総合福祉部会 第18回 H23.8.30 参考資料2 氏田委員提出資料 平成23年8月24日 障がい者制度改革推進会議総合福祉部会  部会長 佐藤 久夫 殿 障害者総合福祉法(仮称) 骨格提言素案についての意見 はじめに  今回、障害者総合福祉法の制定に向けて、日本自閉症協会の意見を述べる機会を 与えられましたことに謝意を表します。これまでも私どもは、自閉症の人々の社会 参加が極めて困難な状況にあり、全国的に少しでも理解と支援が進むように、さま ざまな努力を重ねて参りました。顧みますと、障害者基本法の制定において、日本 自閉症協会、日本てんかん協会、日本難病協会の運動の結果、その付帯事項にてん かん、難病と共に、自閉症が明記され、初めてその対応を国の責任で行うことが明 確にされました。以来社会福祉においては、自閉症児施設(第一種医療型、第二種福 祉型)が設置されましたが、その施策は、今日まで30年間に亘り改善されることはな く、それ故か同施設の設置数は、未だ全国で医療型3箇所、福祉型3箇所に留まって います。その後、自閉症・発達障害者支援センター(現・発達障害者支援センター) が設置され、そして平成16年には、本協会を初めとした関係者の総意で、他の障害 と共に運動をした成果として、発達障害者支援法が成立したことは記憶に新しいと ころです。併せて近年では、障害者自立支援法の制定に伴う福祉サービスの一元化 によって、却って自閉症児者の障害特性の重篤さが際立ち、その支援の困難性が知 られるようになってきました。しかし自閉症の障害分類は、医療モデルとしても発 生原因の解明は未だ不十分であり、脳の機能的な障害の基づいていることは想定さ れますが、社会モデルとしても対応方法に困難が多いため、社会参加、特に人間関 係の形成困難により社会的支援の進展が行われにくい状況にあります。  今回長期に亘る障害者総合福祉法制定に向けて、貴部会が丁寧に各作業委員会の 活動を行いながら、多くの意見を取り入れる努力をされていることに心から敬意を 表するものであります。この機会に是非とも私ども、自閉症という障害を抱えてい る当人、並びに家族、支援者等の要望をお聞き取りいただきたく、下記のような事 項を提案いたします。   1.自閉症の特性を理解した支援システムの構築  まず基本的に、障害に関する理解、特に障害者の定義に関しては、新たに、社会 モデルとして障害者が具体的に遭遇する社会的障壁を指摘されたことについて全 面的に同意をいたします。ただ自閉症児者に関わる理解と支援は、言葉としての説 明は同じであっても内容は大きく異なることが多いのです。日常生活の介護や日中 活動などの日常生活に関わる支援については、今までの障害者支援の方法では不十 分であり、常に個別的に柔軟な発想で対応することが求められていると思います。 さらに骨格提言素案(7月26日提案版)の P.7「【表題】不服申立について」の【説明】 の中で、「本人がその決定に不服がある場合は」と、不服申し立てのできるのを本 人のみに限定していますが、自閉症の人は自己認知ができにくく、また自己表現も 行いにくい特性により、一見生活行動ができていて、会話らしいことが可能と判定 されても、実質的には十分認識し合える状況ではないことが多く、本人の意向が見 誤られて、結果的に不利益を蒙りやすいのです。従ってこれを「本人または適切な 代理者(後見人など)」という形にしていただきたいと思います。  また地域生活においても、近隣の人々と十分に理解し合えない状況に置かれやす く、本人のみならず、家族も地域社会の中で孤立しやすい状況にあります。本協会 が行ってきているペアレントメンターという親同士のサポートなどの家族間の交 流活動が支援されやすいような、具体的な一方策を表示していただきたいと思って います。そこで、骨格提言素案(7月26日修正版)P.10?11の「【表題】相談支援機関の 設置と果たすべき機能について」の【結論】の中の「身近な地域での障害当事者(そ の家族を含む)のエンパワメントを目的とするピアサポート」に、一定の研修を受け たペアレントメンターが位置付けられるよう、その趣旨のことを盛り込んでいただ きたいと思います。 2.自閉症スペクトラム障害の基本的理解  骨格提言素案(7月26日修正版)P.14の「【表題】相談支援専門員の理念と役割」の【結 論】に、相談支援専門員の基本理念として、「すべての人間の尊厳を認め、いかな る状況においても自己決定を尊重し」とありますが、自己決定したくとも出来にく い特性を持つ自閉症児者としては、それを自己決定できない場合は、本人との深い 信頼関係を持つ身近な家族や支援者による代弁あるいは補足を尊重すると言う文 言を添えて欲しいと思います。