平成18年3月14日
中央労働委員会事務局
  第二部会担当審査総括室
    室長   神田 義宝
 Tel 03−5403−2162
 Fax 03−5403−2250

上原学術研究所不当労働行為再審査事件
(平成14年(不再)第41号) 命令書交付について


 中央労働委員会(会長 山口 浩一郎)は、平成18年3月13日、標記事件に係る命令書を関係当事者に交付したので、お知らせします。
 命令の概要等は、次のとおりです。

I 当事者
 再審査申立人 北大阪合同労働組合 [組合員168名(平成16年10月現在)]
 再審査被申立人 財団法人上原学術研究所 [従業員約20名(平成12年2月現在)]

II 事案の概要
 1 本件は、財団法人上原学術研究所(以下、「財団」)が、ア)平成12年2月18日、検診事業の廃止及び北大阪合同労働組合(以下、「組合」)の組合員4名を含む事業部全員の解雇ないし雇い止めを通告したこと(以下、「検診事業の廃止等」)、イ)同年3月15日付で組合が申し入れた@)組合員全員の解雇を撤回すること(以下、「解雇撤回」)、A)平成9年度決算書の使途不明金3,000万円を財団に返還すること(以下、「使途不明金」)、B)平成4年度及び5年度に分割支給されたΑの退職金支払いに関する理事会議事録の開示及び説明(以下、(Α退職金」)、C)平成8年度中に支出された仮払金について、計上した決算書の項目の明示(以下、「仮払金」)、D)Βの退職金が返還された日付の開示(以下、「Β退職金」)、E)平成8年度及び9年度の出納責任者、経理事務担当者名の開示(以下、「経理担当者」)、F)平成11年8月の短期借入金の借入先及び借入年月日の開示(以下、「短期借入金」)、G)検診事業部の廃止及び全事業部職員の解雇を決議した評議員会の開催年月日、場所及び出席評議員の開示(以下、「評議員会」)、H)平成11年度冬季一時金のゼロ回答根拠の明示(以下、「冬季一時金」)、I)平成12年度給与の昇給(以下、「昇給」)の10項目に関する団交(以下、「10項目要求に関する団交」)に応じなかったことが、それぞれ不当労働行為であるとして、ア)については平成12年4月11日、イ)については同年5月11日に救済申立てのあった事件である。

 2 初審大阪府労委は、平成14年8月27日、組合の申立てについて棄却したところ、組合はこれを不服として、同年9月6日、再審査を申し立てたものである。

III 命令の概要
 1 主文  本件再審査申立てを棄却する。

 2 判断の要旨
(1) 検診事業の廃止等について
 財団の検診事業収入の推移をみると、平成8年から減少傾向にあり、特に平成11年には大口の顧客離れ等により同収入が大幅に落ち込んでいることが認められ、財団の検診事業収入の減少は、財団による作為的な操作であったとまではいうことができない。更に、平成11年9月頃から、組合が行った財団経理の不正等について抗議する旨の活動や、平成12年1月のスト権確立宣言及びその旨の顧客への通知の後に、多くの顧客は態度を保留した状況が認められ、組合の行った顧客への抗議活動による顧客離れもその一因となったことは否めない。そうすると、財団の使途不明金などの説明において不自然な点は拭えないものの、平成12年度においても赤字が続くことが予想される状況において、検診事業の継続が困難であると財団が判断したことは、あながち不合理であるとはいえない。
 財団の短期借入金については、かつて財団と業務提携があった会社(以下、「会社」)の子会社からの借入金であることが認められ、借入金が架空のものであるとする組合の主張を採用することはできない。
 財団の検診事業の廃止について、会社の関与により診療所の閉鎖を行った旨、会社の営業推進本部課長であるCが本件審問で証言しているが、同証言は直接知り得たものではなく、伝聞や推測で一貫していないため直ちに信用できない。また、平成11年度時点での財団の評議員には会社の関係者は見当たらず、財団理事についても、財団の検診事業廃止の平成12年4月3日、会社常務の紹介により就任した理事長のみで、金銭の貸借関係にあったとしても、会社が財団を支配するに至っていたとまでは言えない。
 以上より、財団の収支の悪化を主因に事業の継続が図れないために検診事業の廃止等が決定されたものであるから、財団の検診事業の廃止と事業部職員の全員解雇を偽装とし、組合員の排除を目的とした不当労働行為であるとはいえない。
(2) 3月15日付けの10項目要求に関する団交について
 「解雇撤回」及び「昇給」については、平成12年1月27日、同年2月3日及び2月15日の団交において、財団は組合に対し、検診事業部の廃止と事業部の職員全員解雇を通告するとともに事業部閉鎖等の理由を説明しており、同年2月16日及び17日、財団理事会が持ち回りで開催され、再度検診事業部の廃止及び事業部職員全員の解雇が決議された後の、同年2月18日、同年3月13日、同年7月11日及び8月10日の団交においても同様の説明を行ったことが認められる。また、財団は、3月20日の解雇の後、組合による3月15日付けの10項目要求に関する団交申入れについて直ちに対応しなかったものの、組合の主張は一貫して検診事業の再開と解雇の撤回を求めるものであるから、1月27日以降の団交において、検診事業の廃止と事業部職員全員の解雇についての理由を説明し、かつ、7月11日及び8月10日の団交によっても同様の説明を行ったことからすれば、財団は団交に誠実に応じていないとまではいえない。
 なお、個々の会計処理の適否を問うことは、組合員の労働条件や雇用に直接影響を及ぼす事項であるとまではいえず、組合の主張は採用できない。
 「冬季一時金」については、検診事業の廃止に関しての説明に際し、収支の実績・見込みが説明されており、平成11年度の急激な検診事業収入の減少と顧客離れの状況に関しては、2月15日、同18日及び3月13日の団交において説明され、財団の説明で十分な理由があると認められる。従って、7月11日及び8月10日の団交において、冬季一時金をゼロ回答とした根拠について、更に説明しなかったとしても、検診事業の廃止理由と相当程度重複することを併せて考えるならば、財団の対応が著しく不誠実であったということはできないと判断するのが相当である。
 「使途不明金」、「仮払金」、「短期借入金」並びに「Α退職金」及び「Β退職金」について、財団の事業存続が困難となった主な原因は、事業収入の急激な減少と顧客離れによるものと認められ、使途不明金や短期借入金で組合が主張するような横領や借入金自体のねつ造についても疎明がないと言わざるを得ない。財団は、3月13日開催の団交以降、主要な点の説明をしているのであるから、同じ説明を繰り返し組合と平行線のまま膠着状態であったとしても、財団の回答が著しく不誠実な対応であったとまでいえない。「評議員会」及び「経理担当者」についても、評議員会の開催記録や経理の監督者及び経理内容が一定程度開示されていることが認められるほか、評議員の氏名についても、審査の過程で既に示されていること、また、経理内容の真偽の確認のためであるにしても、団交での経理内容の説明責任は使用者が負うのであって、経理担当者は職務行為として行ったに過ぎないことから、財団として、経理担当者の氏名までを必ずしも開示する必要はなく、財団の対応は不誠実なものであるとはいえない。

 【参考】
 1 本件審査の概要
初審救済申立日 平成12年4月11日(大阪12不25)、同年5月11日(大阪12不31)
初審命令交付日 平成14年8月27日
再審査申立日 平成14年9月6日

 2 初審命令主文要旨
本件申立てを棄却する。



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