平成18年6月20日
中央労働委員会事務局第二部会担当
審査総括官  神田義宝
 Tel 03−5403−2172
 Fax 03−5403−2250


西日本旅客鉄道(西労金沢)不当労働行為再審査事件
(平成9年(不再)第44号)命令書交付について


 中央労働委員会第二部会(部会長 菅野和夫)は、平成18年6月20日、標記事件に係る命令書を関係当事者に交付したので、お知らせします。
 命令の概要は、次のとおりです。

I 当事者
 再審査申立人 ジェーアール西日本労働組合(「西労」)(大阪市此花区)
    組合員 約1,200名(平成17年1月現在)
   同 ジェーアール西日本労働組合金沢地本(「西労金沢地本」)(石川県河北郡)
    組合員 約180名(平成10年12月現在)
 再審査被申立人 西日本旅客鉄道株式会社(「会社」)(大阪市北区)
    従業員 約47,000名(平成8年11月)

II 事案の概要
 本件は、(1)会社の金沢運転所の総務科長Y及び運転科長Mが、西労金沢地本の金沢地区分会F組合員に対し、平成6年7月から8月にかけて、西労脱退を慫慂したこと、(2)Mが西労金沢地本の分会に所属するA組合員に対して同年8月に西労脱退を慫慂したこと、(3)西労金沢地本の分会に所属する組合員らに対し、助役等が西労からの脱退を慫慂したこと、(4)金沢運転所にある組合掲示板に貼付された掲示物の撤去を助役等が要請したことが労働組合法第7条第3号に規定する支配介入の不当労働行為に該当するとして救済が申し立てられた事件である。
 初審石川県労委は、本件申立てを棄却したところ、組合はこれを不服として再審査を申し立てた。

III 命令の概要
 1 主文の要旨 
(1) 初審命令主文を次のとおり変更
(2) 西労に所属する組合員に対し、会社の職制を利用しての脱退慫慂の禁止
(3) (2)に関する文書交付
(4) その余の本件救済申立ては棄却

