平成20年12月8日

中央労働委員会事務局第二部会担当

審査総括室審査官池田稔

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東海旅客鉄道(組合ビラ配布等)不当労働行為再審査事件
(平成19年(不再)第32号)命令書交付について

会社が、分会書記長が勤務時間外に会社施設内で無許可ビラ配布を行ったことについて、会社の呼び出しに応じなかった同書記長に対し業務命令違反を理由として1日半にわたり事情聴取を行うとともに、顛末書の提出を求め、就業規則の書き写しを命じたことは、労組法7条3号の不当労働行為に該当する。

分会掲示板から分会掲示物2点を撤去したことは、労組法7条3号の不当労働行為に該当する。

中央労働委員会(第一部会長諏訪康雄)は、平成20年12月4日、標記事件に係る命令書を関係当事者に交付したので、お知らせします。命令書の概要は次のとおりです。

I当事者

再審査申立人東海旅客鉄道株式会社(「会社」従業員約2万名)

再審査被申立人ジェイアール東海労働組合(「組合」組合員約500名)

ジェイアール東海労働組合新幹線関西地方本部(組合員約150名)

同新幹線関西地方本部大阪第三車両所分会(「分会」組合員約20名)

II事案の概要

本件は、会社が、(ア)会社施設内で勤務時間外にビラ配布活動を行ったA分会書記長(「A書記長」)に対し、就業規則及び基本協約に違反するとして事情聴取を行い顛末書の提出を求めたこと、(イ)分会掲示板から掲示物2点を撤去したことが不当労働行為に当たるとして、救済申立てがなされた事件である。

初審大阪府労委は、会社に対し、ビラ配布を行ったA書記長に注意指導を行い、総務科に呼び出し、事情聴取を行い顛末書の提出等を求めた会社の一連の対応(「本件一連の業務命令等」)、及び掲示物2点の撤去に関する文書手交を命じた。会社は、平成19年6月8日、再審査を申し立てた。

III命令の概要

主文の要旨

(1)初審命令を次のとおり変更する。

会社は、組合らに対し、(ア)A書記長が会社の業務指示に従わなかったことを理由に、1日半にわたる事情聴取を行うとともに顛末書の提出を求め、就業規則の書き写しを命じたこと(「本件事情聴取等」)、及び(イ)分会掲示板から掲示物2点を撤去したことが中央労働委員会において不当労働行為として認定されたこと、並びに、今後このような行為を繰り返さないようにする旨の文書を手交しなければならない。

(2)その余の本件再審査申立てを棄却する。

判断の要旨

(1)本件一連の業務命令等について

A書記長による本件ビラ配布は、会社の職場規律を維持するために設けられた就業規則等の規定に形式的にはともかく実質的に違反するものであったとはいえない。そうすると、会社が実質的に就業規則等に違反しないビラ配布活動に対し、注意指導の範囲を超え、当該行為に比して相当性を欠く業務指示等を行う場合は、支配介入の不当労働行為が成立する場合があると解される。

イ(ア)本件事情聴取等は、A書記長の3回におよぶ呼出しに応じなかった業務命令違反について、会社が事情聴取することを主な目的としたものであり、本件ビラ配布は就業規則等の文言上に抵触するものであったから、会社がA書記長に対し総務科に来科を求め、就業規則等の規定に従って許可を得るよう注意指導すること自体を問題にすることはできない。

しかしながら、(a)正当な組合活動の保障を認めた労働協約及び職場規律を乱すおそれのないビラ配布についてはその許可を予定した就業規則が存在するにもかかわらず、会社は会社施設内でのビラ配布は認めない方針でいたことがうかがわれること、(b)本件ビラ配布は実質的には就業規則に違反しないことから、同書記長を同規則等違反として一方的に問責することはできない。そうであるのに、会社が同書記長を1日半にわたり本来の業務から外して事情聴取等したことは、会社の業務指示に従わなかったことへの対処の仕方としては行き過ぎたものといわざるを得ず、また、会社が就業規則の一部の書き写しをさせたことも相当性を欠くと解される。

(イ)会社は、本件事情聴取等が長引いたのは同書記長の不誠実な対応に原因があったと主張する。しかし、会社と組合との間に対立がある会社施設内におけるビラ配布問題については、本来団体交渉等労使間の話合いにより解決すべきものであるのに、会社は自らの方針に従わせることに終始していたのであるから、A書記長が情宣活動の必要性・重要性にかんがみ、会社管理者の指示に反発したことをあながち否定することはできず、当該態度を一方的に非難する会社の主張は失当である。

以上からすると、本件ビラ配布に関する注意指導や本件呼出しは、職場規律の観点から行われたものといえ、その態様も相当性を欠くものとは認められないから不当労働行為とまではいえない。しかしながら、本件事情聴取等は、A書記長が会社の業務指示に従わなかったことへの対処の仕方として相当性を欠き、同書記長ないし本件事情聴取等の状況を知ることになる組合員に、組合活動への意思を阻喪させるものであることは明らかである。このことに加え、会社と組合らとの間では多くの紛争が生じ本件当時も対立した状況にあり、会社は組合らの存在を快く思っていなかったと推認されることを併せ考えると、本件事情聴取等は組合らの運営に支配介入したものとして労組法7条3号の不当労働行為に当たる。

(2)本件掲示物撤去について

本件のように労使間で組合掲示板の貸与協約が締結されている場合における掲示物撤去の不当労働行為該当性の判断に当たっては、協約で定めた撤去要件の規定の解釈・適用を中心にこれを判断すべきである。そして、当該撤去要件該当性判断は、撤去された掲示物が全体として何を訴えようとしているのかとの点を踏まえて、その記載内容による被侵害利益の性質、侵害の程度、記載内容の裏付け証拠の有無、掲示物掲出をめぐる労使関係等の具体的事情を実質的・総合的に考察した上で、当該掲示物が労働組合に組合掲示板を貸与した労働協約の趣旨・目的に反するものといえるか否かによって判断されるべきである。

この観点から本件掲示物の撤去をみると「いま、JR東海会社で日常的に行われている『パワーハラスメント』って何?!」とするビラ2点については、事実に反し会社の信用を傷つける等の撤去要件に該当するとまではいえないから、本件掲示物を撤去した会社の行為は労組法7条3号の不当労働行為に当たる。

【参考】

本件審査の経過

初審救済申立日平成17年11月25日

初審命令交付日平成19年 5月25日

再審査申立日平成19年 6月 8日


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