中央労働委員会事務局

第三部会担当審査総括室

室 長  神 田 義 宝

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Fax 03−5403−2250

平成20年3月25日

ビクターサービスエンジニアリング不当労働行為再審査事件
(平成18年(不再)第68・69号)命令書交付について

中央労働委員会第三部会(部会長 赤塚信雄)は、平成20年3月25日、標記事件に係る命令書を関係当事者に交付したので、お知らせします。

命令の概要等は、次のとおりです。

〜 委託契約に基づき業務を行う個人代行店を労組法上の労働者と認めた事例 〜

命 令 の ポ イ ン ト

1 会社は、個人代行店を業務上の必要に応じて随時利用できる労働力として組織内に組み込み、その労務の内容を決定したうえ、その業務の遂行にあたって指揮監督を行っているとともに、労務提供の対価としての性格を有する報酬を支払っていると認められる。そうすると、個人代行店は、会社の指示の下に労務を提供し、その対価として報酬を受け取っている者として、労組法第3条の「労働者」に当たり、かつ、同法第7条第2号にいう「労働者」に当たると認めるのが相当である。

2 分会は団交申入れ時点において、基本的要素を備えた一応の規約を有していたと認められ、団交申入れや団交開催に当たり、会社に対して規約の開示を義務付けられているものではないのであるから、完成された規約を有しない分会は団交の当事者適格を有しないとし、さらに規約の不開示をもって団交拒否の正当な理由があるとする会社の主張は採用できない。

3 支部の規約に分会を置くことができるとの条項が付加された経緯、分会が支部の下部組織となるための手続について、十分な立証がなされていない。さらに、当時の支部執行委員長が支部と同列の分会である旨を証言していることや、会社の従業員と分会員の契約形態が大きく異なっていることをも考え合わせると、分会員の待遇について支部が団体交渉権を有するとは認められない。

I 当事者

平成18年(不再) 第68号事件
再審査申立人 ビクターサービスエンジニアリング株式会社(千葉県浦安市)
従業員 1,200名(平成16年1月現在)
再審査被申立人 全日本金属情報機器労働組合大阪地方本部(大阪府大阪市)
組合員  752名(平成18年6月現在)
全日本金属情報機器労働組合ビクターサービス支部ビクターアフターサービス分会(大阪府大阪市)
組合員  3名(平成18年6月現在)
平成18年(不再) 第69号事件
再審査申立人 全日本金属情報機器労働組合ビクターサービス支部(大阪府大阪市)
組合員  9名(平成18年6月現在)
再審査被申立人 ビクターサービスエンジニアリング株式会社(千葉県浦安市)
従業員 1,200名(平成16年1月現在)

II 事案の概要

1 ビクターサービスエンジニアリング株式会社(以下「会社」)と委託契約を締結し、「ビクターサービス代行店」として日本ビクター株式会社の音響製品等の修理業務を行う者(以下「個人代行店」)が、労働組合(全日本金属情報機器労働組合ビクターサービス支部ビクターアフターサービス分会、以下「分会」)を結成したとして、全日本金属情報機器労働組合大阪地方本部(以下「地本」)及び全日本金属情報機器労働組合ビクターサービス支部(以下「支部」。また、地本、支部及び分会を併せて「組合」)とともに、平成17年1月31日(以下元号略)、待遇改善に関する団体交渉を会社に申し入れた(以下「1.31団交申入れ」)と  ころ、会社は、個人代行店は労働者に該当しないことなどを理由として団交を拒否した。
本件は、会社の団交拒否が、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当するとして、組合から救済申立てがなされた事案である。

2 初審大阪府労働委員会(以下「初審」)は、個人代行店は会社との関係において労組法上の労働者と認めるのが相当であり、会社が地本及び分会との団交に応じなかったことは、同法第7条第2号に該当する不当労働行為であるとして、会社に対し、(1)地本及び分会との団交応諾、(2)地本及び分会への文書手交を命じるとともに、支部については団交当事者としての資格を有しないとして、支部の申立てを却下する命令書を交付したところ、会社及び支部はこれを不服として、再審査を申し立てたものである。

III 命令の概要

1 主文
本件各再審査申立てを棄却する。

2 判断の要旨

(1) 個人代行店の労組法上の労働者性について(争点1)

