平成18年12月25日
中央労働委員会事務局第二部会担当
審査総括官  神田義宝
Tel 03−5403−2172
Fax 03−5403−2250


東海旅客鉄道(厳重注意)不当労働行為再審査事件
(平成17年(不再)第54号)命令書交付について


 中央労働委員第二部会(部会長 菅野和夫)は、平成18年12月25日、標記事件に係る命令書を関係当事者に交付したので、お知らせします。
 命令の概要は、次のとおりです。

I 当事者
 再審査申立人 ジェイアール東海労働組合(「JR東海労」)(東京都大田区)
    組合員 約520名(平成18年4月現在)
   同 ジェイアール東海労働組合新幹線関西地方本部大阪第一車両所分会
    (「大一両分会」)(大阪府大阪市)  組合員 50名(同)
   同 ジェイアール東海労働組合新幹線関西地方本部大阪第三車両所分会
    (「大三両分会」)(大阪府大阪市)  組合員 20名(同)
 再審査被申立人 東海旅客鉄道株式会社(「会社」)(愛知県名古屋市)
    従業員 約15,400名(平成18年3月現在)

II 事案の概要
 本件は、会社が、(1)JR東海労の組合員らが裁判の立証活動のため、会社に無許可で休憩時間中に作業指示を受けていない車両の清掃整備作業と目される行為を行い、その様子をビデオ撮影したこと(「本件ビデオ制作」)に関して組合員A及びBに対し、また、(2)管理者である助役に不適切な言動(「本件言動」)を繰り返したとして組合員Aに対し、それぞれ厳重注意を行ったことが不当労働行為であるとして、救済申立てがなされた事件である。
 平成17年8月12日、初審大阪府労委は、申立てを棄却したところ、同月25日、JR東海労らはこれを不服として再審査を申し立てた。

III 命令の概要
 1 主文
 本件再審査申立てを棄却する。

 2 判断の要旨
(1) 本件ビデオ制作に係る厳重注意について
 会社においては、就業規則で「社員は、(中略)会社の命に服し、法令、規定等を遵守」しなければならない旨が規定されているほか、「会社が許可した場合のほか、勤務時間中に又は会社施設内で、組合活動を行ってはならない。」と規定され、労働協約においても、組合が会社の施設を一時使用する場合は、会社に申し出、その許可を得なければならない旨規定されている。
 本件ビデオ制作は、会社の許可を得ておらず、勤務時間外に行ったものであるとはいえ、文言上、上記就業規則の禁止事項に該当し、かつ、労働協約に抵触するものといえる。
 本件ビデオ制作のための施設利用をより子細にみると、本件ビデオ制作は、JR東海労の組合員の訴訟事件において、同人の雇用を守るという目的で同人を配置できる職場があることの立証を援助するために行われたもので、組合活動としての必要性は認めることができる。しかし、組合員A及びBらは、会社から作業指示の出ていない車両等について、会社の営業設備の一部を許可なく使用して作業を行い、ビデオ撮影しており、休憩時間中に同組合らの主張するように模擬的に行い、原状回復をしたものであったとしても、これら行為は施設管理権を実質的に侵害するものである。また、会社から作業指示のあった業務の撮影についても、休憩時間中に行われたもので会社の指示に基づく作業ということはできないし、組合活動であったことは同組合らも認めている。これら会社施設利用の態様は、作業指示の出ていない作業のビデオ撮影の利用の態様と同様であって、実質的に会社の施設管理権を損なうものといわざるを得ない。
 本件ビデオ制作には組合員A及びBの外にも関与した従業員がいると推認されるところ、会社は両名のみを厳重注意としている。しかし、事情聴取においても本件ビデオ制作に関与した他の組合員が明らかとはならなかった事情に鑑みると、当該厳重注意が両名をことさらに不利益に取り扱った結果であるとまでは認めらない。
 また、厳重注意は、懲戒ではなく注意指導としての位置づけで行われていること、実際上、当該厳重注意により両名には具体的な不利益は発生しておらず、厳重注意の理由とされた行為に比してことさら不均衡な措置ともいえない。
 以上のとおりであるから、組合員A及びBに対する本件ビデオ制作に係る厳重注意は不当労働行為に当たらない。
(2) 本件言動に係る厳重注意について
 会社では、当時、IDカードを読取機に通すことにより出退勤管理等を行っており、管理者により従業員のIDカードの不打刻についての注意指導を行うことにしていたもので、本件における助役のIDカードの不打刻に関する注意は、班の従業員全員に対してなされたもので、会社として必要な注意指導であったと認められる。
 他方、組合員Aの本件言動は、カードや機械が不具合であった可能性も拭いきれないとの思いから、助役の注意は一方的に通し忘れを前提としているとの認識の下に、これに抗議する趣旨で行われたものと解される。しかし、本件言動は、助役の職務上の注意に従わない態度を示し、同人を揶揄し、侮辱したともみられる不穏当な発言を繰り返し、しかも他の従業員がいる前で行われていることからすると、上司に対する不適切な言動として職場の秩序・規律を乱すものであったといわざるを得ず、会社が本件言動を厳重注意の対象としたことには理由がある。
 会社がことさら組合員Aを狙い打ちして厳重注意を行ったとまでは認められない。そして、本件言動に係る厳重注意により組合員Aには具体的な不利益が発生していないことなどからすれば、当該言動を理由に厳重注意を行ったことは、不当とはいえない。
 以上のとおりであるから、組合員Aに対する本件言動に係る厳重注意は不当労働行為には当たらない。

【参考】
 本件審査の概要
 初審救済申立日  平成14年3月15日(大阪府労委平成14年(不)第13号)
 初審命令交付日  平成17年8月12日
 再審査申立日  平成17年8月25日(中労委平成17年(不再)54号)
 初審命令主文
 本件申立てを、いずれも棄却する。

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