総合福祉部会 第15回 H23.6.23 資料5−2 「報酬や人材確保等」部会作業チーム報告書 第一章  はじめに(主な検討範囲・ 検討の視点) 一 主な検討範囲 このチームの検討範囲は次のとおり。  論点[1]「報酬支払全般」 論点[2]「月払い、日払い」 論点[3]人材確保策   論点[4]サービス体系のあり方 論点[5]資格要件のシンプル化とあり方 論点[6]事務 量増大の解消策  論点[7]労働条件・賃金水準の確保策と法制度化すべき事項   論点[8]報酬・人材確保についてその他の論点・意見 二 検討の視点  障害福祉分野における報酬と人材は、この国の障害者の尊厳の水準と直結している という問題意識を持ち、今すぐ対応するべき救急課題、5年〜10年程度で確実に達 成するべき中期的課題、将来展望を見据えた長期ビジョンの3点に分けて、理想を目 指しながら地に着いた提言とするべきという共有認識に立った意見とした。 第二章 結論とその理由(論点表の論点、その他の論点の検討) 論点[1] 「報酬支払全般」 [結論]福祉職棒給表の法定化   民間事業所を含め、障害福祉に従事する者の給与を国家公務員の「福祉職棒 給表」(「一般職の職員の給与に関する法律」第6条第1項9号・別表第9参照) と同一の報酬水準(2007年で年収約615万円)の報酬が支払われるものと総合 福祉法で規定する。 [理由]権利条約は地域で自立した生活を権利として認めている。OECD平均4分 の1レベルの障害福祉予算水準では、地域での自立生活は営めず、職員は疲弊し、人 権保障を遂行する人材は確保出来ない。上記結論は、今回の障害者福祉改革での至上 命題である。 論点[2] 「月払い、日払い」 [結論] 両論に理由があり、それを発展的に統一した視点に立つことが肝要。個別 給付の意義を活かし、日割りの弊害と指摘される点を是正する仕組み。施設系事業に ついて、「利用者個別給付報酬」と「施設運営報酬」に大別する。チーム提言6頁〜9 頁。 [理由]事業の安定化を図りつつ、相談支援体制を充分に尽くして利用者の施設囲い 込みとならないように当事者の権利を保障しながら、本人の選択権を保障する。具体 論は後記。 論点[3] 人材確保策 [結論]上記の「福祉職棒給表」の給与確保が第一。社会保険、厚生年金、子育て支 援策の完備・充実など労働環境整備。事業者同士、隣接分野における人材の相互異動・ 流動体制。福祉系学校や資格取得のカリキュラム等のOJTを重視する抜本改正。福 祉分野を核として支える人材を養成することが重要であり、福祉専門職の育成。一般 市民が福祉分野に流れてくる、人材登用の間口を広げるための仕組み。中間管理職に ゆとりを与える仕組み。スウェーデンの「労働者手帳制度」をヒントとし「福祉労働 者手帳」制度を作り、労働を評価して、他の職場に移ってもランクが落ちない仕組み。 その際の評価は利用者本人の評価を基本としながら、経営者サイドの評価も酌み入れ る。 論点[4] サービス体系のあり方 [結論]及び[理由] 他チーム及び後記当チーム提言全般参照。 論点[5] 資格要件のシンプル化とあり方 [結論1]人材の登用は資格に限定されず、間口は広く取る。  資格がなくとも働くことができ、当事者の立場に立った支援実績を積めば報酬上も 評価される仕組みとする。 [結論1の理由]資格がなければこの分野に入れないという人材登用制限として機能 してはならない。資格がなければ、適切な支援実績があれば報酬がアップする仕組み。 [結論2]当事者の立場に立つ地域移行を実現するため「相談支援専門員」制度を 創設する。   その場合の前提条件は次のものである。  [1] 現行国家試験には障害者に様々な障壁があり受験におけるバリアフリーを徹底 する。  [2] 既存のピアカウセラーが可能な限り資格を取得できるルートを確保する。  [3] 現行の社会福祉士、介護保険のケアマネージャー等の福祉専門職には当事者の 立場に立った支援に欠けた面があり、新制度においては、資格取得に至るまで及び 取得後の養成過程において、当事者の気持ちを理解するための現場研修を中心とす る等、内容を徹底的に検討する。  [4] 支援計画を考え、策定するのはあくまで当事者自身の自己決定であり、それを 行政と対峙しても実現していくことを職務義務とし、職務に忠実ゆえに行政から干 渉を受けないように資格の独立性を保障する。  [5] 既存の「社会福祉士」、「精神保健福祉士」等を発展的に統合していく方向とす る。  [6] 当事者を過半数とする資格検討委員会を作り、制度の実態が当事者の自立支援 に即したものかを5年間程度検証し、当該資格が真に当事者支援の内容を伴う水準 に達することが確認できた段階で、これを初めて公式な国家資格とする。    そして、そのようなプロセスを経て、いずれ、 【この資格者が当事者の立場に立って、支給決定における一定の裁量権限を有する ようになる方向を目指す。】 [結論2の理由]当チームは、単純に資格をシンプルにすればよいという考えは取ら ない。 障害当事者の生活と人権を保障するためには支援者が生きがいと誇りをも って展望を持てる職業とすることが大切である。適切な支援が行われるために、当 事者の視点に立った優秀な人材が育つことが必要であり、とりわけ、相談支援専門 職の育成が焦眉の課題。ソーシャルワークや当事者中心の立場に立つ障害学をきち んと学んだ人を育てる。 論点[6] 事務量増大の解消策 [結論1] 現在の複雑な報酬加算制度を、基本報酬に組み入れる。 [結論1の理由] 加算報酬請求をしなくても安定した事業が成立する仕組み。 [結論2] 利用者負担制度の見直し。 [結論2の理由]応益負担と日割りで事務量が増えたのは明らかで、抜本見直しが必 要。=利用者負担作業チーム担当 [結論3] 事業規模に応じた事務職員の配置と報酬付与 [結論3の理由]現在は、現場支援職員や管理職が事務を担当しており、現場での支 援の力が事務仕事により阻害されている。 [結論4] 障害報酬請求事務職を報酬付きで配置 [結論4の理由]医療事務職のような請求事務職員配置が不可欠。 論点[7] 労働条件・賃金水準の確保策と法制度化すべき事項 [結論1] 論点@のと おり。 論点[8] 報酬・人材確保についてのその他の論点・意見  以下に記載。 第三章             チーム提言書   第一 総論 一 基本理念 障害者の基本的人権(平等権・生存権・個人の尊厳・幸福追求権) 保障の対価としての報酬と人材  障害福祉の人材とは憲法に基づく障害者の平等権等の基本的人権保障を実践する人 材に他ならない。真に障害者の基本的人権保障を担う人権感覚溢れた人びとが障害者 と共にインクルーシブな社会を構築するために、活力ある良質な人材が確保されるこ とが障害福祉を成立させる不可欠な前提条件となる。すなわち「報酬」の本質は基本 的人権保障の対価であり、障害福祉の報酬水準とは障害者の人権の価値評価、尊厳の 水準と連動している。障害福祉を実践する人材が枯渇し自らや家族の生活の維持さえ 危ぶまれるような状況であればこの国が障害者の人間としての基本的価値を蔑んでい ることを意味する。  以上のような基本的視座のもとに、この国が障害者の基本的人権保障を実現するた めに不可欠な土台であり足腰としての「人材と報酬」が確立されることをめざすべき である。  二  改革の基本的方向性=自己決定権を奪われた施設生活から地域での本人主体の自 立生活へ  選択権とは、当事者が望む豊富な支援施策が提供される中で、選択肢を誘導された りすることがなく、体験的利用をしたうえで十分な情報を確保した平等な条件で、地 域格差もなく選択できることが真の選択である。自己決定権は建前の上では認められ ていたが、実質的には限られた選択肢を強制されてきた現実がある。  権利条約19条で自立生活の権利が謳われており、障害者の地域で暮らす権利を障 害基本法の中で明確に規定すべきである。OECD平均の4分の1の障害者予算を当 然とする施策決定からは展望が拓けない。政治的な決定が必要である。 第二 現状の評価 一 報酬水準の劣悪さが人材確保の困難さに直結  障害関連事業における報酬制度と人材確保の課題は深刻で、報酬の劣悪さが人材の 確保を困難にし、限界を超えている。法定事業における「官製ワーキングプア」であ る。  