平成19年2月26日
中央労働委員会事務局
       第一部会担当審査総括室
                審査官   横  尾  雅  良
TEL        03−5403−2169
FAX        03−5403−2250

東日本旅客鉄道(千葉動労再雇用)不当労働行為再審査事件命令書交付について
(1)平成14年(不再)第33号
(2)平成16年(不再)第39号及び同17年(不再)第20号
(3)平成18年(不再)第32号

   中央労働委員会(第二部会長 菅野和夫)は、平成19年2月26日、標記事件に係る命令書を関係当事者に交付したので、お知らせします。
   命令の概要等は、次のとおりです。


I 当事者
   再審査申立人 東日本旅客鉄道株式会社(会社)(東京都渋谷区)
〔従業員76,840名(平成12年4月1日現在)〕
   再審査被申立人    国鉄動力車労働組合総連合(動労総連合)(千葉県千葉市)
国鉄千葉動力車労働組合(千葉動労)(同上)
〔組合員約600名(平成14年(不再)第33号事件初審申立時)〕
個人7名(平成14年(不再)第33号)

II 事案の概要
会社が、社員の定年退職後厚生年金満額支給までの間、グループ会社等における再雇用の機会を提供する制度(以下「再雇用制度」)を内容とする「シニア雇用に関する協定」(以下「シニア協定」)を社内の各労働組合に提案したところ、大方の労働組合は締結したが、動労総連合は、同協定にグループ会社等への鉄道事業業務の一部の委託を推進する旨の条項(以下「業務委託推進条項」)が盛り込まれていたことを理由にシニア協定を締結しなかった。
本件は、会社が動労総連合との間ではシニア協定が締結されていないことを理由に、動労総連合の構成団体である千葉動労に所属する平成13年度から平成17年度までの各年度に定年退職する組合員に対して、再雇用制度を適用しなかったことが、不当労働行為であるとして、動労総連合及び千葉動労並びに組合員7名(平成14年(不再)第33号)が、千葉県労働委員会に、救済申立てを行った事件である。
初審千葉県労働委員会は、会社に対して、(1)千葉動労に所属する者に対し、再雇用制度の運用に当たり、同労働組合に所属していることを理由に差別することの禁止、(2)組合員らに対して、再雇用制度に準じた再雇用の機会の提供を命じ(組合らのその余の申立ては棄却)たところ、会社は、これを不服として、再審査を申し立てたものである。
なお、各事件は、救済対象者は異なるが、争点及び主要な事実関係等は共通している。

