平成20年2月29日

中央労働委員会事務局

第三部会担当審査総括官 神 田 義 宝

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モービル石油(団交拒否)不当労働行為再審査事件(平成4年(不再)第27号)命令書交付について

中央労働委員会第二部会(部会長 菅野和夫)は、平成20年2月29日、標記事件に係る命令書を関係当事者に交付しましたので、お知らせします。命令の概要等は、次のとおりです。

《組合員に対する社員の差別発言に関する会社の対応が、団交拒否ないし不誠実団交には当たらないとされた例》

【命令のポイント】

差別発言をしたEは、管理職ではなく一社員であり、当該発言を会社の意を受けて行った事実は認められず、その他会社に帰責すべき特段の事由は認められないが、組合員の職場環境上の観点から、その再発防止及び職場環境改善問題としては、会社は団交応諾義務を負うというべきである。しかしながら、会社は相応の回答をし、一応の対策を講じているから、会社の対応及び団交における交渉態度が不誠実であったとまではいえず、労使の主張が平行線となっていたことから、会社が団交打切り宣言をして以降団交に応じなかったことはやむを得ない。


I 当事者

再審査申立人 スタンダード・ヴァキューム石油自主労働組合大阪支部連合会モービル大阪支店支部 (大阪府豊中市)(以下「支部」) 会社の従業員等(退職者、被解雇者等を含む)によって組織された申立外スタンダード・ヴァキューム石油自主労働組合(以下「組合」)の下部組織で、大阪支店の従業員によって組織。支部組合員数は、初審結審当時(平成3年3月)4名(A、B、C、D)であったが、その後3名が退職し、同16年8月1日以降1名(B)となった。

再審査被申立人 エクソンモービル有限会社(東京都港区) 初審申立て当時(昭和63年9月5日)モービル石油株式会社(以下「会社」)と称し、全国に支店、営業所、油槽所等を有して各種石油製品及び関連製品の販売等を業とする。その後、有限会社に組織変更(平成12年2月1日)し、エッソ石油(有)3社との業務統合を経て、エッソ石油(有)外3社と合併(同14年6月1日)。

II 事案の概要

支部が申し入れた、[1]モービル石油労働組合(別組合)の組合員が支部組合員に行った差別発言(以下「本件差別発言」)に関する団交、[2]団交等に関する事務折衝、[3]支部三役であるA及びBの人事異動に関する団交に関する会社及びその大阪支店の対応が、団交拒否ないし不誠実団交に該当するとして救済申立てがあった事件である。

平成4年8月7日、初審大阪府労委は、大阪支店に対する申立てを却下し、会社に対する申立てを棄却したところ、支部はこれを不服として再審査を申し立てた。

III 命令の概要

1 主文の要旨

本件再審査申立てを棄却

2 判断の要旨

(1) 大阪支店の被申立人適格について

大阪支店は法人たる会社の部分的な組織に過ぎず、法律上独立した権利義務の帰属主体と認められないことから、不当労働行為の救済手続における被申立人として認めることはできない。

(2) 本件差別発言に関する団交拒否について

ア 本件差別発言に関する会社の団交応諾義務の有無

本件差別発言は、支部の団結を揺るがそうとする会社の具体的意向を受けて行われる等、会社に帰責すべき事実が認められるのであれば、会社には団交応諾義務が認められるべきであるが、会社の具体的意向をうかがわせる事実は認められず、また同発言をしたEは、管理職ではなく一社員であり、当該発言を会社の意を受けて行った事実は認められず、その他会社に帰責すべき特段の事由は認められない。

しかしながら、本件差別発言は、支部組合員の職場環境上の問題となる余地があったので、その観点から再発防止及び職場環境改善問題として団交を求める場合には、会社は団交応諾義務を負うというべきである。

イ 会社の対応が団交拒否ないし不誠実な団交態度に当たるか否か

団交経過をみるに、[1]会社は7回の支部団交に応じた後団交を打ち切ったものであること、[2]会社は、本件差別発言は電話での個人と個人のやり取りでプライベートな中で出た発言であり、会社が謝罪すべき問題ではない、差別をなくすために研修を行う、人事・雇用については差別しない等会社の責任の有無及び今後の対応について見解を表明していること、[3]第4回及び第5回団交以降、支部は会社に支部及び支部組合員に対する謝罪を主張し、会社はこれを否定して労使の協議が膠着状態となったこと、[4]膠着状態となった第5回以後の団交においても、組合及び支部は、会社の釈明及び謝罪要求とF取締役の団交出席要求に終始していたこと等が認められる。

以上の事実からすれば、会社は支部の質問や追及に相応の回答をし、また、会社として一応の対策を講じていることが認められるから、会社の対応が不誠実であったとまではいえず、かつ、上記[3]の会社回答後の団交において労使の主張が平行線となっていることが認められるから、第7回団交までの会社の交渉態度を不誠実なものとはいえないとし、第7回団交で打切り宣言をして以降団交に応じなかったことはやむを得ないとした初審の判断は相当である。

(3) 事務折衝拒否について

会社における事務折衝は、事務処理的事項(団交の当事者・担当者・交渉事項の明確化や日時・場所・時間の設定等)のほか、一部団交の補足機能を有していたことから、労組法第7条第2号の法的保護が及ぶ余地がある。

しかしながら、会社の対応みるに、[1]会社の人数制限には、支部側出席者が支部組合員全員であったことから合理性が認められ、[2]「緊急性がない、忙しい」として応じなかったことは、事務折衝が就業時間中に開催され、支部の申入れは頻繁に行われたことから合理性が認められ、[3]会社は事務折衝自体を一切拒否するものではなく、事実上相当数の事務折衝等の労使の折衝に応じており、[4]会社、支部間の団交が事務折衝拒否によって、不適切に遅延したり開催されなかったりするなど団交の遂行に不当な支障を来たしたことの具体的な事実の証明がないこと等を勘案すれば、本件事務折衝拒否が団交拒否ないし不誠実団交に当たるとは認められず、さらに支配介入であるともいえないから、初審命令の判断は結論において相当である。

(4) 本件異動に関する団交について

本件異動は、義務的団交事項と解される余地があるとしても、事前協議義務があるか否かの問題とは自ずから別の問題であって、労働協約上の根拠、労使慣行その他の特段の事情なしには事前協議義務は認められない。

本件異動に関する団交において、会社は、[1]労働条件の変更はなく、事前協議約款が適用される転勤ではない等と説明し、[2]異動後に労働条件上の具体的問題が生じた場合は団交する旨約し、後日実際にAの業務量増加の件について団交に応じているから、会社の対応が誠実さを欠いていたとはいえず、さらに、双方の主張が団交や事務折衝においても平行線をたどり、いわゆる行詰まり状態に至っていたものと認められるから、会社の対応やその後会社が本件団交に応じなかったことが不当労働行為に該当するとまではいえず、初審の判断は結論として相当である。

【参 考】 本件審査の経過

1 本件審査の概要

初審救済申立日 昭和63年 9月 5日 (大阪府労委昭和63年(不)第53号、同54号)

初審命令交付日 平成 4年 8月 7日

再審査申立て 平成 4年 8月18日

2 初審命令主文要旨

(1) 大阪支店に対する申立ては却下

(2) 会社に対する申立ては棄却


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