平成18年3月30日
中央労働委員会事務局
審査総括官 熊谷正博
Tel 03−5403−2172
Fax 03−5403−2250


エッソ石油(山口職種変更)不当労働行為再審査事件
(平成10年(不再)第13号)命令書交付について


 中央労働委員会第三部会(部会長 荒井史男)は、平成18年3月30日、標記事件に係る命令書を関係当事者に交付しましたので、お知らせします。命令の概要等は、次のとおりです。

I 当事者
 再審査申立人 スタンダード・ヴァキューム石油自主労働組合(豊中市) 組合員数33名(17.9.27現在)
 スタンダード・ヴァキューム石油自主労働組合西日本合同分会連合会(北九州市)
組合員数6名(17.9.27現在)
 再審査被申立人 エクソンモービル有限会社(東京都港区)従業員数約900名(17.9.27現在)

II 事案の概要
 本件は、会社が、平成4年5月18日付けで社有タンクトラックによって行う石油製品の配送業務を廃止したことに伴い、同日付けで組合員のUをドライバーからプラントマンに職種変更したことが不当労働行為であるとして申立てがあった事件である。
 同10年3月23日、初審山口県労委は、救済申立てを棄却したところ、組合らはこれを不服として、同月31日に再審査を申し立てた。

III 命令の概要
 1 主文
 本件再審査申立てを棄却する。
 2 判断の要旨
(1) 亡U名義の再審査申立てと本件再審査の対象について
 Uは、初審係属中の平成7年8月22日に死亡したのであるから、同人の救済申立ては、労働委員会規則(平成16年中労委規則第2号による改正前のもの)第34第1項第7号により却下されるほかはない。そして、U本人名義の再審査申立書が提出されているが、これは本人の意思に基づく余地のない当然に無効の申立てであり、本件再審査の対象とならない。したがって、この命令書において当事者として表示したり、主文において再審査を却下するなどの処理はするまでもない。
(2) 本件職種変更について
 社有タンクトラック職場の全廃に係る業務上の必要性について
 会社は、社員ドライバーによる配送は契約ドライバーに比べ経済性及び配送の柔軟性の点で劣っていることから、配送部門の合理化及び効率化の一環として、従来から契約ドライバーへの切替えを推進してきており、その動向は同業他社においても同様であった。また、会社においては、本件職種変更を組合に通知した時点で、社員ドライバーによる配送をしているのは会社のみであったことから、配送部門の合理化、効率化を早急に行う必要性があったこと、石油各社においても、物流面での合理化及び効率化が進められていたこと等を考慮すると、会社が社有タンクトラック職場の全廃を決定したことは、より合理的かつ効率的な配送業務の遂行を目指した経営政策上の判断に基づくものであったと解するのが相当である。
 本件職種変更に係る団交の経緯について
 会社は、平成2年7月26日に社有タンクトラック職場の全廃を組合に通知して以来、同4年5月18日の本件職種変更実施日まで計18回にわたり本部団交を行っており、その中で、同職場を全廃する背景事情や業務上の必要性等を説明し、組合の質問に対しても、可能な限り具体的数字を示して詳細に回答していた。他方、組合は、同年4月6日の団交の席で、会社提案を暫定的に受け入れる旨表明していた。
 これら一連の団交経過をみれば、社有タンクトラック職場の全廃と本件職種変更については、組合の暫定了解の意向を受けて会社が決着済みと考えたことに無理もなく、組合がその撤回を求める限り、もはや団交の余地はなかったというべきであるから、会社がこれを断ったとしてもやむを得ないというべきである。そして、少なくとも一連の団交における会社の対応に、本件職種変更の不当労働行為性を根拠付けるような事実を見いだすことはできない。
 Uと会社との間の職種及び勤務地限定の合意の有無について
 会社として、従業員採用時に職種及び勤務地を限定した雇用契約書を取り交わした例はなく、Uについても同様であったこと、また、Uが採用された当時の会社の就業規則及び入社当時所属していた他組合と会社の労働協約の中に、従業員の配転に関する定めがあったことを合わせ考えると、Uと会社との間に職種及び勤務地を限定する黙示の合意があったことを認めることは到底無理であり、他にそのような合意の存在を窺わせる事情を見いだすことはできない。
 本件職種変更に伴うU及び組合活動の受けた不利益について
 本件職種変更により、Uの職制上の地位、基本的な給与形態、実質的な手取給与額、1週間の総労働時間、休暇日数、勤務場所等の労働条件には変更がなく、更に組合活動上格段の不利益があったとも認められない。
 そうすると、本件職種変更が会社の業務上の必要性に基づき、会社の社員ドライバー全員について所属組合とは関係なく実施され、その実施過程においても組合に団交の席で十分説明し、理解を得るべく相当の回数にわたって団交を行った経過をも考慮すると、会社が組合を嫌悪し、弱体化する意図をもって本件職種変更を行ったとは到底いえない。
 分会連との団交について
 分会連は本件職種変更後の平成4年9月20日に結成され、同5年9月16日に初めて分会連と会社間で団交が行われたが、この団交において、分会連がUに対する本件職種変更を撤回し、社有タンクトラック職場の再開などを求めたところ、会社は本部団交で解決済みで、分会連団交の議題とはならない旨主張し、平行線のまま推移していた。そうであれば、本部団交でも、社有タンクトラック職場の全廃と本件職種変更については、組合の暫定了解の意向を受けて、会社が決着済みと考えたことに無理がなかったといえ、分会連がその撤回を求める限りは、団交の余地はなかったといえるから、この会社の対応をもって不誠実ということはできない。

【参考】 本件審査の経過
  初審救済申立日 平成 5年 2月24日(山口県労委5年(不)第1号)
  初審命令交付日 平成10年 3月23日
  再審査申立て 平成10年 3月31日

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