総合福祉部会 第15回 H23.6.23 資料6−2 「就労(労働及び雇用)」合同作業チーム報告書 I はじめに(作業チームの検討の背景と検討の範囲) (問題認識)  1976年に障害者雇用促進法が抜本的に改正されて以降、わが国の障害者雇用は、 雇用率制度を中心にすすめられてきた。近年、常用労働者数1,000人以上規模の 企業では、実雇用率が法定雇用率を上回るなど、とくに大規模企業を中心に雇用 率制度の対象となる常用労働者数56人以上規模の企業における障害者雇用は 年々伸びているが、2008年に厚生労働省により行われた、常用労働者数5人以上 規模の事業所を対象とした障害者雇用実態調査結果によれば、対象事業所におけ る障害者雇用数は約44万8千人で、これは2003年の同調査結果とくらべ、5万 人近く減少している。つまり、雇用率制度の対象とはならない常用労働者数55 人以下の小企業では障害者の雇用数が大きく減少しており、その結果、企業全体 としてみると障害者雇用数は、近年かなり減少している。また、平均賃金も5年 前とくらべ減少するなど、雇用の質も低下傾向が見られる。平均賃金(月額)は、 一般の約33万6千円とくらべ、障害者のなかでも一番平均賃金が高い身体障害 者で約25万4千円と、一般に比べ4分の3レベルにとどまっている。  一方、2006年の障害者自立支援法施行後、福祉から一般就労への移行が強調さ れ、2003年度の年間移行者数0.2万人から2011年度には0.9万人が目標とされな がら、2008年度の実績は約3,400人程度で、毎年、特別支援学校高等部卒業生の うち福祉施設に入ってくる約1万人をはるかに下回っていることなどから、福祉 的就労利用者は減少するどころか、むしろ増加傾向がみられ、現在では20万人 を上回っている。  2008年に厚生労働省により行われた労働年齢(15歳〜64歳)の身体障害者、 知的障害者及び精神障害者就業実態調査結果によれば、障害者の就業率(福祉的 就労者を含む。)は40.3%で、一般の就業率69.8%とくらべきわめて低い。福祉 的就労者を除く就業率は、31.9%で、一般の半分以下である。また、就労継続支 援A型事業や福祉工場で就労するものを除く福祉的就労利用者の平均工賃を 2007年度の12,222円から2011年度には倍増にすべく工賃倍増5か年計画が実施 されているにもかかわらず、2009年度の平均工賃は12,695円で微増にとどまっ ている。  これらのデータからも明らかなように、障害者雇用促進法等を中心にすすめら れてきた障害者の一般就労・自営、そして障害者自立支援法を中心にすすめられ てきた福祉的就労の両者とも期待されたような進展がみられない。そうした状況 を打破するには、障害者雇用・就労制度全般の課題、限界を検証し、不十分な制 度については、障害者が他の者と平等に働く機会を獲得し、また地域生活を可能 にする所得を得ることができるようにする観点から、大幅な見直しが求められる。 (検討の範囲)  本作業チームでは、障害者権利条約第27条[労働及び雇用]、「障害者制度改 革の推進のための基本的な方向」(第一次意見および閣議決定)、「障害者制度改 革の推進のための第二次意見」、障がい者制度改革推進会議および総合福祉部会 などでの議論を踏まえ、障害者の労働および雇用のあり方について追加開催も含 め、6回にわたり検討を行った。その主な内容は以下の通りである。 [1] 障害者基本法に盛り込むべき就労に関する基本的事項 [2] 総合福祉法の守備範囲(労働分野との機能分担など) [3] 福祉と労働及び雇用にまたがる制度と労働者性の確保のあり方 [4] 就労系日中活動(就労移行支援事業、就労継続支援A型・B型事業、生産活 動に取り組む生活介護事業)、地域生活支援事業(地域活動支援センター)や 小規模作業所のあり方 [5] 障害者雇用率制度および差別禁止と合理的配慮などを含む、障害者の一般就 労・自営のあり方 [6] 多様な就業の場としての社会的雇用、社会的事業所および社会支援雇用のあ り方など。 