平成18年7月27日
中央労働委員会事務局
 第一部会担当審査官  横尾 雅良
TEL 03−5403−2169
FAX 03−5403−2250


東日本旅客鉄道(千葉動労勝浦)不当労働行為再審査事件
(平成12年(不再)第21号)命令書交付について


 中央労働委員会第一部会(部会長 山口 浩一郎)は、平成18年7月26日、標記事件に係る命令書を関係当事者に交付したので、お知らせします。
 命令の概要等は、次のとおりです。

I 当事者

  再審査申立人  国鉄千葉動力車労働組合(組合)(千葉県千葉市)
   組合員約500名(平成17年9月5日現在)

  再審査被申立人  東日本旅客鉄道株式会社(会社)(東京都渋谷区)
   従業員約80,000名(同上)

II 事案の概要
 1 本件は、会社が、勝浦運転区を廃止して鴨川運輸区を設置し、その際に同運転区に所属していた組合の組合員らを配置転換したことについて、勝浦運転区廃止は、組合の勝浦運転区支部を解体しようとする意図の下に行われ、また、同運転区勤務の組合員の他運輸区等への配置転換も同一の意思の下に行われたもので、組合の弱体化を企図した不当労働行為であるとして、千葉県労委に救済申立てがあった事件である。
 2 初審千葉県労委は、いずれも不当労働行為に当たらないとして救済申立を棄却したところ、組合はこれを不服として再審査を申し立てた。

III 命令の概要
 1 主文
  本件再審査申立てを棄却する。
 2 判断の要旨
(1) 本件救済申立ては不適法であるとの会社の主張について
 一般に企業が部門の廃止等組織の変更を行うことは、本来営業の自由の範囲に属する事柄であって、当該企業が自らの裁量で決定し得るものであり、そのこと自体は不当労働行為になることはないのが原則である。しかし、このような営業の自由に基づく行為も、他の法律による制限があればこれに服すべきことは当然であって、部門の廃止等組織の変更であっても、それが不当労働行為に該当する場合には、労働委員会における救済の対象となることはいうまでもないことである。したがって、運転区廃止は救済の対象となり得ないとする会社の主張は理由がない。
 また、会社は、運転区の再開を命ずる命令は営業の自由を制限し労働委員会の裁量権を逸脱し違法であると主張するが、初審命令は運転区閉鎖について不当労働行為には該らないと判断したので、このような救済命令は出されておらず、会社の主張は仮空の事実についてのものであり、全く理由がない。
(2) 勝浦運転区廃止及び鴨川運輸区設置について
 運輸区設置は、従来会社がとってきた業務運営の効率化に沿うものであり、乗務員育成の一元化を図ってきた経営方針にも見合うものであって、会社の施策として特に不合理な要素は見当たらず、全社的に展開された施策であることからみると、運輸区設置が特に組合ないし支部の排除を意図してなされたということはできない。
 また、組合は、系統意識の払拭はできず、多大な費用を要するなど経営上の合理性が認められないと主張するが、いずれも運輸区設置という施策を立案・決定する際の会社の費用・効果等の評価、計算の問題であって、仮に組合の主張とおりであるとしても、運輸区設置、すなわち運転区廃止が経営方針として合理性を否定されることにはならない。
 組合は、鴨川の過疎化、乗務率の減少等をあげ、鴨川運輸区設置が支部解体の意図でなされたと主張するが、運輸区をどこに設置するかは経営上かなり高度の政策的な判断である上、運転士便乗の減少や要員削減が実現されたという事実が認められる。
 さらに、当時会社と組合の間には多くの紛争があり、また本件における工事直前までの情報開示の不十分さや団交の経緯等組合が不満としている事情をあわせ考えても、それだけで会社が組合排除のために鴨川に運輸区を設置したと断定するのは無理である。
 したがって、鴨川に運輸区を設置したことには相応の理由があると認められ、勝浦運転区廃止及び鴨川運輸区設置は労働組合法第7条第3号の支配介入に該らないとした初審命令の判断は正当である。
(3) 鴨川運輸区設置に伴う人事異動について
 運転士の異動は、(1)車掌経験のある者、(2)指導操縦者に指定されている者又は今後指定可能な者、(3)小集団活動・提案活動に積極的な者の3つの基準のいずれかに該当した者を前提に、本人の希望、年齢、通勤駅等を考慮して決定されたものであって、人選の基準として十分理解でき、特に不合理な点はない。また、勝浦運転区の運転士については、本人の希望、年齢、通勤駅等を考慮して人選がなされているが、これは3つの基準に該当する者がいなかったためであり、このような事情を考えれば、勝浦運転区の運転士についてのやり方が不合理で不公平な人選方法であるとはいえない。
 勝浦運転区の運転士には、個人面談により異動希望が聴取された。その結果、組合員57名のうち第1希望又は第2希望に異動した者が54名であった。また、第1希望に鴨川運輸区をあげ、第2希望を申し出なかった3名は千葉運転区に異動となり、通勤時間が従来より80分ないし90分長くなったことが不利益に当たるとしても、都市手当として基本給の10%が支給されるなど経済的な補償がなされており、人事異動は人選の方法及び結果とも妥当なものであったといえる。
 もっとも、勝浦運転区の運転士の希望調査は、鴨川運輸区の準備区が設置され、それに伴う異動者がほとんどJR総連所属の組合員で占められた事態の後になされており、この点における会社の対応は、組合員らに対する配慮に欠けるところがあったと言わざるを得ない。
 組合は、組合員の人事異動により組織、活動に重大な影響を及ぼしたとして、南房地区最大拠点の喪失、組合帰属意識の希薄化等の不利益を主張しているが、いずれも抽象的又は一般的な主張であって、具体的な疎明がなされておらず、採用の限りではない。
 よって、人事異動が組合の活動に打撃を与え、組合を弱体化させる意図でなされたとは到底いえず、労働組合法第7条第1号の不利益取扱い及び第3号の支配介入に該らないとした初審命令の判断は相当である。

【参考】
 1 本件審査の概要
  初審救済申立日  平成 7年10月 4日(千葉県労委平成7年(不)第3号)
  初審命令交付日  平成12年 3月14日
  再審査申立日  平成12年 3月31日

トップへ