 2 判断の要旨
(1) F組合員に対するY・M両科長の言動等
 Y・M両科長の言動等が脱退慫慂に当たるのか、当たるとして、西労組の組合活動としてなされたのか職制の立場でなされたものであるか。
(ア) Y・M両科長が、F組合員に西労から脱退し、西労組に加入するよう慫慂したことについては、両科長が自陳している。
(イ) Y・M両科長の行為は、西労組の組合員としての組合活動の側面があることも考えられる。
(1) しかし、Y科長は、F組合員の上司であるM科長を誘い、両科長が協力してF組合員に対し脱退慫慂を行っている。
(2) また、Y科長はF組合員の勤務を、M科長を通じ、同科長の権限で他の日に変更までして同人と会っている。
(3) さらに、Y科長は脱退候補者の選定のため、業務上のデータを整理・編集して作成した運転士名簿をF組合員に渡している。
(4) Y・M両科長は西労組の役員ではなく、組合活動を積極的に行っていたことの立証はなく、また、Y科長のF組合員の西労組への勧誘につき、西労組役員と連携がとられていたことを認めるに足りる証拠はない。
(5) F組合員に対する働きかけを行った際の費用等をY科長若しくは両科長が負担しているが、両科長は西労組の中でそのような負担をしてまでF組合員に対し働きかけを行う立場にあったとは認められない。
 以上の事実を総合すれば、両科長の本件F組合員に対する脱退慫慂は、西労組組合員の立場で行われたというよりむしろ職制の立場で行われたものとみるのが相当である。
 本件F組合員に対する脱退慫慂を会社に帰責できるか。
(ア) Y・M両科長のように組合員資格を有する職制が行った言動等が、使用者たる会社に帰属し、これが労働組合法第7条第3号の支配介入に当たるか否かについては、会社の代表者又は上層部が、行為者に対し、当該行為についての指示を行っていた場合に帰責が認められるのは当然であるが、そのような指示が認められない場合にあっても、行為当時の労使事情、会社の代表者又は上層部の言動、行為者の地位・権限、行為の内容及び影響力、その時期及び場所、使用者が当該行為につきとった態度、他の同種の行為の有無等の諸事情を総合的に勘案し、行為者が、使用者の意を体して当該行為を行ったと認められるときには、当該行為の責任は使用者に帰責されるとするのが相当である。
(イ) これを本件についてみると、会社が、Y・M両科長に対し、F組合員の脱退慫慂を指示した等の事実の立証はないが、以下の事実が認められる。
(1) 会社の代表者は、JR総連に批判的な立場をとっていたが、JR総連に加入している西労は、平成4年及び5年には数次に渡るストライキを行っていた。このことに加え、本件当時、会社の社長が「一企業一組合」が最も望ましい姿だと思いますと述べていることからすると、会社は、ストライキに肯定的な立場をとる西労を好ましからぬ組織と考えていたものと推認することができる。
(2) Y・M両科長は、金沢運転所で所長を補佐し、Y科長は総務科(16名)の責任者として、所全体の庶務・経理・資財その他契約・社員の厚生事務等の業務を、M科長は運転科(211名)の責任者として、動力車の運転・乗務員の運用、運転士の指導等の業務を担当していた。そして、両科長ともこれら業務の一環として、所属する社員の執務状況を把握し、人事を行う上で参考とする所長の所見の基礎となる報告を所長に行っていたのであるから、このことを通して、人事等についても事実上一定の影響力を有していたものと認められる。
(3) 本件F組合員に対する脱退慫慂は、会社の施設外において、かつ就業時間外においてなされているが、Y科長はF組合員の上司であるM科長を誘い、Y・M両科長は職権でF組合員の勤務変更を行ってまで、同組合員への働きかけを行っている。
(4) Y科長がM科長を通じて行った勤務変更について、Y科長は所長及び支社人事課長から、M科長は所長から口頭注意を受けているが、職権を用いて組合活動のために勤務変更を行ったことに対する会社の対応としては軽すぎる措置と言わざるを得ない。
(5) F組合員に対する働きかけ及びA組合員に対する働きかけは、同時期(平成6年8月)に行われており、しかもM科長がいずれにも関与している。
(ウ) 本件行為の内容・性格及び本件行為当時の労使事情、会社の代表者の発言、Y・M両科長の地位・権限、本件行為に対する会社の対応、本件行為の時期等を総合的に勘案すると、本件脱退慫慂は、Y・M両科長が、西労を好ましからぬ組織と考える会社の意を体し、総務科長・運転科長の立場で行ったと認めるのが相当であり、会社に帰責されて然るべきものである。
 よって、本件F組合員に対する脱退慫慂は、労働組合法第7条第3号の支配介入に該当する。
(2) A組合員に対するM科長の言動について
 M科長の言動が実際に存在したか、存在したとして西労組の組合活動としてなされたのか職制の立場でなされたものであるか。
(ア) A組合員の陳述書及び同組合員の初審における証言は、脱退慫慂に当たる事実を具体的に述べたものであり、認定の基礎とするに足りるものである。
(イ) M科長はA組合員に対し、「意識改革してくれんかな」と述べ、その際メモ用紙に分会の西労組合員の数を書き、「ストをする連中や、こんなにたくさんおる職場はない。」と述べているが、このことは、A組合員に対し、ストライキを行う西労から脱退し西労組への加入を慫慂したものとみるのが相当である。また、これに続け、「君も60までこの職場で働きたいやろ」と述べたことは、西労に所属していると配置の点で不利益を被ることを示唆したものといえる。そして、当該言動は運転科長室で行われていること、M科長は西労組の役員などではなく、組合活動を積極的に行っていたこと等の立証はなされていないことから、本件A組合員に対する脱退慫慂は、職制の立場で行われたものとみるのが相当である。
 M科長の本件行為を会社に帰責できるか。
 会社がM科長に対し、A組合員の脱退慫慂を指示した等の事実の立証はないが、(1)M科長はA組合員の上司で211人を擁する運転科の責任者であり、転勤等の人事にも事実上一定の影響力を有していたと考えられること、(2)M科長は、職制の立場を利用し、A組合員に対し、西労に所属していると不利益を被ることを示唆するような言動をしていることが認められ、諸事情を併せ考慮すると、本件A組合員に対する脱退慫慂は、同科長が、西労を好ましからぬ組織と考える会社の意を体して行ったと認めるのが相当であり、会社に帰責されて然るべきである。
(3) その他の西労組合員に対する言動等について
 F組合員及びA組合員以外の西労組合員に対する言動等については、いずれも労働組合法第7条第3号に該当する支配介入を構成する具体的な事実が疎明されているとはいえない。
 よって、F組合員及びA組合員以外の西労組合員に対する言動等について救済申立てを棄却した初審判断は相当である。
(4) 組合掲示物の撤去要請について
 本件では、(1)会社が撤去を求めた掲示物の内容には一部表現が不適切であると思われるものがあることや推測によると思われるものもの等が含まれており、職場規律保持の観点から、会社が撤去を求めたことに一応の理由があると認められること、(2)会社は、組合掲示物の撤去要請をしたにとどまり、組合がこれに応じない場合にも自ら撤去するようなことは行っていないこと、(3)撤去したものにあっては、会社からの要請があったものと認められるが、当該要請が不当な方法で行われたとは認められず、撤去も組合の意思により行われていることからすると、本件会社の撤去要請のみをもって労働組合法第7条第3号に該当する支配介入とまではいえない。

【参考】
 本件審査の概要
 初審救済申立日  平成6年11月24日(石川県労委平成6年(不)第3号)
 初審命令交付日  平成9年9月27日
 再審査申立日  平成9年10月8日(中労委平成9年(不再)第44号)

 初審命令主文  本件申立てを棄却する。

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