II 就労合同作業チームの結論とその説明 1. 障害者基本法改正について  障害者の労働および雇用について障害者基本法に盛り込むべき内容として、以 下の事項を確認した。(全文は本報告の末尾に資料として掲載) (1) 労働の権利の保障と苦情に対する救済制度の整備 (2) 労働施策と福祉施策が一体的に展開できる障害者就労制度の整備(生計を 維持するための賃金補填などによる所得保障を含む。)と労働者保護法の適 用の確保 (3) 多様な就業の場の創出および必要な仕事の確保 (4) 合理的配慮および必要な支援の提供の確保 (5) 障害者が特別の職業サービス(職業相談、職業指導、職業訓練および職業 紹介サービスなど)だけでなく、一般の職業サービスも利用できるように すること。 (6) あらゆる種類の障害者への雇用義務の拡大と働き甲斐のある、人としての 尊厳にふさわしい職場の確保 (2011年4月22日に閣議決定された障害者基本法改正案では、第18条(職業相 談等)1項及び2項に「障害者の多様な就業の機会を確保」が追加された以外は、 「第二次意見」で就労合同作業チームが提案した事項はほとんど反映されていな いため、今後の取組みが重要となっている。) 2. 総合福祉法(仮称)の中に就労事業などをどう位置づけるか。 結論 現在のところ障害者福祉法に基づく授産施設及び福祉工場、障害者自立支 援法に基づく就労系日中活動(就労移行支援事業、就労継続支援A型・B型事業、 生産活動に取り組む生活介護)、地域生活支援事業(地域活動支援センター)及 び小規模作業所等に分かれている体系を、就労を中心とした「就労系事業」と作 業活動や社会参加活動を中心とした「作業・活動系事業」に再編成する。前者に ついては[1]障害者雇用促進法に位置づける、[2]総合福祉法に位置づける、という 2つの考え方がある。「就労系事業」に従事する障害者の労働者性を確保すると いう目標からは[1]が望ましいが、その条件整備にはかなりの時間がかかるため、 当面は[2]とする。(期限を定め見直すことを総合福祉法の付則に明記する。)将来 的には障害者雇用促進法あるいはそれに代わる新法(労働法)で規定することを 検討する。「作業・活動系事業」は、総合福祉法(仮称)に位置づける。 説明  労働施策と福祉施策を一体的に展開することにより、「就労系事業」で就労す る障害者に各種助成措置、手当や年金など所得保障制度などを組み合わせること、 および官公需や民需の優先発注などによる仕事の安定確保などにより、最低賃金 以上の賃金を確保し、労働法を適用する。  「就労系事業」においても一般就労・自営を希望する障害者については、ハロ ーワーク、地域障害者職業センター、障害者就業・生活支援センターなどと密接 に協力・連携し、一般就労・自営への移行を積極的に支援する。また現行の就労 移行支援事業は、障害者就業・生活支援センター等労働施策に統合するとの意見 が多数を占めたが、これとの有機的連携を図るとの意見もあった。  「作業・活動系事業」は作業活動に取組み働く喜びを得る「作業支援事業」と、 文化・創作活動や機能・生活訓練等の社会参加活動を中心とした「活動支援事業」 から成る。この事業には、労働法は適用されず、適正な工賃及び年金や手当など により生計維持可能な所得を確保する。  なお、「一般就労・自営」、「就労系事業」、「作業・活動系事業」の三者間は、 対象とする障害者のニーズに応じて、それぞれ相互移行ができる仕組みとする。 ≪補足説明≫ 現行の就労に関わる事業体系 ●福祉工場(根拠法は障害者福祉法) ●授産施設(根拠法は障害者福祉法)、就労移行支援事業、就労継続支援A型・ B型事業、地域活動支援センター(以上、根拠法は障害者自立支援法)、小規模 作業所 ●(生産活動を行う)生活介護事業(根拠法は障害者自立支援法) 新制度の下での就労に関わる事業体系の提案  新たな事業体系として以下の二類型を提案する。一般就労・自営及び以下の二 類型については、障害者本人のニーズに応じて三者間を相互移行ができる仕組み とする。 ●「就労系事業」 *障害に起因する制約への支援を受けつつ働く場。 *根拠法は、当面は総合福祉法。将来的には障害者雇用促進法あるいはそれに代 わる新法(労働法)とすることを検討する。 *現行の事業体系との関係〜現行の福祉工場、就労継続支援A型事業で働く障害 者と、授産施設、就労継続支援B型事業、生活介護事業、地域活動支援センタ ー、小規模作業所で働く障害者の一部が「就労系事業」で働くことになると想 定。 *労働施策と福祉施策を一体的に展開する新たな事業として、以下の3つが提案 された。 [1]社会的雇用(箕面市が実施している。一般就労・自営が困難な障害者が労働者 として働くことを通じて経済的自立ができるよう、働くことへの支援や賃金補 填等を行う仕組み。) [2]社会的事業所(滋賀県や札幌市が実施している。障害者をはじめとする雇用の 困難な人々が雇用契約に基づいて労働に参加する仕組み。賃金補填は前提とし ない。) [3]社会支援雇用(欧州等で行われており保護雇用とも呼ばれる。一般就労・自営 が困難な障害者が労働法規の下で賃金補填等の必要な支援を受けつつ働き、地 域生活を送れるようにする仕組み。) *就労移行支援事業は、障害者就業・生活支援センター事業等の労働施策に統合 するとの意見が多数を占めたが、これとの有機的連携を図るとの意見もあった。 ●「作業・活動系事業」 *作業活動を中心とした「作業支援事業」と、文化・創作活動、機能・生活訓練 等の社会参加活動を中心とした「活動支援事業」から成る。 *根拠法は総合福祉法。 *就労継続支援B型事業、生活介護事業、地域活動支援センター、小規模作業所 で働く障害者で、 「就労系事業」で働くことを希望しない人が「作業・活動系事業」で活動する と想定。 3.「就労系事業」に労働法規を適用するか。 結論 「就労系事業」には、原則として労働法を適用する。 説明  「就労系事業」に一律に現行の労働法規を適用し事業者の責任だけを問うこと になると、障害者の働く場を狭める恐れがあるため、必要な条件が整うまでは、 一部適用により安全かつ健康的な作業条件を保障するという選択肢も検討する。 将来的には、労働条件に関する差別禁止や合理的配慮の提供義務を織り込んだ労 働基準法等、障害者の特性に配慮した労働法を全面適用することについて検討す る。 4.「就労系事業」で就業する障害者の賃金を妥当な水準に引き上げるための適切な仕事を どのようにして安定確保するか。 結論 「就労系事業」や障害者多数雇用事業所等での仕事を安定確保するため、 官公需優先発注の制度化、官公需における随意契約の促進、総合評価入札制度、 並びに雇用率制度とリンクしたみなし雇用制度の導入、発注促進税制の拡充や発 注額に応じた減税制度の創設等による民需の発注の促進等を図ると共に、共同受 注窓口等を全国的に整備する。また、生産性や付加価値を引き上げるための仕組 みを整備する。加えて、「就労系事業」に所属する障害者が企業等の中で働くこ とを促進するため、これを雇用率に換算する制度を検討する。なお、「作業・活 動系事業」における「作業支援事業」についても、適正な工賃を支払うため「就 労系事業」と同様の施策を講じる。 説明  多様な「就労系事業」や重度障害者多数雇用事業所、そして「作業支援事業」 等に安定的な仕事を確保するうえで官公需および民需は重要である。民需確保の 一環としてのみなし雇用の具体化に向けては、在宅就業障害者支援制度をモデル として特例調整金などの給付を雇用率の算定に変える仕組みが考えられるが、そ れが有効に機能する前提としては、法定雇用率の引き上げ等が不可欠である。ま た、仕事の受注や分配、生産管理や品質管理、技術的支援等を行う共同受注窓口 は、個々の事業所単独での受注に限界があるなかで、有効な施策であり、そのた めの組織の整備と運営費の担保が必要である。さらに、収益を拡大するためには 生産性や付加価値を高めるための取組みが重要である。また、現行の自立支援法 に基づく施設外就労や納付金制度に基づくグループ就労などを更に拡大、発展さ せるため、これを雇用率に換算する制度を検討する。 