総合福祉部会 第15回 H23.6.23 参考資料4   山本委員提出資料 ※この原稿は、桐原尚之, (2011).「任意入院患者の退院に病院が反対した事例」 病院・地域精神医学53巻3号(2010):pp95-99の基となった原稿です。日本病院・地域精 神医学会および著者桐原尚之氏より掲載許可を得ております 表   題  任意入院患者の退院に病院が反対した事例 著 者 名  桐原尚之 職   種  無職 所属機関名  全国「精神病」者集団        NPO法人青森ヒューマンライトリカバリー 所属機関名  Japan National Group of Mental Disabled People        Non profit Organization Aomori Human rights Recovery 抄録  筆者は、青森県の精神科病院(Z病院)に入院するAさんから要請をうけて、2008年 7月30日から2009年3月27日にかけて、退院のための援助活動を行なった。  Aさんは任意入院者であり、退院の申出を行えば72時間を越えて退院を制限されるこ とはない。しかし、Z病院は、Aさんの退院及び外出を不当に制限した。また、医師は外出 に際して不当な条件を付し、病院の精神保健福祉士及び臨床心理士は、犯罪をおかす可能性 のある精神障害者の退院は認められないなどとして、積極的に退院制限を望んできた。筆者 は、Z病院の実態を、実践のなかで目の当たりにした。  本稿は、実践記録や手紙を基に、Z病院の実態を事例として紹介する。 (和)keyword:退院制限,患者の管理,社会的入院,法の恣意的解釈 (英)keyword:Limit of the discharge, Hospital of the Egyptian bondage, Social hospitalization, Wrong interpretation of the law 1.事例の概要  筆者は、入院患者からの退院希望を受けて、退院に向けた救援活動(以下、援助)を行っ ている。援助活動の具体的な内容は、[1]退院等の請求及び処遇改善請求にかかる援助、[2]賃 貸借物件の情報提供及び不動産会社への同行、[3]生活保護申請等に係る支援、[4]障害福祉サ ービス事業及び地域生活支援事業の利用に係る支援、D強制入院の場合は、診察室に同席し 保護者及び主治医・管理者(精神保健指定医)に退院に向けた説得の五つを主に行っている。 これらは全て、患者からの依頼に応じて行っており、契約書を交わして開始することにして いる。  筆者は、Aさん(30代、女性)から要請をうけて、援助活動を行った。Aさんは、家族 関係の悪化により、保護者の同意で医療保護入院となり、2004年4月10日に入院して から、2009年3月27日まで数回の短期退院があったものの、合計で4年5ヶ月の入院 をしている。2008年8月までは医療保護入院であったが、その後、任意入院に切り替わ った。Aさんは、Z病院に入院しており、主治医は、精神保健指定医のB医師である。Z病 院には、精神保健福祉士が配属されており、C精神保健福祉士がAさんの担当である。  事例は、当該援助活動中の記録をまとめたもので、Aさんからの手紙も含まれている。 2.事例  2008年7月30日、筆者はAさんがZ病院に入院していることを知り、Z病院に入院 するAさんに面会に行った。Z病院は、すべての病棟が閉鎖病棟である。  Aさんは、2004年4月10日に入院してから今日まで、途中数回の退院を除けば、合 計で4年入院していたという。会話の中でAさんから「退院したい」ということを数回にわ たって聞かされた。Aさんから8月26日付筆者宛の手紙が届き、Aさんが7月頃にX県に 退院等請求をしていたことがわかる。  精神保健福祉センターから退院請求の結果が来て、退院は認められないって。市役所 からも引っ越し費用は出せないって言われたし。とうとう逃げ道を断たれました。ここ 3日、ショックでベッドから起き上がれず。ついに私は廃人です。(中略)精神病院が昔 の様な閉鎖的で陰うつなところぢゃないなんて言っているのはどこのこと。少なくとも、 ここは違う。一旦入れられたら最後、分(原文ママ)の分からない病名を宛がわれて、 すぐ複数の薬を出され、だんだん薬漬けにされてしまう。外との繋がりも断たれ、親か らも見放され、友達も去り、天涯孤独の心境にさせられる。(中略)入院の必要性は無か ったんじゃないのか。今だって、ただ閉じ込められてるだけでは治るとは思えない。院 長が言う通り、50年から60年かかって、しかも自力で治すしかない病気って、為々 (原文ママ)入院の必要性があるのか疑問。