総合福祉部会 第17回 H23.8.9 参考資料4 大久保委員提出資料 平成23年8月3日 障がい者制度改革推進会議総合福祉部会 部会長 佐藤 久夫 殿 障害者総合福祉法についての意見 1、はじめに  総合福祉法の制定に向けて、精力的な議論を重ねておられますことに敬意を表し ます。本法につきましては、すでにさまざまな論点が提出され、障害者自立支援法 に替わる障害者福祉の基盤となる法律としてのあるべき姿を模索されていると理 解しています。  このような障害者福祉に関する法整備の途上にあって、平成23年3月11日に発生 した東日本大震災では、障害者とその家族があらためて災害弱者であることを強烈 に印象づけました。すなわち、この震災対応に当たっては、関係各省庁から矢継ぎ 早にさまざまな通知が出されましたが、それらは局所的な対処にとどまるものでし たし、各層のボランティアも活動を展開しましたが、必ずしも整合性のとれた活動 になり得ない面も見られました。さらには、障害者の支援に向けて各種の情報提供 を求めても、個人情報保護の観点から提供を拒まれる事態も現出しました。こうし た事態の根底には、障害者とその家族の生活基盤の保障に関する大局観の欠如があ ると考えられます。  総合福祉法の「総合」とは、まさにこうした大局観を明確に示すものであるべき と考えます。つまり、総合福祉法は、保健・医療・教育・労働・司法等の各領域に ついて、「総合」的にサービスを支給し、障害者の生活の質を保障する法律である ことが望まれます。  上記の観点に立ち、財団法人日本ダウン症協会は、ダウン症のある人とその家族 らの立場から、以下のような意見を提出いたします。 2、柔軟なサービス支給が可能な制度設計の要望 (1) 要望の趣旨  下記3に説明するとおり、ダウン症は多くの場合、認知機能面の不全状態を基本 としていますが、併発症状は多岐にわたりますし、本人の発達経過、提供される環 境のありようによって、生活の質を支えるためのニーズが広範囲に変動します。時 には「身体障害」としてのニーズが優先されるべき生活状況が生じることがあり、 また別の時には「精神障害」としてのニーズが前面に出てくることもあります。  このようなダウン症の特性からすれば、福祉サービスの支給に当たっては、本人 のニーズの変動に合わせて、当事者の社会的状況の改善に有効なサービスが縦横に 組み合わされることが可能な仕組みを創成すべきであると考えます。  また、例えば今回の震災時のような緊急時には、サービス提供に一定の総合的指 揮権を設定できるような機能が求められると考えます。 (2) 要望の具体化についての提言 [1]  支援ガイドラインについて  既に、総合福祉法骨格提言素案において、福祉サービス支給の指針となる支 援ガイドラインの策定(I―3 支給決定(選択と決定)素案 「支援ガイド ラインについて」)に関し、「ガイドラインは障害の種類と程度で支援の量を決 めるのではなく、社会参加を含めた支援の必要に基づいて策定されるものとす る」とされている点は、当協会としても、上記(1)の要望の趣旨からして、 高く評価するところです。  また、「ガイドライン策定にあたり様々な意見があるため、障害者団体等の 意見を聴取しつつ、策定されるものとする」とされている点も、非常に重要で あり、素案の趣旨に強く賛同するものです。  ダウン症という比較的人数の多い障害についてさえ、そのニーズがこれまで 十分に理解されてこなかった現状からして、支援ガイドライン策定について、 障害者団体等の意見を聴取するという点については、是非、法案に明記する等 何らかの形でその実現を保障する手立てを講じていただくよう要望致します。 [2]  相談支援の実効性確保について  また、総合福祉法骨格提言素案において、相談支援について(I―4 相 談支援素案)、「新たな相談支援の枠組み」として、「当事者の抱える問題全体 に対応する包括的支援の継続的なコーディネートを行う。障害のある人のニ ーズを明確にするとともに、その個別のニーズから、新たな地域での支援体 制を築くための地域への働きかけも同時に行う。」とされている点や、「一般 相談においては、・・・ワンストップ相談を心がける。そのためには現在分担 されている発達相談、教育相談、就労支援相談、医療相談等が統合された相 談体制をつくることが望ましい」とされている点、「相談支援専門員」が「障 害者の地域生活支援システムのコーディネーターとしての役割を担う者」と され、「利用者の包括的なニーズを把握する」「本人の地域生活のニーズを満 たすために、総合的なフォーマル・インフォーマルサービスの利用、支給決 定のために行政関係機関との協議を行い調整する」「本人とともに必要に応じ てサービスを提供する者との本人参加のケア会議を開催運営し、必要に応じ て複数のサービスを提供する者等との個別調整はもちろん、調整のための会 議などを開き運営する」とされている点は、相談支援、相談支援専門員に、 上記(1)に要望するニーズに合わせたサービスの組み合わせの調整や総合 的な指揮権を発揮する役割を担わせることが可能な制度として、高く評価す るものです。  しかしながら、相談支援、相談支援専門員が、上記役割を実効的に果たす ためには、相談体制の整備のみではなく、サービス提供者側(行政や事業者 側)がこれらの相談支援に協力する仕組みがなければならないと考えます。  現在の総合福祉法骨格提言素案の中には、残念ながら、サービス提供者側 が相談支援に協力する仕組みは見当たりません。  したがって、総合福祉法骨格提言においては、相談支援、相談支援専門員 によるコーディネートや調整にサービス提供者側が協力する義務があること を明記するなど、相談支援が実効的に行われ、ニーズに合わせたサービスの 柔軟な提供が行われることを保障する仕組みの構築が総合福祉法に定められ るよう要望致します。 3、ダウン症の特性   ダウン症は先天性の染色体異常が「原因」であるとされていますが、それはイコ ール「知的障害の原因」ではありません。認知機能の不全状態はきわめて高い確率 で併発することは事実ですが、先天性染色体異常の影響はこうした認知機能面との み結びついているのではありません。  身体機能面においても、視覚や聴覚、皮膚、筋力、心臓を含めた内臓諸器官、血 液など、きわめて多岐にわたる併発症状があり、その程度には大きな個人差があり ます。当然、「身体障害」としてのニーズを有する人も数多く存在します。  また、精神機能面でも、特に青年期から成人期にかけてはさまざまな「症状」が 見られますが、適切な支援があれば青年期の精神的な問題はほとんど現れません。 実はこのことはダウン症に限らず「知的障害」と括られる人たちに共通して見られ ることであり、その本質的な原因は環境不適応にあると考えられます。こうしたさ まざまな状態像を「ダウン症=知的障害」と単純化してしまうことで、これまでダ ウン症のある人のニーズと実際の福祉サービスの支給とにはズレがあり、彼らの 「生きにくさ」が増大していたという事実があります。このようなダウン症の特性 を是非ご理解いただき、理解の前提に立って、今後の総合福祉法制定の議論を進め ていただきたく、重ねてお願いする次第です。                                                                      以上