分だといわざるを得ず、救済利益が消滅したとはいえない。

(3)以上のとおり再審査申立てには理由がないが、救済方法の内容をより明確にするため、初審命令主文第1項を訂正することとする。
【参考】

初審救済申立 19年 3 月22日(東京都労委平成19年(不)第17号)

初審命令交付 19年11月29日

再審査申立日 19年12月 7 日


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