平成19年5月30日

中央労働委員会事務局第二部会担当
  審査総括官  伊藤敏明
TEL 03−5403−2162
FAX 03−5403−2250


北海道旅客鉄道(北労組団交)不当労働行為再審査事件
(平成18年(不再)第2号)命令書交付について

中央労働委員会(第二部会長 菅野和夫)は、平成19年5月30日、標記事件に係る命令書を関係当事者に交付したので、お知らせします。命令書の概要は次のとおりです。

I 当事者

再審査申立人   北海道旅客鉄道株式会社(「会社」 従業員 約8,700名)

再審査被申立人   JR北海道労働組合(「組合」 組合員 約1,400名)

II 事案の概要

本件は、北海道鉄道産業労働組合(鉄産労)の全組合員と国鉄労働組合北海道本部を脱退した一部の者で結成した組合が、会社と鉄産労との間で締結した協約と概ね同内容の協約(新協約)を締結するよう団体交渉を申し入れたところ、会社が、[1]掲示物等の表現等に関して会社と解釈・認識を一致させなければ新協約を締結しないという態度に固執し不誠実な対応をとったこと、[2]新協約締結を拒否し、組合員に対し、別組合の組合員よりも会社から不利益な取扱いを受けるという不安感を与えるなどして組合の運営に支配介入したことが不当労働行為に当たるとして、救済申立てがなされた事件である。

初審北海道労委は、本件救済申立てを全部認容したところ、平成18年1月11日、会社はこれを不服として再審査を申し立てた。

III 命令の概要

1 主文の要旨
(1) 初審命令を次のとおり変更する。

[1] 会社は、新協約の締結を求める組合との団体交渉において、組合が掲出・発行した掲示物等の表現等に関して、解釈・認識を一致させなければ新協約を締結しないという態度に固執することなく、誠実に交渉しなければならない。

[2] 上記(1)に関する文書手交。

[3] その余の救済申立てを棄却する。

(2) その余の本件再審査申立てを棄却する。
2 判断の要旨
(1) 新協約締結に関する不誠実団交の有無について

ア 新協約締結交渉中に、組合員4人に対し会社札幌車掌所から釧路運輸車両所への転勤命令が行われたことから、組合は同転勤命令を非難するとともに、争訟を提起した当該組合員を積極的に支援する立場で掲示物等を掲示・配布する等の行為を行った。これに対し、会社はこれら掲示物等の表現について、事実に反し会社の信用を傷つけるなどの問題があることから、今後の新協約の締結に支障を来すことを組合に警告した。このため、組合は掲示物等の表現等に関して会社が提示した協議事項について、会社と協議を繰り返し行ったが、双方の認識は一致しなかった。このような状況下において、会社は、新協約の締結の目途を問う組合の質問に対し、掲示物等協議事項について「認識が一致できればである」とし、引き続き協議を求めたが、組合は、同協議事項が団体交渉の場で一致しなければ新協約を締結しないという会社の態度は組合活動に対する介入である等として、双方の見解が対立したまま、新協約締結に関する団体交渉が行われなくなった。

イ 会社が問題とした掲示物等の表現等のうち一部のものについては、表現に穏当を欠くところはある。しかし、本件転勤命令について、[1]大卒総合職の社員1人を除く4人全員が組合員であったこと、[2]会社は組合に対し、説明を一切行っていなかったこと、[3]他労組の組合員が、「今回の助勤は転勤ありきなので、うちの組合からは誰もいかない」、「(当組合)としてはその件は助勤から転勤になるので受けられない」などと組合に先じて会社から知らされていたことを推測される表現をしていたこと等の事情からすれば、組合が「不当配転」と認識したことはやむを得ないものである。

ウ 上記イのとおり、会社が問題とした組合掲示物等の表現等に関しては、総じていえば、組合がそのように認識しその旨表現したことが不当とはいえず、組合活動上ないし組合の組織防衛上、当該掲示物等を掲出する必要性も高かったといえる。したがって、労使間においてその解釈・認識を一致させるべきであるというのであれば、会社は本件転勤命令前に組合に同転勤命令が相応の根拠をもって発令されたものであることを説明するなどして同転勤命令の正当性についての認識を一致させるよう努めるべきであった。しかし、会社は、掲示物等協議事項の協議において、そのような努力を行うことなく、転勤に不当性はないとして組合の掲示物等の表現等を一方的に非難するなど、自らの立場に固執し、組合に対して同協議事項について解釈・認識の一致を求めるものであったとみざるを得ない。

エ 以上からすると、掲示物等協議事項の協議における会社の対応は、柔軟な姿勢をもって協議・交渉に当たるところがなく、同事項について「解釈・認識の一致」がなされない限り新協約を締結しないという態度に固執したものであり、こうした会社の態度により新協約締結に関する交渉が進展をみなくなったものといえるから、かかる会社の対応は、新協約締結に関する団体交渉を誠実に行ったものとみることができず、労組法7条2号に該当する不当労働行為である。

(2) 新協約締結拒否による支配介入の有無について

上記(1)の判断のとおり、新協約締結に関する会社の団体交渉の対応は不誠実であったとはいえるものの、当初から会社が併存する別組合との関係で組合の弱体化を企図し、新協約未締結の結果を招来したと認めるに足りる証拠はない。また、新協約の未締結は、組合の掲示物等の表現等が問題となり、双方の見解が対立したことにより団体交渉が行われなくなったことによるものとみるのが相当であり、組合を他の労働組合と差別して取り扱うことにより、組合の組合員に対し不安感を与えることを意図して新協約締結を拒否したとまでは認めることはできない。したがって、会社が組合と新協約を締結しなかったことは労組法7条3号の支配介入とはいえない。

【参 考】

本件審査の経過

初審救済申立日    平成16年12月 7日
初審命令交付日    平成17年12月28日
再審査申立日    平成18年 1月11日

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