部会終了後に委員から提出された意見 朝比奈委員 ≪要点≫ 1.第 19回会議に提出された部会長資料にあるとおり、厚生労働省案では骨格 提言のなかで全く触れられていない事項が多くあります。それらの事項の取り扱 いについて議論がなされないまま法案を提出していくことには、賛成できません。  骨格提言によりめざすべき方向性が示されましたが、各ワーキング・グループ で個別に話し合われたものを総合に関連づけたり体系づけたりする議論や作業は 時間的に不十分でした。そうした点も含め、そのまま法案に反映させるのが難し い事項もあるのではないかと推測しています。  厚生労働省からは「骨格提言への対応」というかたちで現行制度での取り組み との照合が示されました。その内容を吟味しながら、法案提出の期限を一定程度 遅らせてでも、新法実施に向けた工程表を作成していく作業の場が必要です。 2.相談支援体制については、現実的には、平成24年度のつなぎ法及び障害者 虐待防止法施行との関連が重要になると思われます。支給決定の前段階で行われ る計画作成が当事者の希望を実現するツールになり得るか、新たに創設された特 定相談支援事業等がこれまでの給付体系になじまなかった随時の支援ニーズに応 えられるか、虐待防止のしくみとあわせ、実行を注視する必要があります。  しかし一方では、骨格提言が示した相談の体制は、当事者活動の位置づけや権 利擁護の仕組みと一体的に取り組まれるべきものです。行政による相談支援や契 約にもとづく出来高払いによる相談支援だけでは、当事者の権利を保障するには 不十分であると考えます。 伊澤委員 【テーマ】 骨格提言の反映を強く求む! ≪要点≫ [1]第19回総合福祉部会に提出された佐藤久夫部会長の「厚生労働省案への意見と 質問」への誠実な応え(答え)を強く求める。 [2]JDFが示した「障害者総合福祉法制定に向けて」(第一次案)における「法制定 に関する基本的考え方」「自立支援法の事業等の問題点」等々を真摯に受け止め ることを強く求める。 [3]津田政務官の言う“骨格提言の段階的、計画的反映”を「行程表」により明ら かにすることを強く求める。 ≪理由≫ 「厚生労働省案」を前日目にした際に、何かの間違い、あるいは「陰謀」(?)とい う印象を禁じえず、当日(2月8日)の中島課長ならび津田政務官の言動で、平成 22年暮れの「改正自立支援法」成立の時から、すでに今日に至る筋書きが出来上 がっていたことを察した。おそらく8日の総合福祉部会でのプレゼンも周到に用 意されたものであろう。部会の本会やワーキングでの議論が進捗するその裏で、 周到に2月8日に向けた準備が行われていたとみる。実に構成委員を侮辱した行 為であり、消耗と憤怒を禁じ得ない。 確かに「骨格提言」は理想ともいうべきものであり、一足飛びに実現するものと は思いがたい。それは多くの構成員の発言のとおり。しかし少しでもその理想に 向けて歩む姿を求めている…。 上記3点について誠実に呼応することを強く求める。 石橋委員 【テーマ】 政府並びに厚生労働省が想定している障害福祉施策の根幹をなす「障害者総合福 祉法(仮称)」の形を明確に提示してください。 ≪要点≫ 1.総合福祉部会で作成し、障がい者制度改革推進会議で承認されている「骨格 提言」について、特に上部組織である「障がい者制度推進本部」並びに厚生労働 省からのコメントをいただきたい。 [1]厚生労働省に、骨格提言の項目ごとに「取り入れること」「取り入れないこと」 を明確にご回答いただきたい。 [2]「取り入れる」に関しては、内容並びに工程を示していただきたい。 [3]「取り入れない」ことに関しては、その理由・根拠を示していただきたい。 2.厚生労働省が想定している「障害者総合福祉法(仮称)」と総合福祉部会の「骨 格提言」との差異を審議する場を設けていただきたい。 3.厚生労働省が、想定している「障害者総合福祉法(仮称)」の形(内容)を項 目毎に明確に提示していただきたい。  なお、障害程度区分や就労支援のあり方など、5年を目途に検討するとあるも のに対しても、今回策定する法律の中で指針を示すべきと考える。 ≪理由≫  総合福祉部会は、内閣府「障がい者制度改革推進会議」の下部組織として、「障 害者総合福祉法(仮称)」の骨格について議論し、論点を整理する場であり、この 「骨格提言」を基に厚生労働省が新法を策定すると理解していました。 障害者福祉に携わる者は、今後の福祉施策の全体像を求めています。 問題なのは、厚生労働省(案)では、障害者福祉施策の根幹をなす「法律」の姿 が簡潔すぎて見えてこないことにあります。全体の法律案を示して欲しい。  骨格提言の内容に、政令、省令で補える部分もあるとの意見でしたが、それら を含め今後の福祉施策の全体像をお示しいただきたい。 茨木委員 【テーマ】 「程度区分の見直し」(厚労省案)については、「程度区分の抜本的な見直しを含 む、新たな支給決定の仕組みの検討」とすべきである。 ≪要点≫  骨格提言で示したように、程度区分全体について、ニーズに基づく支給決定の 仕組みになるように抜本的な見直しが必要である。程度区分のみに着目した再検 討をしても、本人のニーズに基づく支給決定(社会モデルを基盤とするサービス 提供)とはならない。 ≪理由≫  現状の程度区分が、障害者の支援ニーズを測る客観的指標とはなっていないこ とは明らかではあるが、現状の支給決定でも、この区分は支給決定のシステムの 一部である。特につなぎ法では、より計画相談が強化される見込みであり、この 計画相談が、どのように支給決定で生かされていくのか、その際程度区分はどの ような機能を果たすのか、その検証は非常に重要である。程度区分を前提に、計 画相談が強化されれば、給付量の管理が一層強まる危険性をもつ。  また社会モデルに基づいて、個別の障害者の生活ニーズを明らかにする際、そ れを客観的数値で表すことは、障害種別の特性も数値で表すことが困難なこと以 上に実現は難しい。  以上から、新年度から始まる新たな計画相談から始まる支給決定の仕組みにつ いてのモニタリングも含めて、本人のニーズを中心とする新たな支給決定の仕組 み全体の抜本的な検討をする必要がある。 少なくとも新たな法律では、明確にその検討のめざすところ(本人のニーズに基づ く支給決定を行うこと)を明記し、試行事業の開始も含めた検討期間の工程を明ら かにして、現場が混乱することがないように計画的に進めるべきであると考える。 氏田委員 【テーマ】 2月8日の「厚生労働省案」への意見と要望 ≪意見≫  障害があっても「自分らしく生きる」ことのできる共生社会の実現に向けて、 55名の総意としてまとまった骨格提言が最大限尊重される形で「障害者総合福祉 法」が法案化・制定されることを望みます。 ≪要点≫ ○骨格提言の5.本人のニーズにあった支援サービス  厚労省案では、「法の施行後5年を目処に、障害程度区分のあり方について検討 を行い、必要な措置を講ずることとする規定を設ける」としているが、5年は待 てない。すでに国内でも適用度尺度などの研究が進んでいるので、ぜひ2〜3年以 内に「支給決定方式」の整備をお願いしたい。また、意思決定に困難を抱える知 的障害や発達障害の人たちに対しては個々人に応じた意思決定支援が必要である。 子どもの権利条約に「自己表明権」が保障されているが、障害者総合福祉法(新 法)においては「意思決定支援」が明記され、名実ともに保障されることが重要 である。  また、新法は18歳以降の人を主な対象としており、障害児の施策は児童福祉法 にゆだねられるが、生涯にわたってのシームレスな支援、児童期の施策に対する 働きかけができる仕組みも組み入れるべきであると思っている。 ○骨格提言の4.放置できない社会問題の解決、  自閉症の人の中には、二次障害である強度の行動障害を併発し、地域支援サー ビスが整備されていない中、施設入所を余儀なくされている人たち(ベッドに拘 束されている人も少なくない)がいる。行動障害を併発した障害のある人たちの 地域生活の保障を早急に行ってほしい。行動援護や創設されるパーソナルアシス タントの活用なども必要となる。そのための予算を確保するとともに支援体制の 早急な整備が必要である。 ○骨格提言の6.安定した予算の確保  骨格提言の実現のためには十分な国家予算が必要であると思われるが、部会の 議論においては財源についてはほとんど触れられることがなかった。第19回総合 福祉部会において、津田政務官より「JDFのロードマップを参考に、部会提言は、 段階的、計画的に実現めざす。新法、報酬単価、予算、施策の充実にとりくんで いきたい。」とのお約束をいただいているが、政治主導で進められるとのことな ので、新法制定にあたり骨格提言が着実に反映されるべくしっかりとした予算確 保を政府に強くお願いしたい。 ≪理由≫  「私たちの願いは、重症な障害をもったこの子たちも立派な生産者であるとい うことを認めあえる社会をつくろうというのである。『この子らに世の光を』あて てやろうというあわれみの政策をもとめているのではなく、この子らが自ら輝く 素材そのものであるから、いよいよみがきをかけて輝かそうというのである。『こ の子らを世の光に』である。糸賀一雄(1914〜1968)」  わが国も10年前に比すれば、地域生活も拡大し地域移行も進んできており、就 労の支援策も充実してきているが、障害のある人たちの自立と社会参加はなおま だ多くの家族たちが関わり続けることによりようやく実現しているというのが現 状である。また、わが国の福祉サービスメニューの数は世界一だと言われている が、メニューに利用者を当てはめる福祉だと感じている。インクルーシブな社会 の実現に向けて、広く一般市民の理解と支援を求めるとともに、多様な社会参加 の場を整備し、不足しているサービスを充実させ、成人した本人が、社会的自立、 経済的自立、そして親からの自立が可能となる社会をめざしたい。  「障害者権利条約」は、障害のある人が物として見られるべきではなく、人とし て平等な尊厳と待遇を受けるべきであるとしている。  2010年4月より18回にわたる議論を経て当事者や家族も含めた55人の委員た ちの総意で共生社会の実現に向けて新法の骨格提言がなされたところであるが、 骨格提言の6つのポイントはどれも重要であり、本人そして家族たちからも早急 な実現が求められているものである。 2011年12月現在、障害者権利条約を批准した国は世界109カ国におよんでおり、 障害者のインクルージョンというコンセプトはすでに世界の常識である。障害が あっても「自分らしく生きる」ことのできる社会の実現に向けて、日本において も障害のある人の生活のしづらさの現状をきちんと把握したうえで、試行事業も 行いつつ、スピード感をもって制度改革が行われることが重要である。骨格提言 がめざす6つのポイントを早期にそして確実に実現するための「新法」の制定を 切望する。 大久保委員 【テーマ】 法案骨子全体を通して ≪要点≫  概ね妥当と考える。 ≪理由≫  「骨格提言」の内容を精査すれば、必ずしも「障害者自立支援法」を廃止し、 新たな「総合福祉法」(仮称)を制定しなければならない理由は見当たらない。  また、「骨格提言」の内容は、法律案並びに制度案として、十分検討し、整理さ れたものとは言い難く、障害当事者の思いや願いを中心としたものと考える。さ らに、内容によっては、部会構成員に意見の相違があったことも事実である(特 に「相談支援」など)。  従って、「骨格提言」の内容個々の取扱いや実現にあたっては、政府の判断とと もに、詳細な検討、検証等を更に要するものと考える。  特に、本年の通常国会での法制化により、「骨格提言」の成果を求めるのであれ ば、物理的、時間的制約のなかで、自ずと限定されることは当然であると考える。 以上により、このたびの「法案骨子」は概ね妥当と考える。また、改正障害者基 本法を踏まえた「障害者の範囲」の拡大や「つなぎ法」を踏まえた「相談支援」 等の強化などは評価できるものと考える。 大濱委員 【テーマ1】 改革の工程表 ≪要点≫ JDFの制度改正の工程表を元に民主WTで総合福祉部会の各項目提案者と細かい打 ち合わせをお願いします。 ≪理由≫  骨格提言の中の各提案について、新たな予算が不要なものや極めて少額ですむ ものなど、現状で法に盛り込むことのできそうな項目について1つ1つ検討し、 取りこぼさず法改正に盛り込むことがいいと考えます。そのために、骨格提言の 中の新たな予算が不要なものや極めて少額ですむ、各提案について、原案提案者 を個別にWTに呼んで詳細を聞きとるのがよいと考えます。 【テーマ2】 基幹相談支援センター(予算削減の提案) ≪要点≫  基幹相談支援センターの予算を増額するのは反対です。  基幹相談支援センターの推進も反対です。 ≪理由≫  障害者権利条約の理念を持つ障害者団体が各地で指定を取り、相談支援事業所 として活動を始めており、まずはその動きを5〜10年間は見るべきです。基幹 相談支援センターのように「委託の制度」は、多くの市町村では市町村の天下り 先の法人などに委託されます。予算の使い道としてよくありません。 赤字でも地域移行支援などを行う理念の高い団体だけが自由に相談支援に参入で きる指定制度がすでにあるので、この動きを見守るべきです。 【テーマ3】 重度訪問介護等の外出(追加予算不要の提案) ≪要点≫  新たな予算が必要ない提案として、重度訪問介護での外出先について、骨格提 言では「決定された支給量の範囲内であれば、通勤、通学、入院、1日の範囲を 越える外出、運転介助にも利用できるようにする。」とされている。これを盛り込 むべき。 ≪理由≫  現行制度では、例えば毎日12時間の重度訪問介護の支給決定を受けている全 身性障害者はその支給量の範囲であれば、基本的にどこに外出する場合でも利用 できるし、家の中でも利用できる。例えば、毎日朝9時から夜9時までサービス 利用している場合、1日家にこもる障害者もいれば、社会参加しようと外に毎日 出かける障害者もいる。どちらも必要な予算は変わらない。  しかし、例外的に、一部の外出先の制限があり、「通勤・仕事」や「通年かつ長 期の外出(通学など)」、「泊まりがけの外出」「運転」「入院」が対象外となってい る。このため、例えば相談支援員を目指して勉強中の障害者が相談事業所等での 長期の職場実習や県外での2泊以上の研修に参加できない。重度の障害者が仕事 を得て働けば生活保護費も不要になり、納税者になれば政府の収入も増える。現 行制度の規制は支給時間は変更しないことを条件に規制緩和していただきたい。  重度の障害者が農村部でも真冬でも通勤に不可欠な障害者の自家用車のヘルパ ー運転も、国土交通省は問題なしという通知を出しているので、重度訪問介護の 対象(見守りの対象)としていただきたい。 また、特殊な介護方法の必要な最重度全身性障害者については、肺炎等での入院 時にいつものベテランヘルパーによるコミュニケーション介助や特殊な方法の体 位交換などを病室でも受けないと体力低下で死んでしまうので、市町村が必要性 を認めるケースに限って病室も外出先の対象に加えていただきたい。(今は入院で きないので、自宅で薬で肺炎を療養している状態)。 【テーマ4】 市町村の訪問系サービスの財政問題(追加予算不要) ≪要点≫  現状は、入所施設からアパート等に転居する場合、入所施設の費用を負担して いる出身市町村(入所前の住所地の自治体)の負担がなくなり、新たなアパート 等の住所地の市町村が費用を負担する制度になっているが、これを改善し、出身 市町村(入所前の住所地の自治体)が半額を負担する制度にすべき。 施設からアパートに出た後の費用負担 現行制度:居住地の市町村 25.0% 改善案:居住地の市町村 12.5%、出身地の市町村 12.5% ≪理由≫  入所施設や筋ジス専門病院には、各県の全域から障害者が集るが、地域移行で アパート等に自立する場合、施設や病院の近くに自立するため、一部の市町村に ホームヘルプサービスの費用負担が過大になっている。 グループホームへ地域移行した場合は、引き続き出身自治体(施設入所前の市町 村)が全額費用負担しているが、ホームヘルパーサービスの場合は1人1人の支 給量が違いその調査を身近な市町村が行う必要があるので、支給決定はアパート のある市町村が行い、費用は半額を出身自治体(施設入所前の市町村)が負担す る制度とすべき。 【テーマ5】 長時間訪問系サービスの財政支援(追加予算不要) ≪要点≫  1日8時間以上のホームヘルプサービスの市町村負担を5%程度に引き下げる (現行25%)。その財源は1日8時間未満のホームヘルプサービスの1%を都道 府県・市町村が拠出しプールする。追加予算は不要な改正となる。 ≪理由≫  小規模な市町村に長時間介護の必要な最重度障害者が突然出ると、市町村は、 25%の費用負担が重く、必要なサービスを実施できない現行制度の問題がある。 どの市町村にも起こり得る問題なので、全市町村で1%分を持ち寄っておき、長 時間介護部分に補助をして市町村負担を現行の25%から5%に下げることで、 障害者は必要なサービスを受けられ、心中事件などが防げる。(長時間利用者でも 1日8時間以下の部分は25%負担のまま、8時間以上の部分の市町村負担を減 らす。) 【テーマ6】 消費税の使途 ≪要点≫  消費税を10%に上げる際に福祉拡充に1%を充てるとのことだが、障害者の 介護にもあてていただきたい。 ≪理由≫  消費税を10%に上げる際に福祉拡充に1%を充てるとのことだが、「介護・医 療・子育ての改善」とだけしか書かれていない。高齢者介護だけではなく障害者 の介護にも消費税増税財源をあてていただきたい。