平成20年9月16日

中央労働委員会事務局
第三部会担当審査総括室

室長 鈴木裕二

Tel 03(5403)2172
Fax 03(5403)2250


高野山真言宗・金剛峯寺不当労働行為再審査事件
(平成19年(不再)第54号)命令書交付について

中央労働委員会第三部会(部会長 赤塚信雄)は、平成20年9月16日、標記事件に係る命令書を関係当事者に交付したので、お知らせします。命令の概要は、次のとおりです。

〜僧侶である組合員Aに対する不利益取扱い等が争われた事例〜

命令のポイント

高野山真言宗が、Aからなされた被包括寺院の住職選任に関する紛議調整申立てに係る手続を開始しないことは、労働組合法第7条第1号の不当労働行為に該当しない。また、上記手続の不開始に関することは義務的団交事項に該当せず、これを議題とする団交申入れの不応諾は、同条第2号の不当労働行為に該当しない。

I 当事者

再審査申立人 管理職ユニオン・関西
(組合員数約350名(初審結審時))
再審査被申立人 宗教法人高野山真言宗(和歌山県伊都郡)
宗教法人金剛峯寺(同上)
(役職員数約170名(初審申立時。宗教法人高野山真言宗の役職員を兼務))

II 事案の概要

1 Aは、宗教法人高野山真言宗(以下「高野山真言宗」という。)の僧侶であり、高野山真言宗及び宗教法人金剛峯寺(以下、両宗教法人を「高野山真言宗ら」という。)に勤務し、管理職ユニオン・関西(以下「組合」という。)に所属している。なお、高野山真言宗らの職員の過半数は僧侶である。
 本件は、(1)高野山真言宗が、Aから17年3月14日付けで高野山真言宗審査委員会に対しなされた、下記の紛議調整申立てに係る手続を開始しないこと、(2)高野山真言宗らが、上記(1)に関し同年11月25日付けで組合からなされた、上記手続が開始されないこと等の不利益取扱いの件を協議事項とする団体交渉申入れに応じなかったことが、労働組合法第7条((1)は同条第1号、(2)は同条第2号)の不当労働行為に当たるとして、組合が大阪府労働委員会に救済を申し立てた事件である。
 この紛議調整申立ては、高野山真言宗の被包括寺院の一つであるX寺院の住職であり、Aの師僧であったBが15年4月8日に逝去したことに伴い、高野山真言宗管長により、同じく高野山真言宗の被包括寺院であるY寺院の住職Cが同年6月2日付けでX寺院の新住職(兼務住職)に任命されたことに関し、その選定につき高野山真言宗宗規類等の違反があり、X寺院の徒弟(B住職の弟子)に当たるAが新住職に任命されるべきであるなどというものである。なお、B住職が逝去した当時、X寺院において、Aと同じ教師(僧階を補任された者)である徒弟は、ほかに30名いた。

2 大阪府労働委員会は、上記(1)及び(2)はいずれも不当労働行為に当たらないとして、組合の申立てを棄却した。これを不服として、組合は、再審査を申し立てた。

III 命令の概要

1 主文
本件再審査申立てを棄却する。

2 判断要旨

(1)高野山真言宗の本件紛議調整申立てに対する対応について

ア 17年4月13日、高野山真言宗審査委員会は、X寺院の住職問題に関し、「高野山住職会(塔頭寺院(山内寺院)の住職で構成される任意団体)の調整により方途を示され、審査委員会へ答申されたい。それによる解決をはかることとする。」などとする決議事項を高野山真言宗宗務総長に対し通告した。そこで、宗務総長は、同月28日、上記通告の内容を内局会議に付議し、その結果に基づき、高野山住職会会長に対し、X寺院の住職問題解決の調整の方途につき教導を求めた。同年6月10日、同会長から、X寺院の住職問題は塔頭寺院といえども独立した宗教法人の問題であり、高野山住職会として直接介入することは相当でないと判断する旨の回答がなされた。これを踏まえ、内局は、X寺院の住職問題について、現状において関与しない旨決定した。上記経緯からすると、本件紛議調整申立てに関し審査委員会は一定の裁定をし、その通告を受けた内局は、これを執行したものと認めることができる。もっとも、高野山真言宗が、X寺院の住職問題について、直接、X寺院内当事者間に入るなどして紛議の調整をしたことはなく、その意味では、組合の主張するように、高野山真言宗が本件紛議調整手続を開始していないといわざるを得ない。

