総合福祉部会 第16回 H23.7.26 参考資料2 西滝委員提出資料  コミュニケーション保障についての追加意見  財団法人全日本ろうあ連盟                                  西滝 憲彦 (1)相談支援、居宅介護、通所の事業など自立支援法の事業に手話や要約筆記によるコ ミュニケーション保障の想定がないことを改善すべきである。 ○福祉圏域エリアで手話通訳者・ろうあ者相談員等の配置を義務付け  自立支援法の事業を利用する聴覚障害者のコミュニケーション支援は難度の高い専門 性の必要な分野と考えるべきである。このため、福祉圏域に一カ所はコミュニケーショ ン支援を整備した基幹型相談支援事業所として、手話通訳士有資格者(または手話通訳 士と同等のレベルと認められる手話通訳者)および自治体独自に設置されているろうあ 者相談員をはじめとする聴覚障害者を専門に相談支援する者を職員配置基準(職員定数 の積算にあたって考慮すべき人員とする)に組み入れる法的整備を行って頂きたい。こ のことにより、聴覚障害者へのコミュニケーション保障を行うとともに、さらには視覚 障害者、知的障害者等へのコミュニケーションと情報保障についてもきちんと行える事 業所となることが期待される。    この他、障害者自立支援法を改善するため、下記の措置、対応等を図って頂きたい。  ・第3条、「国民の責務」の前に、「事業所の責務」を加え、そこに聴覚障害者等コミ   ュニケーションについての配慮を義務づける。 ・相談支援、居宅介護、通所事業等については、「コミュニケーション体制加算」(仮)  のような加算制度を創設し、手話通訳、要約筆記等の支援を可能とすること。 ・相談支援専門員研修に係るカリキュラムに「聴覚障害者とのコミュニケーション支援 (手話、要約筆記、筆談の基礎知識、派遣等の制度概要)を加える。また、社会福祉法 人全国手話研修センター主催の全国手話検定2級以上の手話技術を持つよう研修を行 う。  サービス管理責任者(サービス提供責任者含む)研修にかかるカリキュラムに「聴覚  障害者とのコミュニケーション支援(手話、要約筆記、筆談の基礎知識、派遣等の制  度概要)を加える。 ・聴覚障害者への居宅介護の場合は、手話のできるヘルパー、または聴覚障害者ヘルパ   ーの派遣を条件にする。   また、事業所で「聴覚障害者とのコミュニケーション支援(手話、要約筆記、筆談   の基礎知識、派遣等の制度概要)」の研修を必須とする。 手話のできる職員が常時雇用されていない場合、コミュニケーション支援事業は基本 的に聴覚障害者本人からの依頼により派遣する制度だが、事業所からの手話通訳等派 遣依頼にも応じることができる制度として拡充すること。  ・聴覚障害者を対象とするケアマネジメントやモニタリングの際は、コミュニケーショ   ン支援を行っている事業所の助言を得て行うことを義務づける。 (2)市町村事業の実施率を高めるための方策について ○障害福祉計画で100%実施を明示  必須事業として市町村に実施を促すためには、いつまでに実施率100%を達成するとい う目標を明示した施策が必要である。例として、自立支援法では3年ごとの障害福祉計画 を策定することとしているので、その3年間に実施率100%を達成するよう施策を講じる。 ・市町村においては、「手話奉仕員養成事業」「手話通訳者設置事業」「手話通訳者派遣  事業」「要約筆記者派遣事業」の実施100%を達成する。 ・単独で実施できない市町村への対応として、一部事務組合等の広域組織を受け手として 複数市町村での事業を実施する。または、聴覚障害者情報提供施設が一部事務組合等の 広域組織または各市町村の個別委託どちらかの方法で業務委託を受けて実施する。この どちらかの方法により、効率的に実施していく施策を講じる。 ・都道府県においては、「手話通訳者養成・研修事業」のみならず、都道府県レベルの障 害者団体からのニーズ、または警察・司法・医療等専門的に高度なニーズ、および広域 派遣対応としての「手話通訳者派遣事業」「手話通訳者設置事業」を聴覚障害者情報提 供施設において実施することを義務づけ、全都道府県での100%実施を達成する。 ・各事業の財源は、国・都道府県1/4・市町村1/4。ただし国の補助金は市町村が必要とす る予算の1/2を義務づけるよう、義務的経費枠に組み替える。 (3)「コミュニケーション(支援)」の定義や意義の共通理解を。 ○人的(発達)支援が求められている ・聴覚障害者のコミュニケーション支援は、「意思疎通を図ること」、「人的(発達等) 支援」の  二つの役割を持っている。 [1]音声言語が聞こえない、聞こえづらい聴覚障害者と健聴者と間で、手話通訳または 要約筆    記により意思疎通を図る役割を持っている。 [2]十分な教育を受けることができなかったり、コミュニケーション保障の乏しい日常 生活を強いられたり、精神障害などの他の障害を併せ持ったりするなどの問題を抱 えている聴覚障害者も多く、コミュニケーション支援で提供される情報の理解を促 進する支援が相対的に重点となる場合も多い。