(総合福祉部会は、障害予算を OECD並の予算に近づける努力をするよう提言したところ) 岡部委員 【テーマ】 重度訪問介護の対象者拡大 ≪要点≫  パーソナルアシスタンス制度の「段階的・計画的」実施を行う大前提として、 新法では重度訪問介護の対象者拡大を必ず行うこと。具体的には、現行の障害者 自立支援法第四条第3項「重度訪問介護」の対象者規定である「重度の肢体不自 由者であって常時介護を要する障害者につき」から「重度の肢体不自由者であっ て」という文言を削除し、重度訪問介護を肢体不自由者に限定することをやめる こと。 ≪理由≫ ○「重度訪問介護を発展的に継承し、パーソナルアシスタンス制度を創設」(骨格 提言1−4−5)することを段階的・計画的に進めるための第一歩として、「対象 者を重度の肢体不自由者に限定せず、障害種別を問わず日常生活全般に常時の支 援を要する障害者が利用できるようにする」(同)ことが必須である。 ○重度訪問介護の対象拡大が行われなければ、グループホームでは地域移行でき ない重度の自閉症/知的障害当事者は、「障害者の自立生活支援の充実」「地域生 活を支援するためのサービス体系の充実」(新法要旨)からまたもや取り残される ことになる。 ○現行の重度訪問介護の規定ぶりと省令で定める便宜の内容を踏襲しつつ段階的 な対象拡大を実施するのであれば、サービス体系を変更するにあっての現場や事 務方の負担は新法厚生労働省案にある「ケアホームとグループホームの一元化」 と同等以下のはずである。 ○新たな「障害支援区分の見直し」(同)やガイドライン作成のための試行事業を 行うにあたっても、重度訪問介護の対象者拡大による「知的障害者の長時間介護 のニーズ」を踏まえることが必須である。 ○現在長時間の見守り支援をうけて自立生活を送っている重度知的障害者はごく 少数であり、支援体制の制約等もあるので、利用者の急激な増加及びそこから生 じる財政上の制約は考えにくい。 ○段階的な対象者の拡大を行う場合は、ワーキンググループで作成した行程表に 基づき、本則ではなく厚生労働省令を定めて行うこととする。 ※重度訪問介護の対象拡大の必要性については、以下の訪問系作業チームにおけ る報告資料を参照のこと。 「知的障害者の見守り支援について」(平成22年10月26日小田島栄一総合 福祉部会委員) 「知的障害者の移動と生活支援の実際」(平成22年11月19日だれもがとも に小平ネットネットワーク代表・藤内昌信氏) ≪知的障害者の見守り支援について≫ 平成22年10月26日 ピープルファースト東久留米           小田島 栄一 知的障害者の見守り支援について    知的障害者の見守りが少ないのでもっと入れてほしいとおもいます。家のそう じやでんきゅうのたまを取りかえるとき介護者にてつだってもらう。エアコンや テレビがつかえなくなったときは介護者に見てもらいます。家のとびらがはずれ た時なおしてもらいたいです。家の足りないものを買いに行くときにいっしょに 買いに行く。家のまわりのそうじや、家のところでさわぐと大家さんに家をでて くださいと言われるので、ときどきあやまります。介護者がいるのといないのと ではだいぶ違っていくので、何かあったときは介護者に言ってもらうことです。 何かこわしたときも介護者といっしょにあやまりに行きます。  知的障害者の移動介護が少ないので、身体障害者と同じように移動介護(重度 訪問介護)を入れてもらいたいです。どこかに行くとき、キップを買うとき、わ かりやすくしてくれる人がいたらいいと思います。  会議の場所に行って、むずかしい話があったらそばで支援者に教えてもらいた いです。  介護保険の1じかんはんではじかんがたりないので何もできません。  だれでも障害があるひとには、(愛の手帳が)3ど4どでも1ど2どの人とおな じようにつかえるようにしてください。 今年の7月に精神病院から出てケアホームで生活しているMさんの例 (Mさんは58歳男性、愛の手帳4度、障害程度区分2。精神病院で約35年間、途 中数年間は入所施設で生活していた。制度上は平日昼ピープルファーストの生活 介護と就労継続支援B型に通所、土日移動支援、夜間ケアホームという形だが、 下記のような部分で見守りが必要なためほぼ1対1での対応になっている。) 電話  夜中や朝方何時でも思いついたら電話をかけてしまう。間違え電話も多 い。 タバコ 落ち着かないときは特に本数が増える。火の始末が危険。 CD   日中や夜眠れない時にCDを聞こうとするが、操作がうまくできないと壊 れたと思ってCDラジカセを叩いたり、CDを投げたりする。 探し物 自分の部屋で探し物が見つからないと、タンスの引き出しを全部引っ張 り出して部屋中に物を散乱させてしまう。 外出時何か思いつくと昼でも夜でも外に1人で出て行ってしまい、転んで怪我 をしたり部屋に戻れなくなることがある。通所の時間も転びやすいので 近くでの見守りが必要。 自傷?転んでできた足の傷口を手でいじったり、壁にぶつけて傷口を大きくし てしまう。 お金 介護者が止めなければCDや食べ物などどんどん買ってしまう。  Mさんは2DKのマンションで別の利用者と一緒にケアホームで生活しているた め、もう1人の利用者に朝早く起こされてしまうというような問題もあり、もし 長時間利用できる介護制度があればアパートでの自立生活(1人暮らし)の方が 望ましいと思います。  アパート1人暮らしをしているHさんの例 (Hさんは、39才男性で愛の手帳2度、障害程度区分6、日中は生活介護に通所、 土日夜間はヘルパーを入れて生活。行動援護155時間、身体介護15時間、家事援 助175時間)  Hさんはいわゆる身体介護、家事援助、移動支援以外にも下記のような部分で、 常時の見守りを必要としています。 食事  どんどん口に入れて喉に詰まらせてしまうことがある。 タバコ 1日2〜3箱。指に火傷をすることがとても多い。 お金  財布のお金が足りずに買えないとコンビニの店員から言われても強引に タバコを買おうとする。 外出  夜落ち着かない時は、介護者とピープルファーストの事務所に遊びに行 く。以前1人で出かけて帰れなくなり警察の人にも頼んで2日間探した ことがある。 服薬精神科の薬を多く飲んでいるが、寝る前の薬を飲むタイミングが合わな いと、頭は冴えて眠れず、体はふらふらした状態になってしまう。 就寝介護者とうまくコミュニケーションが取れて安心している時は比較的よ く眠れるが、調子が悪いときは2、3時間で目覚めてしまうことが多い。 MさんやHさんが地域で生活していくためには下記のような介護や支援が必要で す。 [1]排泄、入浴、着替え、服薬等の身体介護。 [2]買い物、食事、洗濯、掃除、整理整頓等の家事援助。 [3]買い物や外食、余暇活動等の移動支援。 [4]上記[1]〜[3]を含めた見守り支援。  知的障害者の中には行動援護の対象になる重度の人に加えて、中軽度の障害で も常時の見守りが必要な人が少なくありません。  又、知的障害者が施設や病院、親元から出て自立生活(1人暮らし)をする場 合、現状のように身体介護、家事援助、行動援護、移動支援というように細かく 分かれている介護制度は非常に使いにくくなっています。  従って「重度訪問介護」のように身体介護、家事援助、移動支援、見守りを含 んだ介護類型を知的障害者も利用できるようにすることが必要だと考えます。 (「重度訪問介護は、日常生活全般に常時の支援を要する重度の肢体不自由者 に対して、食事や排泄等の身体介護、調理や洗濯等の家事援助、コミュニケ ーション支援や家電製品等の操作等の援助、日常生活に生じる様々な介護の 事態に対応するための見守り等の支援及び外出時における移動中の介護が、 比較的長時間に渡り、総合的かつ断続的に提供されるような支援をいうもの である。」(平成18年10月31日 厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部長 通知 「障害者自立支援法に基づく指定障害福祉サービスに要する費用の額 の算定に関する基準等の制定に伴う実施上の留意事項について」) ≪知的障害者の移動と生活支援の実際≫ 2010年11月19日 NPO法人だれもがともに小平ネットワーク 理事長 藤内昌信 居宅事業者ネットワーク(東京都)副代表 小平市障害児・者居宅事業者交流会 代表 NPO法人だれもがともに小平ネットワーク(通称ともにネット)は東京都小平市 や周辺市で知的障害者を中心に居宅介護や行動援護・移動支援、短期入所やグル ープホームの提供を行ってきました。小さな法人ですが、地域での暮らしを支え る取り組みに心を注いできた私たちのこの間の取り組みから見えてきたことを以 下提言いたします。 1.移動支援がもってきた意義と個別給付化について  支援費制度がはじまる以前、小平市(現在人口18万・知的障害児者1000人) においてヘルパーを利用していた知的障害者は4〜5人にとどまっていました。 支援費制度において移動介護が制度化されるとともに利用者は一気に100人をこ すことになりました。潜在化していたニーズが噴出したことになりましたが、家 族以外の支援者とすごすことが本人や家族に与えた影響は大きかったといえます。 本人は自らの世界を拡げ、外出にとどまらず生活全体の家族からの自立を展望す るようになりました。また、その姿をみた家族も入所施設しか将来展望を見出し ていなかったことを見直す契機とすることもできました。いわば移動介護は社会 参加を行いながら、「自立の一歩」の意味合いの意義をもってきたといっても過言 ではありません。 この移動介護も居宅介護と同様に国が財政責任をもつことは当然であり、自立支 援法により個別給付から外したことは大きな誤りであったといえます。地域生活 支援事業への国の不十分な補助金で地方自治体の自己負担は増大し、その結果移 動支援の時間数や支給対象の絞込みが行われてもいるし、市町村格差は拡大して もいます。 居宅ネットの都内区市町村移動支援事業09実態調査(以下居宅ネット調査と記 す・資料1)でも多くの自治体が個別給付にもどすことを求めています。 2.ただし移動支援個別給付化にあたって留意せねばならないこと  しかし、移動支援が市町村事業となった中で、従来の移動介護の使い勝手の悪 さを自治体独自に制度改善してきたところも少なくありません。居宅ネット調査 では、通所・通学にも使用できるようにしているところがふえており、月をまた いでの支給決定、行動援護との併給を可とする、さらにはヘルパー要件の緩和な ど利用者にとって使いやすいものに努力している自治体が少なくありません。 個別給付化にあたっては、これら各自治体が取り組んできた「使いやすい」仕組 みを取り入れることが必要です。 個別給付化にあたって取り入れるべき「柔軟性」は以下の点です。 [1]対象は必要とする人に拡げる [2]通学・通所支援、入院時の支援ができることを明確にする 自立生活に向けた体験時にも利用できるようにする [3]時間制限を課さない [4]支給方法は自治体にまかせる(月をまたいでの支給決定など) [5]ヘルパー要件については、当事者を講師とすることを組み込んだ簡易な研修を 最低限の必須研修とする。現場経験者には一日研修で可とするなど大幅な軽減措 置を講ずることなどを組み込む。なお、入所施設の見学で演習に変えるなど本来 主旨とは矛盾することは見直すことが必要。 検討の間、移動支援事業を実質義務経費化することを当面の有力な選択肢として よいのではないかと思います。 3.行動援護のあり方に関して  行動援護は、移動介護を個別給付から外すことをみこして導入されました。し かし、特にヘルパー要件の厳しさから担う事業所があまりにも少なく、都内の実 施状況をみれば、担う事業所がある一部の区市町村に実績が集中する結果となっ ています。 もともとが、行動援護の人は移動介護の「介護あり」で外出支援を受けており、 移動支援の個別給付化の時には名称はどうあれ、基本的に統合されてよいと思い ます。 支援者側の資質(本人に寄り添うことのできる「専門性」)の向上は行動援護であ れ、移動支援であれ求められています。むしろ、問題は行動援護の単価の高さが 移動介護「介護あり」には適用されていないことです。事業者にとっては、現在 の移動支援の単価(市町村によりちがいはあるものの)では事業運営がなりたち ません。 私たちも、移動支援の単価の安さを行動援護や重度訪問介護で補いながらなんと かやっているという現状です。 当初、行動援護導入時にヘルパーが食べていける単価設定がひとつの課題であっ たように記憶していますが、8時間(以前は5時間)ヘルパーが毎日働ける支給 決定が行動援護においてなされている例は皆無に近いといえます。利用者ニーズ は土日・夕方に集中し、また国の配分基準も低く抑えられているので当然の結果 です。 後述しますが、見守りを含めた生活支援のあらゆる要素に対応できる重度訪問介 護に比べ、行動援護は外出とその前後の支援に限定されているため、移動支援の バージョンアップ版としての意味をもっても生活総体に対応できないのが弱点と いえます。 4.「見守り」「関係作り」こそが制度として保障されるべき  Aさんは(58歳・愛の手帳2度、視覚障害1級・区分4)5年前に施設から 出て、地域のアパートで一人暮らしをしています。家事援助と移動支援、有料自 主事業で100時間弱のサポートですが、これ以外に1日に何回もかかる電話、 体調が悪い時の(精神的な波が激しい)訪問や見守り、ものがこわれた・ものを こわした時の修理、音がうるさいとの近所からの苦情対応、通所施設との連絡調 整などなど「表に出ないサポートのつなぎ」で生活が成り立っています。本人か らはもっとヘルパーと出かけたいなどの要望が出され、後見人や支援事業所から も支給時間の増を要望しています。 Aさんは、一人の時間も好きな方ですが、いつもそうではありません。「今日はも っといてくれよ」と帰るヘルパーを引き留めることもあります。日常生活の様々 な場面でヘルパーが見守りながら必要なところだけを声かけする・手助けするこ とが必要な場面が多くなっています。 支援の内容も身体介護・家事援助・移動支援・見守りが混在をしています。それ は時間でわけられるものではありません。そして混在の仕方は毎日ちがいます。 Aさんにかぎらず、知的障害者の生活支援は支援類型で分けられるものではあり ません。本人に必要なものは「なんでもあり」の一本化したものにすべきかと思 います。当面、重度訪問介護の身体限定を外すことをただちに実施してほしいと 思います。 Bさん(31歳・愛の手帳3度・区分2)は、家族との関係が悪化した(攻撃的 になってしまう)ことから、次の居住の場を見つける間、「ともにハウス」(ショ ートや宿泊体験の場)を利用しました。夜は自分ですごせることから主に食事作 りや精神的に落ち着くための話し相手(信頼感をもってもらう関係作り)がサポ ートの中心でした。このような時、現行制度ではホームヘルプが使えません。体 験の場であっても必要なサポートは本人についてまわると基本的な発想を転換す る必要があります。 とりわけ、様々な体験の中から自らの選択と決定ができてゆくことが多い知的障 害者にとっては体験の場でも使えるサポートが必要です。 5.ケアホームでのヘルパー利用について  これは、グループホームの作業部会でも課題としてあげられることかと思いま すが、ケアホームの世話人の業務には個別の介護・外出の支援が入っていないこ とが前提の配置基準となっています。通所していない時間帯での外出支援は移動 支援や行動援護で、また、入浴や食事など身体介護での個別対応もホームヘルプ で対応できることが基本にならなければなりません。「世話人がいるからつける必 要がない」という自治体職員の意識も一部にまだ根強く残っており、変えていく 必要があります。 ともにネットのあるケアホームの場合 Cさん106h、Dさん76h、Eさん55h、Fさん40hとそれぞれの必要性 で行動援護(移動支援併給)をほぼフルに利用しています。実際にはこれ以上必 要で、かなりの時間が事業所もちだしとなっています。 6.ショートステイでのヘルパー利用について  遠くの入所施設併設のショートではなく、近くの普通の家での単独型ショート ステイは地域生活維持のために大きな役割を果たしてきました。緊急時の利用だ けでなく、グループホームや一人暮らしのための体験の場という役割ももってき ました。 もともとの単価が低かったことに加え、日中の通学・通所時には3割近く減額さ れることとなり、多くの事業所が赤字運営を強いられています。基本的な単価の 抜本見直しが必要ですが、あわせて、単独型ショート利用時に移動支援・行動援 護利用が可能ということを明確にするべきと考えます。 7.私たちに「入所施設の限界」を教えてくれたCさん  Cさん(31歳・愛の手帳2度・区分6)は、地域のお店や医療機関にこだわ りがあり、その迷惑行為から警察沙汰になることが何度もあった方です。 彼のこだわりが高じて、警察から措置入院を勧められ、とりあえず入所のショー トを利用することがありました。彼はそこでも落ち着かず、むしろ行動が先鋭化 していきました。しかし、ともにネットからショート先で個別の支援を行った時 はそんな行動はみせず、地域のショートにもどってきたときは落ち着いてすごせ ました。その後、彼はケアホームに入居します。4人のケアホームで2人の泊ま り、また100時間をこす行動援護(移動支援併給)の利用で、おどろくほど彼 の「行動障害」は減少しました。  考えてみれば当たり前のことです。