厚生労働省の調査によると(平成22年賃金基本統計調査・10人以上1000人未満事 業所)、年間給与額は(1万以下切り捨て・円)  ホームヘルパー    285万   福祉施設介護員  298万   に対し て    システムエンジニア  546万   看護師      466万  保育士        314万   高等学校教員   691万  大学教授      1111万  など他の専門職に比べて格段と劣悪な水準で ある。 二 疲弊する障害福祉事業所の現実  事業所を支える中核となる人材の人件費は昇級していかなければならないが、事業 種別、障害程度区分、利用定員、各種加算を組み合わせた現在の報酬基準では、ベテ ラン職員の雇用の維持さえ難しくなり、経営的にも疲弊し、正職員の常勤雇用率が下 がり、雇用期間限定の臨時・計約・パート率を大幅に増加し支援の質の低下が著しい。 三 障害福祉に人材がいなくなった原因  2003年の世界的な新自由主義の風潮の中で、福祉切り捨ての流れができ、社会 福祉基礎構造改革が始まり、急速にOECD最低レベルの障害福祉予算に落ち込んだ。  高齢者や障害者になったら使い捨てという国家では、若者や子供たちは将来に対す る希望が持てない。高齢者や障害者に優しい社会という国のビジョンが大切である。 1 「地域生活支援システムの不備」  現状で知的障害者の施設と精神障害者の病床を閉鎖した場合、その障害者は地域で 孤立・排除される恐れが強い。地域移行を本当に実現させるためには、遠回りのよう だが、地域生活支援のシステムを緊急度に応じて順次地域に作り上げていくことが不 可欠である。  知的・精神障害者にとって、相談支援や見守り付き添いが必要である。しかし、そ れを認める重度訪問介護制度さえ、対象外である。当事者の自己選択に基づいた居住 の場の選択を一般市民と同様に国は障害を持つ市民に対しても保証する義務がある。 施設入所利用者に個別支援計画作成時に丁寧に地域生活の意向調査をする必要がある。 2 自立への橋渡しのシステムの欠如  現在、施設や親元からの地域生活へ移行を希望しても、地域では介助施策は利用で きない。親との同居者に夜間の介助利用は許されず、日中活動に参加する者は日中の 介助支援は使えない。自立に向けた体験的な自立生活支援施策が現状では欠如してい る。 第三 人材確保施策における基本的視点 一 障害者地域生活実現の鍵である人材確保  障害のある人の安定した地域生活ならびに医療機関等からの地域移行を実質化する ためには、[1]労働及び雇用・日中活動の場、[2]居住の場、[3]所得保障、[4]人的な支え、 [5]医療・保険の5つの分野が一定の水準で確保される必要があり、人的な支援体制の 確保は、その基幹である。人間と人間の触れ合い、パーソナルな支援こそが改革を成 功させるためのキーワードであり、そのため優良な「人材」の確保が地域生活の成立 条件である。 二 公的責任転嫁禁止原則の徹底  人と人の関係を基本とする人的支援策の遂行にあっては、障害福祉の「公的責任の 原則」を明確にする必要がある。「地域移行待ったなし」などの掛け声だけで、この国 で根強い家族責任観念から、親を中心とする家族に責任が転嫁される危険がある。成 人した障害者の生活まで家族が抱え込まざるを得ない現実の中で、「家族支援」も重要 な施策の柱である。 三 支援者の確保は地域における雇用創出であること  障害分野における本格的な人的な支援策を成功させるため、大幅な人員増が必要で ある。労働政策の観点からは雇用創出になり、一方的な財政負担ということではない。 社会福祉を志そうとする若者(学生を中心)に未来を拓き、雇用創出・失業改善に役 割を果たす。 四 重層的な人的支援への変革 ネットワーク化を重視し、人材を循環させる  地域相談支援センターもGHも、他機関との連携を求めている。地域支援の組織は 全て小規模であり人員にも限りがある。支援員、看護師、ケースワーカーなど必要に 応じてネットワークで本人支援を行う。一団体が一人の人生を引き受けることは不可 能であり、受け皿を複数用意しておくことが必要。地域生活構築のため、重層的なネ ットワークへの変革が必要であり、重視すべき視座は「当事者主体と当事者の権利保 障」である。 