5.「就労系事業」で就労する障害者に利用者負担を求めるか。 結論 利用者負担は廃止する。 説明  国際労働機関(ILO)第99号勧告(1955年)では、職業リハビリテーショ ンの無料提供が原則とされる。また、労働者性を有する就労については、利用者 負担という概念そのものが考えられないし、総合福祉法に位置づけられる「作 業・活動系事業」についても、利用者負担を廃止すべきとした訴訟団と国(厚生 労働省)との「基本合意」が順守されるべきである。 6.障害者雇用促進法に関わる事項について (1)障害者雇用の量だけでなくその質を確保するための障害者雇用促進法の改正について 結論 障害者権利条約第27条[労働及び雇用]で求められる労働への権利、障害に 基づく差別の禁止、職場における合理的配慮の提供の確保するための規定を設け る。 説明  大企業に限らず中小の企業においても、雇用条件や昇給・昇進、希望職種・業 務の充足といった雇用の質が確保されるために必要な規定を設ける必要がある。 (2)障害者雇用施策の対象とする「障害者」について、就業上必要な支援を認定する仕組み について 結論 雇用率制度に基づく雇用義務の対象を、精神障害者を含むあらゆる種類の 障害者に広げるとともに、雇用率達成のための事業者への支援を拡充する必要が ある。また、個々の障害者にとって就業上必要な支援を明らかにする総合的なア セスメントシステムを整備する。 説明  精神障害者を含む、あらゆる種類の障害者の雇用を義務化すると同時に、雇用 率を達成するための事業者への支援を拡充するべきである。特に、精神障害者に ついては職場で安定的に就業するための配慮と職場環境の整備が不可欠である。 就業上必要な支援を認定する仕組みについては、聴覚障害者の場合は身体障害者 福祉法第4条の別表をWHO基準に合わせることが現実的なアプローチではない か。また客観的指標を新たに開発した上で、障害種別の特性を踏まえ、本人の希 望と周囲の評価を調整する合議体でのワンストップの相談支援の仕組みを作る ことを検討する必要がある。 (3)雇用率制度および納付金制度のあり方について 結論 雇用率制度の対象者の拡大に関連して、法定雇用率および納付金制度につ いては、調査に基づいて課題と限界を検証し、必要な見直しを行うべきである。 説明  法定雇用率については、社会モデルに基づいた障害の範囲の拡大、みなし雇用 の導入などを踏まえて大幅に引き上げる方向での見直しが求められる。ダブルカ ウントについては社会モデルに基づいた制度に見直すべきであるとの意見があ ったが、障害者の範囲の見直しが先決であるとの意見もあった。納付金制度は助 成額の引き上げや給付期間の恒久化に加え、助成申請手続きの簡便化も必要であ る。また、助成金は雇用主による申請であるために、障害者の雇用を支えるため に有効に活用されていないとの指摘があった。従って、障害者自身による申請を 可能とするよう検討する。 (4)職場における合理的配慮提供の確保について 結論 事業主が合理的配慮を提供するために必要な経済的・技術的支援を制度化 すると共に、苦情申し立てと救済措置についての仕組みを整備する必要がある。 説明  「就労系事業」、特例子会社、重度障害者多数雇用事業所等での合理的配慮の 実践例を企業に示すことで、企業サイドの理解を深める。合理的配慮の類型化や 事例のガイドブックの整備等も企業サイドの取り組みを進める上で有効だろう。 合理的配慮に係る費用負担のあり方も整理する必要がある。合理的配慮が提供さ れない場合、障害者が苦情を申し立て、その救済措置が受けられるような第三者 性を確保した仕組みが、職場内及び労働審判制度等に整備される必要がある。 III 今後の検討課題 1. 安定した雇用・就労に結びついていない労働年齢の障害者に適切な就業の機会を確保 するための施策についての検討 結論 安定した雇用・就労に結びついていない障害者に適切な就業の機会を確保 するため、試行事業(パイロット・スタディ)として賃金補填等の他、多様な働 き方の「就労系事業」を実施する。 