総合福祉部会 第12回 H23.2.15 参考資料3 山本委員提出資料 医療観察法施行5年後国会報告に関する緊急抗議声明 衆議院議長 横路孝弘 殿 参議院議長 西岡武夫 殿 法務大臣 仙谷由人 殿 厚生労働省大臣 細川律夫 殿 内閣府特命担当大臣 岡崎トミ子 殿    2010年11月30日  11月26日、政府は、法務省・厚生労働省より提出された心神喪失等医療 観察法の5年間の施行状況に関する国会報告を了承する閣議決定を行いました。 この5年間、医療観察法は、指定医療機関の設置が計画通り進まない、対象者 17人を自殺に追い込むなど、さまざまな問題を明らかにしてきました。  少なくとも、国会報告は、このような実態を解消するための原因究明を行う べきです。しかし、今回の国会報告と称する閣議決定には、こうしたことの検 証はおろか、基本的実数と、条文だけで構成されたものです。これでは、事態 を放任し、自殺者を次々と出す結果を招くことに他なりません。  我々は、管民主党政権の医療観察法に向き合わない姿勢を批判するとともに、 国会報告と称する閣議決定に対して、強く抗議します。 全国「精神病」者集団                           〒164-0011                      東京都中野区中央2―39―3絆社気付                         tel 03-5330-4170/fax 03-3577-1680                         (留守電の場合は以下携帯へ)                      電話 080-1036-3685                       (土日を除く14時から17時まで)                                 以 上   ------------------------------------------------------------------------------ 【新聞記事抜粋】 施行5年揺れる医療観察法 内省促す手法「逆効果では」 手厚い医療が逆に、事件を起こした精神障害者を自殺に追い込んでいないか―。昨年7月末までに心神喪失者等医療観察法の処遇下にあった計1402人のうち、計17人が自殺していたことが分かった。昨年11月に国会に提出された政府報告には自殺者の統計、原因は記されていない。同法に基づく指定医療機関の設置も遅れ、鑑定入院中の人権も問題視されている。法の見なおし時期を迎え、厳しい検証が求められている(田原牧) 政府報告書写真  (昨年11月に国会に提出された心神喪失者等医療観察法施行開始から5年間の運用状況をまとめた政府の報告書) 高い自殺率「事件起こしたから」は誤り  殺人、傷害事件などを起こし、心神喪失などで不起訴処分や無罪になった精神障害者に対し、審判を経て入院や通院を命じられる医療観察法。  統計上は、精神障害者が重大な刑事事件を起こしたり、再犯する確率は健常者より少ないが、二〇〇一年に児童八人が殺害された大阪・池田小事件後の「精神障害者を野放しにするな」という世論を背景に、〇三年に与党が採決を強行した。  昨年十一月下旬、同法を運用する厚生労働省、法務省は施行開始から昨年七月までの五年間の状況を国会に報告した。  この報告によると、同法に基づく検察官の申立総数は干八百六十件。うち審判後の入院決定者数は千七十八人、通院決定者数は三百二十四人、入院から通院に移行した人は四百七十五人だった。  報告の各項目の人数を照らし合わせると、現在の処遇が不明な数十入が浮かび、医療関係者や国会議員らの協力を得て調べると、入院中に三入、通院中に十四人の計十七人が自殺していたことが分かった。また、入院中に一人が病死していた。  入院者と通院者を合わせた処遇者総数と比較すると、自殺率は1・2%。この数字について、半世紀にわたり臨床に携わり、「日本精神科医療史」の著書もある岡田靖雄医師は「現在勤めるクリニックで約三千人の一般通院患者を診てきたが、自殺者は五入。医療観察法下の通院者は、この約十倍の割合で自殺している。尋常な数字ではない」ど評価する。  刑事精神鑑定の経験があり、「犯罪と司法精神医学」の著書がある中島直医師は「比較するデータが乏しく、自殺率の比較は難しい。ただ、一般の入院、通院者らに比べれば、高い率という印象がある」と語る。  岡田医師は推測できる原因として、医療観察法の「内省プログラム」を挙げる。「これは事件を犯した患者さんを、事件現場に連れて行くなどして内省を深めさせるという内容。 しかし、多くの患者さんは病状が重かった時期は思い出せないか、記憶から捨てて回復. していく。内省プログラムはかさぶたを引きはがすようなもの。自殺を誘発させかねない」  中島医師は「『事件を起こした人だから、自殺率は高くて当然』という見方は誤り。全治数日の傷害事件でこの法律の対象になった人も多く、逆に一般患者で重大な事件を起こした人もいる。この数字は破格の人手をつけ、手厚いとされる医療観察法病棟でも『水も漏らさぬ』とはいかない現実を示している。障害の多様性に対応できる地域の医療、支援の充実こそが求められる」と語る。 