第四 報酬施策における基本的方針 一 契約制度、日割り制度導入に伴う弊害に注意しながら、個別給付制度の意義も 活かす  措置から契約制度への移行に伴い、措置委託費の丸投げから、一人ひとりの要支援 者への個別支援のための社会保障費の支払いの集積が報酬となる転換が図られた。  障害者自立支援法施行により露骨な給付抑制政策が導入され、大幅に報酬基準が切 り下げられ、障害福祉の質の低下がもたらされた。それらの弊害を解消する制度改革 が急務である。しかし、措置制度に戻ることが改革の方向性ではない。すなわち、一 人ひとりへの支援を意識した障害福祉の基本的あり方を基本としながら、支援の質の 低下、現場を委縮させない報酬施策が実施されることが、改革の方針である。 二 複雑な報酬制度のシンプル化  事業者にとっても乱数表のような複雑なシステムは不経済極まる。利用者にとって も、一般国民にとっても、わかりやすい簡潔でシンプルな制度にしなければならない。 三 利用者に不利益をもたらさない  利用者負担、地域間格差等により、利用者に不合理な負担、不利益を被らせること は障害福祉の理念に反することであり、あってはならない。 四 障害福祉に従事する者が誇り展望をもって仕事を継続出来る水準とすること  報酬の体系と金額は、現に障害者福祉に従事する者が誇りを持って仕事に取り組み、 その資質等の向上を図ることを促進するものであり、従事することを希望する者が、 労働条件等の雇用環境により、断念することがない水準であることが必須である。 五 福祉労働者が希望を感じる待遇改善    休暇の保障、海外研修・留学等の国際交流や他事業所との国内交流等職員のモチベ ーションを高める仕組み。 第五 総合福祉部会として、あるべきモデルの提言(長期計画)  政策提言 〜障害者地域自立支援体制 10か年計画〜 一 10か年計画 総論 「障害者地域自立支援体制10ヵ年計画」の策定の必要を提言 する。2013年より10ヵ年計画として策定し、施設の新規入所を減らし、地域生 活移行のための包括的且つ具体的なプランとして策定する  「どんなに重度の障害を持っても、地域で自分の望む生活が支援を受けて行えるこ と」 を実現するためには、「10ヶ年計画」を作り、各年度の達成目標を市町村レベルの積 み上げ数値目標を定めて行うべきである。  現状では知的、精神障害者、重症心身障害者等に必要な地域生活相談支援センター、 地域での緊急事態に備えたショートステイ、充分な医療ケアの場がほとんど存在しな い。地域での受け皿を当事者主体、当事者エンパワメントの視点に立って作り上げて いくことが、最短の道である。障がい者制度改革会議と総合福祉部会の意見を尊重し て、「10ヵ年計画」を当事者のニーズに基づいて、早急に作るべきである。 計画の特徴1 個人の真の選択を実現するシステム  従来の計画は、公平性、透明性の名のもとに、「最低保障」の観点から作られてきた。 今後は当事者の選択を実現する「地域自立生活支援システム」を構築するべきであ る。  計画の特徴2 当事者エンパワメントができる地域支援体制と人材育成  当事者のエンパワメントを図るためにはピアカウンセラーや相談支援が有効であり、 全市町村で保障するため、当事者の視点に立った支援専門家の育成が急務である。  精神保健福祉士、社会福祉士、介護福祉士、MSW(Medical Social Worker・医療 ソーシャルワーカー)、看護師、医師、ソーシャルワーカー、臨床心理士、OT(作業 療法士),PT(理学療法士)等の研修コースの中に、当事者エンパワメントの地域支 援方法、地域ケアサービスの現場実習、地域医療ケアの現場実習、地域自立生活支援 方法実践論、当事者主体の支援方法論、障害者の権利と福祉的支援論等の研修が必要 である。  また、これらの専門職のほとんどが、医療点数にカウントされない非常勤待遇に位 置づけられており、地域生活支援の実戦力となっていない現状に問題がある。医療費 の中からこれらの人件費を正規雇用ベースで支給すべきである。 二 10か年計画 各論その1 人材育成  ピアカウンセラーは重要であるが障害者人口は限られており、当事者が中心となっ て運営を担う包括的な地域生活支援体制づくりと、当事者主体の理念を研修などで確 実に身につけた障害のない専門職との「協働」が重要である。 (1)当事者組織の育成  現在の自立生活センターも知的・精神障害者の全国支援網とはなっていない。当事 者の育成とシステムづくりに資金を含めた公的支援が求められる。地域格差を生じさ せないために市町村ごとに、事務所運営資金、職員費用等の運営補助が必要である。 現在のリソースも活用しながら、特にピアカウンセリング、自立生活プログラム等の 実施が求められる。 (2) 当事者中心の視点にたった専門職の育成  例 【社会福祉士】 障害者自身の主体的な地域生活を支援する視点から今以上に現場実 習を取り入れる。入浴やトイレ介助などの生活を通して、頭ではなく身体で福祉を理 解し、対等な人間関係を作ることが求められる。介助体験の意義付けと、相談支援の スキル獲得の目的を意識した現場実習をバランスよくカリキュラムに盛り込み、障害 当事者を講師とするなど、「当事者主体」の視点に立つ支援者養成ヘと再編成する。  以上のほかにもPSW・特別支援教育専門員など、あらゆる専門職に対して、「当事 者主体」の視点に立った根本的な改革が求められる。 三 10か年計画 各論その2 「地域生活移行支援センター」の設置・整備 マンツーマンによる一貫した職員体制を保障したあらゆる障害者の地域生活移行の 整備  精神障害者や知的障害者にとっては、同じ職員がマンツーマンで関わり、信頼関係 が確立した中でこそ、安心して相談できる。担当員が徹底的に関わり、当事者性とニ ーズを十分に引き出すことが必要である。地域生活移行センターには、20名程度の 相談支援員を正規職員として配置する。三障害はもとより難病等を含むあらゆる障害 者を総合して、継続的な地域生活を支援するために、「地域生活移行センター」を核と して、24時間体制で相談に応じられる職員配置を確保する。当事者相談支援員を過 半数とし、ピアカウンセラーを必須の配置とする。また、運営委員の過半数は障害者 であることとし、当事者主導の体制を構築し、日常的な生活支援相談を必要とする者 を対象とする。  現在入所施設事業を実施している事業者の多くが、総合福祉法施行に伴い、地域生 活移行支援センター事業所に移行することが目標となる新事業体系が必要である。 第六 中期計画 その1 「報酬水準・報酬設定・報酬体系」について   新法の基本設計 (新法導入〜5年以内に実現すべき事項)  一[報酬水準について]=今回の改革で絶対に実現しなくてはならない目標  福祉人材の確保出来る報酬基準の設定=国家公務員と同等の年収水準  障害福祉報酬の総額が低すぎて、優れた理念を持ったリーダーも極めて低賃金な異 常な実態である。優れた人材を高い報酬で待遇するという当たり前の姿になるため、 国家公務員レベルの給与体系で末永く雇用できる制度構築をすることは改革の至上命 題である。  「10ヵ年福祉計画」で、毎年給与上昇率を提示し、OECD平均レベルの障害者 予算を組み立てながら給与水準を改善し、労働者の福祉産業離れを食い止めなければ ならない。 二[報酬水準の設定のありかた]  事業者が安定して事業経営し、従事者が安心して業務に専念出来る報酬水準  具体的には、従事者の給与レベルは国家公務員給料表の「福祉職俸給表」によ る給与支給を確保出来る水準とすることを総合福祉法において法定化する。  これにより、障害者福祉従事者の標準的給与水準が明確になり、異動の際にも、前 歴換算や評価が容易になる。共通の給料表に基づくことにより官民格差が是正できる。  福祉職給料表の導入と共に、「職員構成比想定」を設定するべき。俸給の適用級が低 いままで積算されれば、経験年数の長い従事者は継続が困難となり、若い従事者を「回 転」させる人事となり、利用者にとって、看過しがたい。従来、職員構成、特に「直 接処遇職員」に実態と乖離した低い級・号俸を想定していたことが問題である。それ では、ベテラン職員、中間層が薄くなり、長期ビジョンに基づく経営はできない。中 間層を手厚くした、「職員構成比想定」を導入し、支援の質の向上、働き続けられる職 場の実現、職員が将来像を描けるシステムとする。さらに、単純な経営のバランスシ ートで報酬水準を設定するのではなく、それぞれの職員が求める維持可能水準を考慮 して設定することが必要。 