彼には1:1でじっくりと付き合いながら 支援者との間での信頼関係を創る過程こそが必要であり、入所施設の人員ではそ れが不可能という単純な理由だったと思えます。  移動介護からはじまったCさんの支援でしたが、数時間のサポートの中でサポ ーターとの間では「問題行動」が少なくなっても、家族のもとに帰ると途端に「問 題行動」をおこしてしまうCさんには、夜間もつきあうことが必要でした。その 関わりの中で彼の全体像がつかめ、つかめることで、俺のことを少しはわかった かという安心感をかえしてくれ、そのことがゆとりをもってCさんにつきあえる サポーターを育てるという、このお互いの積み重ねこそが重要であったと確信し ています。 この「積み重ね」の過程にこそきちんとお金が出る制度にするべきと思います。 8.まとめ  移動支援は単に外出の支援・余暇の支援とか社会参加ということだけでなく、 本人にとっては入浴するとか食べることと同等の生活に不可欠な支援です。これ を国が財政責任を居宅介護と同等に持つのは当然のことです。  しかし、個別給付から外され、市町村事業の移動支援になって以降、利用者要 望に応え使いやすい柔軟な自治体独自制度を創る努力をしてきた市町村は少なく ありません。その中味を個別給付化では生かしていく必要があります。  移動支援や行動援護の支援が入ることで知的障害者の地域生活を「かろうじて」 支えているケースは少なくありません。しかし、「かろうじて」でなく生活トータ ルな支援をどう創っていくのかにつながる移動支援・行動援護でありたいと思い ます。  現在の身体介護・家事援助・行動援護・移動支援と分けられた支援類型では知 的障害者の生活をトータルに支えることはできません。見守りや関係性構築の支 援が含みこまれた一本化した支援類型が必要です。当面重度訪問介護を知的障害 者にも適用すべきです。また、ホームヘルプではなく、「マイヘルプ」として場所 ではなく本人につくサポートとして組みなおしてほしいと思います。体験の場に も使えるようにすべきです。  グループホームを施設ではなく、地域における居住の場として位置づけるので あれば、当然そこでもヘルパーが必要な時間、利用できることを基本とすべきで す。 なお、特定非営利活動法人全国障害者生活支援研究会(通称サポート研)が昨年 「知的障害者の移動支援の個別給付化についての見解」を示しています。 詳しくは http://kyotakunet.sblo.jp/category/865987-1.html参照ください。 区部・市部それぞれの調査結果が一覧表となっています。 資料2 知的障害者の移動支援の個別給付化についての見解 2009年11月25日 特定非営利活動法人 全国障害者生活支援研究会 (通称 サポート研) 会長 赤塚光子  今夏政権交代が実現し、民主党連立政権が誕生した。新政権はこの4 年の間に 障害者自立支援法を廃止すると宣言した。  その障害者自立支援法で個別給付から外され、地域生活支援事業とされた『移 動支援事業』について、民主党障がい者政策プロジェクトチームは2009年4 月8日に公表した「障がい者制度改革について〜政権交代で実現する真の共生社 会〜」で「個別給付にする」と明示している。  知的障害者にとっての「移動支援」は、単なる「移動」への支援ではなく、「社 会参加への支援」であり、生活上の「意思決定への支援」でもあって、地域生活 にとって欠くことのできない支援である。  私たちは、旧政権のように視覚障害者の移動支援に限定せず、この知的障害者 の移動支援を個別給付にすることが極めて重要であると考える。  国が義務的経費から外した結果、この間に市町村格差がさらに拡大したばかり か、市町村予算を圧迫し、利用者の支給時間の制約が行われるなど様々な問題が 露呈しているからである。  しかし、移動支援事業を個別給付に戻すにあたっては、以下の点をあわせて検 討・実施することが必要と考える。 1.柔軟で使いやすい「(新)移動支援」に 国が1/2負担を放棄した責任は大きい。それは、改めなければならない。しか し一方、支援費制度での移動介護(外出介護)の国の制約を外し、利用者が使い やすい制度に変える努力をしてきた自治体も少なくない。そこでは、利用対象者 を拡大したり、通学・通所の支援を可能としたり、月をまたいでの支給決定や利 用者負担の無料化など、利用者が求めてきた支援が具体化もしている。また、ヘ ルパー確保のために資格要件を緩和した自治体もある。これら各自治体が取り組 んできた独自の柔軟性のある施策の運用が、国制度になったあとも継続できるこ と、あるいは国制度に盛り込むことが必要であると考える。個別給付化すること は、単に従前の移動介護(外出介護)に戻すことではないことを前提に制度設計 して行くことが必要である。 2.『移動介護』単価の底上げを この間、厚生労働省は、「行動援護」があるからと知的障害者の移動支援の個別 給付化に難色を示してきた。「行動援護」が誕生した背景の一つには、移動支援 の単価の切り下げの問題があった。移動支援を個別給付に戻すとなると、「介護 ありの移動支援」と「行動援護」が合体することが予想される。ここで問題とな るのは、「介護あり」単価と「行動援護」単価に差があることである。「介護あ り」単価が「行動援護」単価と同一に引き上げられるなら、事業所には大いに救 いとなる。従前の「介護なし移動支援」の単価の安さの改善も含め、単価の底上 げを図る必要がある。利用者ニーズに応える事業所が存続できるのか否かの避け ては通れない重要な課題である。 3.パーソナルな支援に一本化する方向性の議論の必要性と当面の改善策  知的障害者の支援に求められているサポート類型のあり方を改めて議論するこ との必要性を訴えたい。知的障害者の生活支援は、固定的な時間・固定的な場所 に限定される支援ではなく、またとりわけ「関係性の支援」ということが大きな 要素を占める。さらに様々な体験を通して、自らに必要な支援を確かめていく過 程が必要である。  現在の身体介護・家事援助・通院介助・行動援護・移動支援などにばらばらに された支援類型が、そもそも知的障害者のニーズとはそぐわない。これらを根本 的に見直し、パーソナルな支援に一本化する論議がなされる必要がある。すでに 自治体独自の取り組みとしてこれらの要素を組み込んだ取り組みがなされている 事例もある(埼玉県障害児(者)生活サポート事業など)。障がい者総合福祉法 制定に向けた論議の中で重要な課題として据えて欲しいと考える。  また、当面の改善策としては[1]見守りも明記されている重度訪問介護(身体介 護・家事援助・移動含む)の知的障害者への適用、A家の中に限定される身体介 護や家事援助を利用者の必要性で「外」でもつかえる柔軟性をもたせること [3] [1][2]に「(新)「移動支援」も含め、知的障害者にとって大切な「体験」の 場でも使えるサポートにすることなどが必要である。  来年度4 月実施にこれらの論議が間に合わぬ場合は、当面地域生活支援事業の 必須事業については実質義務経費化する予算を求めることも選択肢に入れての検 討が必要である。 私たちは、社会生活において多くのサポートを要する障害者の生活の支援につい て研究を行ってきた団体として、以上の論点が十分に考慮され、障害当事者・関 係団体・サービス提供事業者等との意見交換をしっかりと行う中で、利用者にと って本当に必要な制度が構築されることを心から望み、ここに見解を表明いたし ます。 小野委員 【テーマ1】 厚労省の「骨格提言への対応」と厚労省素案について ≪要点≫  18回に及んだ総合福祉部会での議論とその総意である「骨格提言」を無視し たものといわざるを得ず遺憾の意を表明するとともに、「骨格提言」を最大限尊重 した再提案を、JDFがとりまとめた「総合福祉法の制定に向けて(第一次案)」 をもとにしておこなっていただきたい。  なお、利用者負担の項に関して、「共通番号制度における利用者負担の合算の検 討」が対応として示されているが、利用者負担作業チームや総合福祉部会でまっ たく議論していない内容であり、その唐突な提案はフェアなものとはいえない。 撤回を求めたい。 ≪理由≫  総合福祉部会の総意としての「骨格提言」は、総合福祉部会のみならず、全国 の多くの障害当事者、家族と様々な関係者の関心と期待も含めた総意としてうけ とめる必要がある。 【テーマ2】 障害者自立支援法の廃止と新法の制定について ≪要点≫  障害者自立支援法の改正ではなく、障害者自立支援法の廃止およびそれに代わ る新法の制定を明確にすべきである。 ≪理由≫  障害者自立支援法の廃止は、民主党公約、政権合意、廃止宣言、自立支援法意 見訴訟団との基本合意文書、閣議決定、厚生労働大臣の国会答弁、等々による国 家の約束ごとであり、それを前提に総合福祉部会での検討に委ねられたはず。廃 止は議論の出発点であり、障害者権利条約批准を目標にした新法の制定という議 論がおこなわれ「骨格提言」としてとりまとめられた経緯からしても、法として の性格や方向性を新たにするためには、自立支援法ベースからの切りかえ、すな わち自立支援法の廃止と新法の制定は不可欠である。障害当事者、家族などにと って、「これで変わる」という納得感、わかりやすさからも、自立支援法の廃止を するか、否かは決定的な違いである。 【テーマ3】 利用者負担に関する新法規定 ≪要点≫  「骨格提言」どおり、障害に伴う必要な支援は原則無償、高額な収入のある者 の利用者負担は応能とするが、介護保険を含む利用者負担を合算し現行の水準を 上回らないこととし、その収入認定は本人に限ることを法律に明記すべきである。 ≪理由≫  「つなぎ法」をもっての利用者負担問題の結着にはならない。自立支援医療の 低所得者の無償化は、基本合意文書で「当面の重要な課題」とされながら先送り され続け、配偶者など課税世帯問題も深刻な実態にある。「つなぎ法」による仕組 みでは、その応能の刻み方によって負担の度合いはいくらでも変わることとなり 1割負担も厳然と残されている。家計の負担能力を前提とすることは、個を尊重 する「骨格提言」の新法の理念、性格からはあり得ない。 【テーマ4】 障害の範囲についての新法規定 ≪要点≫  障害の範囲については、「骨格提言」に記されているように全ての障害(児)者を もれなく支援の対象とすべきである ≪理由≫  厚生労働省案は「一定の障害のある者を加える」としているが、これではまた しても制度の谷間を生じさせる。障害者基本法の規定に沿って、障害児を含む全 ての障害者を対象として、支援の対象から排除されることのないようにすること が必要である。 【テーマ5】 障害程度区分廃止の新法規定 ≪要点≫  障害程度区分の廃止を新法に規定したうえで、試行事業を経ての個々のニーズ に基づいた協議調整型の選択と決定方式の実施期限を明確にすべきである。 ≪理由≫  障害程度区分によらない新たな支給決定の仕組みへの切りかえを法定する必要 がある。 【テーマ6】 就労支援に関する新法規定 ≪要点≫ 「骨格提言」の障害者就労支援センター及びデイアクティビティセンターを新法 に規定したうえで、試行事業(パイロット・スタディ)を経ての現行支援体系か らの移行の実施期限を明確にすべきである。 ≪理由≫  「福祉的就労のあり方」の見直しは閣議決定事項であり、障がい者制度改革推 進会議での労働と雇用制度の見直しと連動させて 新法に位置づける必要がある。 【テーマ7】 報酬と人材確保に関する新法規定 ≪要点≫ 報酬の支払い方式を「骨格提言」どおりに規定するとともに、常勤換算方式の廃 止を明確にすべきである。 ≪理由≫  厚生労働省案ではまったく不十分である。 尾上委員 【テーマ1】 障害者権利条約の批准に見合った今後の10年間を展望できる法案化 ≪要点≫  2月8日部会当日になされた「JDFから示されたロードマップについては私 どももしっかりと参考にさせて頂きたい」との津田政務官・発言を、責任をもっ て実施すること。 ≪理由≫  今回の厚生労働省から示された案は骨格提言が提起している内容に対して真 摯に向き合う姿勢が全く感じられない。  骨格提言では、支給決定の試行事業、就労関係のパイロットスタディ等も含め て盛り込む等、無理のない形での施行プロセスを提案している。こうしたことが まったく省みられず、ほとんど骨格提言の内容が反映されなかったのが、先日示 された厚生労働省案である。  このままでは、骨格提言をまとめる際の「二つの指針」となった障害者権利条 約の批准も、国が自立支援法訴訟団との間に交わした基本合意の履行もおぼつか なくなる。  厚生労働省の説明によると「現場・自治体の混乱を避けるため」との理由を上 げているが、それはためにするものに過ぎない。そうした混乱を避けるために、 前述のように骨格提言では施行事業等も含めた提案を行っている。  さらに言えば、日本における障害者福祉政策は、21世紀の最初の10年は「混 迷の10年」だったとも言える。2003年の支援費制度、2006年の自立支援法、2007 年の特別対策、2008年の緊急措置、2011年の「つなぎ法」、ほぼ2年に一度の制 度改正が余儀なくされてきたことになる。  部会で示された厚生労働省案で進めようとすればする程、今後も再び、部分修 正を繰り返していくことになるだろう。こうした、「先の見えない、手直しに次ぐ 手直し」が現場・自治体の疲弊感・徒労感を生み出していることに、政府・国会 議員は気づいてほしい。  今、求められているのは、過去の10年を反省して、展望・希望をもって次の 10年を迎えられるというメッセージのある法案作成である。  先日の部会でも多くの委員がその点を指摘し、また、JDF(日本障害フォー ラム)からは詳細な工程表も含めた案が示された。  部会に出席されていた津田政務官も、会議の最後に「JDFから示されたロー ドマップについては私どももしっかりと参考にさせて頂きたい」と発言された。  この発言を、政府・与党はしっかりと責任をもって実行していくことが必要で ある。 【テーマ2】 障害の範囲 ≪要点≫  障害の範囲に「治療方法が未確立な疾病その他の特殊な疾病(難病など)であ って政令で定めるものによる一定の障害がある者を加える」では、「制度の谷間」 は埋まらない。  谷間の解消のためには、障害の範囲を、いくつかの限定された難治性疾患をも つ人だけにするのではなく、すべての難治性疾患をもつ人の中で、その疾患によ って生活上の困難さをもつ人とすべきである。  サービスは、起因する疾病を限定して支給するのではなく、その人その人がも つ生活上の困難さに対して支給するものであり、障害をもたない人と同様の生活 を送るための支援でなければならない。 ≪理由≫  「難病などの疾病であって一定の障害がある者を加える」ならば、制度の谷間 は埋められよう。しかしながら、「治療方法が未確立な疾病その他の特殊な疾病」 を政令で定めることは、現行の難病サービス対象の限定された疾患をもつ人を障 害者の福祉サービスの利用者に含めるだけのことである。いつまでも一部の障害、 病名を制限列挙する医学モデルから抜け出ていないといえる。現在でも希少疾患 は5000から7000と言われているが、難病サービス対象は130疾患程度である。 また、診断名がつかない疾患は数さえ不明である。そういった疾患により、生活 上の困難さをもっている人が谷間に埋もれている。  現行のサービスにおいても、谷間の施策が存在していることを検証すべきでは ないか。たとえば、いくつかの自治体では、「重症患者への居宅生活支援事業」が ある。がんなどで余命宣告を受けた場合で、障害サービスや介護保険サービスを 使えない人を対象とするとうたわれている。また「地域生活支援事業サポート事 業」として障害者手帳所持を要件としながらも、他のサービスが受けられない人 を対象としている。そもそも、わざわざ谷間の施策を別建てにしなければならな いことを検証すべきである。  さらに、障害者基本法改正で、障害の定義に「継続的に・・・相当な制限を受 ける状態にあるもの」とある。国会等で「継続的」には「断続的なもの、周期的 なもの」が含まれることが確認されている。これもはっきりと明記すべきである。 【テーマ3】 選択と決定−協議・調整による支給決定プロセスへの組み換えと検討・実施プロ セスの明確化 ≪要点≫  厚生労働省案では、[1]附則的に、[2]5年後の、[3]障害程度区分の見直し が述べられているだけである。  これを、[1]本則に規定した上で、[3]3年後の、[3]障害程度区分を廃止し、 協議・調整による支給決定の仕組みへ組み換えるとすべき また、そのための試行事業の実施など、検討と実施プロセスを明記すべきである。 ≪理由≫  骨格提言では、選択と決定(支給決定)について、障害程度区分を使わずに個々 人の必要に応じた支給決定の仕組みへの組み換えが述べられている。しかし、先 日の部会で示された厚生労働省案では、[1]附則に、[2]5年後の、[3]障害程度 区分の見直し、が述べられているだけである。  そのため、[1]附則的な規定に止まっていること、[2]障害程度区分によるサー ビス種類・量の制限によって地域生活を困難にさせられてきた当事者にとっては、 5年というあまりにも長い先の見直しとなっている上に、その間の検討プロセス が全く明らかにされていないこと、[3]障害程度区分の見直しとあり、骨格提言が 述べている障害程度区分の廃止と協議・調整による支給決定の仕組みへの組み換 えという全体像について全くふれられていないという問題がある。  また、厚生労働省が示した「骨格提言の対応」では、「就労継続支援と施設入所 支援との利用の組合せについても、サービス等利用計画案に基づき通所による利 用が困難と市町村が認める場合には、支給決定を行えるよう弾力化」と述べられ ているだけである。