説明  全国で80ヵ所程度を指定し、賃金補填(使途に規制がなく、障害従業員の賃 金補填にも充当しうる、柔軟な助成措置を含む。)および官公需や民需の優先発 注等を伴う、多様な「就労系事業」(「社会的雇用」・「社会的事業所」・「社会支援 雇用」(補足説明参照))が障害者就労施策にもたらす効果を実証的に検証するこ とにより、同制度化に向けた課題を整理するものである。対象とするのは、[1]最 低賃金の減額特例を受けている就労継続支援A型事業所、[2]最低賃金の1/4以 上の工賃を支払っている就労継続支援B型事業所、[3]箕面市や滋賀県など、地方 公共団体独自の制度として賃金補填を実施している事業所の他、新たに起業する 事業所等であり、これらに対し、障害者への賃金補填を含む、事業所への運営費 補助(負担割合は、国:1/2、都道府県:1/4、市町村1/4)及び官公需や民需 の優先発注などによる仕事を確保するための支援を行う。  検証事項は、主に[1]障害者自身の働く意欲への影響や、共に働く、障害のない 者の意識の変化、[2]対象とすべき障害者や事業所の要件、[3]事業者が提示する賃 金への影響、[4]障害者の心身・労働能力の変化の状況、[5]収益の配分とその決定 の仕組み、[6]事業者の生産性・付加価値引き上げの取組、[7]民間企業と就労系事 業が連携する取組、[8]総合的アセスメントの仕組みなど、新たな「就労系事業」 の制度化にあたって予想される課題の整理である。 (このモデル事業が必要な背景としては、現在の国の制度では、一般雇用と福祉 的就労しか選択肢がなく、しかも賃金(工賃)や位置づけ(労働者か利用者か) について大きな乖離があることが挙げられる。両者の間に第三の選択肢をつくる こと、また福祉的就労そのものに労働法規を適用すること、さらには多様な働き 方を保障することなど、種々の検討すべき課題があるが、これらのいずれをも包 括して検証するには、賃金補填等を試験的に行い、各事業のメリット・デメリッ トを明らかにすると共に、現行の関連施策に与える影響や事業者側への影響を考 慮、分析する必要がある) 2.前述のモデル事業の結果を踏まえ、「就労系事業」に従事する障害者への労働法の適用 およびそれを可能とするための賃金補填等を制度化するための法制度の整備 結論 「就労系事業」は、当面は、総合福祉法で規定する。(期限を定め、見直 すことを総合福祉法の付則に明記する。)将来的には障害者雇用促進法ないしは それに代わる新法(労働法)で規定することを検討する。 説明  「就労系事業」を早期に実現するには、総合福祉法に位置づけることが早道と 思われるが、一般就労・自営と「就労系事業」を総合福祉法で一体的に規定する ことは不可能なことから、将来的には障害者雇用促進法を見直すか、あるいはそ れに代わる新法(労働法)で、一般就労・自営とリンクして「就労系事業」を規 定するよう検討する。 3.前述の賃金補填を制度化するための所得保障制度(障害基礎年金など)との調整のあり 方 結論 「就労系事業」に従事する障害者が賃金補填を受ける場合、原則として年 金支給は一部ないし全額停止することで、年金財源を賃金補填に振り替えうる仕 組みをつくる。そのためには、賃金補填と所得保障の関係について、障害基礎年 金の支給調整ラインの検討が必要である。また、賃金補填の対象となる障害者の 認定の仕組みを検討する必要がある。(賃金補填を行う場合のモラルハザードを どうするかについても検討が必要という意見もある。) 説明  障害基礎年金における所得制限は、20歳前に障害者となった人の場合について、 所得が398万4,000円を超えると半額支給停止、500万1,000円を超えると全額支 給停止になる(いずれも扶養家族がいない場合の例)。しかし、最低賃金(全国 加重平均731円/時)への不足分に対する賃金補填を行った場合を考えると、そ の補填率にかかわらず、賃金総額は、731円/時×30〜40時間/週×52週/年= 114万360円〜152万480円程度であり、到底、現行の支給調整ラインには届か ない。