平成16年7月9日
中央労働委員会事務局審査第三課
審査第三課長   熊谷 正博
Tel 03−5403−2162
Fax 03−5403−2250

奈良新聞社不当労働行為再審査事件(平成15年(不再)第12号)
命令書交付について


 中央労働委員会(会長 山口浩一郎)は、平成16年7月9日、標記事件に係る命令書を関係当事者に交付しましたので、お知らせします。
 決定の概要等は、次のとおりです。

I 当事者
 再審査申立人 株式会社奈良新聞社(奈良市)
 再審査被申立人 奈良新聞労働組合(奈良市)
  組合員数約40名(15年11月17日現在)
 個人 A

II 事案の概要
 本件は、会社が、(1)組合の副執行委員長であるAを、販売店から受領した保証金の一種である信認金を着服したとして懲戒解雇処分に付し、同処分に関する団体交渉に応じなかったこと、(2)平成13年度ベースアップ、夏季一時金要求(以下「13年度ベア等」という。)に関する団体交渉を、根拠資料の開示等をせず誠実に行わなかったこと、(3)組合が組合ニュースの表現を撤回しなかったことや被解雇者のAが出席していることを理由に団体交渉に応じなかったことが不当労働行為であるとして、申立てがあった事件である。
 15年2月24日、奈良地労委は、会社に対し、(1)13年度ベア等の要求に関し、具体的に説明する資料を示すなどして誠意をもって団体交渉しなければならないこと、(2)解雇問題に関し、事情を説明するなどして団体交渉しなければならないこと、(3)組合ニュースの表現やAの出席を理由に団体交渉を拒否してはならないことを命じた。会社は、これを不服として再審査を申し立てた。

III 命令の概要
 主文
 再審査被申立人Aに対する本件再審査申立てを却下し、その余の本件再審査申立てを棄却する。

 判断の要旨等
(1) 解雇問題に関する団体交渉について
 組合は、解雇処分の直後から会社に対し、解雇問題を議題とする団体交渉の開催を求めていたが、会社は、「本人が一番よくわかっているから会社側がそのことについて説明する必要はない。」などと述べて団体交渉に応じなかった。
 また、会社は、解雇問題は協議事項ではないとして応じず、組合の解雇問題への対応を非難する内容の文書を全社員に配付するなど、組合からの団体交渉の申入れを無視する態度を取り続けていた。
 以上のことからすれば、会社が、組合の団体交渉申入れに応じなかったばかりでなく、裁判所や労働委員会で争われているなどと主張して団体交渉を拒否し続けていることは正当な理由があるとはいえないから、労組法第7条第2号に該当する不当労働行為に当たる。
(2) 13年度ベア等に関する団体交渉について
 経営資料の提出について
 組合は、会社が提示した「資金繰予算表」と「売上予算実算比較表」の資料だけでは会社回答の根拠が明らかにならないとして、人件費総額等の経費等に関する資料の提出を求めたが、会社は、提示資料で十分であるとしてこれに応じていない。そして、会社がベアをゼロとする根拠として人件費等の固定費の節減を挙げ、組合がその理由について疑問を持ち、資料の提示と説明を求めている場合には、会社は資料を示すなどして具体的に説明する必要があるというべきである。
 しかるに、会社は、3回に渡って行われていた団体交渉の途中で、組合ニュースの表現の撤回を持ち出し、7月以降はAの出席を理由にその後の団体交渉を拒否し、しかも、ベア等については本件再審査結審時においても未妥結の状態であることも併せ考えれば、会社は組合に対し、13年度のベア等について資料を示すなどして具体的な説明を尽くしたとは認められないから、労組法第7条第2号に該当する不当労働行為に当たる。
 組合ニュースの表現をめぐる会社の対応について
 会社は、組合が「不誠実・無責任な態度に怒り」との見出しの組合ニュースを発行したことに対し、見出しの表現を撤回しなければ団体交渉に応じることはできないなどとして団体交渉を拒否し続けている。会社が組合ニュースに記載された字句を取り上げて団体交渉を拒否し続けることは、労組法第7条第2号に該当する不当労働行為に当たる。
 Aの団体交渉出席をめぐる会社の対応について
 会社がAの出席を理由に団体交渉を拒否したことは、Aを交渉委員として団体交渉に臨もうとした組合の自主的な判断に容喙し、自己の立場に固執して団体交渉を拒否したものであり、労組法第7条第2号に該当する不当労働行為に当たる。
 ところで、会社は、奈良地労委からの審査の実効確保の措置勧告後はAの出席を理由に団体交渉を拒否してはいないことなどから初審命令は意味がなくなっていると主張するが、15年に至ってもAが出席していることについて不満を述べていることからすれば、会社が再び同様の行為を繰り返すおそれがなくなったとまではいえないから、会社の主張は採用できない。
(3) Aに対する本件再審査申立てについて
 本件初審命令においてAの解雇問題に関する救済申立ては棄却され、本件再審査においては、組合を相手方とする団体交渉に関わる事項のみが争われているのであるから、A個人を再審査被申立人とする本件再審査申立ては、その利益を欠くものであり、却下を免れない。

【参考】
 本件審査の経過
  初審救済申立日 13年10月 1日 (奈良地労委 13年(不)第1号)
  初審命令交付日 15年 3月 1日
  再審査申立て 15年 3月13日



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