平成19年3月30日    
中央労働委員会事務局
審査総括官   藤 森 和 幸
Tel 03−5403−2172
Fax 03−5403−2250

モービル石油(賃金差別)不当労働行為再審査事件〔平成7年(不再)第53号〕命令書交付について

   中央労働委員会第二部会(部会長 菅野和夫)は、平成19年3月30日、標記事件に係る命令書を関係当事者に交付しましたので、お知らせします。命令の概要等は、次のとおりです。


当事者
再審査申立人 スタンダード・ヴァキューム石油自主労働組合(大阪府豊中市)
組合員数約33名(16年10月末日現在)
再審査被申立人 エクソンモービル有限会社(東京都港区)
従業員数約900名(18年8月末日現在)
II 事案の概要
   本件は、会社が、組合員8名(A、B、C、D、E、F、G、H。以下「本件組合員」)に対し、[1]昭和58年度から平成2年度までの基本給を差別支給したこと、[2]昭和57年冬季から平成2年冬季までの一時金を差別支給したこと、[3]賃金・一時金制度を公開せずに不公正な運用をしたことが、労働組合法第7条第1号及び第3号に該当する不当労働行為であるとして、組合から救済申立てのあった事件である。
   平成7年12月26日、初審大阪府労委は、救済申立てのうち、[1]については昭和62年度以前に係る申立てを、[2]については平成元年冬季以前の各一時金に係る申立てをそれぞれ申立期間が徒過していることを理由に却下し、その余の申立てについては棄却したところ、組合はこれを不服として再審査を申し立てた。
III 命令の概要
主 文
本件再審査申立てを棄却する。
判断の要旨
(1) 救済申立期間について
   使用者の査定に基づく賃金決定行為とこれに基づく賃金の支払とは、一体として一個の不当労働行為を構成するから、本件救済申立てのうち、各業績評価に基づき決定された基本給の最後の支払時から1年以上経過してなされた申立ては、申立期間が徒過しているから、却下する。
   一時金の業績評価に基づく査定はそれぞれ独立して行われ、当該査定に基づく各一時金の支給行為は、その都度完結する1回限りのものであるから、本件救済申立てのうち、支払日から1年以上経過してなされた申立ては却下する。
(2) 本件組合員に対する基本給及び一時金に関する差別取扱いについて
   本件組合員全体に対する差別取扱い
(ア)    本件組合員の基本給及び一時金の外形的な格差は、他の従業員との比較において明らかではない。
(イ)    仮に本件組合員と他の従業員との集団間に上記格差が存在したとしても、不当労働行為の存在を認めるためには、量的比較を可能とする集団としての規模の大きさのほか、比較対象集団間の一応の同質性が認められなければならない。組合が比較対象とする他の従業員の集団(600名以上)には相当数の専門職が含まれるが本件組合員は全員非専門職であり、両集団の職種、学歴、勤務年数等の構成が同質であるか明らかでなく、両集団間の外形的な格差から不当労働行為の存在を推認するのに必要な同質性の立証がなく、本件組合員8名は比較可能な量的規模を有するとはいい難い。
   本件組合員各人に対する差別取扱い
(ア)    業績評価制度の合理性及び査定の公平性
  a    会社の業績評価制度は、全社一律のガイドラインに基づき従業員ごとに設定される目標に対する取組状況及び到達度を上司が評価する方法により行われ、考課結果も直属の上司が原則として面談により開示等しており、全社斉一的かつ上司の主観的・恣意的評価を排除する、一定の客観性を有する制度として整備されているといえ、会社が不当に上記手続に従わずに運用を行っていたことの組合の立証もない。
   本件組合員には、最低評価はみられず中位評価が相当数みられ、一律に著しく低い査定を受けていたとは認められないから、会社の運用が直ちに組合所属による不公正なものであったとはいえない。