三 [報酬体系と加算制度のありかた]=「加算」抜きで安定経営出来る報酬体系  複雑な加算制度は根本的に見直し、複雑な「加算」の仕組みを駆使しなくても 基本報酬に現行の加算レベルを組み込む改変が必要である。  現在の報酬は報酬本体では経営維持が困難であり、加算により初めて維持出来る。  改革の基本制度設計は、「報酬本体だけ」で求める事業水準(指定基準に定められる 水準)を確保すべき。加算はあくまで、その標準的水準のオプションと位置づける。  加算に依存する報酬体系を見直し、本体のみで事業経営の維持を可能とするこ とが必要。  次に、報酬体系を入所施設系と在宅系に分けて検討する。 ア  入所施設型事業 報酬体系の見直し  施設(入所・通所)報酬は、規模別に設定されていが、人件費等一般管理費にスケ ールメリットが働くが、利用者の生活費には働かない。その見直しを図示したのが、  図1「入所施設系報酬本体の見直し」、図2「報酬本体と加算の見直し」である。  イ 在宅系事業 報酬体系の見直し   「通所・短期等(利用型)」と「在宅訪問型」の種別    在宅系は、施設維持のために固定経費が相当程度必要となる「通所・短期型」 と  訪問介護などの支援者が居宅や利用者と同行する等直接的なサービス提供に係 わる「在宅訪問型」に大別した報酬体系とする。 「通所・短期型」は、基本的には入所施設系報酬体系に準じて設定する。  一方、「在宅訪問型」は、事業運営報酬が主であることから、報酬を1系統にま とめる。 これを図示したのが図3 在宅訪問型事業報酬である。    ウ 採算線(レベル)の引き下げ  現行報酬額の採算レベルは、入所施設系で利用率(実利用者/利用定員)が90〜 95%にセットされており、収支を黒字にするために定員超過などで凌いでいる。  定員超過が恒常化すれば、支援水準が低下し、コンプライアンスと矛盾する。  こうした事態を改善するため、採算ラインを80%程度と設定する。  これにより、定員一杯となれば職員の加配やベテラン職員の確保が可能となり、事 業者にも利用者にも余裕が生じ、利用者の地域移行についての取り組みも可能となる。  経営を安定させ、ゆとりをもたせることで地域移行を促進する政策へ転換する。経 営者にインセンティブを与え、新たな事業展開への財源確保とモチベーションを高め る。 エ 「経営実態調査による報酬見直し」を廃止する  国は経営実態調査に基づき報酬改定を行っている。しかし、多くは報酬のみが収入 であり、報酬が減額されればその範囲で収支を合わせて黒字にするため、「見せかけ」 の「黒字」を根拠として報酬改訂されれば、報酬は際限なく引き下がる。福祉報酬は 社会保障費=ナショナルミニマムであり、自助努力の貯蓄を理由に水準を引き下げる ことは出来ないはず。 四 [報酬の支払い方法]    「日払いと月払い」の両論の止揚(発展的統一)  報酬の日額払か月払いか、障害福祉分野の健全な証しとして総括し、対立した関係 と捉えず、統合した視点を持ち、建設的な議論に発展させることが肝要。  障害福祉を実践する担い手が事業を維持出来ない状況は、結局、障害者の生活支援、 人権が安定的に保障されないことを意味し、その支障は障害者自身が被る結果となる。  障害者の幸福追求権が保障されるためには、障害のある人の支援(事業)を選択す る自由(権利)と障害関連事業における固定費(人件費を中心に)の安定的な確保と を両立させることが必要である。その際、次の三点に留意すべき。  一点目は、報酬の財政規模の増額が必要条件である。現行の支出水準を固定費相当 分とし、日額分が重ねられるイメージ。二点目は、契約制度は維持するとしても、市 町村が障害者の支援を保障する公的責任は明確化しておくこと。三点目は、利用者負 担の増加につながらないようにすること。「Aさんに就労支援が保障される」との支給 決定も「個別給付決定」であり、仮に本人負担があるとしても、公から個人への費用 徴収の問題とするべきで、利用者負担制度を廃止するか、少なくとも利用者負担と事 業所報酬が連動する、現行の「個別給付→代理受領」の方式自体を見直し、利用と負 担の連動性を断つべきである。    