(以下略)  筆者は、9月10日にZ病院へAさんの面会に行き、退院援助活動(契約)の話しをも ちかけた。すると、Aさんは、早速でも契約を交わしたいと話した。幸い、Aさんは9月1 0日の時点で任意入院者であったため、退院の意思表示の後に、住居を確保すれば直ぐにで も退院できる状態であった。また、Aさんは既に生活保護を受けているため、変更の書類だ けで生活に必要な資金を得ることも可能であった。  10月1日、筆者は契約書類を持って、Aさんの面会のためZ病院に行った。10月2 9日には、物件情報を持って、Aさんの面会のためZ病院に行った。Aさんに、青森市の市 街地に位置する、家賃が三万円前後の物件12件を紹介した。そのときは、たまたま、Z病 院に勤務するD看護師がAさんと同席していた。D看護師は、契約書と物件情報を見るなり、 筆者に話しかけてきた。そして、Aさんに対して、主治医に契約書類を見せるように促した。  10月30日、Z病院のC精神保健福祉士から筆者に電話があり、病院に来るように言 われた。そのため、11月5日にZ病院へ行った。筆者は、C精神保健福祉士ともう一人の 従業員に、面会室らしき部屋に連れていかれた。そこには、Aさんもいた。早速、C精神保 健福祉士が怒り口調で質問を始めた。 C 「誰に許可を得てAさんと退院援助の契約したのですか。」 筆 「Aさんと双方の合意に基づいて契約しました。」 C 「病院の方で責任をもって退院させるのでいいです。」 筆 「それは、Aさんご本人が決めることなので、あなたが言うべきことではありません。 また、私たちは、契約しておりますので、支援を行う債務があります。これを契約の外部者 の意思で放棄することはできません。」 C 「どこのだれかもわからない人が、急にそんなこと言ってきても困ります。」 筆 「これはAさんと私の契約なので、病院がどこの誰かをわかっておく必要性はないと思 います。知りたいならば、Aさんから聞くこともできたと思います。また、私たちでお答え できることはすべてお答え致します。」 C 「そういうのは、予め、契約する前に挨拶をして行うべきです。」 筆 「私はそうは思いませんけど。まぁ、挨拶してほしいなら、今からでも挨拶してもいい ですよ。」 C 「そうでなくて、文書できちんとお願いします。」  おそらく、C精神保健福祉士は、病院にいる患者は病院が管理しているため、患者への コンタクトは、すべて病院が知る必要があると言いたいのだろう。  Aさんから11月5日付筆者宛の手紙が届き、病院がグループホーム入居を前提に退院 を進めていることを知った。11月10日、Aさんの面会でZ病院に行き、その話しになっ た。話によれば、Aさんは主治医から「グループホームなら退院できる」と言われたが、可 能であればアパートに住みたいとのことであった。筆者は、サービスや生活様式まで病院が 口を出すことではないことと、アパートに住みながら介護を利用できることをということを 説明した。  11月11日、C精神保健福祉士から筆者に電話があり、内容としては、Aさんがグルー プホームではなく、退院してすぐにアパートに入居したいと言い出して困っているといった ものであった。11月13日、筆者は、Aさんの依頼に基づき、Z病院のC精神保健福祉士 に生活様式に及んだ介入をしてはならない旨の説明をしにいった。しかし、C精神保健福祉 士は、「病院は病院でAさんの退院に向けた援助を行う。桐原さんは桐原さんでやればいい。 病院には、桐原さんのほうから挨拶がないので協力関係はないから、一緒に退院援助はでき ない。」と言い出し、「なんの支援もないアパートに入れるなど責任がもてない」とも言って きた。筆者は、Aさんの望む結果を実現するようO精神保健福祉士に働きかけたが、O精神 保健福祉士は、自分達のプランや専門性に固執していた。なので、筆者は、挨拶をしないか ら協力しないということ、Aさんの要望を無視していること、アパートでも介護を受けられ ることと共同生活援助の支援の方が時として手薄であること、病院にいる患者の契約行為は 病院に管理・拘束される必要がないことを説明した。  それでも、O精神保健福祉士は、Aさんをグループホームの見学に連れて行ったらしい。 11月27日、Aさんから筆者宛に手紙が届き、そこには、 26日にグループホーム見学に行ってきました。部屋は二人でくらすにはせまそうだな と思いました。それに私、少し潔ぺき症な所があるので、相手の人が乱雑な人だと、気 になってがまんできなそうと思いました。