平成20年2月26日

中央労働委員会事務局

  第二部会担当審査官  榎本  重雄

  電話  03−5403−2175

  FAX  03−5403−2250


金谷内科医院不当労働行為再審査事件
(平成18年(不再)第67号)命令書交付について

中央労働委員会(会長 菅野和夫)は、平成20年2月26日、標記事件に係る命令書を関係当事者に交付しましたので、お知らせします。命令の概要等は、次のとおりです。

命 令 の ポ イ ン ト

 再審査申立人が団体交渉において、組合の就業規則全文の複写のための一時貸与要求に応じず、その後の団体交渉の開催に向けての対応において、就業規則全文の複写物を組合に交付するか否かの回答をしなかったことは、労組法第7条第2号に該当する不当労働行為である。

I  当事者

1  再審査申立人  :A内科医院こと A(以下「A又は再審査申立人」) (大阪府大阪市)

従業員数   6名(初審審問終結時)

2  再審査被申立人:おんな労働組合(関西)(以下「組合」)       (大阪府大阪市)

組合員数 約50名(初審審問終結時)

II  事案の概要

1  本件は、再審査申立人が、17年8月23日に開催された団体交渉(以下「本件団交」)において、(1)組合員Bの解雇理由に関し、就業規則全文の提出を拒んだこと、(2)最終的には就業規則全文を提示したものの、その複写のための一時貸与要求に応じなかったこと、(3)団体交渉の途中で数回にわたり携帯電話に出て、通話を繰り返すなどしたこと、また、(4)その後の団体交渉(以下「次回団交」)の開催に向けて、就業規則全文の複写物を組合に交付するか否かの回答をしなかったこと、(5)本件団交で検討を確約した事項の検討結果や次回団交日の回答等に関する再審査申立人の対応が不誠実であったことが労働組合法第7条第2号に該当するとして、救済申立てがあった事件である。

2  初審大阪府労働委員会は、18年11月9日、Aは本件団交において組合から申入れのあった組合員Bの解雇理由に関する団体交渉に誠実に応じなければならないこと、及びこれに関する文書手交を命じたところ、Aはこれを不服として、再審査を申し立てた。

III  命令の概要

1  主文

(1) 初審命令を一部変更

(上記IIの1の(2)及び(4)が不当労働行為であった旨の文書手交)

(2) その余の本件再審査申立てを棄却

2 判断の要旨

(1) 本件団交における就業規則全文の提示に関する再審査申立人の対応について

本件団交において、再審査申立人と組合間で、お互いの主張が対立したままかなりの時間膠着状態となっていたが、この状態は本件団交の約4分の1ないし3分の1程度、時間にして約20分〜30分程度であり、お互いの主張の応答内容についてみても同申立人がいたずらに引き延ばしを図っていたとまでは認められないから、かかる協議の経過の中で同申立人が直ちに就業規則全文の提示をしなかったからといって、そのような行為が団体交渉の態度として不誠実なものとまではいうことができない。

(2) 本件団交中における携帯電話での通話に関する再審査申立人の対応について

本件団交中、再審査申立人に3回携帯電話が掛かってきたが、同申立人は殊更長電話したわけではなく(うち2回は同申立人がそれぞれ30秒位、1回は事務長が替わって10秒位)、この間、同申立人は組合側の了解を得たり、声を潜めたりする様子は認められないが、これに対し組合側の制止・抗議は特に見られず、また、団体交渉はその間のごく短時間の中断を除いては支障なく進行しており、同申立人の携帯電話の使用態様に問題があるとしても、このことから、直ちに同申立人の本件団交における態度が不誠実であったとまではいうことができない。

(3) 本件団交における就業規則全文の複写のための一時貸与及び次回団交に向けての複写物の交付の回答に関する再審査申立人の対応について

ア  再審査申立人が組合からの就業規則全文の複写のための一時貸与要求に応じなかったことが不誠実であったかについて

組合は、本件団交の中で、再審査申立人から提示された就業規則を見たうえで、今まで職場で示されているものとは内容的に違うところがあり、詳しくチエックする必要があるなどとして、就業規則全文の複写を求めている。そして、組合員Bが受け取った解雇予告通知書には解雇要件を定めた条文のみが記載されたものであり、しかも、本件団交における組合員Bの解雇理由に関する同申立人側の説明には釈然としない点があるなど、組合において就業規則全文をより詳細に検討する必要があったことは十分に首肯し得、組合が就業規則全文の一時貸与を求めたことは相当の理由がある。他方、同申立人においては、就業規則全文の複写のための一時貸与に応じることができないような特段の事情や理由があったとは認め難い。また、本件団交における同申立人の対応は、既に就業規則の全文を組合に提示しているなどと述べて組合の要求に応じなかったもので、その理由は妥当性を欠き、団体交渉の遂行上の必要に基づく組合からの要求に対し誠実に対応したものとは認められない。

イ  次回団交に向けて就業規則全文の複写物を交付するか否か回答をしなかったことについて  再審査申立人は、本件団交の中で次回団交に向けて就業規則全文の複写物を交付するか否かの回答をする旨組合に確約したが、その後同申立人は、弁護士に団体交渉の権限を委任したところ、回答期限を過ぎても弁護士からの回答がなかったので、組合から弁護士に電話し、確約の内容を弁護士に伝えており、弁護士もその内容を十分理解できたといえる。にもかかわらず、弁護士からの回答には、検討結果の記載がなかったというのであるから、再審査申立人側において、敢えてこの点の回答を避けて記載しなかったと考えられ、このような態度は、団体交渉を軽視するものであり、到底首肯できない。

ウ  以上のとおり、本件団交において、再審査申立人が、組合から要求のあった就業規則全文の複写のための一時貸与要求に応じず、更に就業規則全文の複写物を交付するか否かについて回答しなかった同申立人の一連の行為は、不誠実な対応であったといわざるを得ない。

(4)  その余の次回団交に向けての再審査申立人の対応について

再審査申立人が本件団交の中で、次回団交に向けて組合に対して回答等することを確約していたその余の事項については、委任を受けた弁護士が再審査申立人の基本的主張に立った一通りの回答をしていること、組合は弁護士からの回答に対して、直ちに団体交渉の開催を申し入れることもできたのに、その開催を強く求めたという事実がないことなどの事情を考慮に入れたうえで、再審査申立人側の対応をみると、不誠実なものであったとまではいえない。

(5) 救済方法について

再審査申立人は、本件初審の審査において、本件団交において組合が提出を求めた就業規則全文を証拠として提出しており、現段階において就業規則全文の複写のための一時貸与をすること及びそれを組合に交付するか否かの回答をすることを命じることの必要性は認められないが、上記(3)のとおり、この点について不当労働行為と認められるから、主文のとおりの文書手交を命じる限度で救済の必要性が認められる。

【参考】本件審査の経過

初審救済申立日  平成17年 9月 5日(大阪府労委平成17年(不)第34号)

初審命令交付日  平成18年11月 9日

再審査申立日  平成18年11月20日(平成18年(不再)第67号)


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