本件における会社と個人代行店との実質的な関係を検討すると、個人代行店は、(1)会社の主要業務の一つである出張修理に恒常に不可欠な労働力として企業組織に組み込まれて労務を供給してきていること、(2)その契約内容は、契約上も事実上も会社により一方的に決定されていること、(3)標準的な受注可能件数の設定及び業務担当エリアの設定・変更という点では、会社から時間的・場所的な拘束を受けるとともに、作業内容のみならずその遂行の態様に及ぶ具体的な指示を受けていることから、会社が業務遂行上の指揮監督を行っていると評価できること、(4)受注可能件数の範囲内においては、会社からの発注に対し諾否の自由がないこと、(5)報酬は出来高払いとされているものの、労務提供への対価としての性格を有していること、(6)会社への専属性が高いことなどが認められる。

これらの点を総合的に勘案すると、会社は、個人代行店を業務上の必要に応じて随時利用できる労働力として組織内に組み込み、その労務の内容を決定したうえ、その業務の遂行にあたって指揮監督を行っているとともに、労務提供への対価としての性格を有する報酬を支払っているものと認めることができる。

そうすると、個人代行店については、会社との関係において、通常の商取引関係にある事業者にすぎないとみることは相当ではなく、会社の指示の下に労務を提供し、その対価 として報酬を受け取っている者として、労組法第3条にいう「職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によって生活する者」に当たり、かつ、同法第7条第2号にいう「雇用する労働者」に当たると認めるのが相当である。

(2) 分会が労働組合法上の労働組合と認められるか否かについて(争点2)

労働組合として労組法上の保護を受けるためには、必ずしも組合規約が体裁上も完成されたものである必要はなく、組合員の権利義務、機関、役員、統制、会計など組織運営の基本的要素を備えたものであれば、その後に修正が必要なものであっても差し支えないと解するのが相当である。

会社は、分会結成当時に規約がなかったと主張するが、分会規約の作成については、少なくとも一応の規約が分会結成大会において承認されたと考えても不合理とはいえず、書証として複数提出された分会規約についても、いずれも組織運営の基本的要素は備えていると認められるため、分会は労組法上の保護を否定されるものではない。

(3) 支部を加えた団交申入れ拒否の正当性(争点3)

ア 1.31団交申入れにかかる支部の団交当事者性

全日本金属情報機器労働組合の規約によれば、本件においては直接的には「分会」を置くことができる場合には該当しない。また、支部の規約の、分会を置くことができるとの条項が付加された経緯に関する事実関係は、十分には立証されていない。他方で、分会が支部の下部組織となるための手続の有無についての立証も十分ではない。

さらに、初審における「支部と同列の分会です。協力・協同でやるという形です。」とのY証言や、会社の従業員と分会員の契約形態が大きく異なっていることをも考え合わせると、支部が分会員の待遇について団体交渉権を有するとは認められない。

イ 1.31団交申入れ拒否の正当性

会社は、支部からの出席者を外すなどの対応を求め、組合が応じた場合に速やかに団交に応じることが可能であったにもかかわらず、会社はそのような確認等の対応をとらず、分会が団交の当事者資格をもたないことなどを理由に挙げて、一切の団交を拒否したのであるから、会社の団交拒否には正当な理由があるとはいえない。

(4) 1.31要求事項の義務的団交事項への該当性(争点4)

団交において、労基法が適用されたのと同様の結果となる労働協約の締結を要求することは不可能ではないので、そのような要求であれば、義務的団交事項に当たり得る。

そこで、本件についてみると、組合の1.31要求事項は、賃金、労働時間・休日など、いずれも個人代行店の労働条件ないし待遇にかかわるもので、会社が処分権限をもつものであるから、義務的団交事項に当たる。

(5) 不当労働行為の成否について

以上によれば、1.31団交申入れを会社が拒否したことに正当な理由は認められず、会社 の行為が労組法第7条第2号に該当する不当労働行為であるとした初審の判断は相当である。

また、支部は、同団交申入れについて、団体交渉の当事者としての資格を有しないのであるから、支部の救済申立てを却下した初審の判断も相当である。

【参考】

本件審査の概要
初審救済申立日 平成17年3月29日(大阪府労委平成17年(不)第11号)
初審命令交付日 平成18年11月20日
再審査申立日 平成18年12月5日(労・使)

 

2 初審命令主文要旨
(1) 地本及び分会との1.31要求事項を議題とする団交応諾
(2) 地本及び分会への文書手交(団交拒否に関して)
(3) 支部の申立ては却下


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