イ しかしながら、高野山真言宗が本件紛議調整手続を開始しないのは、Aが組合に加入したこと等の「故をもつて」であると認めることはできない。すなわち、
 組合は、Aの組合加入通知(17年2月7日)後に開催された高野山真言宗宗務所各部の課長連絡会議における、総務部庶務課長の「X寺院の住職問題に関して、中間管理職である課長がコメントすることは差し控えるべきである。」等の話をもって、高野山真言宗の組合嫌悪は明らかである旨主張する。しかし、X寺院の住職問題に関し同月1日付けで高野山真言宗管長に対し請願書(本件紛議調整申立てと同趣旨)を送付したAが後に組合に加入したことから、同庶務課長が各課長らに対し、慎重な発言をするよう注意することは当然のことであって、この発言自体から組合嫌悪を酌み取ることはできず、同会議において、組合の主張するようなAの組合加入について絶対に妥協しない旨の意思統一を図った等の事実も認められない。
 また、過去に審査委員会が被包括寺院の住職選定をめぐる問題につき取り上げた唯一の事例(Z寺院の住職選定をめぐる問題)は、Z寺院内で後任住職候補者の選定が確定していたものでなく、その選定に関与する関係者間に争いがあった事案に関するものである。一方、X寺院においては、一応宗規類にのっとった選任手続がとられ、責任役員等間にもそれに関する対立、争いがあることはうかがわれない。そうだとすると、審査委員会が紛議調整手続を開始しないとしても、特段先例と異なった取扱いをしたものとはいえない。むしろ、高野山真言宗内局がX寺院内当事者間の話合いによる解決を求めたことは、Z寺院の住職選定をめぐる問題に関する、昭和60年12月13日付け審査委員会の決議(Z寺院の責任役員と法類等関係者が合議し、後任住職を選定するよう、内局から当事者に申し入れるべきである旨)の趣旨にも沿うものといえる。
 他に、Aが組合に加入したこと等の故に、高野山真言宗が本件紛議調整手続を開始しないことを推認させるに足りる事実関係を認めることはできない。

ウ したがって、高野山真言宗の本件紛議調整申立てに対する対応(上記アに述べた趣旨での本件紛議調整手続を開始しないこと)が、労働組合法第7条第1号の不当労働行為に該当しないことは明らかである。

(2)高野山真言宗らによる本件団交申入れの不応諾について

高野山真言宗らは、本件団交申入れに対し、X寺院の住職問題はAの職員としての問題ではなく、X寺院内当事者間の問題であるなどとして、これに応じていない。本件紛議調整申立ての趣旨は、「X寺院につき、Aが同寺院の前住職Bの次期住職に選定任命されるべく、高野山真言宗宗規類及びX寺院規則にのっとった適切な措置を求める」ものであるから、本件団交申入れに係る議題はX寺院の住職問題ないしそれに関連する問題であると認められる。同住職問題は、組合が、高野山真言宗における職員としての身分と僧侶としての身分とは何ら関連性はないと主張していることからしても、団体交渉を申し入れた組合の組合員であるAの労働条件その他の待遇、組合と高野山真言宗らとの間の団体的労使関係の運営に関する事項に当たらないことは明らかであって、上記議題は義務的団交事項に当たらない。したがって、高野山真言宗らによる本件団交申入れの不応諾には正当な理由があり、労働組合法第7条第2号の団体交渉拒否に当たらない。

(3)結論

以上の次第であるから、組合の本件救済申立てはいずれも理由がなく、これを棄却した初審命令は相当であって、本件再審査申立てにも理由がない。

【参考】本件審査概要
18.1.6救済申立て、19.9.20初審命令交付、19.9.25再審査申立て


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