平成20年10月20日

中央労働委員会事務局
第三部会担当審査総括室

室長鈴木裕二

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根岸病院(第二嘱託雇用契約)不当労働行為再審査事件
(平成18年(不再)第43号)命令書交付について

中央労働委員会第三部会(部会長 赤塚信雄)は、平成20年10月20日、標記事件に係る命令書を関係当事者に交付したので、お知らせします。

命令の概要等は、次のとおりです。

病院が組合の書記長との嘱託雇用契約を更新しなかったことは、同人の給与が高額であったことを理由としてなされたものと認められ、不当労働行為とは認められないとした事件

命令のポイント

組合書記長の嘱託雇用契約が更新されなかったことは、病院における財政の健全化が急務となっていたこと及び、同人の給与が高額であったことが理由であったと認められ、同人の組合活動を理由とした不利益取扱い及び組合の中心的人物を排除させることを企図した支配介入いずれの不当労働行為にも該当しない。

I 当事者

再審査申立人

東京地方医療労働組合連合会(東京都台東区)組合員約11,000名(平成20年5月12日現在、以下「平成の元号は略」)

根岸病院労働組合(以下「組合」)(東京都府中市)組合員39名(20年5月12日現在)

組合の書記長A(以下「A」)

再審査被申立人

医療法人社団根岸病院(以下「病院」)(東京都府中市)従業員316名(20年5月12日現在)

II 事案の概要

本件は、病院が、(1)Aに対し、11年12月28日をもって嘱託雇用契約を更新しなかったこと(以下「本件不更新」)が労働組合法第7条第1号及び第3号に、(2)本件不更新に関する組合の団体交渉申入れに応じなかったことが労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であるとして、救済申立てがあった事件である。
初審東京都労委は、団体交渉拒否に関する申立てを認容し、その余の申立てを棄却した。

これに対し組合は、棄却した部分について再審査を申立た。なお、病院は初審命令の救済部分(誠実団交応諾等)について、その取消しを求めて行政訴訟を提起したが、最高裁の上告棄却及び上告不受理により、当該初審命令は確定している

III 命令の概要

1 主文

本件再審査申立てを棄却する。

2 判断の要旨

(1) 労使関係等

Aは、准看護師として病院に雇用され、昭和51年以来組合の書記長を務めており、上部団体の東京医労連の役員をしていたこともあり、組合の中心的活動家であったことが認められる。

8年以降、労使が対立し、8年9月、10年6月、11年4月には別件の不当労働行為の救済申立てがなされ、労使関係の悪化していたことが認められる。

病院は、Aに対し、契約の不更新を通知し、Aがその理由を問うても、就業規則第23条によるとだけの回答で、その他の説明は一切なかった。また組合が、本件不更新に関して団体交渉を申し入れたのに対し、病院は団体交渉に応じようとしなかった。(病院の同対応は不当労働行為に当たるとした本件初審命令が最高裁で支持されている。)

(2) Aの本件不更新は異例のものか

8年9月から19年9月に退職した13人の准看護師のうち、嘱託雇用の更新を希望したが、不更新となったものは、Aのほかにも3人いることから、希望すれば嘱託雇用契約が更新される慣行があったとまでは言い難く、Aの本件不更新が異例のものであったとまではいえない。

(3) Aが嘱託雇用契約を更新されなかった理由は給与が高額であることによるものか

組合らは、Aの給与よりも高額ないし同等程度であった准看護師のB、C及びDの嘱託雇用が更新されたことを根拠に、Aの本件不更新の不当労働行為性を主張する。

病院の給与制度は、定年までは年功序列であり、勤続年数が長いほど賃金が高い。定年後の嘱託雇用の給与は、65歳までは定年時の賃金とされ、65歳以降は65歳到達時の基本給の80パーセントに諸手当を加えて支給される。

Aは11年に61歳となり、勤続26年で退職した。Aの年収は757万円で、准看護師の職種では最高レベルの額であった。

Bは、7年4月に61歳となり、勤続年数は41年ないし42年であり、給与はAより高額であったと考えられるが、病院の男性看護職員が極端に少なく、病院が精神病院であることを併せ考えれば、Aとの比較対象とするのは相当とはいえない。

Cは、14年1月に61歳となり、勤続年数は25年であった。Cは、嘱託雇用を更新されたが、減額可能な年俸制で契約した。加えて、高年齢者雇用継続給付により減額分が補填されることから、給与の減額に合意し、その結果、60歳時の給与が754万円であったのに対し、61歳で契約した年俸額は620万円となった。また62歳以降は、週3日のパートとして勤務し、給与は相当程度減額されていたと推測できる。

Dは、11年10月に61歳となり、勤続20年で嘱託雇用を更新された。11年当時のDの給与は、勤続年数からするとAより低い額であったと推測される。Dは62歳以降も嘱託雇用を更新され続け、19年9月現在も68歳、勤続28年で在職しているが、65歳、勤続25年以降は、病院の規定により、65歳到達時の基本給の80パーセントに諸手当を加えた額が支給されていたはずであり、DがAが不更新とされた勤続26年に達したときには、Dの給与は、Aの勤続26年時給与よりも相当程度低かったと考えられる。

また、組合らは、「病院主張の雇用方針(人員の若返り、勤続年数が長く給与の高いものの削減、正看護師の優先)に沿う嘱託雇用の傾向は認められない」旨主張する。

確かに「人員の若返り」及び「正看護師の優先」との方針が存在したと認めるに足りる証拠はないが、「給与の高い者は更新しない」という方針は存在していたものと認められる。

すなわち、11年以前から病院の経営状況は厳しく、勤続25年を超える長期勤続者はC、Dを除いて10年から11年に既に退職しており、C、Dは上記のとおり給与が減額されていた。そして19年9月現在の60歳以上の在職准看護師に、賃金がAのように高額な者はいない。

以上のことから、Aの本件不更新の理由は、その給与が高額であったものと認められる。

(4) 給与が高額であることを理由として嘱託雇用契約を更新しないことに合理性はあるか

病院では、毎年億単位の損失を計上し、財政の健全化が急務となっていた。したがって、病院が経営改善のために、給与の高い者の嘱託雇用を更新しない方針をとったとしてもやむを得ない。

(5) 不当労働行為の成否

以上の事実を併せ考えると、Aの本件不更新は、給与が高額であったことを理由としてなされたものと認められ、組合活動を理由とした不利益取扱いとは認められず、また組合の中心人物を排除し、組合の弱体化を企図したものとも認められない。

【参考】

本件審査の概要

初審救済申立日平成12年1月21日(東京都労委平成12年(不)第5号)

初審命令交付日平成18年6月27日

再審査申立日平成18年7月7日(労)

初審命令主文要旨

本件申立てを棄却する。


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