平成20年6月10日

中央労働委員会事務局

第二部会担当審査総括室

室 長   榎 本 重 雄

Tel 03−5403−2162
Fax 03−5403−2250

精電舎電子工業不当労働行為再審査事件
(平成19年(不再)第36号) 命令書交付について

中央労働委員会第二部会(部会長 菅野和夫)は、平成20年6月10日、標記事件に係る命令書を関係当事者に交付したので、お知らせします。命令の概要等は、次のとおりです。

命令のポイント

管理職として中途採用した従業員らに対し、会社が行った不利益な一時金支給や嫌がらせによる業務指示などは、この従業員らの組合加入前から退職に追い込む意図をもって行った一連の行為のひとつと推認され、不当労働行為とはいえない。(下記III2(3)〜(5))

I 当事者

再審査申立人 : 東京管理職ユニオン(「組合」)[組合員550名(平成20年1月現在)]

再審査被申立人: 精電舎電子工業株式会社(「会社」)[従業員約150名(平成17年4月現在)]

II 事案の概要

1 本件は、製造部長のA及び同部次長B(「Aら」)が、経営改善による組織変更として製造部長等の役職を解任され営業部に配転転換されたこと(「本件配転」)を契機として組合に加入し、本件配転について7回の団交を行っていたところ、会社が、[1]16年12月15日及び同月20日に申し入れた本件配転、Aらの16年度冬季一時金等に関する団体交渉(「団交」)に応じなかったこと、[2]Aらの同一時金の評価額を0円として支給したこと(「本件一時金支給」)、[3]Aらに飛込み販売等による営業活動を指示したこと(「本件業務指示」)、[4]Aらに従前免除していた私用外出等に対し事前届出を指示し(「本件勤怠指示」)、さらに、私用外出を認めない事項として組合活動等を提示したこと(「本件私用外出制限」)が不当労働行為であるとして、救済申立てがなされた事件である。

2 初審東京都労働委員会は、会社に対し、上記[1]のうちAらの16年度冬季一時金等に関する団交応諾を命じ、その余の申立てを棄却した。組合は、これを不服として、当委員会に再審査を申し立てた。

III 命令の概要

1 主文

本件再審査申立てを棄却する。

2 判断要旨

(1) 本件の組織変更と本件配転について

会社が組織変更を行い、それに伴う措置としてAらを営業部に配転し、到底達成不可能な営業目標を提示したのは、Aらが組合に加入する以前のことであって、Aらの組合加入を理由とするものではない。他方、Aらの本件配転は、経営改善のための組織再編措置としてなされてはいるが、その実質はAらを製造部から放出するためのものと疑われ、また、営業部でのAらに対する会社の対応は、営業経験のないAらに上記のような目標額を課しつつ、その指導も行わないというものであった。これらの事実から、会社は、Aらと他部門の従業員間の軋轢に対処する必要性のなかで、Aらを雇用し続けることが不適切となったと判断し、経営改善策としての組織変更を口実に、Aらを製造部の役職から解任して営業部に配転し、実行困難な営業活動を強いることにより、Aらを退職に追い込もうとしたものと推認される。

(2) 本件配転に関する団交について

会社は、組合の団交申入れに7回にわたって応じてはいるが、その対応を見ると、組合がAらを配転した具体的理由の説明を求めても、撤回はあり得ないとか、これ以上団交を続けても解決の見込みはないと述べるのみで、組合の求めに応じた具体的な説明を行っていない。これらのことから、組合が会社の説明に納得せず、質問を繰り返し、団交申入れ続けたことも理解でき、本件配転に関する団交における会社の対応の誠実性には疑問がもたれる。

しかし他方で、東京高等裁判所において成立したAらと会社間の和解に基づき、両者間に債権債務がないことを確認し、Aらも既に会社を合意退職し、本件配転に係る紛争は実質的に終結していることなどの事情を考慮すれば、本件配転に関する団交については、会社に交渉に応じることを命じる救済利益は最早存しないのみならず、文書手交等の救済を命じる利益も存しないといわざるを得ないから、この点に関する再審査申立ては棄却するのが相当である。

(3) 本件一時金支給について

本件一時金支給についても、組合が団交を申し入れているのに、会社は応じることなく文書回答するのみで、Aらの査定ランクを「3.0」から「1.0」に低下させた理由を説明していない。

しかしながら、会社と組合の労使関係を見ると、会社はAらの組合加入直後から団交要求に7回応じ、組合の存在を否定するような敵対的態度はとっていない。他方で、上記(1)のとおり、本件の組織変更、それに伴う本件配転をし、到底達成不可能な営業目標額を提示したことなどは、Aらと他部門の従業員間に軋轢が生じていたことを懸念した会社が、Aらを退職に追い込む意図をもって、Aらの組合加入前から行った一連の行為と認められ、本件一時金支給も、これらの行為の延長線上にあるものであって、会社がAらを退職に追い込もうとして行ったものと推認される。したがって、本件一時金支給は、労組法第7条第1号の不当労働行為とはいえない。

(4) 本件業務指示について

本件業務指示の内容をみると、主に新規顧客の開拓を目的とした営業活動を行うことなどが指示されていたが、会社がAらに渡した顧客リストの内容は杜撰なもので、会社がAらに営業活動を始めさせるための指示として疑問があるものであった。

しかしながら、会社は、組合の存在を否定するような敵対的態度はとっておらず、他方で、上記(1)のとおり、Aらと他部門の従業員の反発に始まり、これを懸念した会社が組織変更を口実に行った本件配転や、それに伴う嫌がらせに当たるような一連の行為などが継続して行われた事実経過に鑑みれば、本件業務指示も、上記本件一時金支給と同様に、会社がAらを退職に追い込もうとした行為のひとつと推認される。したがって、本件業務指示は、労組法第7条第1号の不当労働行為とはいえない。

(5) 本件勤怠指示及び本件私用外出制限について

ア 本件勤怠指示について

当時、Aらが職制上管理職として位置づけられていたことから、会社がAらに対して、私用外出等の事前届出の免除から外したことに疑問がないわけではない。

しかしながら、Aらが営業部で行っていた顧客候補企業の調査等は、勤怠管理になじまない管理職の職務内容とは異なっていたことからすると、会社がAらに適切な勤怠管理を行うことに理由がないとはいえず、また、このことにより、組合活動に支障を生じたとの事実も見当たらない。また、会社は、組合に敵対的態度はとっておらず、他方で、本件配転等がAらを退職に追い込もうとして行われた一連の行為と推認されることから、本件勤怠指示も同様の行為のひとつと推認される。したがって、本件勤怠指示は、労組法第7条第1号及び第3号の不当労働行為とはいえない。

イ 本件私用外出制限について

会社が認める私用外出とは、従業員が業務に従事する過程でごく短時間職場を離れ私用を足すことと解され、しかも、会社は、従業員で組織する別組合にも就業時間内の組合活動は原則として認めていなかったのであるから、会社がAらの私用外出を認めなかったとしても特段不合理とはいえない。したがって、本件私用外出制限は、Aらが組合員であることを理由にしたものとはいえず、また、組合活動に影響を及ぼしたとしても、労務管理上一定の合理性が認められる以上、労組法第7条第1号及び第3号の不当労働行為とはいえない。

【参考】

本件審査の概要

初審救済申立日 17年1月17日及び同年4月18日(都労委17年(不)第3号・同第38号)

初審命令交付日 19年6月7日

再審査申立日 19年6月19日


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