総合福祉部会 第19回 H24.2.8 参考資料3 福島委員提出資料 2012年2月8日総合福祉部会での発言メモ 国立大学法人東京大学先端科学技術研究センターバリアフリー分野教授 社会福祉法人全国盲ろう者協会理事 福島 智  東京大学の福島智です。海外出張などで長らくご無沙汰してしまいました。申し 訳ありません。およそ1年ぶりに帰国して、私は障害者制度改革をめぐる日本の状 況の変化に、愕然としています。しばらく日本を離れていたことをたいへん心苦し く思いながらも、その立場を踏まえて、あえてお話しさせていただきます。  みなさん、思い出してください。  2009年の政権交代時の衆議院選挙で、民主党はマニフェストにおいて、「障害者 自立支援法を廃止し、新たに障がい者総合福祉法を制定する」、と明言したことを。  そして、政権交代が実現し、2009年12月には、鳩山総理を本部長とする「障がい 者制度改革推進本部」が設置されたことを。  その翌月、2010年1月には、先に提訴されていた、「自立支援法違憲訴訟」にお いて、政府・民主党は自立支援法の問題点を認め、原告・弁護団と「和解」にむけ ての「基本合意」を取り交わし、当時の長妻厚生労働大臣が合意文書に署名したこ とを。  みなさん、思い出してください。  その直後に「障がい者制度改革推進会議」が発足したときのあの熱気を。  そして、同年4月にはこの「総合福祉部会」が設置されたことを。  推進会議とこの総合福祉部会で、何十人という障害者やその関係者が、いったい どれだけ膨大な時間とエネルギーを費やして、議論を重ねてきたかを。  そうして、昨年2011年8月には、この総合福祉部会の55人の構成メンバーの総意 として、総合福祉法制定にむけての「骨格提言」を策定したことを。  多くの傍聴者があり、ネットでの配信もありました。  私たち自身の背後に、傍聴のみなさん、そして、ネットやさまざまなメディアで 私たちの議論に注目してこられた方々がいったいどれだけの数おられたことか。  こういう背景を踏まえたとき、「総合福祉法」は、この「骨格提言」の趣旨を最 大限に反映したものでなければならないのは当然の流れだと思います。  ところが、仮に名称は「総合福祉法」であったとしても、今の厚生労働省案では、 実質的に「自立支援法の一定程度の改正」といわざるを得ない内容に留まっている のではないでしょうか。  たとえば、「障害程度区分の見直し」について。  「法の施行後5年を目途に、障害程度区分の在り方について検討を行い、必要な 措置を講ずることとする規定を設ける」とありますが、結局これは、この問題を5 年間先延ばしにすると言っているだけのことではないでしょうか。  また、「地域生活支援事業の充実」という部分について。  「地域生活支援事業として、地域社会における障害者に対する理解を深めるため の普及啓発や、ボランティア活動を支援する事業を追加する」とあります。しかし、 もともと現行の「地域生活支援事業」は、「自立支援給付」の10数分の1程度の予 算規模しかありません。国の責任で進めるべき事業を、個人の自発的な活動である 無償の「ボランティア」で補おうというのでしょうか。  こうした「法案」を読んで感じることは、民主党の誠意の乏しさです。これは、 信義を守ること、つまり「信義則」に反することと言わねばならないでしょう。昨 年8月の「骨格提言」策定以後、いったい民主党は何をなさっていたのでしょうか。  仮に総合福祉法の「骨格提言」の内容に全面的に沿った新法制定がすぐには実現 できないのであれば、「骨格提言」のどことどこの部分なら実現できるのか。逆に、 どこは実現できないのか。なぜできないのか。また、どうすれば実現できるのか。 そして、いつごろまでに実現できるのか、といったことを、政府・民主党は一つ一 つ丁寧に示すべきではないでしょうか。  「骨格提言」を実現するうえでの最大のハードルは、厳しい財政状況を背景とし た財源問題だといわれます。そして、その一方で、過去数年、こうした厳しい財政 状況の下でも、障害関連予算は年々増加しているのだと指摘されます。しかしそれ はニーズ増大に伴う予算の「自然増」であり、「自然増」はあくまでも「自然増」 なので、実質的な「予算増」とは異なります。  財政問題についていえば、民主党は「社会保障と税の一体改革」ということをさ かんに主張していますが、その「社会保障改革」において、マニフェストに掲げて いた「障害者制度改革」がどのように位置づけられているのか、まったく分かりま せん。  政治的発言力が小さく、相対的に弱い立場におかれがちな障害者の問題は、無 視・軽視してもよいということなのでしょうか。  日本には法的に認定された障害者だけでも今、およそ750万人います。難病や発 達障害などの方々も含めれば、1千万人を超えるでしょう。さらにご家族なども含 めれば、障害のある当事者とその身近な人たちは、3千万人から4千万人、つまり、 国民の3人から4人に1人が障害の当事者やそのご家族ということになります。  こう考えると、けっして障害者問題は本来小さな問題ではないはずです。  なにも、障害者だけを特別扱いにしてほしいというのではありません。道路を歩 いたり、周囲の人と会話をしたり、トイレに行ったり、水を飲み、ごはんを食べ、 酸素を呼吸する・・・、などの人間の生存のための最低限の行為、人間が尊厳をも ってこの社会で生きていくうえで、絶対に必要なことが自力ではなかなか難しい人 たちに対して、社会のみんなでお互いに支えあっていきましょうと要望しているだ けです。  弱い立場の人間を無視・軽視する社会は、やがて衰え、力をなくして滅びていく でしょう。  逆に、たとえ人生でどのように困難な状態におかれ、辛い・苦しい状況におかれ ても、自分ひとりではないんだ、人としての尊厳をもって生きていける、社会のみ んなで支えあって生きていけるんだ、ということが国民すべてに実感されれば、そ の安心感は、一人ひとりの生きる活力となり、それが合わさって社会全体の活性化 につながるでしょう。  民主党は、社会的に不利な立場にある人の味方であり、相対的に弱い立場におか れがちな人を応援するというメッセージを社会に発信して、そのことで3年前に政 権をとったのではなかったのでしょうか。  私たちすべての人間は、本来、おそらく人生において予期しなかった苦悩や悲し み、辛さを体験する存在です。それは個人の力ではどうにも避けられないことです。 国家と社会全体で互いに支えあうしかありません。私たち日本人は、こうした人と 人との支えあいの大切さを、昨年の3月の大震災をとおして、象徴的な体験として 改めて心に痛切に刻みこみました。  民主党のみなさん、どうか政治家としての原点の志を、初心を思い出してくださ い。  マニフェストに掲げただけでなく、裁判所という公正な場での議論をとおして、 「和解」が成立し、公式の文書に大臣が署名したことまでもが、もし、ないがしろ にされてしまうのであれば、私たち国民は、いったい何を信じればよいのでしょう か。  民主党のみなさんの、政治家としての誠意と魂にお願いします。  政治への期待を繰り返し裏切られ、政治不信を通り越して、政治に絶望しかけて いる日本国民の一人としてお願いします。  強く、お願いします。