総合福祉部会 第19回 H24.2.8 参考資料4 藤岡委員提出資料 骨格提言と障害者制度改革を愚弄する厚生労働省案 第19回 総合福祉部会   平成23年2月8日       藤 岡 毅  前日に事務局から送られてきた「厚生労働省案」。  骨格提言を無視した内容であり、委員として到底こんなものを法案として認 めることは出来ません。  この障害者制度改革は障害者自立支援法を廃止することを大前提として委員 は議論、発言してきました。ところが厚生労働案は、障害者自立支援法の名称 を見直すなどとして、障害者自立支援法を維持、存続させることを所与の前提 としており、制度改革の議論の方針そのものを否定、無視するものと厳しく批 判されなければならない。  新法は骨格提言を基本として法案が作成されることを当然のことと委員も全 国で議論を注視する人々も疑うことなき所与の前提としてきました。  ところが厚生労働省案は、障害者自立支援法を基本として本当にそのごくご く一部を手直しするものでしかなく、総合福祉部会が求める、骨格提言を基礎 とした法案でなく、否定し、廃止するべき法の骨組みをむしろ強化・固定化し ようとするものであり、これは国連障害者権利条約の国内法としての総合福祉 法の制定と権利条約の批准を妨げ、障害者の権利を否定する根拠法になりかね ない。  こんなものが法案化されれば、本当にこの国の障害者の生活と権利を将来的 に損ないかねない、私たちの子孫に恥ずかしい悪法をこしらえてしまう。こん なことに加担するわけにはいきません。    政府にお聞きします。 [1] 骨格提言は、改革の理念を謳う前文を制定するべきとしています。  新法に前文を設けますか?  骨格提言では前文について次のように提言しています。   【説明】  全国1000万人を超えると思われる障害者とその家族、支援者、一般国民、 全ての人にとって、今回の改革の経緯と理念が伝わり、障害者総合福祉法の意 義が共有され、さらに、個別規定の解釈指針とするためにも、前文でこの法の 精神を高らかに謳うことが不可欠である。盛り込むべき前文の内容は以下のと おりである。                    記  わが国及び世界の障害者福祉施策は「完全参加と平等」を目的とした昭和 56(1981)年の国際障害者年とその後の国連障害者の十年により一定の進展を遂 げたが、依然として多くの障害者は他の者と平等な立場にあるとは言いがたい。  このような現状を前提に、平成18(2006)年国連総会にて障害者権利条約が 採択され、わが国も平成19(2007)年に署名した。現在、批准のために同条約の 趣旨を反映した法制度の整備が求められている。  障害者権利条約が謳うインクルージョンは、障害者が社会の中で当然に存 在し、障害の有無にかかわらず誰もが排除、分離、隔離されずに共に生きてい く社会こそが自然な姿であり、誰にとっても生きやすい社会であるとの考え方 を基本としている。  そして、それは、障害による不利益の責任が個人や家族に帰せられること なく、障害に基づく様々な不利益が障害者に偏在している不平等を解消し、平 等な社会を実現することを求めるものである。  とりわけ人生の長期にわたって施設、精神科病院等に入所、入院している 障害者が多数存在している現状を直視し、地域社会において、自己決定が尊重 された普通の暮らしが営めるよう支援し、地域生活への移行を推進するための 総合的な取り組みを推進することが強く求められる。  そのうえで、障害者の自立が、経済面に限らず、誰もが主体性をもって生 き生きと生活し社会に参加することを意味するものであり、また、この国のあ るべき共生社会の姿として、障害者が必要な支援を活用しながら地域で自立し た生活を営み、生涯を通じて固有の尊厳が尊重されるよう、その社会生活を支 援することが求められていることを国の法制度において確認されるべきである。  この法律は、これらの基本的な考え方に基づき、障害の種別、軽重に関わ らず、尊厳のある生存、移動の自由、コミュニケーション、就労等の支援を保 障し、障害者が、障害のない人と平等に社会生活上の権利が行使できるために、  また、あらゆる障害者が制度の谷間にこぼれ落ちることがないように、必要 な支援を法的権利として総合的に保障し、さらに、差異と多様性が尊重され、 誰もが排除されず、それぞれをありのままに人として認め合う共生社会の実現 をめざして制定されるものである。 ……………………………………………………………………………………………   こういう前文を設けている法案なのですね?   [2] 法の目的   骨格提言は法の目的条項について次の提言をしています。 ・ この法律の目的として、以下の内容を盛り込むべきである。 ・ この法律が、憲法第13条、第14条、第22条、第25条等の基本的人権や改 正された障害者基本法等に基づき、全ての障害者が、等しく基本的人権を享有 する個人として尊重され、他の者との平等が保障されるものであるとの理念に 立脚するものであること。 ・ この法律が、障害者の基本的人権の行使やその自立及び社会参加の支援のた めの施策に関し、どこで誰と生活するかについての選択の機会が保障され、あ らゆる分野の活動に参加する機会が保障されるために必要な支援を受けること を障害者の基本的権利として、障害の種類、軽重、年齢等に関わりなく保障す るものであること。 ・ 国及び地方公共団体が、障害に基づく社会的不利益を解消すべき責務を負う ことを明らかにするとともに、障害者の自立及び社会参加に必要な支援のため の施策を定め、その施策を総合的かつ計画的に実施すべき義務を負っているこ と。  このとおり、法の目的を定める法案ですか?   [3] 法の目的で確認された地域で自立した生活を営む中核的権利を確認する基 本的権利の保障規定について  骨格提言では次の点が極めて重要な条文として提案されています。  この条項を抜かしてしまえば、「骨格提言の骨抜き」の誹りを免れません。  地域で自立した生活を営む権利として、以下の諸権利を障害者総合福祉法 において確認すべきである。 1. 障害ゆえに命の危険にさらされない権利を有し、そのための支援を受け る権利が保障される旨の規定。 2. 障害者は、必要とする支援を受けながら、意思(自己)決定を行う権利が保 障される旨の規定。 3. 障害者は、自らの意思に基づきどこで誰と住むかを決める権利、どのよう に暮らしていくかを決める権利、特定の様式での生活を強制されない権利を有 し、そのための支援を受ける権利が保障される旨の規定。 4. 障害者は、自ら選択する言語(手話等の非音声言語を含む)及び自ら選択す るコミュニケーション手段を使用して、市民として平等に生活を営む権利を有 し、そのための情報・コミュニケーション支援を受ける権利が保障される旨の 規定。 5. 障害者は、自らの意思で移動する権利を有し、そのための外出介助、ガイ ドヘルパー等の支援を受ける権利が保障される旨の規定。 6. 以上の支援を受ける権利は、障害者の個別の事情に最も相応しい内容でな ければならない旨の規定。 7. 国及び地方公共団体は、これらの施策実施の義務を負う旨の規定。  今回の「厚生労働省案」ではこれらが片鱗も見当たりません。  骨格提言の真髄を理解しようという姿勢は皆無と批判されても仕方ないでし ょう。     今回制度改革で制定しようとしているのは、障害者権利条約の国内法ですから 権利保障法です。  しかし、障害者自立支援法の骨組みは、市場原理にサービス供給を委ね、法は 支援サービスメニューを羅列するだけと違憲訴訟で批判されました。  障害者支援の実行と障害者の生存権を保障しようという法の姿勢が希薄過ぎ るのです。 ですから、今回の改革で骨格と土台から作り直そうよということになったので す。  今回の厚生労働省案はそのことの意味が理解出来ていないのです。土台に手を 触れず温存することしか考えていません。 総合福祉部会からの宿題の答えとして赤点と言わざるを得ない。  赤点どころか、万一、このようなものを法律化してしまえば、治すべき欠陥を 埋めるどころか恒久化、固定化してしまう恐るべき事態です。 本気で骨格提言を受け止め、改革を実行しましょうよ。  「性急な施行は現場を混乱させるから」などともっともらしい弁明も聞こえ てきますが、新法移行の経過期間や見做し決定等の技術的な工夫の方法はいく らでも考えられます。やらないための方便はやめましょう。そんなこと言った ら障害者差別禁止法だって実現出来ません。     内閣府障がい者制度改革推進本部と会議にもお願いです。  今日で総合福祉部会が解散なんてことあったら茶番です。  この法がどうなるかをしっかり見届ける義務がこの総合福祉部会にあります。  制定可決の日まで意見反映の機会、会議日程を確保して下さい。