平成18年11月13日
中央労働委員会事務局第一部会担当審査総括室
審査官     横尾 雅良
Tel 03−5403−2169
Fax 03−5403−2250


日本貨物鉄道(富山昇進)不当労働行為再審査事件
(中労委平成15年(不再)第29号)命令書交付について


 中央労働委員会(会長 山口浩一郎)は、平成18年11月13日、標記事件に係る命令書を関係当事者に交付したので、お知らせします。
 命令の概要等は、次のとおりです。

I 当事者
 再審査申立人 日本貨物鉄道株式会社(東京都千代田区)
 〔従業員7,561名(平成18年4月1日現在)〕
 再審査被申立人 国鉄労働組合(東京都港区)
 〔組合員約17,000名(平成17年5月24日現在)〕
 国鉄労働組合西日本本部(大阪市)
 〔組合員2,446名(平成17年5月24日現在)〕
 国鉄労働組合北陸地方本部(石川県金沢市)
 〔組合員250名(平成17年5月24日現在)〕
 個人31名

II 事案の概要
 1 本件は、日本貨物鉄道株式会社(以下「会社」)が、国鉄労働組合北陸地方本部(以下「組合」)所属の組合員42名に対して、平成6年度から平成9年度までの間に昇格又は昇職をさせなかったことは、所属組合による差別的取扱いであり不当労働行為であるとして、組合員42名及び組合が、上部組合である国鉄労働組合西日本本部(以下「西日本本部」)及び国鉄労働組合(以下「国労」)とともに、平成8年1月29日、同9年1月31日、同10年1月27日、同11年1月28日、富山県労働委員会(以下「富山県労委」)に救済申立てを行った事件である。
 2 初審富山県労委は、平成15年5月22日付けで、組合員42名のうち31名については差別的取扱いがあり不当労働行為に該当するとして、昇格もしくは昇職申立ての全部又は一部を認めて会社に対し(1)昇格及び昇職格差の是正、(2)バックペイ、(3)国労に対する支配介入の禁止、(4)文書掲示を命じた。
 会社は、これを不服として、平成15年6月24日、再審査を申し立てたものである。