人格形成・発達支援、自己実現・自 己確立支援、地域生活における地域住民との交流等の地域生活支援等、生活支援や エンパワメント、相談支援と一体となった人的支援の役割も持っている。    現在、コミュニケーション支援において[2]の人的支援の役割が確立されているとは言 えず、システム化されにくいこともあり、様々な問題が生じていると言える。  学校教育、職場、地域社会、介護サービスなどの社会参加場面において、(二人以上 の)集団内コミュニケーションの成立が前提となっているが、聴覚障害者(あるいは精 神障害者・知的障害者等)が参加した場合に、コミュニケーションが保障されていない ことから、当該場面に参加できず孤立を強いられている。また、本人の言語能力や人間 関係形成力により、情報提供だけではコミュニケーションが成立せず社会参加できてい ない場合がある。  なお、参考として、「聴覚障害者のコミュニケーション支援の現状把握及び再構築検討 事業 平成17年度報告書 〜手話通訳事業の発展を願って」において、コミュニケーショ ン支援の定義(意義と役割)について次のように記述されている。 「聴覚障害者にとって、個人としての尊重・基本的人権の享有の内容として、コミュニケ ーションと情報の保障が極めて重要な構成要素となる。  個人の人格の尊重も、憲法上の一つ一つの権利の行使も、社会と言う人間集団との関わ りで問題になる。そして、社会と関わりを持つためには、自由なコミュニケーションと情 報の自由な発信・入手とが必須条件である。聴覚障害者の場合、その主たるコミュニケー ション方法が社会一般の方法とは異なっている。そのままでは通じ合えないのである。従 って、このことに対する社会的保障がない時は、コミュニケーションができないまま、聴 覚障害者は、人格否定につながる孤立を強いられ、憲法上の権利行使が著しく制約された 生活を強いられることになる。  手話通訳制度は、この場合の問題について直接的に関わっている。  例えば、2001年6 月の法改正により、医事・薬事関係の欠格条項は削除され、一般論と しては、聴覚障害者も医師や薬剤師等の資格を取得できるようになった。しかし、仮に口 頭試問が行われるような時に手話通訳等の保障が無いとしたら、聴覚障害者排除は実質的 に継続することになってしまう。法の下の平等と職業選択の自由に対する侵害は、差別的 な法律条項の廃止だけではなくならず、必要なコミュニケーションと情報提供が保障され たときに初めて実効性を持つのである。さらに言えば、医事・薬事関係の専門的教育を受 けるに際して、手話通訳等によるコミュニケーション・情報の保障がなされることが重要 である。  手話通訳制度は、このような場合の権利保障、権利実現のための公的制度であり、上記 の例で言えば、それが機能したとき初めて欠格条項による聴覚障害者排除が克服されたと 言えるのである。  コミュニケーションと情報の保障がない限り、個人としての尊重も基本的人権の享有も、 現実のものとはならない。手話通訳とその制度的保障は、聴覚障害者の憲法上の権利保障、 権利行使に直接的に関わってくるものである。  そして、憲法上の権利は、立法、司法、行政と国家機関のすべての分野についてのもの であり、人間社会でのあらゆる分野、あらゆる場面で保障されるべきものであるから、手 話通訳制度は、これらのあらゆる分野をカバーするものでなくてはならない。」 (4)手話通訳・要約筆記は申請しなければ受けられない、そして申請できる力を持たな   い聴覚障害者が多い。この現状を改善するために。 ○相談支援事業の働きと社会参加場面毎の合理的配慮がキーポイント  聴覚障害者か必要とするコミュニケーション支援を申請できる力を発揮するためには、 ケースワーク機能が問われる課題であり、(1)で述べたように基幹型相談支援事業所、 自治体における手話通訳士有資格者、ろうあ者相談員等の相談支援者、および、コミュニ ケーション支援事業所のコーディネート担当職員(自らが手話通訳士有資格であり、手話 通訳者設置事業ないし公務員として採用された手話通訳士有資格者であること)が、聴覚 障害者本人に働きかけるなど、具体的に聴覚障害者が自分で申請できるようエンパワメン ト支援を行う役割が重要である。  また、個別のコミュニケーション支援から、コミュニケーション手段を共有する集団的 学習(エンパワメント)支援を可能とするようなサービスを開発する必要があり、現在の 地域活動支援センター事業を、市町村事業だけでなく、国による義務的事業として位置付 け直した上で広域的事業として聴覚障害者情報提供施設等で運営できるよう改善するこ と。  自治体、公的機関(医療機関他)、労働場面、教育場面等における合理的配慮の内容を 整理し義務付けのための法整備(条例化)を行う必要がある。  聴覚障害者の利用学習も必要。ろう学校等で、社会に出る前からの手話通訳、要約筆記 等、社会における制度利用についての履修を入れること。および社会の事業者側へのコミ ュニケーション支援制度利用の啓発も重要である。 以上