総合福祉部会 第16回 H23.7.26 参考資料3 野原委員提出資料                           報告書全文を入手したい方は、「難病のある人の雇用管理の課題 と雇用支援のあり方に関する研究」で検索すると全文ダウンロー ドできます。                                        難病のある人の雇用管理の課題と雇用支援の    あり方に関する研究 (調査研究報告書No.103) サマリー 【キーワード】  安全配慮、合理的配慮、医療と労働の連携、ICF国際生活機能分類、慢性疾患 【活用のポイント】  過去40年の難病対策等の成果により、難病のある人の多くは、通院への配慮やデ スクワーク等の無理のない仕事への配置があれば就労可能になっている。本研究では、 そのような現状や課題、職場の雇用管理、地域の医療・労働等の雇用支援のあり方を 実証的データに基づいて示している。また、疾患管理や安全配慮と就労支援を両立さ せる、適切な雇用管理や雇用支援を行うための、多様な疾患別のデータもあわせて提 供している。       2011年4月 独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構 障害者職業総合センター NATIONAL INSTITUTE OF VOCATIONAL REHABILITATION 1 執筆担当(執筆順)  春名 由一郎(障害者職業総合センター社会的支援部門 研究員)  東明 貴久子(障害者職業総合センター社会的支援部門 研究協力員)  香西 世都子(障害者職業総合センター社会的支援部門 研究協力員)   2 研究期間  平成21年度〜平成22年度 3 報告書の構成 第I部 研究の枠組  第1章 背景  第2章 研究目的  第3章 研究方法 第II部 基礎データの確認  第4章 分析対象疾患の概況  第5章 難病のある人の就労に関する諸状況 第III部 難病の雇用管理と雇用支援の実証的検討  第6章 環境因子による異なる職業的課題の状況  第7章 難病の職業的課題と効果的取組の特徴  第8章 難病の雇用支援の課題と可能性  第9章 総合考察 別冊 「職業場面における難病データ集」 4 調査研究の背景と目的  難病のある人の就労問題には、次のような難しい研究課題が残されていた。  ・障害者手帳の対象とならないけれども就労支援が必要な人たちへの支援のあり方  ・病気のある人の職場における安全配慮と就労支援のジレンマの解決  ・地域における、医療や労働等、従来十分な連携のなかった分野の取組のあり方  本研究においては、雇用管理や雇用支援のあり方を検討に資する実証的なデータを得る ために、ICF国際生活機能分類の概念枠組によりそれらの課題を構造化した。  本研究は、難病のある人の職業的課題について、身体・知的・精神等の障害のある人の 職業的課題の状況との比較を含め、実証的なデータに基づいて、効果的な職場での雇用管 理や地域等での雇用支援のあり方を明らかにするとともに、就職前から就職後の様々な局 面における難病による職業的困難性の特徴を明らかにすることを目的とした。 5 調査研究の方法 (1)対象  本研究の分析対象は、2005年に実施された難病患者に特化した調査、及び、2009年に実 施された身体・知的・精神等の多様な障害(難病を含む)のある人の調査によって得られ たデータである。両調査は、患者会を含む当事者団体の協力による、難病や障害のある人 本人の回答による郵送調査であり、調査項目の多くが共通しているため適切な範囲でデー タをプールして分析した。これにより難病については最大5,915名、25疾患、障害者手帳 の有無別に8疾患の分析を可能とするとともに、最大36種類の多様な身体・知的・精神障 害等(以下「3障害等」という。)との比較も可能とした。 (2)調査項目及び分析  様々な職業的課題(活動と参加)における問題の有無と、職場や地域の様々な取組(環 境因子)の有無のクロス集計により、「特定の取組のある場合に特定の問題が少なく、その 取組がない場合にその問題が多くなっている」ことが統計的に有意に認められることで、 効果的取組を特定するとともに、効果的取組の有無による職業的課題の状況の変動も明ら かにした。また、地域の支援機関の利用者に多くみられる職業上の問題も同様に明らかに した。多様な身体・知的・精神障害等についてもそれぞれ同様に分析し、難病の各疾患の 状況と比較可能とした。 6 調査研究の内容 (1)難病のある人の就労の概況(表1)  障害者手帳のない難病では、職業的な問題や職場や地域での支援ニーズは少なくないも のの、3障害等の状況と比較すると、最も問題が少なく支援ニーズの少ない障害と同等以 下であった。就労職種は、デスクワーク(事務職、専門・技術職等)で、フルタイムや正 社員の雇用をしている人が多かった。一方、障害者手帳のある難病のある人は、職業生活 での問題状況、地域支援の利用、職場での配慮の必要性や配慮の実施状況は、中程度の身 体障害のある人と同程度であった。ただし、障害者手帳のない難病のある人では、様々な 支援制度やサービスを効果的に活用することを難しいと感じる人が多く、また、職場に病 気や必要な配慮について説明したくてもできない人が、手帳のある場合や他の障害と比較 しても多く、また、配慮を必要とする場合の実施率が実際に低くなっていた。 表1 難病のある人が、病気をもちながら就労している職業(削除) (各疾患の性・年齢分布と平成21年労働力調査の性・年齢別の職業構成により期待される職業構成と比較して、 ■p<0.01で多い、■p<0.05で多い、斜体:p<0.05で少ない、斜体+下線:p<0.01で少ない) (現在就いている職業が、過去に就いて辞めた仕事よりも、++:p<0.01で多い、+:p<0.05で多い、−−:p<0.05で少な い、−:p<0.01で少ない) (2)難病の職業的課題と効果的取組の特徴  職業的課題を職場や地域の取組と一体的に検討することによって、難病のある人では3 障害等と比較すると、地域支援の効果的な関与が少ないために、職業準備や就職活動の課 題、就労状況、職業生活の満足や自信において多くの問題が生じていることが示された。 