III 命令の概要 |
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主文
本件再審査申立てを棄却する。 |
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判断の要旨
(1) 顛末書及び始末書の強要について
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Aに対する二度の事情聴取は、17分間、10分間であり、その間、大阪保線所長が声を荒げることもなく、また、不利益をほのめかす言動も認められないことからすれば、二度の事情聴取はいずれも顛末書及び始末書を書くことを強要したものとは認められず、Aが顛末書及び始末書の作成を拒否しようと思えばできる状況下にあり、むしろAの意思に基づいて、顛末書及び始末書を作成したものと言わざるを得ない。
始末書の書き直しは、A本人が事情聴取に立ち会った助役に始末書の書き方を聞いたうえで書き直したものであり、顛末書の追記は、本件内部資料をコピーした場所の記載を求められたのに応じて追記したものであり、会社から強要させられたものであるとは認められない。
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(2) Aに対する訓告処分について
ア |
一般的に労働者は労働契約の付随義務として使用者の営業上の秘密保持義務を負い、本件においても就業規則15条に「守秘義務」の定めがあり、Aが会社の許可なく持ち出した本件内部資料が同規定の秘密に当たるものであるなら、それを担当者や関連する当事者以外の者に漏らすことは、特段の事情のない限り、許されないというべきである。
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イ |
本件訓告処分の対象とされた内部資料は、特に秘密の指定や秘密として管理されていたものではないが、社内でその業務を担当する者が使用する書類であり外部に公表が予定されているものではなく、会社には他に知られないことにつき客観的に見て相当の利益を有する文書であり、就業規則に定める業務上知り得た秘密に当たると判断される。
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ウ |
その上で、本件内部資料を労働委員会に持ち出したことが、特段の事情に当たるか否かを検討するに、Aの行為は、たとえその目的が不当労働行為事件の立証のためであったとしても、組合にとっては、(1)他の有力な証拠が提出されていたこと、(2)本件内部資料は、不当労働行為の成否を立証する上で客観的に重要な証拠であったものとまでは認め難く、また組合がこれを客観的にも有力な証拠であると信じるにつき相当の理由があったとも認められないこと、(3)一方でAが持ち出した本件内部資料は、企業にとって公にすべき性格の資料ではないことから総合判断すると、上記アにいう特段の事情には当たらないといわざるを得ない。
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エ |
したがって、Aが本件内部資料を許可なく社外へ持ち出したことは、就業規則15条に定める守秘義務に違反するものであり、正当な組合活動といえず、訓告処分はやむを得ないといわざるを得ない。
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オ |
Aに対する訓告処分については、過去の同種事例に比して、殊更、その程度において均衡を欠くものではなく、組合員であることを理由とする差別的取扱いがあるとは認められず、本件訓告処分は労組法7条1号の不利益取扱いに当たらないといわざるを得ない。
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(3) 訓告処分撤回等に係る業務委員会の開催について
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関西地本が申し入れた本件各申入れに対し、会社が業務委員会の付議事項に該当しないことを理由に、これを開催しない旨通知したとしても不当であるとまではいえない。
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(4) 組合掲示物の撤去禁止について
ア |
本件のように、組合に使用を許諾した組合掲示板からの掲示物撤去が支配介入になるか否かについては、その使用を許諾する際における使用者と組合との間の合意が基本となり、その合意の内容は、労働協約の規定を合理的に解釈して判断すべきである。
特に本件においては、組合あるいは組合員にとって掲示板による連絡・情報共有の必要性が強いこと、掲示物が一般公衆の目に触れる機会が少ないことを併せ考えると、会社が当該掲示板から掲示物を撤去できるのは、誹謗中傷の程度が行き過ぎていたり、個人のプライバシーに深く踏み込んでいたり、あるいは掲示物の記載内容が主要な部分において真実でなく、また真実と信じるにつき相当の理由が認められない場合に限るべきものと思慮される。
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イ |
そこで、本件撤去の対象となった掲示物について、内容を検討すると、次の事項が認められる。
ア |
) Aに対する顛末書及び始末書について、組合らは、会社が強要したと記載するが、前記(1)で判断したとおり、およそ強要によるものとは認めることができず、事実に反する記載内容といわざるを得ない。 |
イ |
) 会社の会計帳簿は、組合掲示板に掲示物として掲出し、組合員らに情報を周知させる性格のものではなく、特に組合の本来の関心事以外の部分を抹消もせずに一部とはいえ、会社の許可なく公表することは会社の信用を傷つけ、職場規律を乱すものといわざるを得ない。 |
ウ |
) その他本件掲示物中には、a)記載内容が事実に反し、読む者に誤解を生じせしめるものがあり、また組合がこれを真実と信じるにつき相当の理由があるとは認められないこと、b)記載内容が、掲示物をみる組合員らに、勝手な解釈をさせたり、誤解を誘発させる不適切な記載があること、c)事実の主要な記載部分において真実と信じるにつき相当の理由があるとは認め難いことなどの記載があり、これらは事実に反し会社の信用を傷つけるものであるといわざるを得ない。 |
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ウ |
以上のことから、本件いずれの掲示物についても、労働協約に違反した内容であり、会社がこれに基づき掲示物を撤去したとしてもやむを得ないものといわざるを得ず、しかも掲示物の撤去について、短い時間とはいえ一応事前に自主撤去を促した上で撤去を行っていることからすれば、本件掲示物撤去が労組法7条3号の不当労働行為に該当するということはできない。
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(5) 以上のとおりであるから、本件労働組合の再審査申立てには理由がない。
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