平成18年9月1日
中央労働委員会事務局
 第三部会担当審査総括室
  審査官  高橋 孝一
  電話 03-5403-2265(ダイヤルイン)
  Fax. 03-5403-2250


日本交通 不当労働行為再審査事件
(平成16年(不再)第46号)命令書交付について


 中央労働委員会(第二部会長 菅野和夫)は、平成18年8月31日、標記事件に係る命令書を当事者に交付したので、お知らせします。命令の概要は、次のとおりです。

I 当事者
 再審査申立人 日本交通株式会社(以下「会社」という。)
 一般乗合旅客自動車運送事業(乗合バス業)、一般乗用旅客自動車運送事業(ハイヤー・タクシー業)及びそれに関連する各種事業等を営む。鳥取自動車株式会社(以下「鳥取自動車」という。)ほか系列6社で構成するグループの代表企業である。
 再審査被申立人 A(個人)
 平成11年7月、鳥取自動車にハイヤー乗務員として入社。グループ企業従業員で構成する(申立外)労働組合の役員等を歴任 したが、選択定年制による定年延長年齢(満58歳)を迎え、接遇態度・事故件数を理由に、同15年9月、会社バス営業所に配属され、営業所雇傭員としてバス清掃などの業務に従事している。

II 事案の概要
 本件は、会社がAに対し、(1)平成14年10月の組合役員選挙に当たり、立候補の趣意書(以下「本件ビラ」という。)を会社施設内で許可なく配布したこと及び客への言動が、就業規則等に抵触するとして数次の懲戒処分等をしたこと、(2)定年延長年齢(58歳)を迎え、ハイヤー乗務員からバス営業所雇傭員への配属(以下「9.21配属」という。)を命じたことが、労働組合法(以下「労組法」という。)第7条第1号の不当労働行為に当たるとして、平成15年10月24日、鳥取県労働委員会(以下「鳥取県労委」という。)に救済申立てされた事件である。
 鳥取県労委は、平成16年8月10日付けで、いずれの申立ても労組法第7条第1号に規定する不当労働行為に当たるとし、会社にこれらの救済と文書の手交及び掲示を命じた。会社は、これを不服として当委員会に再審査を申し立てたものである。

III 命令の概要
 主文の要旨
(1)初審命令主文を次のとおり変更
 会社は、Aに対する平成14年11月15日付懲戒処分(出勤停止7日)をなかったものとし、同処分がなければ得られた諸給与相当額と既に得た諸給与額との差額を、同人に支払うこと。
(2)上記(1)にかかる文書手交
(3)その余の申立ては棄却

 判断の要旨
(1)Aの組合活動が分派活動であるとの会社の主張について
 Aの春闘での職場説明や意見聴取、支部情報の独自掲示等は、役員として情報宣伝や労働要求を集約しようとするものであり、平成14年役員選挙でのAの本件ビラ配布は立候補者の言論活動であり、いずれも分派活動ではない。

(2)各懲戒処分等の不当労働行為該当性について
(1) 11.15処分(本件ビラ配布行為に関し出勤停止7日)について
 会社は、処分事由を、平成14年10月の役員選挙でのAの本件ビラ配布が就業規則に違反するとしたが、本件ビラの記載内容は誹謗中傷や違法不当な行為や分派活動を煽り唆すものではなく、Aの就業時間中の本件ビラ配布で業務に支障を来したとの主張には具体的な証拠がない。また、11.15処分にかかる懲戒命令書には、ビラ配付の日時・場所の特定がなされていない。
 次に、会社がAにした、役員選挙(10月25日)直前の3日間(10月22〜24日)の長時間にわたる本件ビラ配付の事情聴取には選挙妨害の意図が推認され、また、会社からの照会文書にはAの組合活動を批判する内容が含まれていたこと、Aのみを処分したことからも、選挙の結果、Aと賛同者が多く当選したことに、会社は強い懸念をもっていたことが推認できる。
 よって、Aの本件ビラ配布は、職場規律維持の観点で定められた就業規則第53条に、形式的にはともかく、実質的には違反せず、また、会社はAのビラ配布を明確に把握せずに処分したのであり、職務専念義務違反の主張を認めることはできない。
 上記のとおり、会社はAの正当な組合活動に強い懸念をもっていたことが認められることから、11.15処分は、労組法第7条第1号の不利益取扱いに当たる。
(2) 2.19処分(走行経路、客のシート汚損の金銭授受に関し出勤停止14日間)について
 会社は、処分事由の一つを、Aが通常経路を走行しなかったこと等とするが、客がメールを打っていたこと等もあり、Aが意図的に料金が高くなる経路を選択したとは認め難く、直ちに処分事由となるとは認められない。
 しかし、もう一つの事由である金銭の授受について、Aはシートを汚した客の謝意だとするが、客は乗車翌日、会社に苦情を申し出ていることから、客がチップとして自発的に支払ったとは認め難い。会社が、就業規則第119条第9号“不当な料金を受け取ったとき”に該当するとしたことに誤りはなく、また、就業規則第117条第14号にも該当する非違行為であること、当該苦情で会社は信用を毀損されたことなどから、2.19処分には理由があり、労組法第7条第1号の不利益取扱いには当たらない。
(3) 3.11処分(迎車時の対応に関し下車勤務1日)について
 会社は、処分事由を、高齢の客の荷を持たず、ドアサービスを怠ったことであるとするが、Aは、客の乗車時に対向車が来たので、運転席から出られなかったと主張する。服務規定の定めに従い、車外で待機していればこの事態は生じなかったのであるから、3.11処分には理由があり、労組法第7条第1号の不利益取扱いには当たらない。
(4) 7.3処分等(迎車時の対応に関し出勤停止1日等)について
 Aの迎車時の態様は、Aが同僚との会話に気を取られてドアサービスを怠り、店主の苦情を招いたことが推認でき、4か月前にも3.11処分があったことを勘案すれば、7.3処分等には理由があり、労組法第7条第1号の不利益取扱いには当たらない。
(5) 9.21配属(バス営業所雇傭員への配属)について
 満58歳に達したハイヤー乗務員の職種・職務変更の取扱いは明らかではない。また、Aの交通事故等の件数について、他の乗務員との比較可能な資料の提出がなく、Aがこの適性を欠くかどうかは判断し難い。
 しかし、Aの接客態度については、Aは6か月間に接客態度を理由に3回の処分を受けており、ハイヤー乗務員たる適性に欠けるとした会社の判断は合理性を欠くとはいえない。
 よって、Aには、接客態度に相当の問題があったことは明らかであるから、9.21配属には理由があり、労組法第7条第1号の不利益取扱いに当たるとはいえない。

(3)救済方法
 不当労働行為と判断した11.15処分((2)の(1))については、初審命令と同様の救済を命じることとし、併せて会社にこれに係る文書手交を命ずることとした。

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