一方、就職後の課題においては、効果的取組の有無による職業的課題の大きな差が認めら れた。効果的取組がある職場ではコミュニケーション、知的業務、人間関係等、ほぼ障害 のない人と同様に働ける領域が多かったが、疾患により就職後の課題や効果的取組には特 徴があり、効果的取組がないと、3障害等と同等以上の問題がセルフケア、規則的な勤務 や就業継続等に生じていた。   職場・地域の取組により異なる職業的課題についての「クローン病」の例  クローン病の職業的課題の状況は、次頁の表2のような効果的取組の有無によって異な るため、単一の値で代表させるのではなく、取組状況により幅のある値として示すことが 必要である。本研究の分析により、クローン病の様々な職業的課題は以下の図で要約した。     (図削除) 図 効果的な取組との関係による職業的課題の概況 クローン病 ・職業的課題を、効果的な取組の有無により変化するものとして、概略を示したグラフ。 ・スケールは、様々な障害種類・取組状況と比較した相対的な問題状況の標準尺度。95以上が問題の無 い状況(障害のない人と同程度)、0が様々な障害種類や取組状況で最も問題の大きな状況を示す。 ・職業的課題は、14の領域別に平均している。 ・灰色と白色を合わせた横バーの左端が、次頁表2に示されている各局面での一群の取組が全て実施さ れていない場合。右端が一群の効果的取組が全て実施されている場合。現状における効果的な取組の 取組状況はその中間であり、現状の問題改善状況は灰色と白色の境界の値で示される。    また、図で示した、クローン病のある人の職業的課題の変動に大きく影響する、一群の 効果的取組として具体的に特定されたものは、次の通りであった。 表2 クローン病の局面別の職業的課題の改善に効果的であった取組 職業的課題の局面 職業的課題の改善に効果的であった取組 就職前の課題 「家族や親戚、知人、友人*への就労相談」「就職先のあっせん・紹介」「同じ障 害・疾患のある人や団体*への就労相談」 就労状況 「ハローワークの一般求職窓口への就労相談」「就職先のあっせん・紹介」「主 治医、専門医等*への就労相談」 就職後の課題 「上司・同僚の病気や障害についての正しい理解」「通院への配慮」「病気や障 害にかかわらずキャリアアップができる人事方針」「勤務中の休憩をとりやすくす ること」「身体障害者手帳保有」「職場内で必要な休憩や健康管理ができる場 所の確保や整備」 主観的満足や自信 の課題 「本人の意見を積極的に聞いて業務内容を改善する取組」「通院への配慮」 「能力的に無理のない仕事への配置」「マンツーマン個別実務指導(オンザジョ ブトレーニングなど)」「上司・同僚の病気や障害についての正しい理解」「病気 や障害にかかわらずキャリアアップができる人事方針」    これらの結果により、クローン病の雇用管理や雇用支援に必要な情報を要約して得るこ とが可能になった。上の結果により、クローン病の職業的課題は、就職後にはトイレや健 康管理等の「セルフケア」の問題や、就労継続、昇進、報酬等の「雇用の一般的課題」が 特徴的であるが、それらは効果的取組による改善効果が大きいことが示されている。また、 就職前の職業準備の課題や、仕事や生活への満足度の低さ、さらに、障害や配慮を職場に 説明したくてもできない人が多いことも特徴的な課題である。逆に、能力開発や頭脳労働、 対人関係、コミュニケーション、運動や移動等については、ほぼ障害のない人と同程度に できることが多いことも、クローン病の職業的課題の特徴であることが示された。  多くの疾患に共通する、難病のある人の雇用管理の課題としては、その基本は、通院や疾患管理 についての本人の取組を中心に職場として協力することや、病気について正しく理解すること、また、 職場でよく話し合って無理なく能力が発揮できるように相談すること、さらに、障害認定のある場合等 は、その個々の障害状況に応じた配慮を行うことであった。   (図削除)      特に障害者手帳のない場合、職場への病気や必要な配慮の説明が困難になっており、通院への 配慮以外にも、同僚や上司の病気に対する正しい理解、仕事の進め方についての本人との良好な コミュニケーション、処遇等で病気自体による不合理な差別をなくすこと、等が、効果的取組となって いた。また、就職し働き続けるためには、主治医等との就労相談も重要であった。 (3)難病の地域就労支援の課題と可能性  難病のある人への就労支援の取組は全般的に少ない現状であったが、ハローワークや障 害者職業センター等、主治医等、保健師、ソーシャルワーカー、難病相談・支援センター、 患者団体等が効果的な就労相談先となっていることが確認できた。しかし、その一方で、 これらに相談して就職している人で多くの就業継続、規則的勤務、職務遂行、健康管理や 休憩等の問題が起こっていた。これら就職後の課題を踏まえ、主治医や患者会等への就労 相談の結果が職探しや職場内配慮の実施に効果的に反映されるような、医療面と労働面の 支援の効果的な連携が重要である。また、地域の様々な関係機関が、効果的取組のあり方 に共通認識をもって適切な紹介につなげることも重要である。    (図削除)  (4)疾患別の職業場面での難病データ集  難病の個別性に対応し、特に、職場の雇用管理に必要なより詳細な情報についても分か りやすく提供することが必要である。これについては、本報告書の別冊として「疾患別の 職業場面での難病データ集」をまとめ、各疾患の特徴、職場における効果的取組とそれに よる職業的課題への効果、また、病気であってもできる仕事内容の選択肢について検討し やすくするため、具体的な就労職種や就労条件についてもまとめた。 (図等削除) (図等削除)