つまり、これでは重度障害者の地域生活を困難にしてきた障 害程度区分と連動した国庫負担基準の問題はまったく解消されないということが 明らかである。  その点をふまえ、[1]本則に規定した上で、[3]3年後の、[3]障害程度区分 を廃止し、協議・調整による支給決定の仕組みへ組み換えるとすべき。  また、 骨格提言では、試行事業を行った上で支給決定の仕組みの組み換えを 提案しており、現場・自治体への負荷や混乱を回避するよう配慮している。 2012年度予算案に盛り込まれている障害程度区分に関する検証の予算は、この骨 格提言に盛り込まれている支給決定の試行事業とすべきである。 【テーマ4】 支援体系−パーソナルアシスタンス制度の創設と重度訪問介護の障害種別の制限 撤廃・種別間の格差是正、「他の者との平等」な社会参加実現のために通勤・通学・ 入院時等の利用可能化 ≪要点≫  パーソナルアシスタンス制度の「計画的・段階的」実施として、現行の重度訪 問介護の障害種別による制限の撤廃=障害種別間の格差を是正し、知的障害者等 も利用可能とすること  また、決定された支給量の範囲内であれば、通勤、通学、入院、1日の範囲を越 える外出、運転介助にも利用できるようにすること。 ≪理由≫  部会で示された厚生労働省案では、骨格提言の【重度訪問介護の発展的継承に よるパーソナルアシスタンス制度の創設】について、まったくふれられていない。  骨格提言では、【現行の障害者自立支援法における重度訪問介護の対象者は、 「重度の肢体不自由者であって常時介護を要する障害者」(第5条3)に限定されてい るが、障害の社会モデルを前提とする障害者権利条約及び谷間のない制度をめざ す障害者総合福祉法の趣旨を踏まえれば、このような機能障害の種別と医学モデ ルに基づく利用制限は見直しが必要】としている。  障害者権利条約では、「障害のあるすべての者の地域で生活する権利」を認め、 「居住地及びどこで誰と生活するかを選択する機会を有すること、並びに特定の 生活様式で生活するよう義務づけられないこと」としている。  また、昨年の通常国会で改正された障害者基本法では、「どこで誰と生活するか についての選択の機会が確保され、地域社会において他の人々と共生することを 妨げられない」と同様の規定がある。  そうした点から考えると、重度訪問介護の対象を「肢体不自由」だけに限定し ていることは、知的障害をはじめそれ以外の重度障害者にとっての地域生活の移 行・充実の支援を欠くことになり、障害種別間の格差を残したままとなり、大き な問題である。  重度の知的障害者、重症心身障害者・児も含めた地域生活を実現していくため に、見守り支援を含むパーソナルアシスタンス制度の実施に向けて、まずは、重 度訪問介護の障害種別による限定を撤廃し障害種別間の格差を是正すべきである。  また、今回の法律改正が障害者権利条約や先程の障害者基本法改正をふまえた ものであるならば、「障害の社会モデル」の観点から「他の者(障害のない市民)」 と平等に社会参加できるようにしなければならない。その点から、決定された支 給量の範囲内であれば、通勤、通学、入院、1日の範囲を越える外出、運転介助に も利用できるようにする。 【テーマ5】 支援体系−地域生活支援事業の見直し(移動支援、コミュニケーション支援、通 訳・介助支援を全国共通の仕組みに) ≪要点≫  障害者の基本的権利に関わる移動支援、コミュニケーション支援、通訳・介助 支援は全国共通の仕組みとすること。(通訳・介助支援は都道府県実施) ≪理由≫  自立支援法は介護保険との整合性を意識した制度設計となっており、介護保険 のメニューにない移動支援やコミュニケーション支援、通訳・介助員制度等を地 域生活支援事業化した。そのために、「話す」「聞く」「見る」「歩く」「動く」 という基本的権利の保障にかかわる、これらの支援で大きな自治体間格差を生み出 した。  義務的経費化、地域間格差の是正等が自立支援法の提案趣旨に掲げられたが、 明らかに、それとは異なる結果をもたらした。  「他の者(障害のない市民)と平等」な社会参加を実現するため、障害者の基 本的権利に関わる移動支援、コミュニケーション支援、通訳・介助支援は、骨格 提言の提起する通り、全国共通の仕組みとすることが不可欠である。  また、通訳・介助支援の対象となる盲ろう者の希少性・ニーズの多様性から都 道府県単位での実施とすること。 【テーマ6】 地域移行と地域基盤整備10カ年戦略の法定化 ≪要点≫  社会的入院、入所解消のための地域移行促進を法に明記するとともに、障害者 が地域生活を営む上で必要な社会資源を計画的に整備するための「地域基盤整備 10カ年戦略」を法定化し策定すること。 ≪理由≫  自立支援法では、地域移行はスローガン、施策メニューとしては掲げられてい るが、法律には明記されていない。また、地域移行を進めていくための障害者の 地域生活の基盤整備等についても、単に自治体が障害福祉計画を策定し積み上げ ていくだけとなっている。  こうしたことから、厚生労働省のデーターでも毎年4500人程度が入所施設から 出ているものの、それを倍する数の者が新規入所となっている。  1981年のノーマライゼーションから30年を経た今も、こうした状況が続くこ とは、「放置できない社会問題」(骨格提言・はじめに)と言わなければならない。  さらに、地域基盤整備10カ年戦略は、施設や病院からの地域移行のみならず、 「家族同居からの地域移行」=地域生活の拡充という点からも求められる。  昨年の3月11日の東日本大震災では、未だに多数の障害者が困難な状況におか れ、未だにその被害実態すら明らかになっていない状況にある。特に、震災前か らホームヘルプや日中活動等の支援を使わずに、家族扶養だけで何とかやってい た障害者の安否確認・実態把握が遅れたという重たい現実がある。  被災が大きかった地域では、震災前から障害者の重度訪問介護事業所等、障害 者支援の社会資源が乏しかったことが、障害者の被災をより苛烈なものにした。  災害からの復興を、改正・障害者基本法の言う「障害の有無によって分け隔て られることのない共生社会の実現」とするためにも、地域基盤整備10カ年戦略の 法定化と策定が必要である。  以上の点から、地域移行促進の法律上の明記と地域基盤整備10カ年戦略の法定 化・策定が必要である。 河ア委員 【テーマ】 「地域基盤整備10カ年戦略」(仮称)策定の法定化 ≪要点≫  精神障害者の地域移行を促進するための社会資源の充実策の推進、並び にそのための財源確保を項目に記載していただきたい。 ≪理由≫  骨格提言で提唱されている「地域基盤整備10カ年戦略」の策定とその実現に 向けた財源の確保がなされなければ、いわゆる「社会的入院」の解消は実現され ない。 川ア委員 【テーマ】 障害者総合福祉法の実現に向けて ≪要点≫  8日の福祉部会における政務官の説明では、骨格提言の内容を段階的、計画的に 取り入れていくということだったが、どの内容をどのように取り入れ実施してい くのか行程表を明示して欲しい。 ≪理由≫  単に言葉で言われても、具体性が無く、ゴールが見えない。抽象的な表現はし ないで、できるだけ具体的に示してほしい。 55人の委員が真剣に考え討議した骨格提言を、真摯に受け止め、誠意ある対応を していただきたい。 北野委員 【テーマ1】 サービス支給決定方式と障害程度区分について ≪要点≫  今後作られる障害者政策委員会の下に、内閣府と厚生労働省の管轄で、「支給決 定方式と障害程度区分に関する検討会」を設置し、3年をめどに、自治体や地域 でのモデル事業等をふまえて結論を出し、障害者政策委員会が24年度に定める 「国の新たな10カ年基本計画」と、その予算的裏付けとなる総合福祉法の「地 域基盤整備10カ年戦略」にそれを反映し、全国的に実施すること。 ≪理由≫  今回の、「法の施行後5年を目途に、障害程度区分のあり方について検討を行い、 必要な措置を講ずることとする」という厚生労働省の提案は、2つの基本的な間 違いを犯している。 1つ目は、22年1月の「基本合意文書」の「三 新法制定にあたって」の論点 で、検討すべき六つの事項の「A支給決定のあり方」 についての表記が全くな く、障害程度区分のあり方の検討に、矮小化されている点である。これは、おそ らく、「障害程度区分の廃止を含めて抜本的な検討」という合意文書の表記に引き ずられて、障害程度区分のみを表記しているのであって、「障害程度区分のあり方 についての検討」という表現は、A支給決定のあり方をも含むと抗弁するつもり とも受け取れるが、そこには無理がある。  障害程度区分は、障害者に対する福祉サービス支給決定の一つの重要なツール ではあるが、実際には、全国共通のアセスメントによる第一次判定から、市町村 審査会の第二次判定をへて障害程度区分の認定がなされ、それをふまえて、市町 村は、それぞれの支給決定基準に基づいて、本人の意向等の勘案事項を勘案して 支給決定を行う訳である。  つまりは、これら一連のプロセスを支える支給決定方式全体を見直す作業を行 わなければならず、障害程度区分の見直しは、その一部分でしかない。  問題の二つ目は、「法の施行後5年を目途に・・・」という表記である。これも、 今後の「障害者10カ年基本計画」や「地域基盤整備10カ年戦略」に合わせて、 5年を目途にという表記がなされたのだとすれば、大きな誤りである。確かに、 市町村や障害当事者やサービス事業所等の理解や混乱等を考慮すれば、制度の改 革には、その検討期間を含めて一定の移行期間が必要である。  幸い兵庫県西宮市等では、関係者との協議の元で作成された、福祉サービス支 給決定基準(ガイドライン)が公表されており、それに基づいて支援費時代から 支給決定がなされており、障害程度区分による国庫負担基準の問題を抱えながら も、最重度障害者の地域生活を支えてきている。それらの実績を含めて、人口規 模ごとに幾つかの市町村をモデル指定して、障害程度区分の改廃も含めて、どの ような「福祉サービスの支給決定方式」が望ましいのかを検討し、一定の方向を 示せばよいと思われる。つまりは、障害程度区分が、障害者の地域生活の希望と ニーズに、どのようにマッチングしているのかを、モデル市町村で、調査検討し、 さらに、障害程度区分の改廃を含めて、どうような「福祉サービスの支給決定方 式」を採用すれば、その市町村の障害者の地域生活の希望とニーズにマッチング できるのかを提案してもらい、それを集約しながら、新たな制度設計を行えばよ いものと思われる。  さて、その期間であるが、3年が限度であろう。それを超えると言うことは、 政治や行政の関係者の入れ替わりを鑑みれば、責任主体が不明確になり、無責任 極まりないこととなろう。まさか、責任ある国家機関である厚生労働省が、組織 的責任回避のためにこのような無責任な期間設定をしたとは考え難く、これは、 JDF等の提案する3年以内という期間設定が妥当だと思われる。 さらに、これまでの制定経緯と責任を鑑みれば、今後作られる障害者政策委員会 の下に、内閣府と厚生労働省の管轄で、検討会が組織運営されるのが妥当であろ う。 【テーマ2】 総合的な相談支援体制の整備について ≪要点≫  今後作られる障害者政策委員会の下に、内閣府と厚生労働省の管轄で、「権利擁 護をふまえた総合的な相談を可能とする相談支援体制に関する検討会」を設置し、 3年をめどに、自治体や地域でのモデル事業等をふまえて結論を出し、障害者政 策委員会が24年度に定める「国の新たな10カ年基本計画」と、その予算的裏 付けとなる総合福祉法の「地域基盤整備10カ年戦略」にそれを反映し、全国的 に実施すること。 ≪理由≫  今回の「サービス等利用計画案の作成や地域移行支援、地域定着支援を行う相 談支援事業者への専門的な支援などを担い、地域における相談の中核となる基幹 相談支援センターは、その事業を効果的に実施するため、地域の事業者、民生委 員などの関係者との連携に努めることとする。」という厚生労働省の提案は、「総 合的な相談支援体制の整備」の大きな目標からすれば、極めて枝葉末節な提案で ある。  例えば、日本知的障害者福祉協会は、「身体・知的・精神の相談専門職を配置す るに当たっては、相談支援体制についての経費は、サービス計画作成費のみでは 運営できない。」と、その政策小委員会で提起している。また、全国地域生活支援 ネットワークと日本相談支援専門員協会が共催した24年2月のアメニティーフ ォーラムのシンポジウムにおいても、何人かのシンポジストから、これまでの委 託相談支援とつなぎ法の特定指定相談支援の関係や、全般的な相談を受ける体制 の不備等の問題点が指摘された。 厚生労働省の提案は、肝心の「地域における相談の中核となる基幹相談支援セン ター」の人員配置や予算措置のことは全く述べておらず、このことは「地域の事 業者、民生委員などの関係者との連携に努め」れば、なんとかなるような問題で はない。  ただ、これについても、直ちに実行可能でかつ理想的な「地域総合相談支援セ ンター」の構想が出来上がっているとは言い難い。そこで、今後作られる障害者 政策委員会の下に、内閣府と厚生労働省の管轄で、「権利擁護をふまえた総合的な 相談を可能とする相談支援体制に関する検討会」を設置し、3年をめどに、自治 体や地域でのモデル事業等をふまえて結論を出し、全国展開するほかないと思わ れる。  これは、2月8日の総合福祉部会で、「権利擁護をふまえた相談支援でなければ、 相談支援を受けることによって、却って人権侵害を招く」と言う指摘や、「ピアカ ウンセラー配置の必要性」等の各委員の発言をふまえた提案であり、総合福祉部 会55人の総意をふまえた提案であることを、申し添えておく。 倉田委員 【テーマ1】 「4.障害者に対する支援(サービス)の充実 (2)就労支援の在り方の見直 し」について ≪要点≫ 法の施行後5年を目途に検討する旨、たったの2行で書いているが、2年間にわ たる総合福祉部会や「就労」合同作業チーム等の意見を踏まえた「骨格提言」が 全く尊重されておらず、到底、容認できない。 ≪理由≫ 1.骨格提言で明記している「多様な働き方についての試行事業(パイロット・ スタディ)を実施しないで、「就労支援の在り方の見直し」など、できるもので はないと考えるため。 2.改正障害者基本法第18条に新たに記載された「多様な就業の機会の確保と、 そのための調査・研究の国等の義務」について、総合福祉法でどのように体現 されるのか、記載されていないため。 3.「福祉的就労への労働法規の適用の在り方について結論を得る」とした平成2 2年6月の閣議決定が活かされておらず、厚労省が現在実施中の3研究会でも、 この課題がカバーされていないため。 4.一般就労への促進策を強化することについては、全く異存がないが、行きた くても行けない福祉的就労者の問題、高齢化・重度化に直面している企業就労 者等の課題が抜けているため。 5.(追記、平成24年2月23日記)   平成24年2月21日付け厚生労働省案(修正版)における【留意すべき事 項】(民主党障がい者WT意見より)に記載されている下記の内容は、全くその とおりであるが、この内容を厚生労働省案(修正版)本文及び障害保健福祉施 策の推進に係る工程表(案)(平成24年2月21日付け)に全面的に反映され たい。  また、併せて、下記【留意すべき事項】を検討するために、現在、障害者雇 用対策課で取り組まれている3研究会とは別に、新たに研究会を立ち上げるべ きと考える。 近藤委員 【テーマ1】 法の施行に向けた詳細な工程の明示 ≪要点≫  法の施行に向け、法案提出時からの詳細な工程を早急に示すこと。 ≪理由≫  今回の法案骨子「厚生労働省案」では、法の内容がわからない。また、例えば 法施行後5年を目途に必要な措置を講ずるとされた就労支援については、何につ いてどのような方法で検討していくのかが不明である。 骨格提言で示された各項目についてどのように扱い、「段階的、計画的」に実現を めざしていくのか、その方法、スケジュールを示す必要がある。 【テーマ2】 障害程度区分の見直し ≪要点≫ 1.検討に当たっては、関係事業者団体が参加する場を設けること。 2.就労支援における働く支援の量の計り方は、他の分野と異なることを十分考 慮すること。 ≪理由≫ 1.支給決定は幅広い分野にまたがるテーマであり、当事者のみならず、事業者 その他多様な分野の関係者を交えた議論が必要である。 2.就労支援にかかる支給決定に当たっては、本人のニーズや本人を取り巻く環 境、また本人の適性や能力などを、関係者も交えて総合的に調整していくことが 求められる。現在の就労支援の窓口の専門性に幅があること、労働・福祉分野の 連携が不十分であることなど課題も多岐にわたっており、働くことへの支援の量 をどのように計っていくか、十分な検討を行う必要がある。 【テーマ3】 共同生活介護(ケアホーム)と共同生活援助(グループホーム)の一元化 ≪要点≫ ケアホーム、グループホームに加え、福祉ホームも加えて一元化すること。 ≪理由≫  福祉ホームの利用者像とグループホーム等の利用者像はほぼ同様である。 現行の地域生活支援事業の位置づけでは、その取り扱いに市町村間で格差が著し くなる恐れがあるため、福祉ホームも住まいの場として一本化することが必要で ある。 【テーマ4】 就労支援の在り方について ≪要点≫ 1.「厚生労働省案」で示された検討に当たっては、関係事業者団体が参加する場 を設けること。 2.