よって、賃金補填を受けない障害者との公平性を担保するには、支給調整 ラインをさらに低い金額で設定することを検討する必要がある。また、20歳前に 障害者となった人以外の場合は障害厚生年金や稼働所得と賃金補填との調整を どうするのか等の検討課題がある。また、賃金補填の対象となる障害者の認定の 仕組みを検討する必要がある。  なお、賃金補填の導入によって事業者がモラルハザードを起こさないよう、生 産性や付加価値を高めるとともに、障害者の能力開発により賃金補填額の縮小、 あるいは賃金補填がなくとも最低賃金以上の賃金を支払うことを目指すような 制度設計とすることについても検討する必要がある。 4.全国民のなかでの障害者の経済活動や生活実態を明らかにする基礎資料の整備 結論 障害の社会モデルを基礎として雇用・就労施策を検討する基礎資料をえる ために国の基幹統計調査において障害の有無を尋ねる設問を入れた全国調査を 少なくとも1回実施する。 説明  厚生労働省では身体・知的・精神、3障害の就業実態調査や障害者雇用実態調 査を行ってきている。しかし、いずれも手帳所持者やすでに雇用されている人な ど、限定された障害者集団の状況しか明らかにできない。障害ゆえに雇用・就労 の機会を得がたい者は、それらの障害者以外にも数多く存在する。いわゆる制度 の谷間で公的支援を受けることができず放置されている人びとを支援すること になってこそ、障害者雇用・就労の裾野を広げることができる。  また、障害の社会モデルを基礎とした雇用・就労施策を検討する基礎資料とし て、全国民のなかでの障害者の経済活動や生活実態を明らかにすることが重要で ある。そのためには、国の基幹統計調査(全国消費実態調査や国民生活基礎調査 等の全国民を対象とした大規模社会調査)において、少なくとも一時点において 病気や障害によって活動が一定期間以上制限されているかどうかを聞く設問を 追加し、その調査結果を分析する必要がある。 5.障害者の雇用・就労にかかる労働施策と福祉施策を一体的に展開するための体制の整 備 結論 障害者の雇用・就労にかかる労働施策と福祉施策を一体的に展開しうるよ う、関係行政組織を再編成するとともに、地方公共団体レベルで雇用・就労、福 祉および年金などにかかる総合的な相談支援窓口(ワンストップサービス)を設 置する。 説明  現在、一般就労・自営は労働行政等、また福祉的就労は福祉行政の所管となっ ているがそれらを一体的に展開するには、中央レベルの行政組織を再編成すると ともに、地域レベルで就労・生活支援にかかわる、ハローワーク、福祉事務所、 地域障害者職業センター、障害者就業・生活支援センターおよび地方公共団体が 設置する就労支援機関、地域自立支援協議会、発達障害者支援センター、ならび に特別支援学校などの関係機関のネットワークが有効に機能する仕組みを整備 する。 6.以上の検討課題についてフォローし、実現化をめざすための今後の検討体制づくり 結論 推進会議のもとに就労部会または就労検討チームを設置して、「就労系事 業」にかかるモデル事業の検証も含む、検討課題についての議論を深め、結論を 得る。そのメンバーは、推進会議や総合福祉部会の枠をこえ、経済団体、労働団 体、学識経験者(労働法、労働経済学、経営学、社会保障論などの分野の専門家 など)、事業者団体および地方公共団体などから構成する。 説明  本チームでは極めて広範囲に渡る、一般就労・自営および「就労系事業」に係 る課題について議論したが、構成員の専門領域が限られていたことや検討期間及 び時間が短かったため議論をつくせず、結論を得るまでには至らなかった。従っ て、推進会議の下に新たに作られる部会又は検討チームには幅広い専門領域の構 成員を加え、十分議論を尽くし、結論を得る。 7.他の作業チームとの調整が必要な事項 (1)パーソナルアシスタンスなど介助サービス事業の守備範囲について 結論 パーソナルアシスタンスなどの介助サービス事業は、障害者の地域での生 活支援だけでなく、通勤(自営等の営利活動に伴う移動を含む)や職場での介助 にも使えるようにする。 