平成16年11月5日
中央労働委員会事務局
審査室長 西野幸雄
TEL 03−5403−2169
FAX 03−5403−2250

大塚製薬不当労働行為再審査事件(平成15年(不再)第38号)命令書交付について


 中央労働委員会(会長 山口 浩一郎)は、平成16年11月4日、標記事件に係る命令書を関係当事者に交付したので、お知らせします。
 命令の概要等は、次のとおりです。

I 当事者

 再審査申立人 大塚製薬株式会社(「会社」という。)
 (東京都千代田区、 従業員5,200名(平成14年11月現在))

 再審査被申立人 大塚製薬労働組合(「組合」という。)
 (徳島県徳島市、組合員3名(平成14年11月現在))

II 事案の概要

 1 本件は、会社が行った文書の掲示及びアッセイ研究所長の言動が、組合に対する支配介入の不当労働行為であるとして争われた事案である。
 会社は、平成14年7月8日、同社のライフサイエンス事業部に属するアッセイ研究所を、株式会社BMLに事業譲渡することを決定し、このことに伴い、アッセイ研究所に所属するシステム室オペレーター担当を除く従業員(以下「転籍対象者」という。)はBMLに転籍となること、転籍できない場合は退職となることを発表した。転籍対象者は、会社に対し、転籍又は退職いずれかの意思表示をしたが、同年8月11日、転籍対象者の内の2名が、組合を結成し、転籍・退職の白紙撤回などを要求して、転籍・退職問題について争うこととなった。
 組合は、これらの状況の下で、(1)会社が、ライフサイエンス事業部のT事業部長名で社内イントラネット掲示板に従業員の組合加盟を阻止する文書を掲示したこと、(2)アッセイ研究所のI所長が同研究所に所属するK組合員に対して組合からの脱退を慫慂したことが、それぞれ不当労働行為であるとして、救済申立てを行った事件である。
 2 初審徳島地労委は、上記1(2)のI所長による脱退慫慂は支配介入の不当労働行為に当たるとして、会社に対し、会社管理職による脱退慫慂の禁止及び文書手交を命じ、その余の申立てを棄却する旨の一部救済命令を交付した。
 会社は、上記初審命令の救済部分を不服として、再審査を申し立てたものである。

III 命令の概要

 1 主文
 本件再審査申立てを棄却する。

 2 判断の要旨
(1) I所長の発言内容について
 (1)転籍に関する判決が出た時に組合を抜けてBMLに世話になりたいと言っても難しい旨の発言は、転籍に関する裁判の結果が出てから組合を脱退しても、BMLへの転籍は難しいという趣旨と解される。また、(2)世間一般では組合員であることで就職も難しい条件に入る旨の発言は、転籍・退職撤回を要求する組合活動を続けていると、再就職等において不利になるという趣旨と解される。(3)今回辞めた方が良いと思う旨の発言は、Kに対して組合からの脱退を促しているものである。以上のとおり、I所長の発言は、いずれも組合員であることや組合活動を続けることによる不利益を示唆しているものであって、K組合員に対して、組合を脱退するよう働きかけたものというべきである。
(2) 会社の不当労働行為責任について
 T事業部長からI所長に対して、本件所長発言に関する何らかの指示があったのではないかという疑念は残るものの、初審判断のように脱退慫慂の指示があったものと推認されるとまではいえない。
 しかしながら、I所長は、会社の経営と組合への対応について相当程度の権限を持つ上級管理者の地位にあり、労組法上は監督的地位にある者(労組法2条但書1号)とみることができる。
 また、会社と組合は、本件の転籍・退職問題をめぐって対立した関係にあり、会社としては、BMLへの事業譲渡期日を目前にして、従業員の退職・転職問題を解消することが喫緊の課題となっていた。
 このような事情からすると、本件I所長の発言は、会社の利益を代表し、監督的地位にある上級管理者(労組法2条但書1号)として、従業員の転職・退職問題を解消すべく、K組合員に対して、組合からの脱退を働きかけたと推認されるものであり、会社に帰責しうるものであって、組合からの脱退を慫慂した支配介入として、労組法7条3号の不当労働行為に該当する。


【参考】

 1 本件審査の概要
 初審救済申立日 平成14年11月1日(徳島地労委平成14年(不)第1号)
 初審命令交付日 平成15年7月20日
 再審査申立日 平成15年7月31日(使)

 2 初審命令主文要旨
(1) 会社管理職による脱退慫慂の禁止
(2) ((1)に関する)文書交付
(3) (組合の)その余の申立ては棄却



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