それは、現状において本協会関係者の自閉症児者と 家族や支援者の間で、そのような深い信頼関係を築いている事実があることに基づ いて提言するものです。  さらに、同P.15の「【説明】(3)相談支援専門員の業務」として、多くの障害者 を外側から理解し、環境の調整を進めていく支援について記載されていますが、本 人の内的な心理理解を基にした、生活に必要な対応を探索・考究することを加えて 欲しいと思います。従って「【表題】相談支援専門員の研修」においては、P.16の【結 論】の最後に書かれている「研修の実施にあたっては、当事者が研修企画や講師と なって研修を提供する側になること」については、高機能自閉症の人のみではなく、 可能な限り当事者外の代弁性を重視した研修企画や講師選択を行うことも書き込 んでいただきたいと思います。  自閉症及びその家族の状況を見る限りにおいて、同P.17?18「【表題】第三者の訪 問による権利擁護制度」の【説明】の中で強調されている入院・入所者の権利擁護 制度において記載されているオンブズパーソンについては、是非とも実現させてい ただきたいと思いますが、その方法論が書かれていません。このオンブズパーソン を養成・研修する方法も具体的に記載していただきたいと思います。  また同P.22の「障害者総合福祉法(仮称)における支援体系」図にある「全国共 通で制定される支援」においては、自閉症の人の生活の中で欠かすべからざる個別 的で文化的な学習支援(教育との関係を持つ)、及びレクリエーション支援を明記 していただきたいと思います。これは後段のデイ・アクティビティセンターの内容 として含まれているものと承知していますが、自閉症の人にとっての日中活動が徒 に就労支援のみに偏ることのないようにしていただきたいことから強調するもの です。  さらに、同P.23以下の「就労支援について」は、現在の就労支援を組み込んだ学 校教育においても、また現実的に就労したい意欲を示している成人を就労支援する 仕組みも、さらに企業から離職、転職を繰り返す人の就労支援にしても不十分です。 新たに自閉症という障害に合わせた就労支援のシステムを設計していただきたい と考えます。   3.新たな居住支援の場と自閉症総合援助センターの創設  全般に亘って、現在の社会福祉施策は、相談と介護に大別されている状況であり ますが、自閉症の特性に関わる場合、その統合が求められるので、相談と介護の両 方を含む「療育」を身体障害の療育とは別に、「自閉症療育」として付け加えてい ただきたいと思います。  現在進行している、施設入所から地域生活へと進められている制度移行は、多く の自閉症の人々にとっては性急であり、自閉症本人のみならず、家族の疲弊も甚だ しい状況にあります。このことは知的障害を伴う自閉症のみならず、高機能自閉症、 アスペルガー症候群においても同様であるので、新たにグループホーム、ケアホー ムとは異なる居住支援の場の創設を提案致します。これは、ケアホームの不十分な 人員配置(単にケアの人手という観点だけでなく、支援の専門性を担保するために必 要な研修やスーパービジョンを行うための人材確保ということも含めて)を拡充し、 且つ入所施設の問題性である個人生活(併せて個別支援)の困難さを克服するために、 両者の「中間機能」を併せ持った新たな居住支援の場が必要であると思われるから です。イメージとしては、定員20人程度の集合住宅(個室完備)といった形が望まれ ると思います。  さらに、自閉症総合援助センターの創設を提案します。具体的には、現在知的障 害者入所更生施設(または障害者支援施設)として設置されているものの中に、自閉 症の人が多く生活している入所施設において自ら自閉症者施設と名乗っている施 設に、さまざまな支援機能を付加し、これらの施設の機能や人材を活用することで 転用が可能だと思います。これにより、強度行動障害などの二次的障害によって、 単純に日常生活上の支援のみでは対応できない問題を抱える人に対して、安心して 生活できる居住の場を提供することが出来るだけでなく、先の新たな「中間機能」 を持つ居住支援の場へのバックアップを行ったり、短期的に「療育」を行うことで 行動改善に繋げたりといったことが行え、自閉症の人の地域支援のための有効な資 源ともなり得ると考えます。強度行動障害の発生要因は、本人のみに責を帰するも のではなく、周囲の環境(特に人的環境)との相互作用によって生じるものと考え られています。そして、その対応は理解のある支援者による恒常的な「療育」的関 わりと環境調整が必要であり、生涯に亘って手を抜くことの出来ないものでありま す。従って、それらを保障し得る居住の場と支援体制が必要であり,切望する次第 であります。    以上