一般就労は難しいが働くことを希望する障害者が人的支援を受けながら尊厳 をもって働くことを可能とする場を必ず位置づけること。 ≪理由≫ 1.障害者の就労は労働や福祉にとどまらず諸施策にかかるテーマであり、当事 者、事業者の他、経済団体、労働団体、専門家等を交え、多様な見地から根本的 な議論を行う必要がある。 2.検討に当たっては、約20万人の障害者が従事する福祉的就労の工賃等の実態 を踏まえ、働くことを希望する障害者が働く場を失わないよう、十分な配慮を行 う必要がある。 【テーマ5】 利用者負担 ≪要点≫ 就労支援事業の利用者負担は無料とすること。 ≪理由≫  ILO国際基準では、障害者は職業リハビリテーションを無料で受ける資格が あるとされており、諸外国においても無料で提供されている実態がある。 また、労働施策の障害者職業能力訓練校等では訓練手当等が支給されていること との整合性を図る必要もある。 斎藤委員 【テーマ1】 厚生労働省案は名称変更案でしかない ≪要点≫  今回の厚労省案は「障害者自立支援法の廃止はできないから名称を変える」案 であり、障害(者)の範囲として「難病」を加えたことと、グループホームとケア ホームの「一元化」が掲げられているだけであり、ほとんど「骨格提言」に対す る0(ゼロ)回答に近い。  一昨年の「障害者自立支援法改正」と比較してもそちらのほうがはるかに多く の改正を行っている。そもそも、その改正法自体が「障害者制度改革推進本部等 における検討を踏まえて障害者保健福祉施策を見直すまでの間において障害者等 の地域生活を支援するための」法律であったはずだ。  いったい何が見直されたというのか、こんなわずかの改正でもって終わりとす るなら、障害者自立支援法廃止−新法制定のためにつくられた障害者制度改革推 進会議−総合福祉部会はなんだったのか全くの茶番としかいいようがない。  政務官は「骨格提言にもられたことについては今後も実現に向けて取り組んで いく」といった。しかし、民主党障害者プロジェクトチームと厚生労働省の間で の度重なる検討がなされた結果がこの厚生労働省案である。「総合福祉部会の骨格 提言への対応」(資料1)をみても、骨格提言への回答はどこにも書かれていない。 現在の厚労省の施策と予算の羅列のみである。  改めて政府・民主党は総合福祉部会の骨格提言への真摯な対応をお願いしたい。 もしこの厚生労働省案が撤回されずにこのまま国会上程されるならば、それは政 府・民主党が約束した新法制定を反故することになってしまう。骨格提言の重要 な諸点を盛り込むべく厚労省との間で再検討を行い、3月の日程を延期してでも、 少なくとも障害者総合福祉法の名に恥じない法案とした上で国会上程していただ きたい。 【テーマ2】 障害者の就労支援 ≪要点≫  わたしの参加した就労合同作業チームに関していえば、就労関係5団体が参加 した民主党障害者プロジェクトチームの会合が12月はじめに開かれた。その席上、 共同連の他、セルプ協、きょうされんそれぞれかれら、骨格提言にもられた試行 事業(パイロット・スタディ)の実現を強く訴え、民主党議員もこれを強く支援し たにもかかわらず、厚生労働省は即座にこの提案を拒絶した。試行事業は賃金補 填の実施という誤解はあったものの、本来この試行事業は障害者基本法にもられ た「多様な働き方」の実現のための試行事業であり、当然に充分な検討を加える べき事業であるにもかかわらずこの対応である。  「総合福祉部会の骨格提言への対応」(資料1)では、「障害者の就労支援」で 「障害者のニーズに応じ、就労系福祉サービスから一般就労への移行は着実に増 加し、就労継続支援後も利用者が着実に増加」とある。就労支援事業の成果は思 わしくなく、一般就労への移行0(ゼロ)という事業所が多くあり、就労継続支援 A型の増加も不当な短時間利用の結果であり、新手の貧困ビジネスの参入を招い ているなど問題だらけで、「着実に増加」などと楽観視している状況とは程遠い現 状である。  しかるに、法案には「4(2) 就労支援の在り方の見直し」として「法の施行 後5年を目途に就労支援の在り方について検討」としかない。これでは、現状は とにかくうまくいっているので何も見直さないといっているにすぎない。  ことは就労支援の問題だけではない。ほとんどの点について何も見直さず現状 の障害者自立支援法のままでいくとされている。  確かに「骨格提言」自体も不完全ではある。あまりにも多くのことが盛り込ま れ、これら全てを実現しようとすれば多額の予算が必要になるし、時間がかかる ことも多いし、中には過大な要求もある。何をまず実現するのか、ただちに取り 組む課題と将来の課題とを峻別し、JDFから出されたような上程表も含めてよ り現実性の高い提案をすべきであった。それなしに厚生労働省に丸投げした結果 がこれである。  その欠点はあっても「骨格提言」には間違いなく改革すべき多くの提案が盛り 込まれている。重ねて政府・民主党にお願いしたい。骨格提言をふまえ、この厚 生労働省案を撤回し障害者総合福祉法にふさわしい法案とすることを。 佐野委員 【テーマ1】 厚生労働省案は名称変更案でしかない ≪要点≫ 障害者基本法の改正を踏まえるとのことだが、障害者基本法の障害の定義に基づ いたものとなるようにしていただきたい。 ≪理由≫  現行の聴覚障害に関する身体障害手帳の基準(70デシベル以下)は、国際基準 (WHO)の40デシベル以下に比較し非常に厳しく、その結果我が国の聴覚・言語 障害による身体障害者手帳保持者は僅かに35万人(人口比0.3%)に留まってお り、欧米の聴覚障害者人口比10%以上に比較し、極めて低い水準です。今回の総 合福祉法策定に当たっては、聴覚障害に関する身体障害者福祉法第4条別表の規 定を国際水準に合うよう改定し、身体障害の等級基準を改めると同時に、医師診 断書、意見書もその基準に従うよう明示してください。  厚労省案では「制度の谷間は難病にあり」のような考え方であるが、従来の身 体障害、知的・精神障害でも障害認定において、歴然とした認定基準の差別が存 在する。このような現実をどのように受け止めているのか。 多くの「谷間の障害」 者に福祉施策の対象となることが本来なされるべき障害者福祉施策であると考え ます。 【テーマ2】 理念・目的 ≪要点≫  障害者基本法に挙げられている地域社会における共生等第3条に掲げられた条 文と1〜3も盛られている具体的記述に対して、新法でどのように位置づけるのか。 名称さえ変えれば良いというものではない。 ≪理由≫  特に一 参加の機会の確保 三の言語・コミュニケーション手段の選択の機会の 保障、情報取得と利用のための手段の選択の保障について、厚労省案では不安、 懸念が生じる。 聴覚障害者分けても中途失聴者や難聴者を例にとってみると 1.視覚的情報を得る権利や使用する権利の保障が必要である。 a.筆談で対応してもらえる権利 b.音声と手話を併用して対応してもらえる権利 c.聞こえを補う情報保障(手話・要約筆記・補聴援助システム)を利用する権利 2.広範な聴覚補償(補聴器・人工内耳等)をコミュニケーション手段とする障害 者にとって、装用訓練、リハビリテーション、聞こえの環境を整備する必要がある。 3.また、先天性、後天性を問わず、1.2.の保障を得るためには、教育、福 祉、医療の連携は言うに及ばず、それぞれのライフステージに応じたコミュニケ ーション手段獲得のための学習の機会が保障されなければならない。ゆえに「総 合(的)福祉法」のなかで、しっかりした位置づけがなされる必要がある。 4.上記の1〜3のことが、各分野で行われることが聴覚に障害を持つ立場では 「地域社会における共生」につながる道である。この目的に向けた、実現に近づ くための「新法の制定」を改めて強く要望します。 清水委員 【テーマ1】 3.選択と決定 「障害程度区分の在り方検討」ではなく、「本人の意向が尊重される新たな支給決 定の仕組みへの検討」そして見直し ≪要点≫  障害者基本法改正に基づく理念、目的の変更に対応するならば(そのことをも って法律名を変更するのであれば)、そして骨格提言を段階的に実体化していくの であれば、当然必要なことは「障害程度区分の認定の在り方についての検討」で はなく、「個人支援会議などを重視した本人中心計画としてのサービス利用計画に 基づく本人の意向等が尊重される新たな支給決定の仕組みの実体化にむけての検 討」を進めていくことが必要。その上で法施行後3年をめどに見直しを行うこと が不可欠。 ≪理由≫  私は、西宮市において、支援費制度がスタートする1年前(2002年)より、 委託相談支援事業者として西宮市の仕組みづくりに参画して参りました。西宮市 では(人口48万人ですが)、支援費制度が始まる前に、市行政は市行政で、市担 当職員が全ての人に出会い、聞き取り勘案調査を行い支給決定をしています。重 ねて、相談支援事業者は相談支援事業者として、必要な方、望まれる方について ご本人と何回も出会い個人支援会議を開き、本人中心の支援計画を作成し、ご本 人と行政に提出しています。そしてご本人の希望や生き方を中心に市行政職員、 相談支援事業者、そして支援事業者等が意思疎通をはかりながら一人ひとりの生 き方にそって支援を構築していくことがまがりになりに実態化していきました。 ガイドラインもライフスタイルに基づく標準ケアプラン方式で、一般市民にも公 開されております。またそれはあくまでもガイドラインであり、一人ひとりの状 況に応じて大きくそれを上回る支給決定がなされる場合もあります。本当にその 人がその人らしく生きていくために、どうしても必要であるということをみんな が認識しているからこそです。また、不服申し立てとは別に、合意形成システム としての第三者機関もそれなりに機能し、少しずつ構築的改善が進められてきま した。  何を申し上げたいかと言いますと、「協議調整による支給決定プロセスは決して 絵空事ではない。すでに実態化も進められている。」ということでございます。そ の実践実体の中に身を置いてきている者として、申し述べないわけにはいかない のです。  西宮市は特に行政能力が高かったわけではございません。決して障害福祉の財 源が独自に豊かにあったわけではありません。相談支援や障害者関係機関の機能 が特別に優れていたわけではありません。西宮市民の意識が元々高かったわけで もあろうはずがありません。ただ、私たちは支援費制度が始まる時、一人ひとり がその希望に基づいて、措置ではなく利用契約として、新しい仕組みを創ってい くということをそのままに受け止め、ただただ全うに当事者、事業者、市行政が 手をつなぎ協働構築に向かっていっただけのことなのです。どうしても自分の思 考に結びつけてしまうのですが、西宮市の中で「青葉園」の人たちのように、ど んなに障害が重くても主体者として、市民として必死で生きていこうとする人た ちの存在があったからだと思うのです。そして、一人ひとりの存在が本当に大切 にされる共生社会の実現に向かわせていったのです。  私たちは、この障がい者制度改革において、また、総合福祉法づくりにおいて、 根本から本人主体に変わっていこうとしているわけです。私たちは、変わってい くための論議をしてきたわけです。西宮市では、支援費制度の構築に取り組む中 で一人ひとりの当事者と出会い、当事者の主体に向き合うことにより市行政職員 が育ち、私たち事業者も育ち、市民が意識変革されていく、そんな本人中心の変 革連鎖の可能性が見えてきていると申し上げたいのです。そして、それは西宮市 のことだけではなく、この国の全ての自治体にもある可能性だと思われるのです。  西宮市においても相談支援の一般財源化の際や、自立支援法による障害程度区 分の導入等の折々で、大きな行き詰まりを実感して参りました。真の地域主権と いうのであれば、西宮市が支援費制度の実施に際して構築を進めたような自治体 の立ち上がりこそをしっかりと後押ししていくことこそが大切なのではないでし ょうか。  決して本人を客体化することなくあくまでも協議調整により支給決定を進めて いくということを、新たな仕組み総体の構築の基軸にしてこそ、今回の改革は全 うできるものと確信致しております。そしてそれは決して実態化不可能な絵空事 ではないのです。 私たちは、一人ひとりのその存在の価値に導かれて改革していこうとしているの です。どうか旧来の限界論的な考え方で骨格提言を無視しないで下さい。 【テーマ2】 4.支援(サービス)体系 「就労支援のあり方についての検討」ではなく、「障害者本人が主体となって地域 生活を進める支援体系の構築についての検討」そして見直し ≪要点≫  障害者基本法改正に基づく理念、目的の変更に対応するならば(そのことをも って法律名を変更するのであれば)、そして骨格提言を段階的に実体化していくの であれば、当然必要なことは「アクティビティセンターの創設に向けてのモデル 事業展開や多様な働きかたについてのパイロット・スタディーをすぐさま展開」 し、本人が主体となって地域生活を進めていくことから、新たな支援体系を構築 していくことが必要。その上で法施行後3年をめどに見直しを行うことが不可欠。 ≪理由≫  基本的なこととして、そもそも何を根拠に「事実上の廃案・新法」といえるの かという点について、「障害者基本法の改正に基づく医療モデルから社会モデルへ  共生社会の実現、社会的障壁の除去等を、法の理念目的として新たに規定し、そ の上で法律の名称そのものを見直す」と説明されています。  私が驚いたのは、その後の説明です。「そういうことであるから(自立支援給付 は何の変更を加えることもなく)地域生活支援事業として理解を深めるための啓 発やボランティア活動を支援する事業を追加する。」という点です。これは、全く 私にはわけがわかりません。共生社会の実現に向けてどんなに重い障害であって も、障害者本人が主体となって地域生活を展開していく、そのことこそが共生社 会に導いていくのだという、この改革のそして私たちの論議の基本・本質を全く 理解されていないということでしょうか。これでは名前を変えても「事実上の旧 法」でございますと説明されているようなものです。  このことは55人の部会委員や障害者当事者、関係者のみが認識するものでは なく、一般の人々がその根本的おかしさを認識するに充分だと思います。このよ うな説明を受け入れることは到底できるものではありません。  今回の改革では権利条約を踏まえ、援護の客体から権利の主体へ、そしてその ことによる共生社会の実現であることは何度も述べられ広く認識されてきたこと です。まず大切なことは、本人の意志を尊重し意思決定を支援する選択と決定(支 給決定)の仕組みとそれと呼応した意志決定したことを共に実行していく支援を 共に進め、主体的社会参画を進めていく。(より主体化していく)支援を本人が得 ていくこと、そして一人ひとりの存在の価値をみんなが実感していくということ で、共生社会の実現へ向かっていくということであったはずです。 取り急ぎ必要なことは、「自立支援給付」をその「体系」「名称」「目的定義」を根 本的に改めていくことにより、共生社会の実現に向けた新たな仕組みとするとい うことであります。私ども「青葉園」の人たちは30年にわたって、この西宮市 で主体的に生き、共生社会の実現に向けてその役割を果たし続けています。もち ろん「青葉園」だけでなく全国の至る所で重症心身障害の人たちの地域生活展開 がたいへん厳しい状況の中進められ、そのことが確実に共生社会の実現に向かっ ていることはいくらでも証明できることです。こういった主体的地域生活展開を 後押ししていく仕組みの提示こそが求められています。 水津(すいづ)委員 【テーマ】 障害者総合福祉法案(仮称)の在り方 ≪要点≫  新法は、総合福祉部会の骨格提言を可能な限り反映させた法制度となることを 期待している。制定に当たっては、障害者自立支援法を改正し、名称を障害者総 合福祉法とすることが望ましい。 ≪理由≫  障害者自立支援法は、つなぎ法によって変革され、また24年度予算により、 骨格提言の趣旨がかなりの部分で反映されていること。また、改革による大混 乱を利用者や市町村に与えないためにも、穏やかな法制移行が望まれる。 1 応能負担は実現した。 2 障害者総合福祉法が対象とする障害者の範囲は、すでに発達障害が対象と されたので、谷間のないものとするためには障害者基本法との整合性を図る ものとし、残された難病等が対象となれば、骨格提言の趣旨に沿うものとな る。 3 選択と決定については、現在の障害程度区分では、ニーズが十分反映され ないので、検証、再構築する必要がある。  支給決定プロセスの問題等について、自ら意思決定が困難である障害者へ の対応などの不安があり、ケアマネジメントの仕組みや客観性を持った尺度 の創設等の課題を十分な時間をかけて検討することが必要である。 4 支援(サービス)体系については、提言の趣旨が24年度予算においても 取り入れられているところであり、今後とも予算対応として段階的に進展さ せるべきである。 5 地域移行については、移行支援、定着支援、相談支援、移行目標値の設定 と基盤整備等の推進、また人材確保と報酬制度の改善等は、予算対応であり、 順次進展させるべきものである。 6 財政の在り方は、可能な限り国庫負担金として制度の内容を充実させると ともに、補助制度と相まって障害福祉に必要な予算の確保を図るべきである。  7 障害者総合福祉法(仮称)といえども、サービスの給付法であることを踏ま えるべきである。 竹端委員 【テーマ1】 障害者の範囲 ≪要点≫ 「政令で定めるもの」という規定では、「制度の谷間」の問題は解消されない。 ≪理由≫  骨格提言では,改正障害者基本法に基づき、谷間を生まない包括的規定がなさ れている。一方厚労省案で示された「政令で定めるもの」というのは特定の病名 を列挙する形(制限列挙)であり、これではこの特定の病名に入らない難病者の 「社会的障壁」を支援するサービス体系にならない。よって骨格提言の法の対象 規定を遵守した内容にする事を求める。 【テーマ2】 障害程度区分の見直し ≪要点≫  支給決定の方式そのものを見直さないと、障害者のニーズにあった支援は提供 できない。 ≪理由≫  骨格提言の「T―V 選択と決定」においては、現在の障害程度区分に基づく 支給決定の問題点を整理した上で、障害程度区分を用いない協議・調整モデルの 導入を提案している。障害者のADLのみを評価する障害程度区分では、障害者個 人の生活のしづらさや社会的障壁といったQOL支援の側面を評価する事はできな い。そのため、次年度予算案で程度区分に関する調査・検討の費用として1億円 が計上されているが、これは協議調整モデルでの支給決定のモデル事業予算とし て活用する事が、国費の有効活用として求められる。ちなみに今後5年で検討で は遅すぎるので、モデル事業も3年間で成果を検証すべきである。 【テーマ3】 障害者に対する支援(サービス)の充実 ≪要点≫  真に重度障害者の地域移行を進めるためには、パーソナルアシスタンス制度(重 度訪問介護の発展的継承)が必要不可欠である。 ≪理由≫  強度行動障害や重い自閉症、重症心身障害のある人が地域移行出来ない最大の 理由は、本人の意思決定支援が出来る、本人と関係性の深い支援者が地域で支え る介護保障体制が出来ていないからである。重度障害者の家族や入所施設関係者 が地域移行に納得できていないのも、この点にある。その問題を超える最大の突 破口が、個別の関係性を重視し、包括性と継続性を持たせたパーソナルアシスタ ンス制度である。なお財源問題を心配する声もあるが、入所施設を減らし、その 職員も再トレーニングした上で「地域移行」させ、当該職員がパーソナルアシス タンス制度の担い手になることで、予算の爆発的増加はあり得ず、むしろ費用対 効果は遙かに高いと予想される。 【テーマ4】 地域生活の基盤の計画的整備 ≪要点≫  障害者権利条約19条a項の「特定の生活様式を義務づけられない」を真に達成 する為には、グループホームの整備だけでは不十分で有り、地域基盤整備10カ年 戦略を法定化する必要がある。 ≪理由≫  現在、入院や入所せざるを得ない当事者が本当に地域に安心して移行するため には、入所施設や精神科病院の削減目標ではなく、地域資源を10年間で計画的・ 段階的に増やしていく目標が必要不可欠である。90年代に高齢者福祉の世界でゴ ールドプラン等の地域福祉重点の計画を立てた事が、介護保険制度の成功を大き く導いた。これと同様に、地域生活の基盤の計画的整備を進めるためには、国が 主導した中長期計画が必要不可欠である。国の財源的措置もないまま障害福祉計 画の見直しと自立支援協議会の設置促進をしても、地域の社会資源の増加は見込 まれない。 【テーマ5】 地域移行(厚生労働省案から漏れた課題) ≪要点≫  地域移行について法定化すると共に、現在入院・入所している障害者向けのニ ーズ調査を国事業として行うべきである。 ≪理由≫  厚生労働省は地域移行推進のサービス基盤整備として、グループホーム等の整 備や地域移行支援の報酬の加算、あるいは障害福祉計画での数値目標の設定など の運用で解決できる、としている。だが、地域移行が自立支援法下で進まなかっ たのは、地域基盤整備10カ年戦略のような地域資源の底上げ計画がなく、またそ れを国が主導で行わなかった点が大きい。骨格提言の「地域移行」で述べたよう に、国が責任を持って地域移行を促進する事を法律で明記する事が求められる。 また、現在入所・入院している人に向けたニーズ調査が、部会構成員による厚生 科学研究で今年度行われたが、これは在宅者へのニーズ調査同様、国事業として 次年度以後取り組むべきである。 【テーマ6】 権利擁護(厚生労働省案から漏れた課題) ≪要点≫  障害者虐待防止法と成年後見制度だけでは、権利擁護の施策は不十分であり、 オンブズパーソン制度や寄り添い型の相談支援機関などの創設が必要不可欠であ る。 ≪理由≫  本来の権利擁護とは、日常生活場面において、本人が孤立して抱える苦情や差 別的な取り扱い、虐待その他の人権侵害から護られ、またその事を通じて本人が エンパワメントされて行くことを指す。その方法論として、金銭管理に限定した 成年後見制度や、精神科病院や学校における虐待の通報義務のない障害者虐待防 止法だけでは不十分である。骨格提言の「権利擁護」でも整理したように、入所 施設や精神科病院で本人の気持ちを聞き取り、寄り添うオンブズパーソン制度や、 あるいは地域において寄り添い型の相談支援を行う拠点を作ることが必要不可欠 である。 【テーマ7】 総合的な相談支援体系の整備 ≪要点≫  計画相談支援を行ったり、基幹型相談支援センターが地域の事業者や民生委員 などの関係者と連携するだけでは、当事者のニーズに基づく相談支援とはならな い。 ≪理由≫  相談支援とは、本人との信頼関係を構築した上で、そのニーズを引き出し、そ れを実現する為の手立てを一緒に考え、その実現を後押しする一連のプロセスで ある。一方、22年改正法で出来る計画相談は、あくまでもサービス利用の管理と 計画に留まっている。本来の相談支援とは、どのサービスに当てはめるか、が目 的ではなく、本人のQOLを高めるためにはどのような支援が必要か、そのサービ スが使えれば活用し、無ければソーシャルアクションで創り出す事も求められる。 上記内容を実現する為には、骨格提言の「相談支援」で述べた新たな相談支援体 制の実現が求められる。 【テーマ8】 総合福祉部会の発展的継承(厚生労働省案から漏れた課題) ≪要点≫  骨格提言と厚生労働省案は、あまりに隔たりが大きく、真の障害者制度改革の 実現とは言えない。この問題を解決するために、総合福祉部会の構成員および厚 労省担当者をベースとしたプロジェクトチームを作り、骨格提言を遵守した新法 作成と漸進的・計画的移行のための具体的な検討に当たるべきである。 ≪理由≫  厚生労働省は、新法制定をしない理由として、「現場や自治体が混乱するから」 と述べた。だが、これは新法の問題ではなく、現行の自立支援法が具体的なビジ ョンに欠けていたために起こった現象である。現場は自立支援法の度重なる改正 という「苦い記憶」を繰り返したくない、と思っているのだ。その問題を解決す るためには、この改革によって現場は具体的にこのようにより良くなる、という ビジョンと、それを具体化する工程表を作ることが必要不可欠である。厚生労働 省案は、残念ながら現場に精通していない厚労省の人間だけでは骨格提言を実現 することが無理である、という表明でもあった。であれば、総合福祉部会を発展 的に継承し、内閣府と厚労省が共催する形で、総合福祉部会の構成員と厚労省の 担当者によるプロジェクトチームを複数作り、現場の混乱を最小限にとどめ、か つ骨格提言を遵守した新法の制定と段階的・計画的実現に向けた具体的なアクシ ョンプランを検討すべきである。 田中伸明委員 【テーマ1】 障害の範囲 ≪要点≫  「・・その他の特殊な疾病(難病など)であって政令で定めるものによる一定 の障害がある者」と表現されているが、「政令」で定める場合の定め方には慎重を 期す必要がある。 ≪理由≫  「政令」の定め方によっては、新たな谷間を作り出す可能性があり、そのよう な結果は障害者権利条約の趣旨に反するものとなる。  政令の定め方としては、高次脳機能障害や、その他の障害が含まれるよう、あ くまで例示的な表記とし、また、「難病」の定め方についても、一定の疾病名を限 定列挙するのではなく、例示的な表記とする必要がある。 【テーマ2】 利用者負担 ≪要点≫ 「共通番号制度における検討」と表現されているが、「高額」の水準や、収入認定 の方法などについて、骨格提言の内容を十分に反映するものとなるよう留意して 頂きたい。 田中正博委員 【テーマ】 法案骨子全体を通して ≪要点≫  法改正に当たり現行の個別給付の仕組みを維持する上では妥当。 ≪理由≫  「骨格提言」は、現行の法律を廃止して、新たな法律案とするために必要な手 続きについては、十分検討し整理されたとは言い難く、むしろ障害当事者の思い や願いを中心に、構成員の意をまとめやすい中・長期の目標設定に重きを置いて 描いたと捉えている。  特に「相談支援」において、個別給付は協議調整モデルで支給するとしたが、 具体案の施行ではなく、具体案を作るための試行期間として3年間を費やすとし た。また試行方法を巡っては、部会構成員に意見の相違があったことも事実であ る。 この点を見ても、現行法を廃止し新たな法律案とするには議論が充分に醸成され ているとは言いがたい。また本年の通常国会での法制化により「骨格提言」の成 果を求める事については、予算の大幅な確保の見通しが不可欠である。そのため 年次的に中・長期の視点で取り組むとする姿勢は認めざるを得ない。骨格提言の 実現のためには「地域基盤10カ年戦略(仮称)」を具体化し、予算を着実に確保 し、地域福祉の基盤整備に邁進していただきたい。 中西委員 【テーマ1】 「今後の進め方」について 工程表と部会の存続 ≪要点≫  JDF案をベースに厚労省と部会委員等で工程表の突合せを行い、それを法文化 する作業を行うこと。部会は政策委員会への改組以降も、現行の総合福祉部会構 成メンバーを維持し何らかの形で継続すること。 ≪理由≫ [1]工程表  2月8日の総合福祉部会における津田政務官のご答弁により、段階的、計画的 に骨格提言を実施して行くことと、その最終形は総合福祉部会が取りまとめた骨 格提言の内容であることが厚労省の考えであることが確認されました。平成25 年に完全施行ではなく、段階的、計画的に施行していくことについては部会委員 も異論は出ておらず、その点については合意できたものと思います。JDFより工 程表案が示されましたが、今現在、具体的な段階的、計画的な工程案はこのJDF 案であります。  よって、今後の法案化に際して合理的かつ国民にも分かりやすい進め方として は、このJDF案をベースに厚労省と部会委員等で工程表の突合せを行い、それを 法文化する作業であると考え、その実施を強く求めます。 [2]部会の存続  制度改革推進会議が政策委員会への改組以降も、何らかの形で総合福祉部会を 継続し、段階的、計画的な実施を推進し、かつ、モニタリングする必要がありま す。その為には、これまでの経緯を熟知した委員で構成する必要があり、また権 利条約の趣旨からも当事者性の維持が欠かせないことから、現行の推進会議構成 メンバー、総合福祉部会構成メンバーを維持した組織が合理的と考えます。 【テーマ2】 厚労省のいう「現場の混乱、疲弊への懸念」について ≪要点≫  現場の混乱と疲弊の原因は、改変の頻度の多さではなく、その先に、これで良 くなるという夢や希望が伴わなかったことにある。 ≪理由≫  この数年間、制度が頻繁に変わっており、そのため今後更なる改変は、現場の 混乱、疲弊といったことが起きかねないという懸念の声がありました。私自身、 制度を利用している当事者でもあり、サービス提供事業者でもありますので、度 重なる制度改変に対応していく大変さは身に染みて感じており、現場の混乱、疲 弊と言う懸念は十分に理解できます。しかし、問題の本質は頻繁な改変という頻 度の多さではないことに気が付きます。そもそも障害者自立支援法の問題は、施 行してみて初めて判明したというような「想定外のもの」などでは全くなく、法 案が出された時から想定され、問題点が指摘されていたものがほとんどです。そ れにもかかわらず強行に実施した結果、すぐに問題が頻発し、施行直後から緊急 対策が繰り返され、本年4月からつなぎ法による改変も行わざるを得ないという 後手後手の欠陥法です。それでも、これらの対策や改正法が、本当に自立支援法 の持つ問題点の抜本的な解消につながっているのであれば、これまでの度重なる 改変も喜んで受け入れられたでしょう。しかし、多くの当事者が、家族が、事業 者が、従事者が、自治体が、支援者が、これまでの改変にいくら対応したところ で、一体どれだけの人が笑顔になれるのか、人生に夢や希望が持てるのか、仕事 に誇りと自信を持てるのか、それらが実感できないから、見えてこないから混乱 し疲弊しているのです。  2月8日の部会で私は厚労省の方に「この法案を作る過程で、誰か一人でも具 体的に顔や名前や状況が分かる人を思い描いて、法案を書いたことがあります か?」と質問しました。何故なら、私は、私たちが今現在支援している方たちの ことに想いを馳せた時、この厚労省案ではどうひいき目に見ても、「この法律がで きて本当に良かった」と彼ら彼女らが笑顔になることが想像できなかったからで す。障害当事者だけではありません。ご家族や支援者、介助者や相談員、行政の ケースワーカーといった方たちの安堵の表情も浮かばないのです。それに比べ、 昨年55名の部会員が、それぞれの立場、主義主張の違いによる利害を乗り越え、 55名の総意として取りまとめられた骨格提言の内容は大変すばらしいものでし た。これなら皆の笑顔が思い描けるのです。  確かに骨格提言は現場に大きな改変を要する内容ではありましたが、その改変 に取り組むことを想像した時、これまでの改変とは違い、それは大きな喜びでし た。もちろん大変さや苦労も想像に難くないものではありますが、それでも十分 多くの当事者、関係者に受け入れられるものと、実体験から確信いたしておりま す。何故なら、骨格提言の完全実施による改変は、その苦労の先に夢や希望が見 えるからです。これは当事者だけが感じていることではないことは、全国の多く の地方議会から「骨格提言に沿った総合福祉法の制定を求める意見書」が寄せら れていることが証明しています。  現場の混乱と疲弊の原因は、改変の頻度の多さではなく、その先に、これで良 くなるという夢や希望が伴わなかったことにあるのです。そもそもこれまで混乱 させ疲弊させてきたのは誰なのでしょう。そのことの反省も総括もなく、「これ以 上の改変は混乱と疲弊をもたらす」と平気で言える人たちに重要なことを決めら れてしまう空しさに疲弊します。 【テーマ3】 「障害者の範囲」について ≪要点≫  障害者の範囲は包括的な規定とするべきである。 ≪理由≫  「政令で定めるものによる一定の障害がある者を加える」という書きぶりでは、 傷病名を政令で制限列挙することになりかねず、これでは谷間の解消にならず、 改正基本法にも反することから、包括的な規定とするべき。 【テーマ4】 「選択と決定」について ≪要点≫  支給決定の在り方について、3年間の試行事業の上移行すること。    ≪理由≫  5年後に障害程度区分の在り方について検討と言うことでは、最終的に骨格提 言を実現するという趣旨からしても外れており、政務官答弁との整合性が取れな いことから、支給決定の在り方について、3年間の試行事業の上移行することに 修正が必要。その前段として、例えば平成24年度予算案に組み込まれている障 害程度区分の調査検証費用1億円を、ガイドラインの試行事業に運用するなどの 工夫も必要。 【テーマ5】 「支援体系」について ≪要点≫  まずは現状の重度訪問介護の利用対象者を、全障害者に認める必要がある。 ≪理由≫  現行の重度訪問介護サービスは、長時間介助を必要とする身体障害者にとって、 課題は残っているものの概ね評価されているサービスである。パーソナルアシス タンス制度の創設は、現在の重度訪問介護サービスの抱える課題の解消につなが る重要な支援体系の一つである。それはより一層、現利用者のニーズに応えられ るということだけではなく、ニーズがあるにもかかわらず知的障害者、精神障害 者、難病等包括的障害者などは利用することができない不平等が存続し続けてい ると言う、重度訪問介護が抱える根本的な問題の解消のためにも重要なのである。  段階的、計画的実施の方針に基づき、まずは現状の重度訪問介護の利用対象者 を、全障害者に認める必要がある。これは、理念目的で厚労省案にも組み込まれ た「社会的障壁の除去」の観点からもごく自然な改変である。別の表現をすれば、 何故、身体障害者以外は使えないと制限するのかを明確に説明できなければ、こ の不平等サービス自体が大きな社会的障壁と言える。行動援護、同行援護といっ たサービス体系については、そもそも他の障害者からのニーズがないことから、 利用対象を制限することは社会的障壁とはならないと考えるが、これも平等にす るべきと言うことであれば、それこそ複雑細分化による現場の混乱と疲弊を防ぐ ためにも、パーソナルアシスタンス制を創設し一本化すればよい。 【テーマ6】 「地域移行」と「地域基盤整備」について ≪要点≫  10か年戦略という工程表の法定化すること。 ≪理由≫  地域移行と地域基盤の整備は、社会的障壁の除去に最も寄与する重要な施策で あり、この法定化、10か年戦略という工程表の法定化は、段階的、計画的実施 の本気度を示す有効かつ重要な項目である。 【テーマ7】 「相談支援」について ≪要点≫  相談支援は本人のエンパワメント支援が基本に置かれるべき。 ≪理由≫  理念、目的に掲げられている「共生社会を実現すること、社会的障壁を除去す ることに資する」とは、すなわち障害の多様性を認め、排除しないということで ある。その為には身体的な支援だけにとどまらず、意思決定を支援し続けること も欠かせないことから、寄り添い続けられる相談支援制度への改変が重要である。 