だけど親や生活保護課職員は一人暮らしみと めてくれないし、他に行けそうな所もないし、がまんしてグループホームにいった方が いいかなと悩んでいます。(中略)まさか、わざわざどこどこに行きますって言って出な きゃなんないの?やだなぁ・・・でも仕方ないのかな。(中略)はっきりいって、本当は グループホーム行きたくないよ。でも、そこしか行けそうな所もないし、親は納得しな いし。行ってみてだめなら、また病院に戻されるのかな。 と書かれていた。筆者は、病院がAさんにグループホームの利用を強要しているのではない かと思った。また、一部屋に二人で暮らさせているグループホームに問題も感じた。一方で、 11月28日、Z病院のC精神保健福祉士から筆者に電話があり、12月19日にAさんの 主治医であるB医師とあって欲しいと話される。12月19日、筆者は、Z病院に行き、B 医師にあった。 B 「今日はどういった用事ですか。」 筆 「Cさんから、B医師に会うように言われたので、きました。」 B 「Cさん。そうなの?」 C 「はい。そうです。」 B 「まぁ、話すこともないんだけど、Aさんが退院したいって言い出しているのは知って います。だけどね、いま、退院できる状況じゃないと思うんだけど、君はどう思う?」 筆 「私は医者じゃないので、他者の心身について意見を述べませんが、任意入院の患者が 退院したいと意思表示したら、原則として退院させなければならないわけですから、退院は できるはずです。」 B 「なるほどね。私はグループホームでなければ、退院は認めないつもりだが、あなたは 違うんでしょ。普通のアパートでは支援を受けられないから、退院して直ぐであるなら、グ ループホームの方が安全ではないですか。」 筆 「いえ。居宅でヘルパーの利用もできるので支援は受けられます。それに、グループホ ームの方が、本来的には“地域において共同生活を営むのに支障のない障害者”という限定 的な表現が用いられているし、青森市のパンフレットには、就労支援を受けているか、就労 しているものがグループホームを利用することを想定しています。なので、退院してグルー プホームでなければならない根拠にはなりません。それに、住宅様式はAさんが決めること だと思います。」 B 「でもね。ヘルパーを利用しすぎて、何にも自分で家事をやらなくなったらどうするの。」 筆 「仮にそうなったとしても、それがどう問題かがわからないのですが、とりあえず、そ れはあり得ないと思います。」 B 「どうして?」 筆 「どうしてもこうしても、普通に考えて、あり得ないからです。仮にそうなったとして も、先生がなにに問題を感じているかが解りません。」 B 「あなたは問題を感じないの? ならさ、生活保護を受給して、一日でパチンコで金を 使い果たす人もいるんだよ。性格障害というのは、性格の障害なわけであって、その人の性 格がそうさせているわけだから、治療しなければなんないんです。」 筆 「私は疾病に関する専門家ではないので人格障害についてはよく解りませんが、それと は別に、本人の生活権があるわけであって。」 B 「だからね。(声を荒げる)あなたが言っていることは、全部本人の好きにさせてしま えと言っているように聞こえるんだけど。」 筆 「はい。原則として本人が決めるべきことは本人に決める権利がありますので。」 B 「じゃあ、借金をしたらどうするんだ。性格障害の人には、そういう人もいるんだ。」 筆 「借金をしても、返えせばいいわけですよね。」 B 「返さない人もいるんだ。それが数千万単位で借金して返さないんなら、問題あるでし ょう。」 筆 「返済能力がないなら自己破産すればいいと思いますが。」 B 「一度、自己破産してしまったら、二度はできないでしょう。(大声で声を荒げる)」 筆 「7年くらい間置けばできます。」 B 「借りても返さないで自己破産を繰り返して、そんなのが許されるはずないだろ(大声 で声を荒げる)」 筆 「許されるもなにも、民事ですからね。双方の合意ですよ。貸す側にも責任はあります。 借金をして返さない自由もあるし、自己破産する自由もあると思いますよ。」 B 「あなたは自由という言葉を完全に穿違えている!!自由とは好き勝手にやることじゃ ない!不自由があって自由があるんだ!!ヨーロッパのFreeを、日本人は勘違いしている 人が多いけど、自由というのは、本来そういう意味ではなくて、自由に対して責任を負うと いうことだ!!(大声で怒鳴る)」 筆 「すみません。じゃあ、借金をする人は全員、精神科病院に入院しなければならないん ですか。」 B 「そういうわけではないですが。」 筆 「じゃあ、いいじゃないですか。