III 命令の概要(各事件同様)
  1    主文
      初審命令主文を取り消し、これに係る再審査被申立人の救済申立てを棄却する。
  2    判断の要旨
   (1)    業務委託推進条項をシニア協定に盛り込んだことに合理性があるかについて
   ア   業務委託推進条項をシニア協定に盛り込む必要性について
(ア)    平成11年、会社は平成13年度から厚生年金の満額支給年齢が段階的に65歳に引き上げられる見込みとなることから、この間の年金分を補える雇用の仕組を検討するに至ったが、定年延長は会社の財務事情から採用できないと判断し、それに代わる対策として、当時1万名強のグループ会社等への出向者の半数以上が55歳以上の社員であったことから、これらの出向先を定年退職者の再雇用の場とすることが、グループ会社等にも大きな負担がかからず、円滑に再雇用を進められると判断し、再雇用制度を採用することとしたものであって、この判断が特に不合理であるとはいえない。
(イ)    また、会社は、多数の定年退職者に見合うだけの雇用の場を確保し続けるためには、単にこれまでの出向制度を見直す等の対策だけでは困難であり、グループ会社等においても受託業務の拡大等により雇用の場を確保することが重要であると考え、グループ会社等への業務委託などの対策を進めようとしたものと認められる。
(ウ)    そうすると、会社が再雇用制度を創設し、同制度を維持してくためには、グループ会社等への業務委託を推進することの必要性は認められ、会社がシニア協定に業務委託推進条項を一体のものとして盛り込んだことには合理性がある。
   イ   業務委託推進条項が労働組合として受け入れ難いとすることに無理からぬ理由があったか否かについて
     業務委託推進条項はグループ会社等への業務委託について大枠での合意を求めるものであって、個別具体的な業務委託は別途協議されることとなっていること、再雇用制度は組合員の退職後の生活を大きく左右する課題であることを考慮すれば、動労総連合は、同条項を受け入れることができない具体的な理由・根拠を示して、会社と交渉し、シニア協定を締結すべく努力を尽くすべきであったにもかかわらず、外注化反対という一般的な運動方針に基づく対応に終始していたのであるから、同条項が労働組合として受け入れ難いとすることに無理からぬ理由があったとまではいうことはできない。
      (2)    再雇用制度を巡る団体交渉が誠実に、かつ、各労働組合との関係において、中立的態度を保持し、平等に行われたかについて
            会社は会社内のすべての労働組合に、修正提案を含めほぼ同時期に同じ内容の提案を行っていることから、動労総連合に対する不平等な取扱いはなかったと認められる。また、団体交渉時における説明に一部不十分な対応も認められるものの、不誠実な交渉態度であったとまでは認めることはできない。さらに、動労総連合の弱体化を図るべく、団体交渉を操作して不利益を招来させたと認められるような特段の事情も見出すことはできない。したがって、団体交渉の過程において、不当労働行為が成立するに至るほどの特段の事情があったとは認められない。
      (3)    会社がシニア協定未締結を理由に千葉動労に所属する組合員に対して、再雇用制度を適用しなかったことが不当労働行為に当たるかについて
            以上のことから、会社はシニア協定を社内のすべての労働組合に等しく提案しており、その内容には合理性があり、各労働組合との関係を含めて、団体交渉の態度にも特に不当労働行為の成否に係る問題点は見出せない。また、団体交渉等を通して、会社の組合に対する団結権の否認や組合嫌悪の意思が決定的動機となって行われたと認められる特段の事情もなかったと判断せざるを得ない。
   したがって、動労総連合が、業務委託推進条項がシニア協定に盛り込まれていることを理由にシニア協定を締結せず、その結果として千葉動労の組合員に再雇用制度が適用されなかったとしても、それは動労総連合がその自由意思に基づいて選択した結果であるといわざるを得ない。
   よって、労働組合法第7条第1号及び第3号に該当する不当労働行為であると認めることはできない。

【参 考】
1 本件審査の概要
   (1) 平成14年(不再)第33号
初審救済申立日    平成12年 9月 26日 (千葉県労委平成12年(不)第2号)
   平成13年11月 8日 (千葉県労委平成13年(不)第2号)
初審命令交付日    平成14年 7月 16日 (上記事件を併合)
再審査申立日    平成14年 7月 26日
   (2)    平成16年(不再)第39号
   初審救済申立日    平成15年 4月 4日 (千葉県労委平成15年(不)第1号)
   初審命令交付日    平成16年 5月 21日
   再審査申立日    平成16年 5月 31日
   平成17年(不再)第20号
   初審救済申立日    平成16年 4月 28日 (千葉県労委平成16年(不)第3号)
   初審命令交付日    平成17年 3月 3日
   再審査申立日      平成17年 3月 18日
(中労委において上記ア、イ事件を併合)
   (3) 平成18年(不再)第32号
初審救済申立日    平成17年 7月 13日 (千葉県労委平成17年(不)第1号)
初審命令交付日    平成18年 5月 26日
再審査申立日    平成18年 6月 5日
2 初審命令主文要旨
(1)    会社は、千葉動労に所属する者に対し、再雇用制度の運用に当たり、同労働組合に所属していることを理由に差別してはならない。
(2)    会社は、同組合員らに対して、再雇用制度に準じて再雇用の機会を提供しなければならない。
(3)    その余の申立てを棄却する。


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