またそれは、専門家、支援者等が意思決定を代行するのではなく、本人のエンパ ワメント支援が基本に置かれるべきである。 西滝委員 【テーマ1】 コミュニケーション支援について ≪要点≫  骨格提言の趣旨に沿って、コミュニケーション支援、及び通訳・介助支援を全 国共通の仕組みで提供されるべきである。 ≪理由≫  コミュニケーション支援、及び通訳・介助支援は、今回の厚生労働省案には全 く触れられていない。しかし、障害者基本法において、コミュニケーション、及 び情報の取得と利用のため、障害当事者が必要な言語(手話を含む)とコミュニ ケーションの方法(手段)を選べることが基本的原則とされている。また、第22 条では障害者の意思疎通を仲介する者の養成及び派遣等の施策を講じなければな らないとされている。  地域生活支援事業の「コミュニケーション支援事業」が市町村の裁量による事 業の仕組みのままでは、地域格差がますます大きくなり、必要なコミュニケーシ ョン支援のニーズが制限させられることになる。コミュニケーション支援事業は、 全国共通の仕組みにより行う義務的事業として市町村格差をなくすべきである。 また、利用者に費用を求めないことを骨格提言に沿って明記すべきである。 【テーマ2】 相談支援機関の設置と果たすべき機能について ≪要点≫  骨格提言の趣旨に沿って、総合相談支援センターと特定専門相談支援センター を設置して、聴覚障害者が自ら選択する(手話を含む)コミュニケーションの方 法で、必要なときに何時でも直接相談できる体制を提供すべきである。 ≪理由≫  総合的な相談支援体系の整備において基幹相談支援センターのみ触れられてい るが、これでは、聴覚障害者が相談したいと思っても、直接コミュニケーション ができる者がおらず、聴覚障害の障害特性に対する理解もないため、相談に行け る状況に全くない。  手話通訳士有資格者、ろうあ者相談員を配置するとしている総合相談支援セン ターが必要であり、かつ、聴覚障害者情報提供施設が特定専門相談支援センター の役割を強化することが求められている。 野原委員 【テーマ1】 難病等のある障害者の医療と地域生活 ≪要点≫  「骨格提言」で示された「難病等について検討する会」については、健康、医 療、福祉、介護、年金、就労、教育等、幅の広い見地から総合的に検討をする場 として設置する。 ≪理由≫  難病や慢性疾患の福祉施策は、患者・障害者を支える福祉と医療とが混在する 領域であり、高額療養費助成のありかたなども含めて、医療ケアや就労、教育、 福祉の専門家、当事者、関係行政をも含めて総合的に検討すべきであるが、「推進 会議」でも「総合福祉部会」でも、時間的、人的構成などの制約、難病概念が未 確定であることなどから、十分な検討がされず、「難病等についての検討会」の設 置が提言された。 「障害の範囲」の問題も、本来はこの検討会が機能を発揮して、より実態に合っ た、必要な人への支援が谷間なく提供できるようにすることが求められている。 【テーマ2】 権利擁護 ≪要点≫ 「骨格提言」のしめす谷間や差別からの救済を「障害者の権利」として明文化す る。 ≪理由≫  難病・慢性疾患患者の今まで経験してきたような制度の谷間や差別は、「骨格提 言」による「相談支援」「サービス利用」「決定」への 不服申し立てやオンブズパーソン創設などによって、何とか救われるのではない かという展望がもてるようになった。  これら権利が明文化されてこそ、難病・慢性疾患患者は福祉法制のなかで公正・ 公平な法的保証がされるのである。 【テーマ3】 障害(者)の範囲 ≪要点≫  新法で定める障害の範囲は、障害者基本法第2条の規定を生かすようにする。 ≪理由≫  厚労省案を新法で規定してしまうと、政令で指定される障害者と指定されない 障害者との間に新たな谷間を作ることになり、谷間をなくすこと、医学モデルか ら社会モデルへの移行をめざしている本制度改革の根幹の目標に矛盾する。 病名での指定(制限列挙)は、どうしても上記の矛盾から脱却できない。しかし、 新法で行う一連の改革は、難病の概念規定や対応施策の見直し、啓発からモデル 事業、多様な社会資源や行政機構の連携などかなり長期の移行期間を要する。新 障害者基本法第2条で規定する障害の範囲に難病が入ることはすでに決まってい ることであり、そこへ接近する過程の一時期に病名を政令で指定する厚労省案的 な対応があることまでは否定しないが、難病の概念が不明確のまま新法で難病の 範囲を病名で指定してしまうと、指定から外された多くの難病・慢性疾患患者は 救われる見通しすらなくなってしまい、自立支援法と同様の「違憲状態」になり かねない。 【テーマ4】 障害程度区分に代わる新たな仕組みづくり ≪要点≫  「障害程度区分に代わる新たな仕組みづくり」に関する「骨格提言」を新法に 明文化する。 ≪理由≫  従来の障害程度区分では、内部疾患による機能障害(者)の救済・支援に多く の谷間をつくった。その理由が「医学モデル」だったと総括されたのが今回の一 連の改革論議であった。「医学モデル」から「社会モデル」への移行は、今回の改 革論議の根幹でもあった。  従来の障害程度区分とその発想では、内部障害(者)の福祉施策における谷間は 埋まらない。 東川委員 【テーマ】 障害者総合福祉法制定にあたっての基本的視点 ≪要点≫  障害者総合福祉法の制定にあたっては、以下の視点が基盤であることを改めて 強調いたします。 1.障害者自立支援法違憲訴訟の基本合意文書に則ること 2.総合福祉部会の「骨格提言」を最大限に尊重すること 3.新法制定にあたって、特に留意すべき項目 [1]障害(者)の範囲 、[2]支給決定 、[3]権利擁護 ≪理由≫  1.訴訟の「基本合意」として交わされた文書が破棄されるなどということが 認められるはずはありません。2009年の民主党マニフェストでも、「障害者自立 支援法を廃止し、新たに障がい者総合福祉法を制定する」と明言し、鳩山内閣時 の厚生労働大臣長妻昭氏も自立支援法の廃止を原告・弁護団に確約しています。  2.新法制定が困難な理由として「現場の混乱」、業務コストなどが指摘されて います。この間の障害者へのサービス給付制度は目まぐるしく変遷し、自治体や 事業所はこれまで大きな混乱を体験しました。こうした反省を踏まえ、経過措置 期間を設けるなど、段階を踏んで確実な移行を果たすための入念な準備・計画を 検討すべきです。障害当事者や関係者、55人の総意でまとめ上げられた骨格提言 の重みを確実に受け止め、その実現のために真摯な対応を求めます。  3.留意すべき項目 [1]「制度の谷間」を作らないために、改正障害者基本法の定義を踏まえた社会モ デルの実現をめざすべきです。難病について政令で定めたものとされることは新 たな谷間を生じることであり、必要な支援を受けることができない、制限列挙式 の医学モデルとなることも懸念されます。 [2]医学モデルと批判の多い障害程度区分を再検討することは、5年間の先送りに なるだけだと考えます。支給決定の在り方については、「骨格提言」に基本的な改 正の方向性が示されており、これを具体化するための調査や試行が必要な段階と なっています。 [3]権利擁護の実現のためには、障害者権利条約の精神とも言える障害者観の転換 こそが求められます。すなわち、障害者を「庇護の対象」とするのではなく「権 利の主体者」と位置付けることです。現状では虐待防止も重要ですが、障害者差 別禁止法の制定と併せて、国民の意識や制度を根幹から改めることが求められま す。 平野委員 【テーマ】 総合的な相談支援体系の整備について、障害者が求める相談支援の体系として充 実させることとする。 ≪要点1≫  山本委員から法案の「総合的な相談支援体系の整備」には権利擁護が欠けてお り、相談援助が経費節減のための安易なケアマネジメントになってしまい、障害 者を圧迫するとの指摘があったが、「相談支援」そのものは障害者の地域支援や権 利擁護に欠かせないものであり、大切なことは障害者や家族、関係者が求める相 談支援体系を創設・整備することと考えられるので、その趣旨を明確にし、権利 擁護などの必要な内容を盛り込むこととする。 ≪理由1≫  「相談支援」の充実については骨格提言でも障害者支援の重要な柱として位置 付けており、相談支援そのものを否定することとなっては障害者にとってもマイ ナスとなる。またケアマネジメント手法も骨格提言の中で導入を想定しており、 これを否定することも障害者の利益とはならない。山本委員の主張にあるような 事例については、それが相談支援そのものやケアマネジメントそのものに問題が あるのではなく、本来の相談支援やケアマネジメントから逸脱した用いられ方を したことが問題であり、障害者がもとめる相談支援やケアマネジメントを実施す る体制、そして権利擁護などのサポートシステムを組み込んだ体系にすることが 本来の道筋と考えられる。 ≪要点2≫  大濱委員から、法案の「基幹相談支援センター」から「基幹」を外し、当事者 主体の相談支援センターを多数認めるべきであるとの発言がありましたが、都市 部では同じ区域に複数の相談事業所があることが少なくないですが、地方の市町 村では、市町村役場以外には相談窓口がないところがまだ多数あります。全国の 状況を考えるなら、まず核となる基幹相談支援センターをすべての市町村に設置 させ、行政窓口とは別に相談窓口を設置させることが急務であると考えられます。 そのためにも「基幹」となるセンターの設置促進を図るべきであると考えられま す。また、様々な相談支援センターが今後整備されると考えられますが、その際 に、そうした相談支援センターの連携を図る上で基幹となる相談支援センターは 必要になることからも「基幹」を外すべきではないと考えます。 福井委員 【テーマ】 示された法案骨子は私たちの提出した「骨格提言」を真摯に受け止めておらず、 新法制定とは全く異なったもので、断じて認めることはできない。直ちにJDFと、 「障害者総合福祉法制定に向けて(第一次案)」に基づく話し合いを重ねて、厚労 省案の全面訂正を要望する。 ≪要点≫ [1]厚生省案を見直すにあたって、総合福祉部会の提出した「骨格提言」を、項目 別に詳細に検討し直すこと。 [2]具体的な検討に際して、その目標と工程を明らかにすること。 [3]「骨格提言」の示した憲法で保障された障害者の権利、国の義務等を新法の土 台にしっかりと位置付けること。 [4]この厚生省案が改めて提出されるまで、総合福祉部会は継続して開催すべきで ある。 [5]親委員会である障がい者制度改革推進会議にも、今回の厚生労働省案を示し、 意見聴取等を行うべきである。 ≪理由≫ [1]「骨格提言」は政府の決定した自立支援法廃止、新法制定を目標にもとめられ たものであるから、いくつかを抜き出して検討を加えること等、到底許されない。 [2]新たな法律の制定に当たって、欠かせないことであるから。 [3]今回の自立支援法廃止、新法制定の背景にあるのは、国連の障害者権利条約の 批准、違憲訴訟団との合意文書に沿ったものであり、基本は「権利としての障害 者施策の確立」にあるからである。 [4]この部会の設置された目的、この間の18階に及ぶ検討・討議と提言をまとめ あげた実績からいっても当然の措置である。 [5]この委員会が設置された経過からいっても当然のことであり、私たち総合福祉 部会の責任でもある。  以上、今回の厚生労働省の拙速で、目的を全く逸脱したとんでもない骨子提案 は、撤回してもらう以外にありません。全国の障害者と家族に希望を与えてきた、 わが国の障害者施策の画期的な転換の実現を阻んではなりません。  ここまで長い間、要求で一致した運動を展開してきた私たち障害者、家族、関 係者は、こうした結果を決して許しませんし、いっそう広範な世論の構築をめざ して力をつくしていく所存です。 福島委員 【テーマ1】 理念・目的・名称 ≪要点≫ 同法案の理念・目的の内容が不明である。 ≪理由≫  昨年改正の「改正障害者基本法」と整合的であることは当然であるとしても、 それだけでなく、わが国がすでに署名し、批准を切望される国連の「障害者権利 条約」の理念・目的に適合し、「障害者自立支援法違憲訴訟」における国と原告・ 弁護団との「和解」・「合意文書」の趣旨との整合性が必須である。さらに「総合 福祉法」にむけて昨夏本総合福祉部会によって策定された「骨格提言」との整合 性が強く求められる。  ここでとりわけ重要な観点は、障害者が社会的・文化的存在としての人間とし て、わが国において、地域での生活・生存を十全に営めるための最低限の権利を 有することが、基本的な人権保障に連動する問題であることを、明記すべきだと いう点である。  人権保障は、「量的に、できる範囲で、一定程度」保障されればよいという性質 のものではない。日本国民としてふさわしい、文化的で尊厳のある、人間として の最低限の自由(移動、コミュニケーション、食事、排泄、呼吸などを含めた) 生活上の行為が、十全に保障されるかどうか、という「分水嶺的」な象徴的な施 策課題である。 【テーマ2】 法律の名称 ≪要点≫  厚生労働省の法案(以下、法案。)では、「障害者自立支援法の名称そのものを 見直す。」とされている。  名称変更自体は民主党の公約であるので、当然のこととしても、実質的な内容 が伴わなければ、「看板のすげ替え」だといわれても仕方がない。 ≪理由≫  「骨格提言」で示された様々な提言項目が実質的に盛り込まれていない状況で は、「総合福祉法」などの名称は、そもそも「詐称」的だとも言える。  また、筆者は障がい者制度改革推進会議オブザーバーとして、「医学モデル」と 「社会モデル」の対比的説明、定義にかかわる「注釈」草稿を作成したのだが、 今回の法案に「社会モデル」的視点がどのように盛り込まれているのかが、不明 である。 【テーマ3】 障害者の範囲 ≪要点≫  法案では、「『制度の谷間』を埋めるべく、障害者基本法の改正を踏まえ、法の 対象となる障害者の範囲に治療方法が未確立な疾病その他の特殊な疾病(難病な ど)であって政令で定めるものによる一定の障害がある者を加える。(児童福祉法 においても同様の改正を行う。)」とされている。しかし、これも具体的な問題点 が不明である。 ≪理由≫  「難病」が何をさすのか、という点が不明である。ここはまさに「医学モデル」 的スタンスだといわざるをえない。たとえば、いまだ診断・治療法が確立されて いない難病は多数存在する。  「障害」の対象を既存の医学的所見や個別の検査結果の数値で断片的・機械的 に実施することには限界があり、本人および身近な他者(家族など)の生活上の 具体的困難の実態や不便・苦痛の訴え、また支援のニーズの実態に応じた障害の 認定体制を取るべきである。  トイレ介助などを考えれば明らかなように、一般に障害に対する「支援」は、 それが量的に多く(あるいは長く)提供されればされるほど、当該被支援者の幸 福度が増大する、などというような現実は存在しないし、原理的にも想定できな い(年金の支給額などは別の問題としても)。 【テーマ4】 障害程度区分の見直し ≪要点≫  法案では、「法の施行後5年を目途に、障害程度区分の在り方について検討を行 い、必要な措置を講ずることとする規定を設ける。」とされている。この記述では、 「見直し」に向けて、何をするのか、しないのか、どうするのか、などの具体的 内容が不明である。 ≪理由≫  現行の医学モデルに基づく「障害程度区分」は部分的には活用するにしても、 原則的に廃止すべきである。それが「社会モデル」の具現化の一例である。  もともと「自立支援法」での障害程度区分は、同法と「介護保険制度」との統 合を予定してデザインされたという経緯がある。したがって、介護保険スタイル の「障害程度区分」の仕組みが自立支援法に導入されたわけである。  それに対して、「総合福祉法」の「骨格提言」では、障害者のニーズに合ったサ ービス支給決定が困難な現行の「障害程度区分」は廃止し、障害者の意向を最大 限尊重するシステムへの移行を求めている。  北欧など、福祉先進国の手法も参考にしつつ、障害(支援へのニーズ)の程度 の適切な判定を行う仕組み作りをわが国でも工夫すべきであり、そのために「自 立支援法」は廃止すると決めたのではなかったか。  前述のように、とりわけ人的な支援は、金銭や物品の給付などとは異なり、不 適切・不要に量的に多ければ多いほど支援を受ける人の「利得が増大する」とい うような関係には構造的にない。  むしろ、人的支援業務に従事する人材を確保することで(過疎地でもこれらの 人材は必須である)雇用創出による経済的効果、人々の安心感の増大による社会 的・心理的なプラスの効果がより多く期待されるだろう。 【テーマ5】 障害者に対する支援(サービス)の充実 ≪要点≫  予算措置をあまり伴わない、また義務的経費化を明確にしていない点が問題で ある。 ≪理由≫  たとえば、法案では、就労支援の在り方の見直しについて、「法の施行後5年を 目途に、就労支援の在り方について検討を行い、必要な措置を講ずることとする 規定を設ける。」とあるものの、これも、どうにでも任意に解釈可能である。  現在、わが国の労働・就労・雇用の場での支援施策と福祉施策は乖離している (「福祉的就労」という語義矛盾の用語まで存在する)。  労働と福祉の両施策の一元化を目指すべきである。  また、法案では、地域生活支援事業として、「地域社会における障害者に対する 理解を深めるための普及啓発や、ボランティア活動を支援する事業を追加する。」 とある。  自立支援法施行から5年を経て、同事業の国負担部分の予算は400億円から 450億円程度に微増しただけである。