説明  「訪問系」作業チームで検討されたパーソナルアシスタンスなどの介助サービ ス事業は、基本的には在宅障害者の身体介助や外出支援等に関わるとされる。一 方、雇用納付金制度に基づく助成金にも通勤支援(1ヵ月)、職場介助(仕事面の 支援、10年間)等があるが、期間や介助の対象が限られているため極めて使いづ らいとされる。財源も含め、労働施策と福祉施策を一体的に展開できる仕組みを 整備することで、パーソナルアシスタンスなどの介助サービス事業を地域での生 活支援だけでなく、通勤(自営等の営利活動に伴う移動を含む)や職場での介助 にも使えるようにする。 (2)ワンストップサービスの整備について 結論 ワンストップサービスは、就労支援を含む、総合的な相談支援窓口とする。 説明  障害者が就労しようとする場合、どの機関や窓口で相談するかによってその後 の就労先が異なることが少なくない。障害者がそうした不利を蒙らないようにす るためにも、「選択と決定・相談支援プロセス(程度区分)」作業チームで検討さ れている地域相談支援センターなどは、就労支援も含む、「総合的な相談支援窓 口(ワンストップサービス)」とする必要がある。 (3)雇用関係がなく、労働法規が適用されないデイアクティビティセンターの機能について 結論 雇用関係がなく、労働法規が適用されないデイアクティビティセンターは、 創作活動や趣味活動、作業活動など、地域における社会参加活動の場の提供等を その主たる機能とし、福祉サービス事業の一環として総合福祉法に位置づける。 説明  「日中活動とGH、CH、住まい方支援」作業チームでは、「(現行の)地域活動 支援センターはデイアクティビティセンターに整理する方がよい。・・・」と整 理し、また「地域生活支援事業の見直しと自治体の役割」作業チームでは「地域 活動支援センターの内容については、・・・地域生活支援事業に残すものと、他 事業との体系の統合の中で自立支援給付にするものとに分ける。・・」と報告し ている。ここで言うデイアクティビティセンターは本報告中の「作業・活動系事 業」に当たると考えられるため、これを総合福祉法に基づく福祉サービスに位置 づけ機能を整理する。 (4)他の福祉サービス事業とは異なる「就労系事業」の位置づけについて 結論 本来、労働法に位置付けられる事業として、「就労系事業」を他の福祉サー ビス事業一般とは異なる位置付けとするよう、見直しが必要である。 説明  就労が福祉サービス事業の一つとしてしか位置付けられていない現状を見直 し、本来は労働法に規定されるべき「就労系事業」は、独自の仕組みとして総合 福祉法の中に規定されるべきである。 (5)現行の施設入所支援と併せて提供される就労支援事業について 結論 現行の施設入所支援と併せて提供される就労支援事業を総合福祉法でど のように位置付けるかについては、「日中活動とGH、CH、住まい方支援」作業 チームと調整する。 説明  2008年12月16日の社会保障審議会障害者部会報告で「通所による就労継続支 援の利用が難しく、真にやむを得ない者である場合には、ケアマネジメント等の 手続きを経た上で、同一の施設において施設入所支援と合わせて就労継続支援に ついても実施できることとするよう、検討すべきである」とされる。これについ ては、「日中活動とGH、CH、住まい方支援」作業チームと調整する。 【資料】 2010・11・22 障害者基本法に盛り込むべき事項(案) 就労・合同作業チーム  労働及び雇用について障害者基本法に以下の内容を規定すべきである。 1. 労働の権利の保障と苦情に対する救済制度の整備  障害者権利条約第27条では、「障害者が他の者と平等に労働についての権利を 有することを認める。」と規定されている。また、日本国憲法第27条でも、「す べて国民は、勤労の権利を有し、義務を負う。」と規定している。