それと、僕が思うに自由権規約に書かれていることが、 基本的自由だと思いますけどね。」 B 「それは知らないけど。」 C 「それで結局、退院の件は、どうしますか。」 B 「本人が退院するって言っているわけだから、仕方ないでしょ。」  結局のところ、退院はすることになったらしい。  1月22日、筆者はAさんの面会のためZ病院へ行った。その日は、Aさんと一緒に、 D看護師に外出をしたい旨を伝えた。D看護師は、「はい。多分、大丈夫だと思いますので、 確認しますね。」と返事をしたが、しばらくして、「親との同行が外出の条件だそうです」と 言ってきた。抗議はしたが、D看護師も、「医者じゃないから、私からはなんとも・・・」 と説明していたので、B医師の判断であることが理解できた。その後、B医師は一貫して、 退院には親の同意が必要との立場をとってきた。  1月25日、C精神保健福祉士から筆者に電話があった。内容は、病院はグループホーム 以外の退院は認められないので、退院に当たって親を説得しろというものであった。Aさん も、親の説得を望んだため、筆者は親を説得することになった。  1月26日、筆者はZ病院に10時30分ごろに到着した。既にAさんの母親はZ病院に 到着しており、後から聞くとAさんとAさんの母親は喧嘩を始めていたという。そしてAさ んは、母親の説得を諦めたのであった。Aさんの退院は、親の納得とは無関係で行うことと なり、早速、日にちを決めて、不動産会社と生活保護課に同行することにした。Aさんは、 主治医に外出許可書を出しに行った。ところが、今度は、外出許可がでないという話になっ た。B医師がやってきて、 B 「外出は、親が一緒じゃないとできないことになっているし。そもそも、外出は主治医 の許可必要なんです。私が許可を出さないと外出はできません。」 筆 「そんなことはないでしょう。原則開放処遇でしょう。」 B 「それは、病院が決めることで」 筆 「病院以前に法律があります。」 B 「病院と法律は関係ない。それでも、私は、外出を禁じているわけではないんだ。朝の 6時におきて、昼寝しない状態を1週間続ければ、外出を認めようと思っている。退院も無 期ではない。」  Z病院は、原則として外出を認めず、許可が出た者のみを外出可能としている。これは 問題であるとAさんに伝えたが、Aさんは、B医師の条件を受け入れることを選んだ。  2月9日、AさんはB医師の出したノルマを達成し、外出をすることになった。不動産会 社に行き説明を受け、生活保護課に行き説明を受け、障害者支援課に福祉乗車証の発行申請 をした。帰りに、Aさんの依頼で、Aさんの実家(自宅)に行き、Aさんの通帳と印鑑をと りに行った。すると、Aさんの姉があらわれ、ものすごい剣幕で怒鳴りだした。どうも、家 族はAさんの外出を認めていないという主張であった。  2月12日、Z病院のC精神保健福祉士から筆者に電話があり、2月19日にZ病院に 来るように言われた。2月19日、Z病院に行くと、入り口には、既に3人の従業員が待ち 構えていた。C精神保健福祉士と、看護師のDさん、それから、E臨床心理士である。筆者 は、応接室に連れて行かれた。 C 「親から連絡がありました。病院を訴えるといっていますが、どう責任を取ってくれる のですか。」 筆 「私たちは責任を取れません。」 C 「訴訟になったらどうするんですか。」 筆 「別に訴訟になってもいいじゃないですか。訴訟は権利です。第一、負けることはない と思いますよ。」 C 「訴訟になったら困ります。」 E 「訴訟になること自体が問題なんですよ。」 筆 「別に刑事訴訟じゃないんだから。民事ですよ。訴訟の自由はあるわけで、善悪にかか わらず、訴訟されることはあるわけです。」 D 「いえ。桐原さんが言っていることは正しいのですが、みんなが皆、訴訟は権利と思い ません。単純に、訴えられた病院と思われるわけで、そうなるとイメージダウンになり兼ね ないのです。だから、訴訟を起こされたくないのがこちらの本音なのです。」 筆 「じゃあ、訴訟しませんと書いた覚書に印鑑を押してもらえばいいと思いますよ。」 D 「ああ、なるほど。それは解りました。それで、保護者との関係が悪化しているんです が、アパートに住むとなれば保証人が必要でしょう。それは、保護者じゃないとできないと 思うんですけど、大丈夫なんですか。」 筆 「賃貸借契約の連帯保証人は、親である必要はありません。また、債務保証制度もある ので、あえて探した保証人を立てる必要もないと思います。」 E 「そういうこと具体的に進めていくのはいいですが、いきなりアパートに入居して、例 えば、犯罪をおかしたら病院の責任になるんですけど、そうならない保障はあるんですか。」 