  b    本件組合員のなかには平均的な基本給の額ないし一時金支給月数の査定を受けている者が相当数みられるから、本件組合員が一律に低く査定されているとは認められず、また、各年度・各季の平均的業績評価を受けた者との基本給の差額及び一時金支給月数差と業績評価との関係をみても、総じて不均衡があるとまではいえないから、これらの査定が直ちに組合所属により不公正かつ不当に低くなされたものとはいい難い。
(イ)    本件組合員各人の差別的取扱いの有無
  a    Aの基本給及び一時金の査定、業績評価は幾分低いが、同人は、VDT業務拒否、配置転換命令拒否を目的とした指名スト及びビラ貼り・マイク演説等を行って懲戒処分を受けており、職場復帰後は、業績評価等が向上していることを考慮すると、不当な取扱いとはいえず、上記低査定が本件においても行われたとは認められない。
  b    B及びDの基本給及び一時金の査定、業績評価は、Bはかなり低く、Dは総じて幾分低い。組合は、その理由を、VDT業務など労使合意のない新規業務拒否及び労使慣行無視の業務命令(組合旗掲揚等に介入、制限)拒否である旨主張するが、労使合意のない限り新規業務に従事しないことが正当とはいえず、組合旗掲揚等が正当な組合活動であるとの立証がないから採用できない。
  c    Cの賃金・一時金の査定、業績評価は総じて幾分低いが、組合所属又は正当な組合活動による差別的取扱いである旨の個別具体的な主張・立証はない。
  d    Eは、基本給及び一時金の査定、業績評価ともにかなり低い。組合は、同学歴、同年齢のBよりEの賃金が低く、Eと同職位・同年齢の他組合の組合員と比較すると賃金が低いと主張するが、当該他組合の組合員との同質性の立証がないから、組合所属による差別的取扱いとは判断できない。  組合は、Eが評価面接で、関連業務に協力する姿勢及び定時着席等につき指摘されたことについて、会社は合理化の団交を拒否して新規業務の協議を行っておらず、Eは会社が団交で説明すれば組合に確認の上で同業務を行うことにしていた経緯がある等主張するが、[1]組合との協議が整わない限り組合員が業務命令に従わないことが正当とはいえず、[2]改善を指摘されたことが正当な組合活動によるものであったとの立証がないから、理由がない。
  e    F及びGの格差は、組合の個別具体的な主張・立証がない。Hと他組合の組合員Iとの格差は、両者が学歴、勤務年数等が異なるから、比較により差別を論じられない。
   以上のとおり、[1]本件組合員と比較対象する組合員有資格者との両集団間に、外形的な格差が明らかでなく、差別を量的に推認するに十分な量的規模や同質性も認め難いから、本件組合員の集団としての差別的取扱いを認めるに足りる立証がなく、[2]業績評価制度やその手続が全体として不合理で、その運用も本件組合員を総じて不当に取り扱ったと認めるに足りる証拠はなく、[3]本件組合員各人が組合所属又は正当な組合活動を理由に不当な取扱いがなされているとの的確な立証が認められず、加えて、会社の組合に対する不当労働行為意思の立証がないことを考慮すると、本件組合員の基本給及び一時金の取扱いについて労働組合法第7条第1号及び第3号の不当労働行為があったとはいえない。
(3) 賃金・一時金の制度の公開と公正な運用について
   会社の団交での説明に対し、組合は、なお業績評価と業績配分額との関係等が非開示であると主張するが、会社の説明が不十分であることの具体的立証がないから不当労働行為に当たるとは解されず、運用についても上記(2)判断のとおり不当労働行為とは認められない。
【参 考】本件審査の経過
1   本件審査の概要
大阪府労委元年(不)第71号 初審救済申立日(平成元年12月26日)
大阪府労委3年(不)第29号 初審救済申立日(平成 3年 6月17日)※同年7月10日に併合
初審命令交付日(平成7年12月26日)
中労委7(不再)第53号 再審査申立て(平成7年12月27日)
2   初審命令主文要旨
 (1) 昭和62年以前の賃金格差是正並びに同63年冬季以前及び平成元年冬季の一時金是正に関する申立ては却下。
 (2) その他の申立ては棄却。

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