平成20年2月19日

中央労働委員会事務局

第三部会担当審査総括室

審 査 官  高 橋 孝 一

Tel. 03−5403−2265

Fax. 03−5403−2250


大阪京阪タクシー不当労働行為再審査事件
平成18年(不再第33・34号)命令書交付について

賃金体系に関する会社の交渉態度が真摯でなかったとは言い難く、会社が労働組合との協定を遵守しなかったとは認められないことから、組合の申立てが不当労働行為には当たらないとされた事例。

命令のポイント

1 暫定期間中に組合提起の賃金体系を協議し、その経過後に実施する旨の協定の趣旨は、労使が協議し、合意成立の場合には、速やかに実施すべきことを約したものと解すべきである。

2 当該暫定期間中、会社が対案を提出しなかったが、協定書調印後に生じた経営悪化の影響を受けたもので、協定書の趣旨に照らして不当だとはいえず、支配介入は成立しない。

3 会社が団体交渉の際の資料の持帰りを認めなかったが、財務資料を必要に応じ閲覧させて組合に検討の機会を与えており、その団体交渉態度は不誠実だとはいえない。

中央労働委員会第三部会(部会長赤塚信雄)は、平成20年2月19日(以下元号省略)、標記事件に係る命令書を関係当事者に交付したので、お知らせします。命令の概要等は次のとおりです。

I 当事者

〔 第33号再審査申立人・第34号再審査被申立人〕 大阪京阪タクシー株式会社(「会社」)

本社 大阪府枚方市、従業員数327名(17年6月13日現在)

〔 第34号再審査申立人・第33号再審査被申立人〕 大阪京阪タクシー新労働組合(「組合」)

事務所 大阪府枚方市、組合員約100名(17年6月13日現在)

II 事案の概要

本件は、会社が、[1]賃金体系に係る協定(以下「協定」)を遵守しなかったこと、[2]協定に係る団体交渉に誠実に応じなかったこと、[3]経営改革計画(以下「Sプラン」)に基づき、組合提案に反する累進歩合給制度を強行実施したこと、[4]Sプランに基づき、ファミリーレクリエーションと称する商品券等の支給を停止したことが、不当労働行為に当たるとして争われた事件。

初審大阪府労委は上記[1][2]を不当労働行為として、会社に賃金体系に係る協議に誠実対応すること及び文書手交を命じ、その余の申立てを棄却したが、労使双方これを不服として再審査を申し立てた。

III 命令の概要

1 主文の趣旨

(1) 初審命令主文の、会社に賃金体系に係る協議に誠実対応すること及び文書手交を命じた部分を取 り消し、これに係る本件救済申立てを棄却する。

(2) 本件組合の再審査申立てを棄却する。

2 判断の要旨

(1) 会社が組合との協定を遵守せず、組合運営に対し支配介入したといえるか。

協定調印に至る事情及び条項文言から、同協定は、暫定期間終了まで、労使が合意成立に向けて真摯に協議し、合意成立の場合に速やかに実施することを約したものと解され、期間経過後直ちに、会社に対して新賃金体系の実施を義務づけたものではない。

(2) 協定に基づき、会社は賃金体系に関する団交に誠実に応じたかどうか。

会社は予想外の収益悪化により、15年11月以降、賃金体系の見直し及び15年秋闘協議の継続を申し入れ、協議資料の提出が年明けになること、組合要求の賃金体系を実施することは困難であることを説明した。その後16年春闘に至る期間、会社は、具体的な経営状況や経営施策を説明し、賃金制度改革案で乗務員の利益に配慮したほか、組合が会社第1案を拒否する態度を示した後も、粘り強く交渉を求めていたことが認められる。以降多数回の交渉で会社は、組合要求の賃金体系を試算して説明し、会社第3案の提出後も2度の修正に応じたほか、組合が会社主催の賃金制度改定説明会に出席しない行動をとった後も、粘り強く交渉を求めていたことなどが認められるから、会社に協定違反は認められない。

(3) Sプランによる累進歩合給制度の強行実施は支配介入に当たるか

会社は、14年改正道路運送法の影響で運送収入が減少し、人件費抑制が急務となったことから、累進歩合給制度を提案せざるを得なかったもので、Sプランに基づく改定賃金制度の実施には経営上合理性が認められる。また、多数回の団体交渉等で資料を示して説明し、組合利益にも配慮した事実が認められるほか、17年1月の改定賃金制度実施は組合員のみでなく全乗務員を対象としたものである。よって、Sプランに基づく改定賃金制度の実施が、組合を嫌悪しその弱体化を図ったものと認めることはできない。

(4) Sプランによるファミリーレクリエーションと称する商品券等の支給停止は支配介入といえるか。

当該支給停止に係る会社の緩行措置には合理性が認められ、会社が16年2月以降に多数回の真摯かつ誠実な協議を行ってきたことから、支配介入に当たるとは言えない。

【参考】

初審救済申立 16年6月10日(大阪府労委平成16年(不)第35号)

初審命令交付 18年5月25日、 再審査申立日 18年6月8日(双方申立)


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