筆 「言ってる意味がわからないのですが、退院した患者が犯罪をおかしたら責任って、ど ういう責任ですか。」 E 「だから、病院の名前がテレビや新聞に出たりとか。」 筆 「それは考えられませんね。何故なら、犯罪をした本人が刑事責任を負うわけですから、 病院は関係ありません。」 E 「でも、こちらには責任があります。」 筆 「いや、ありませんから。」 E 「いえ、責任がありますでしょ。」 筆 「すみません。あなた、先ほどから責任と仰っているけども、なんの責任ですか、具体 的に教えてくださいますか。」 E 「病院には、管理責任があるでしょう。」 筆 「なんですかそれ。そんなものはありません。」 E 「病院は、患者さんを管理しなきゃいけないんです。」 筆 「たとえ、管理責任があるとすれば、従業者に対する使用者責任とか、いや、監督責任 なのかな、いずれにせよ、管理責任なんてものはないですね。」 C 「実際に病院に親から電話で苦情が来ているわけですよ。その責任をどう取ってくれる かってことです。」 E 「そう、つまり、説明責任です。」 筆 「苦情処理は責任ではなく、義務だと思いますよ。仮に営業に差し支えるような苦情が 殺到しているならば、営業妨害で告訴すればいいわけですよ。それから、説明責任は、親で はなく、患者に対して管理者が説明する責任でしょう。ましてや、管理責任なんて患者はモ ノでありません。あなた方の責任は、第一に、債務履行責任、つまり、Aさんの要望する医 療を実現することでしょう。患者を管理しようとか考えているなら、それは問題ですよ。」 E 「こちらとしては、患者が退院した後に犯罪をおかさなければ、それでいいのです。そ れを、そちらで100%保障してくれるんですか。」 筆 「多分、犯罪はしないと思うけども、100%保障なんてできません。」 C 「それじゃあ、困るんです。(声を荒立てる)」 筆 「いや、困られても困ります。そもそも、100%なんてものがありえないわけですし。」 E 「だから、それじゃあ困るんです。」 筆 「いや、100%犯罪をしないなんてありえないでしょ。あなた方だって、100%犯 罪をしないなんて無理なはずです。第一、法定時間を過ぎた退院制限は違法ですよ。まず、 自分のことを考えてください。それに、犯罪をしたら刑事責任を負う、それだけのことじゃ ないですか。」 E 「それじゃ、退院は認められないですね。」 筆 「失礼ですが、あなたは指定医ですか。」 E 「いいえ、違います。」 筆 「なんで、指定医じゃない人間が退院制限してるんですか。違法じゃないですか。仮に 指定医だとしても、72時間しか、退院を延ばすことはできません。任意入院患者が退院を 申出たら、退院させなければならないんですよ。あなたは、患者のことをとやかく言える立 場じゃないでしょ。」 D 「確かに、桐原さんの言う通りで、退院させなければならないことになっています。私 も桐原さんに言われて、先日勉強し直しました。我々も知らないことが沢山あるので、そこ は協力してやっていきたいです。しかし、私たちとしては、グループホームに移行、退院と いう形をとれば、親子関係も悪化せずに、より早く退院できたと思いますが、それができな くなったのは桐原さんたちの働きかけがあったからだと思います。」 筆 「働きかけていません。あくまで、Aさんの依頼です。」 D 「その依頼も、桐原さんたちがいなければ、なかったわけですから、そういう意味では、 働きかけがあったと思っています。」  結局のところ、三名の従業員の話しの趣旨は見えず、差別発言だけが目立った。その後の Aさんとの話し合いで、Aさんは、生活保護に合わせて、3月5日に賃貸借契約を行うこと を決定した。3月5日、Aさんと私は、不動産会社に行き、賃貸借契約を行った。生活保護 課に行き、住所変更と引っ越し費用についての説明を受けた。3月27日、Aさんの退院が 決定し、同時に、引越をした。それにあわせて生活保護の移転も終わった。 4.事例の意味  当該事例は、[1]Aさんの援助記録を基に、Z病院が退院を希望する患者(Aさん)の退 院を制限していること、[2]患者(Aさん)を管理するものと捉えた発言がされたこと、 [3]第三者に対して排他的であり攻撃的であったことを、事例を通じて明らかにした。 (参考文献) 権利主張センター中野,(2010).アドボケイト養成カリキュラム.東京 中村繭み,(2010).あなたはこんな処遇を望みますか―精神科入院体験記. 部落解放625, pp12-20. 吉田おさみ, (1983). 「精神障害者」の解放と連帯. 新泉社. 東京