指定病院が不足 担当医コロコロ 身体拘束規定なし 見直し時期「徹底検証を」 写真(街頭で心神喪失者等医療観察法の廃止を訴えて、チラシを配る障害者団体などのメンバーたち昨年11月 東京・有楽町で(森彪さん提供) 自殺者の存在に加え、医療観察法が抱える問題点は少なくない。  その一つは指定医療機関の不足だ。同法は国の定める指定医療機関での「高度な治療」 の提供を前提としてきた。当初、全国で七百二十床程度を確保するとしていたが、施設建設予定地の周辺住民の反対などで、施行五年を過ぎた昨年九月末時点でも、五百九十九床と目標に達していない。  困惑した厚労省は○八年八月に「指定医療機関の医師が支障がないと判断すれば、一般の民閻病院での治療も認める」との省令を出すなど、設備条件の緩和で対応した.。だが、緩和は当初の充実した設備という理念にはそぐわない。  留置施設などと違い、鑑定入院中の隔離や身体拘束に法規定がない点も問題視されている、関西で一昨年、鑑定入院した人は隔離室で繰り返し身体拘束された。訴えを受けた兵庫県弁護士会は昨年十月、「入院中の人への身体拘束、行動制限についての規定の新設」を厚労相に勧告した。  通常二カ月以上に及ぶ鑑定入院中、必要な治療が受けられない問題に加え、指定医療機関への入院と通院、その後の一般病院への入院または通院と、そのつど担当医を変更せざるを得ない仕組みについても「治療の連続性に反する」という批判は根強い。  医療観察法施行前からある精神保健福祉法では、都道府県知事や政令市長の命令による「措置入院」、保護者の同意による「.医療保護入院」が認められている。重大な刑事事件を起こした精神障害者の多くは「野放し」ではなく、事実上、強制入院されてきた。  障害者の人権に詳しい池原毅和弁護士は「医療観察法の処遇を終えた人のうち、約四分の一が再び精神保健福祉法上の入院をしている。通院者も加えれば、四分の三に上る。精神保健福祉法に医療観察法を加えた意義がどこにあるのか、理解しがたい」と指摘する..  「社会復帰を目指す」という法律の目的についても、池原弁護士は「退院後の通院も、 遠方にある指定医療機関に通わねばならず、生活圏のグループホーム(専門スタッフの援助を受けつつ、自立を目指す少人数での共同生活)などに入れない例が多い。地域での生活再建という流れを妨げている」と批判する。    地域医療の充実進まず    日本の精神科入院患者は三十二万人と人口比で世界一だ。世界的には入院より地域生活での治癒が主流の考えだが、日本では社会に受け皿がなく退院できない「社会的入院」を続ける患者数が七万人以上とされる。  当事者団体「全国『精神病』者集団」の山本真理事務局長は、「政府は『医療観察法と一般精神医療の底上げは車の両輪』としていたが、後者は依然として貧弱。新年度の厚労省予算案でも、医療観察法の二百八億円に対し、社会的入院の解消には、前年度比約十億円減の六億七千万円が計上されただけだ」と憤る。 政府報告は数字の羅列  昨年十二月、政府の有識者会議「障がい者制度改革推進会議」が提出した「.改革推進のための第二次意見」には、「医療観察法については、その廃止を含め抜本的に見直し」との文言があった。  山本さんは「政府の出した施行状況の報告は、基本的な数字だけで検証を欠いている。 民主党は野党時代には医療観察法の導入に批判的だった.。国会でも施行五年後の見直し時期を迎えて、自殺の原因究明をはじめ、徹底的な制度の検証が必要だ」と訴えている。 デスクメモ  記事のように罪を犯した人の更生問題はよく取り上げられるが、被害者やその家族、加害者家族らの「その後」はどうか。悲しみや怒り、絶望…、言葉にできないほど苦しんでいるに違いない。事件を契機に、仕事も家庭も人間関係も一変する人たちを、私たちは十分に支えていると言えるだろうか。(立)              医療観察法下 高い自殺率 5年で17人   殺人や傷害事件などを起こし、心神喪失などで不起訴処分や無罪になった場合に適用される「医療観察法」で入院、通院の処遇を受けた人は二〇〇五年七月の法施行から五年間で千四百二人に上り、うち十七人が自殺していたことが分かった。複数の精神科臨床医は「一般通院者らに比べ、高い自殺率」と指摘。 「専門的な医療」を施すという法の趣旨が問われそうだ。    医療観察法は、重大な刑事事件(未遂も含む)を起こした精神障害者に対し、国の定める指定医療機関での「社会復帰を目的とした手厚く専門的な医療」の提供を定めている。 しかし、法案段階から日本精神神経学会や障害者団体から「再犯予防をうたった拘禁」との批判が出ていた。   同法の付則に施行五年後の見直しがあり、政府は昨年十一月、施行状況を国会報告。 報告に自殺者数は明記されていないが、医療関係者や国会議員らへの取材で、昨年七月末までに入院者三人、通院者十四人が自殺していたことが分かった。   一年前に精神保健指定医の研修会で発表された資料によると、同法で入院中の自殺未遂件数は既遂の約十倍という指摘もあった。   全処遇者の1%を超える自殺者数について、法務省保護局の担当者は「事件後という特殊な状況で、一般精神障害者の自殺とは比較できない」と話す。   だが、精神科医療史研究会の世話人を務める岡田靖雄医師は「高い自殺率」と評した上で、「事件当時を無理に振り返らせる治療法などに重大な欠陥があるのでは」と詳しい検証を求めている。      (東京新聞2011年1月22日朝刊より)