III 命令の概要
 1 主文
(1) 会社は、組合に所属するHを平成7年2月1日付けで5等級に昇格したものとして取り扱い、これによって支払われるべき諸給与相当額及び退職金から支払済みの額を除いた額を支払わなければならない。
(2) 会社は、組合員であることを理由に昇進させないことにより、組合らの運営に支配介入してはならない。
(3) その余の救済申立て及び再審査申立てを棄却する。
 2 判断の要旨
(1)昇進制度と不当労働行為の成否について
 昇進についての格差があり、それが組合差別の結果であるとして不当労働行為を認定するには、会社の不当労働行為意思のほか、合理的な理由なく昇進が遅れていることが認定されなければならない。
 そこで、労働者側において、集団間に外観上の格差が存在すること、及び労働者が他の集団に属する従業員と比べて能力、勤務成績が劣っていないことを主張・立証させ、使用者側からは、格差が合理的な理由によるものであることを主張・立証させ、この使用者側の立証が成功しない場合は、格差が不当な差別によるものであることを推認するという事実認定の方法が許容されてよい。
 上記のような外形上の格差の存在から不当労働行為の差別を推認するには、集団間の均質性の程度、人事管理における年功的要素の強さの程度、人事考課並びに試験の制度及び運用面での公正さ、公平さの程度を検討すべきであり、これらの要素の程度により、不当労働行為意思の強弱と相まって、昇進差別の事実上の推認が強くもなり、個別立証により容易に覆ることにもなると考えられる。
(2)外観上の昇進格差の有無について
 均質性
 国労所属の個人救済申立人らと比較対象者の両集団の間には、(1)両集団の年齢構成及び勤続年数がほぼ等しいこと、(2)国労組合員と他労組組合員との平均等級の格差が0.5等級以下であり、ほぼ同等とみることができること等から外観上の昇進格差を比較するに有意な一応の均質性が整っていると判断する。
 外観上の昇進格差
 (1)5等級への昇格については、国労組合員は5割の者が、他労組組合員は約9割の者が昇格していること、(2)5等級昇格までの4等級在級期間については、国労組合員は最短で5年、平均6.3年、他労組組合員は、最短で1年、平均3.5年であること、(3)17条特例での5等級への昇格者の比率は、国労組合員は54%、他労組組合員は10%であること、(4)4等級昇職までの3等級在級期間は、国労組合員は平均7.3年、他労組組合員は平均5.5年であること、(5)17条特例での4等級への昇職者の比率は、国労組合員は72%、他労組組合員は42%であること、(6)6等級への昇職については、国労組合員は7%の者が、他労組組合員は69%の者が昇職していること、(7)6等級昇職までの5等級在級期間は、国労組合員は最短で3年、平均4.8年、他労組組合員は最短1年、平均2.2年であることを総合的にみると、国労組合員は、他労組組合員に比較して外観上の昇進格差が認められる。
(3)本件昇格における人事考課制度とその運用について
 本件昇格における人事考課制度
 本件昇格に関する人事考課制度は、現場長及び助役が現認した事実を記載する管理台帳を基礎に、現場長による昇格候補者調書の作成、金沢支店によるヒアリング、関西支社によるヒアリング、関西支社での決定というシステムになっており、昇格候補者調書の作成段階での現場長の主観や恣意、あるいは箇所ごとの評価水準のばらつきを調整する手続が備わっているといえるから、人事考課の公正さ、公平さの点で、システム自体に特に問題はなく、その基礎となる管理台帳の記載者、記載の正確性、具体的な記載内容、不都合事象の内容等を検討しても、その運用において、特段不公正であるとか、不公平であるとの具体的な兆候を認めることはできない。
 各人に対する評価の合理性の個別検討
 (1)本件で判断の対象とするのは、求める年次に昇格させないことが不当労働行為に当たるかどうかに限定すること、(2)会社の昇進制度は、年功的要素は強くなく、むしろ能力主義的な仕組みが採られているといえるが、昇格については現等級経験年数1年以上が必要とされ、昇職については昇職試験の受験資格年限として前職位在職年数4年以上等が必要とされ、また、いわゆる17条特例昇進において在級年数及び勤続年数の定めがあるなど、なお、勤務年数、年功要素について配慮される制度となっていること、(3)昇格ないし昇職をさせないことが不当労働行為意思に基づくものであるかどうかの判断に当たっては、試験ないし人事考課の結果に基づく昇進の是非の決定判断が公正さを欠き、会社の裁量権の著しい逸脱といえるかどうかを基準とするのが相当と考えられること、(4)会社の人事考課の対象期間は、昇格時期を遡る1年間が最も重視されるべきであるが、仮に1年間の成績に特段のマイナス要因がないとしても、直ちにその次の年度に昇格させるべきことにはならないこと等の諸点に留意し、個別の検討をしたところ、昇格を求める前1年間もそれ以前にも、会社の不都合事象の指摘は全くなく、請求年度に昇格させないことに合理的理由がないと認められるのは、Hのみである。
(4)不当労働行為意思について
 会社が、労使協調路線をとる貨物労に対して親和的となり、他方で会社の経営方針に同 調しない労使協調による会社の発展を目指した2次にわたる労使共同宣言への参加を拒否し、再三にわたりストライキを実行し会社の減収を招くなどした国労の運動方針及び行動に対し、反感ないし嫌悪の情を抱いていたであろうことは容易に推認できる。
 そうすると、昇進についての会社の裁量権を考慮するとしても、昇格させないことにつき、合理的理由がないと判断したHの平成6年度の5等級不昇格については、会社の不当労働行為意思に基づくものとして、不利益取扱い及び支配介入の不当労働行為に当たると判断するのが相当である。
(5)本件昇職における試験制度とその運用について
 1次試験について
 問題の設定の仕方、採点方法を検討しても、恣意的な運用が行われていることを疑わせる事情は見当たらず、そのシステム、運用共に、公正なものと判断する。
 2次面接試験について
 (1)2次試験の質問項目は、概ね受験の動機、就業規則の内容等の一般知識、会社の決算内容、社員としての自覚、業務知識等であり、不公正なものではないこと、(2)面接試験については、面接官、質問時間、質問数、質問項目の他、面接官の評価項目とその配点及び最終採点方法という、面接試験の大筋はあらかじめ会社として定められており、面接試験が全体として恣意的で、公正を欠くとはいえないこと、(3)合否の判定の際にボーダーライン付近のものについては、支社と支店間、支店と現場長の社員管理台帳を基礎資料とするヒアリングにより、人事考課や要員需給等を加味した調整が行われるが、このような、会社の裁量による合否の判定が行われることを不合理、不公正ということはできないこと等から、2次面接試験は、公正なものである。
 昇職試験の合否判定の合理性
 平成6年度から平成9年度までの4年間の昇職試験の実施結果及び各人の人事考課に基づき、各年度の昇職試験で1次試験に合格したが、2次試験はボーダーライン付近であった者を中心に、再審査被申立人組合員らの不合格の結果について、合理的理由があるかどうかについて検討したところ、昇職試験における判定の結果には、6等級昇職2次試験のボーダーライン付近の者の判定を含めて、それぞれ一応首肯できる理由があり、不公平、不当の評価はできない。
 そして、ボーダーライン以下の得点者からの選定に当たって、人事考課のほか業務上の必要性、箇所や職種別のバランス等を考慮してボーダーライン以下の範囲で多少の順位を異にする選定をしたとしても、それが昇職是非の判定における会社の裁量権を逸脱したものとはいえない。さらには、ボーダーライン以下の得点者から例外的に合格者を選定する場合においても、平成8年度及び平成9年度の昇職2次試験においては、現に救済申立人を含む国労組合員から合格している例もあることを考えると、会社には、反国労感情があり、一定の不当労働行為意思があることを考慮しても、本件昇職試験の結果が会社の不当労働行為意思に基づくものと認定することは困難である。
(6)結論
 再審査被申立人らの本件救済申立ては、Hに対する5等級昇格格差是正を求める点についてのみ理由があるが、その余の昇格、昇職格差是正の申立ては理由がなく、棄却すべきである。

 【参考】
  1 本件審査の概要
  初審救済申立日 平成8年1月29日(富山県労委平成8年(不)第1号)
 平成9年1月31日(富山県労委平成9年(不)第1号)
 平成10年1月27日(富山県労委平成10年(不)第1号)
 平成11年1月28日(富山県労委平成11年(不)第1号)
  2 初審命令主文要旨
(1)組合員31名についての昇格及び昇職格差の是正。
(2)組合員31名に対するバックペイ。
(3)国労に対する支配介入の禁止。
(4)文書掲示。
(5)組合のその余の申立は棄却。

トップへ