しかし、現行 の障害者基本法をはじめ、障害者の雇用の促進等に関する法律や障害者自立支援 法などでは、障害者の労働の権利は明記されていない。障害者の就業率が他の者 とくらべ、きわめて低く、かつ、就業している障害者の賃金などの労働条件も他 の者とくらべ、かなり悪い実態を改善するためにも障害者の労働の権利が保障さ れなければならない。それには、公正かつ良好な労働条件、安全かつ健康的な作 業条件及び苦情に対する救済についての権利の保護が含まれる。 2. 労働施策と福祉施策が一体的に展開できる障害者就労制度の整備(生計を 維持するための賃金補填などによる所得保障を含む。)と労働者保護法の適用 の確保  現在いわゆる福祉的就労に従事している20万人近くの障害者のうちごく一部 を除き、労働者保護法(労働基準法、最低賃金法、労働安全衛生法、労働者災害 補償保険法などに加え、雇用保険法、健康保険法および厚生年金法も含む。)の 対象外とされ、労働者あるいは労働者に準じた労働条件などを確保する展望もな い状況におかれている。そうした状況を打開するには、福祉的就労制度にかわる ものとして、現在分立している労働施策と福祉施策を一体的に展開できるような 仕組み、つまり、福祉的就労に従事している障害者が、合理的配慮の提供および、 必要な支援(生計を維持するための賃金補填などによる所得保障などを含む。) を継続的に受けながら、労働者保護法が適用される多様な就業の場で働き甲斐の ある人間らしい仕事ができる仕組みを整備する必要がある。また、それらの障害 者の職業の選択肢を拡げるとともに、キャリア形成ができるよう、生涯学習を含 む、能力開発などの支援も積極的に行われなければならない。 3.多様な就業の場の創出および必要な仕事の確保  障害者が自由に選択し、または承諾する労働につけるよう、企業や公共機関で の雇用に加え、自営・起業、社会的事業所や協同組合での就業、ならびに在宅就 労などを含む、多様な就業の場を積極的に創出するとともに、そこで就業する障 害者が生計を立てうる、適切な仕事を安定確保するための仕組み(ハート購入法 など優先発注制度や総合評価入札制度など)を整備しなければならない。 4.合理的配慮および必要な支援の提供の確保  障害の種類や程度にかかわらず、労働及び雇用を希望するすべての障害者が他 の者と平等に就職し、その職の維持や昇進、あるいは復職などができるよう、職 場における合理的配慮および必要な支援(職業生活を維持・向上するための人的、 物的および経済的支援を含む。それには職業維持に必要な生活面での支援や通勤 支援なども含まれる。)の提供を確保しなければならない。 5.障害者が特別の職業サービス(職業相談、職業指導、職業訓練及び職業紹介 サービスなど)だけでなく、一般の職業サービスも利用できるようにすること  障害者が他の者と平等に労働及び雇用に参加できるようにするべく、ニーズに 応じた適切な職業サービス提供を確保するには、かぎられた特定の機関で提供さ れる障害者を対象とした特別の職業サービスだけでなく、障害者にとって身近な 地域で必要な職業サービスが受けられるよう、一般市民を対象とした通常の職業 サービスが利用できるようにしなければならない。つまり、地域にある通常の各 種職業サービスを障害者にとってインクルーシブでアクセシブルなものにしな ければならない。 6.あらゆる種類の障害者への雇用義務の拡大と働き甲斐のある、人としての尊 厳にふさわしい職場の確保  障害者の雇用の促進等に関する法律に基づく障害者雇用義務の対象は、現在の ところ身体障害者と知的障害者に限定されているが、その対象を精神障害者を含 む、あらゆる種類の障害者に拡大するとともに、現行の障害者雇用率制度を量と しての雇用だけでなく、働き甲斐のある、人としての尊厳にふさわしい職場をも 確保できる仕組みに転換する必要がある。そして、そうした職場を確保するには、 合理的配慮および必要な支援が確実に提供されるよう、障害者だけでなく、事業 主に対しても適切なフォローアップサービスが、必要な期間継続的になされなけ ればならない。