平成20年6月26日

中央労働委員会事務局

第三部会担当審査総括室

室長  鈴木 裕二

Tel 03−5403−2172
Fax 03−5403−2250

エッソ石油(和解差別)不当労働行為再審査事件
(平成3年(不再)第38号)命令書交付について

中央労働委員会第三部会(部会長 赤塚信雄)は、平成20年6月26日、標記事件に係る命令書を関係当事者に交付したので、お知らせします。

命令の概要等は、次のとおりです。

会社が和解交渉において、複数の労働組合間で異なる意向を示したことについて、合理的な理由がある限り、不当労働行為性は認められないとする事例

命令のポイント

和解の性質上、会社は、紛争内容等が異なる労働組合に対して、必ずしも同一の和解条件 を提示する必要はなく、いつ和解の意思表示をするか、どのような和解条件を提示するかは、 原則として、当事者双方の自由といわなければならない。もっとも、会社が、和解交渉にお いて、合理的理由なく、労働組合間で異なる意向を示したり、提案を行った場合には、不当 労働行為の問題が生じ得る。

I 当事者

再審査申立人

スタンダード・ヴァキューム石油自主労働組合(以下「組合」)(大阪府豊中市)組合員33名(平成19年11月27日現在)

再審査被申立人

エクソン・モービル有限会社(以下「会社」)(初審申立て当時はエッソ石油株式会社)(東京都港区)従業員約700名(平成19年11月27日現在)

II 事案の概要

1 本件は、(1) 同種の事由により懲戒解雇処分をうけた3名について、会社が別組合に対しては、別組合の組合員2名の原職復帰を前提とした和解の提案を行ったのに対し、組合に対しては、組合の組合員の原職復帰を前提とした和解を提案せず、差別的に扱ったこと、(2)社長が人事関係セミナーで「懲戒解雇された組合の組合員は思想的に問題があるので職場復帰させる考えはない」旨の発言を行ったこと等が不当労働行為であるとして、申立てがあった事件である。

2 平成3年7月10日、初審東京都労委は、和解関連の会社の行為は不当労働行為に該当せず、社長発言については事実の疎明がないとして救済申立てを棄却した。

III 命令の概要

1 主文
本件再審査申立てを棄却する。
2 判断の要旨
(1) 和解の提案について

[1] 和解は、互譲の精神に基づき、当事者双方が誠実かつ真しに歩み寄ることにより、初めて可能となるものであり、会社は、紛争内容等が異なる労働組合に対して、必ずしも同一の和解条件を提示する必要はなく、いつ和解の意思表示をするか、どのような和解条件を提示するかは、原則として、当事者双方の自由といわなければならない。もっとも、会社が、和解交渉において、合理的理由なく、労働組合間で異なる意向を示したり、提案を行った場合には、不当労働行為の問題が生じ得る。

[2] 和解交渉の経緯

別組合は、会社の求める和解の前提条件(紛争の一括解決)に特に異議はない意向を当初より示し、会社は、別組合が求める同組合の組合員2名の復職について、当初は社内で意思決定を行っていなかったものの、その後、団体交渉における話合いを経て、同人らの復職を前提とした和解に応じる意向を示し、1年10か月の交渉の末、和解が成立した。このように、別組合との和解は、相手の立場を尊重し、真しな話合いを通じ相互に譲歩を重ねてようやく達成できたものと考えられる。

これに対し、組合は、本件和解交渉に際して、(ア)組合の組合員の職場復帰のみを主張して、会社の求める紛争の一括解決に異議がない旨の回答をしたことはなく、(イ)組合ビラ等において「和解路線=反動総屈服路線」、「組合が受け入れる筈のない全面解決=全面屈服」と記載し、(ウ)東京都労委が和解を打ち切った後に、会社及び同労委に対して、和解の再開を求める申入れ等をしたことは一切なく、(エ)組合が本件救済申立て時に請求した救済内容は、会社が別組合との間で進めている和解交渉を即刻停止することであり、会社が組合との間で別組合と同様の和解交渉を開始することではなかった。

そうすると、会社が組合の組合員の復職について社内で検討を行わず、同人の復職を前提とする和解交渉に応じる意向を組合に示すにはいたらなかったとしても、何ら不合理ではなく、組合と会社間で和解交渉が開始されなかったのは、むしろ、組合の自由な選択による結果であるといえる。

[3] 紛争の内容等

組合は、会社が同一事案について組合と別組合に対して同一の和解条件を提案しなければ不当労働行為になると主張するもののようである。しかしながら、以下のとおり、本件和解交渉の対象となる紛争の内容等が、組合の場合と別組合の場合とでは同一であったとは到底いえず、同一の和解条件を提案しなくとも不当とはいえないのであって、この点に関する組合の主張は失当といわざるを得ない。

(ア) 本件和解交渉において紛争の対象となったのは、解雇者の復職問題だけでなく、紛争の一括解決であり、会社は当時係争していた事件すべての解決を求めたが、組合と別組合では、会社との紛争の状況は相当異なっていた。たとえば、会社と組合との間では8名の解雇者について裁判所、労働委員会で紛争があり、特に、そのうち5名は昭和59年の刑事事件に関連して解雇された者で、事件後2年しか経過していなかった。一方、会社と別組合との間では、本件和解交渉の対象となった2名以外に解雇を争っていた者はおらず、会社も「別組合の活動はかなりトーンダウンしてきている」と認識していた。

(ア) また、本件和解交渉の対象となった組合の組合員は昭和51年の刑事事件で7件の起訴事実について有罪とされたのに対し、別組合の組合員1名は1件の起訴事実について有罪、もう1名は無罪であった。また組合の組合員は昭和59年にも再度刑事事件で起訴された。

[4] 以上の次第であるから、会社が本件和解交渉において、労働組合間で異なる意向を示したことは合理的な理由があるといえ、会社の行為が労働組合法第7条第1号及び第3号の不当労働行為に該当するとはいえない。

(2) 社長発言等について

人事関係セミナーにおける社長説明を録画したビデオテープの中に、組合主張の社長発言があったとは認められないから、同社長発言及び同ビデオテープを全国職制に見せたこと等が支配介入の不当労働行為に当たるとする組合の主張は失当である。

【参考】

1 本件審査の概要

初審救済申立日 平成62年4月16日(東京都労委昭和62年(不)第38号)
初審命令交付日 平成3年7月10日
再審査申立日  平成3年7月17日(労)

2 初審命令主文要旨

本件申立てを棄却する。



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