すなわち、個別給付制度を維持しながら、利用者負担請求業務の事業者負担も無く し、支給決定障害者の事業利用に対する事業所に対する報酬支払方式に変更するべき である。 1  利用者の選択権と事業所の安定を目指す新報酬体系  [1] 施設系事業      報酬を「利用者個別給付報酬」(利用者への個別支援に関する費用)と       「事業運営報酬」   (人件費・固定経費・一般管理費)に大別する。  概ね、前者が2割、後者が8割程度。  前者を原則日払いとする。  但し、利用率80%を上回れば全額支払い、それ以下の場合は、利用実績に応じた 日割り計算で事業所に支払われる。  後者を原則月払いとする。  すなわち、施設利用定員による月額を定額で支払う。  但し、施設全体の6ヶ月の平均利用率を次の6ヶ月間は掛けて月額を算出する。こ れにより、利用しなかった分は報酬減となるので、在宅給付との併給にも抵抗は少な い。  これを具体的に図示したのが後記別紙図4「定員30名の施設の場合」である。  ポイント 個々の利用者の利用状況に日割り(利用率)を導入するのではなく、施 設全体の 利用率で算定する。その適用は次の6ヶ月期に適用とする。  例外として、定員20名以下の場合は上記80%保障を90%とする。  これは、日割り論者が危惧する「事業所への定員保障」ではなく、むしろ、現実の 利用実績を斟酌する日割り制度に近い発想であり、日割り論者も認める現行の9割保 障に類似した現実案である。日割り論者の主張するメリットを活かしながら、月割り 論者の危惧する点もクリアし、止揚する案として、総合福祉部会の統一提言となるこ とを期待したい。 [2] 在宅系事業  図3の在宅系報酬を前提として、日割り報酬とする。 2 障害程度区分との報酬との連動を断ち切る    障害程度区分は別チーム担当だがいずれにせよ程度区分と報酬の連動は廃止される べき。 第七 中期計画その2 「人材育成」について  (新法導入〜5年以内に実現すべき事項)  1 OJT(ON The Job Training・現場体験をしながらの職業訓練)を重 視し、「資格」保有は決して支援のために本質的なものではなく、支援の質の最低 基準の保障と支援者の社会的評価、モチベーション維持等のための副次的な位置 づけとする研修システム  人材育成の中期計画としてもOJT重視の研修システムを基本とするべき。可能な 限り間口を広く取り、多くの人材の中から適した人材を探り当てる作業が不可欠。継 続的な関係性の中での人間関係が基礎にあり支援が成り立つ。正規雇用関係の中で長 期にわたって関係性を持てることが信頼関係を障害者と作り上げる基本である。 2 ピアカウンセラー、当事者委員登用率の法定化  当事者の気持ちにもっとも寄り添えるのは同じ障害をもつ当事者である。障害当事 者を出来る限り相談支援研修に受講させ、優先的に相談支援に雇用し、障害福祉計画 等の政策立案過程、自立支援協議会等において知的や精神障害者の委員登用率を法的 義務化する。 第八 直ちに(旧法=障害者自立支援法でも、新法施行と同時に)緊急に修復、対応 するべき、しなければならない事項(短期的課題) 1 常勤換算方式の廃止 2 併給を認めるシステム 入所、通所、在宅など体系ごとの併給の禁止を廃止し、居 住の場の確保と地域生活支援の個別介助の併給を認めるべき。  3 知的、精神の方へのパーソナルな支援 知的・精神障害者にとって、個別の介助 支援だけでは地域生活は維持できない。相談支援や見守り付き添いが必要だが、唯一 の現行制度の重度訪問介護も対象外である。当面は、その制度の適用対象の拡大と、 マンツーマンでの相談支援体制を構築することが急務。 4 体験的自立生活体験室と介助支援   親亡き後に施設に入らなくてすむように若いうちから、障害者の親元を離れての自立 生活体験の場を作ることが、将来の自立生活にむけての準備期間として欠かせない。そ のための場を相談支援事業所、通所作業所、短期ショートステイ、などに併設する形で 設置した場合に家賃補助、職員体制、運営経費を支給し、あわせて居宅介助サービスを 親元にいても自立生活体験のために使えるようなシステムをつくる。            以上