これで、全国に散在するあらゆる障害者 の社会参加を推進するための、「地域生活支援事業」が十分に展開できるわけがな い。しかも自治体の裁量的経費である。  ここでの記述は安上がりの「ボランティア」を行政が活用するのか?との不信 を招いても仕方がない。  「地域生活支援事業」を義務的経費化するとともに、原則として、すべての支 援事業を「個別支援給付」に移行させることが必須である。 【テーマ6】 安定し、持続可能な財源の確保 ≪要点≫  障害者施策に必須の財源を安定的に確保し、持続的・計画的に施策の充実と進 展をはかるためには、財政面での裏付けが必須である。その意味で、社会保障制 度全般の抜本的な改革が必要であり、障害者制度改革もその中に当然含まれるべ きである。   基本的には各種税制の改正により、複数の税収増を目指しつつ、とりわけ低 所得者に配慮した社会保障制度を確立し、その一環として障害者施策の充実もは かるべきである。 ≪理由≫  「障害者」だけを特別扱いせよと主張しているのではない。憲法レベルでの生 存権的基本権を含めた様々な基本的人権の保障を目指すうえで、障害者固有の、 特殊で複雑、個別的で独自の困難へのきめ細かな社会的対応が必要だと述べてい るだけであり、これは「障害」の有無を超えて、すべての国民に安心と安全、活 力と生き甲斐を提供できるような社会的基盤整備を進める営みの一環である。  ただし、重度障害者や「障害」の認定は受けていない「重病」、「難病」の人の 中には、社会的な支援の乏しさがゆえに、「自己肯定感」が抱けず、「自己否定」 に走り、生存、生命の土台が明らかに脅かされている人も多く、最悪の場合、自 殺などにつながるケースも少なくない。  14年間連続自殺者3万人超というわが国の社会的病理の根元には、たとえば、 障害者に対する物理的・制度的・意識的・社会的差別や冷淡さ、無関心などの問 題と類似した構造的な問題が横たわっているだろう。  政府・与党の誠意と実行力に期待したい。 藤井委員 【テーマ】 障害者総合福祉法制定に関する基本的な考え方 ≪要点≫ 障害者総合福祉法の制定に当たっては下記を踏まえるべきである。 1.障害者権利条約ならびに改正障害者基本法との整合性を保つこと。 2.障害者総合福祉部会の骨格提言を尊重すること。 3.障害者自立支援法訴訟基本合意を遵守すること。 4.障害者自立支援法の利点を反映すること。 5.障害者総合福祉法の施行により法の秩序及び実施体制を混乱させないこと。 6.障害者自立支援法から障害者総合福祉法への移行にあたり、利用者、事業所 及び行政機関等の現場が混乱しないよう、必要な経過措置期間を設ける等、 適切に対処すること。 7.利用者に分かり易く納得感のある法案とすると共に、上記の5項.6項を踏 まえた実施に当たっての行程表を明示すること。その際、JDFが提案する行 程表を参考にし、JDFとの協議の場を設定すること。 8.障害者総合福祉法が円滑かつ適切に運用されるよう、実施主体である地方公 共団体並びに利用者及び事業所と十分に協議すること。 9.関係予算を確実に確保すること。 10.施行後3年の見直しを規定すること。 ≪理由≫ 1.厚生労働省骨子案は、改正障害者基本法、総合福祉部会の骨格提言、障害者 自立支援法訴訟基本合意等をほとんど踏まえておらず、障害者権利条約の批 准に耐える内容とは程遠い。 2.一方、骨格提言は55名の部会員の総意であると同時に、新法施行に当たり現 場を混乱させないよう、関係者の合意を形成しつつ漸進的な実施を求める現 実的な提案である。 3.「骨格提言は段階的・計画的に実施するものと認識」と説明する以上は、実現 のための具体的な行程表を示すべきである。 4.JDFが示した行程表は第19回総合福祉部会(2月8日)で概ね好意的に受け 止められている。 藤岡委員 【テーマ】 障害者自立支援法の廃止条項 ≪要点≫ 障害者自立支援法の廃止条項は不可欠である。 1 障害者自立支援法の廃止条項 ≪理由≫ 総合福祉部会は基本合意で確認された障害者自立支援法の廃止を大前提として議 論してきた以上、政府法案にこれがないことは政府自身による障がい者制度改革 の否定である。 ≪参考:法令の廃止の手続きの実例≫  ハートビル法と交通バリアフリー法を廃止して、バリアフリー新法を制定した とき、「附則」にて、旧法を廃止している。 1 高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律=通称バリアフリー 新法  公布:平成18年6月21日法律第91号 附 則 (高齢者、身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の建築の促進に関する法 律及び高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関 する法律の廃止) 第二条 次に掲げる法律は、廃止する。  一 高齢者、身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の建築の促進に関す る法律(平成六年法律第四十四号)=旧ハートビル法  二 高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関 する法律(平成十二年法律第六十八号)=旧交通バリアフリー法  なお、「市町村や現場が混乱するから」なる「廃止出来ない口実」を厚生労働省 等が主張しているが、障害者自立支援法導入の際にも用いられた ● 見做し決定条項により現状の障害者の支援状況が維持されるようにする ● 新法移行期間を設けて現場が混乱しないように配慮するなど激変緩和の措置 を講ずること等 により、いくらでも技術的対応が可能である。 制度改革を実行するにも関わらず上記のような議論で廃止に反対することは「た めにする議 論」であり、失当である。 【テーマ2】 前文 ≪要点≫ 前文は必ず設けるべきである。 ≪理由≫ 障害者権利条約批准に向けた制度改革の方針を謳うべき。骨格提言は前文を設け るように求めている。 【テーマ3】 地域で自立した生活を営む基本的権利の保障規定 ≪要点≫ 1. 障害ゆえに命の危険にさらされない権利を有し、そのための支援を受ける権 利が保障される旨の規定。 2. 障害者は、必要とする支援を受けながら、意思(自己)決定を行う権利が保障 される旨の規定。 3. 障害者は、自らの意思に基づきどこで誰と住むかを決める権利、どのように 暮らしていくかを決める権利、特定の様式での生活を強制されない権利を有し、 そのための支援を受ける権利が保障される旨の規定。 4. 障害者は、自ら選択する言語(手話等の非音声言語を含む)及び自ら選択する コミュニケーション手段を使用して、市民として平等に生活を営む権利を有し、 そのための情報・コミュニケーション支援を受ける権利が保障される旨の規定。 5. 障害者は、自らの意思で移動する権利を有し、そのための外出介助、ガイド ヘルパー等の支援を受ける権利が保障される旨の規定。 6. 以上の支援を受ける権利は、障害者の個別の事情に最も相応しい内容でなけ ればならない旨の規定。 7. 国及び地方公共団体は、これらの施策実施の義務を負う旨の規定。 ≪理由≫ 提言12〜13頁に記載された上記規定は新法の必須条件。 【テーマ4】 支給決定のありかた ≪要点≫ 次の条項を設けること。 1. 支援を必要とする障害者本人(及び家族)の意向やその人が望む暮らし方を最 大限尊重することを基本とすること。 2. 他の者との平等を基礎として、当該個人の個別事情に即した必要十分な支給 量が保障されること。 ≪理由≫ 提言21頁記載の上記条項が新法にあることは絶対に譲れない。 増田委員 【テーマ1】 全体を通して ≪要点1≫ 総合福祉部会は,障害者自立支援法を廃止するために設けられた部会であり,55 人の委員はそのための検討を行い,一致点を求めて,骨格提言をまとめたことを 法の前文に明記すること.骨格提言の6つのポイントを明記すること。 ≪理由1≫  厚労省の説明にあった混乱を避けることなどは,当たり前のことであり,混乱 を避けるために自立支援法を廃止しないという理由は詭弁に過ぎない。この間, 障害分野に混乱があったとすれば,自立支援法の次々と噴出する問題に対応する ためにつぎはぎの施策を行わざるを得なかったからである。問題がどこにあるの か,履き違えてはならない。 ≪要点2≫  JDFの示した新法作成にあたってのチェックポイント,新法実施の工程表に基 づいて,法案の骨子案を改定すること。 ≪理由2≫  具体性があり,骨格提言の趣旨を反映した内容になっている。 ≪要点3≫  閣議決定の前に総合福祉部会を開催すること。 ≪理由3≫  第19回の厚労省案ではなく,骨格提言を反映した法案を政治主導で示していた だきたい。その結果を障がい者制度改革推進会議,ならびに総合福祉部会で説明 し,部会員の意見を聴く機会を設けること。 【テーマ2】 障害者の範囲 ≪要点≫  政令で定めるものによる一定の障害 という部分を削除し,谷間を生まない包 括的な定義とする。 ≪理由≫  このままの記述では,対象にならない難病患者が生まれる.難病患者の中に格 差をもちこむことになる。また,こうした制限列挙では,谷間の障害者の存在は なくならない。 【テーマ3】 障害程度の見直し ≪要点≫  障害程度区分の廃止し,障害者のニーズに応じた支給決定を行うための試行事 業を行う.2年間の試行事業を行って,新たな仕組みを導入する。 ≪理由≫  問題が山積し,廃止を求められている障害程度区分の検討に1億円の予算を付 けているが,廃止する者の検討は必要ない.新たな制度に向けた検討を実施する 必要がある。 【テーマ4】 就労支援の在り方の見直し ≪要点≫  骨格提言にある多様な働き方についてのパイロットスタディを行うことを明記 すること。 ≪理由≫  福祉的就労の場への労働法規適用,良質な仕事の確保,賃金確保を含めて全国 でパイロットスタディを実施し,3年をめどに新たな仕組みを構築する.現場の 混乱を防ぐために十分な移行期間を設ける。 【テーマ5】 総合的な相談支援体系の整備 ≪要点≫  基幹相談支援センターの設置の意図は不明.地域の身近な所にワンストップ相 談のできる相談支援センターを設置し,ピアサポータ―(当事者支援員)と専門 職が協力し,障害のある人の地域生活を支える仕組みとする。 ≪理由≫  サービス利用計画作成対象者を拡大することでは,障害のある人の地域生活を 支える相談支援の充実にはつながらない.地域には利用できる社会資源は限られ ており,既存の資源に結びつきづらい人ほど,支援が必要な人である。 【テーマ6】 利用者負担 ≪要点≫  障害に伴う費用は原則無償にすること.応能負担とする際の収入の認定は障害 者本人の所得によるものとすること。 【テーマ7】 障害福祉計画の見直し ≪要点≫  計画を定めるだけでは地域の障害者支援の水準は上がっていかない。計画を立 て,その計画を推進することを義務化すべきである。 【テーマ8】 介護人材を確保するための措置 ≪要点≫  事業者への罰則よりも,国の定めている日割り制度を廃止し,事業所が安定的 に常勤職員を雇用し,障害者支援の質が向上できるような体制整備ができる仕組 みとする。 松井委員 【テーマ】 障害者の就労支援 ≪要点≫ 骨格提言では、20万人近くの障害者(知的障害者の場合には、就業者の約6割) が就労する福祉的就労の現状を打開するため、現行の就労支援の仕組みを「障害 者就労センター」と「デイアクティビティセンター(作業活動支援部門)」に再編 成すること、そしてそのあり方を検証し、見直しをするため、新法施行後3年を 目途に試行事業(パイロットスタディ)の実施を提案しているが、厚労省案では まったく考慮されていない。また、同案では「新法施行後5年を目途に、就労支 援の在り方について検討され、必要な措置が講じられること」とされるが、これ では5年間あるいはそれ以上福祉的就労の課題を先送りすることになりかねない ばかりか、将来の具体的な方向性も見えない。したがって、厚労省案は受け入れ がたい。 ≪理由≫  厚労省から提示された骨格提言への対応(資料1)によれば、「障害者のニーズ に応じ、就労系障害福祉サービスから一般就労への移行は着実に増加し、就労継 続支援も利用者が着実に増加」しているという状況判断のもとに、「その取り組み を一層加速される」ことや「新たな『工賃向上計画』の予算を計上」していると される。 しかし、福祉施設から一般就労への移行者数は2010年で4千人あまりであり、特 別支援学校高等部卒業生で福祉施設を利用する者が年間1万人以上に達している ことを考えれば、年間4千人あまりの移行者数ではきわめて不十分といえる。ま た、2007年度からの「工賃倍増計画」にもかかわらず、その計画の対象となった 福祉的就労利用者の平均工賃は1万2千円台で、ほとんど変わっていないことか ら、新「工賃向上計画」の成果にもあまり期待できない。  2010年6月7日の障がい者制度改革推進会議の「障害者制度改革の推進のため の基本的な方向」(第一次意見)を受けて、同年6月29日に行われた閣議決定で は、「いわゆる福祉的就労の在り方について、労働法規の適用と工賃の水準等を含 めて、推進会議の意見を踏まえるとともに、障がい者制度改革推進会議総合福祉 部会における議論との整合性を図りつつ検討し、平成23年内にその結論を得る。」 とされるが、厚労省案ではこの結論が見えない。  言いたいことは、障害者の雇用・就労に関する厚労省の現状認識は、実態を踏 まえておらず、その結果、厚労省案では、その実態の改善が図れるとは考えられ ないということである。とくに福祉的就労利用者の現状を抜本的に改善するため に、骨格提言で提案されている就労支援の仕組みの構築およびそのための試行事 業(パイロット・スタディ)の実施を強く要望したい。 三浦委員 【テーマ1】 法の内容と施行に向けた詳細な工程の明示 ≪要点≫ 法の詳細な内容を示すこと。 また、施行に向け、法案提出時からの詳細な工程を早急に示すこと。 ≪理由≫  今回示された厚生労働省案では、法の具体的な内容が分からない(例えば、障 害者の範囲 等)。  また、骨格提言で示された各項目についてどのように扱い、「段階的、計画的」 に実現をめざしていくのか、その方法、スケジュールを示す必要がある。 【テーマ2】 障害程度区分の見直し ≪要点≫  「法施行後5年を目途」ではなく、早期に検討を行うこと。 また、検討に当たっては、当事者、関係事業者団体等が参加する場を設けること。 ≪理由≫  障害特性に応じた支給決定がなされるよう、早期に障害程度区分の見直しの検 討が行われることが必要である。  また、支給決定は幅広い分野にまたがるテーマであり、当事者のみならず、事 業者その他多様な分野の関係者を交えた議論が必要である。 【テーマ3】 共同生活介護(ケアホーム)と共同生活援助(グループホーム)の一元化 ≪要点≫  ケアホーム(介護給付)をグループホーム(訓練等給付)に統合とするとされ ているが、その際の給付はどのような仕組みとなるのか。 また、「骨格提言への対応」で示された「サテライト型の共同生活住居」とはどの ようなものか。 ≪理由≫  一元化されることにより、例えば、区分5、6の方でケアホームに入居中、ま たは入居を希望する人のケアは、どのように保証するのか、重度障害者の地域生 活移行にあたって、十分なケアが受けられるかどうか不安であるため。 【テーマ4】 障害者権利条約との関係 ≪要点≫  現行の障害者自立支援法が明らかに障害者権利条約に抵触すると想定される部 分については、厚生労働省案で改善の対応がなされているか。 ≪理由≫  障がい者制度改革推進会議及び総合福祉部会での議論は、日本が署名を終えて いる、国連障害者権利条約を批准するために、国際標準に照らして遜色のない理 念法と実定法を整備する目的の障害者制度改革であると考えるため。 光増委員 【テーマ】 3.障害程度区分の見直しに関して ≪要点≫  「法の施行後5年を目途に、障害程度区分の在り方について検討を行い、必要 な措置を構ずることとする規定を設けると記載している。」としているが、障害程 度区分の在り方に関しての厚生労働省内の検討会等の過去の数回の論議は既にお こなっているのであり、障害程度区分を撤廃し、あたらしい支給決定システムを 検討すべきである。 障害者自立支援法の最大の問題は、障害程度区分であり、障害程度区分による報 酬構造になっており、ホームヘルプサービスの国庫負担基準も障害程度区分によ り決められているので、早急に見直しすべきである。5年を目途には撤回し、3年 以内とすべきでないか。 ≪理由≫  障害程度区分に関しては、介護保険の要介護認定調査の項目の引用も含めて、 三障害を一元化して支給決定をするのは、大きな問題を含んでいる。このことは 既に多くの学識経験者から指摘され、また過去の関係団体との検討会でも論議さ れているところである。  障害程度区分の在り方についての検討は、既に行っているのであるから骨格提 言を尊重し支給決定の在り方で、どのような方法がよいかを検討すべきである。  したがって、3.障害程度区分の見直しの表現も含めて書き直すべきである。  また、平成24年度予算に計上されている障害程度区分の見直しに関する予算1 億円の予算は何をするための予算かを速やかに公表すべきである。障害福祉課担 当に聞いても、この予算は精神障害福祉課の担当であるから、分からないなどの 発言はすべきでなく、関係する事は、全体で論議すべきでないか。