平成29年度第2回産業労働事情懇談会議事概要 日時: 平成30年3月9日(金)14:00〜16:00 テーマ: 働き方の多様化に対応した人材育成への取組と課題 招聘企業(業種) 情報通信業 <企業概要、働き方の多様化に対応した人材育成への取組> ○ 1997年設立。2008年より社員と経営陣が一体となってアイデアを出し合う人事施策プロジェクト  を運営している。 ○ 「働きがい」や「モチベーションの高さ」に関する企業ランキングで、連続して上位に選出され  ている。 ○ 若い社員を中心に新規事業をどんどん提案している。2025年までに子会社を100社、海外に関し  ても2025年に100か国展開することを目標にしている。 ○ 人材育成については、全社員が半年に1回キャリアデザインシートを記入することにより「内発  的動議付け(内発的欲求)」を明確にし、それに対して会社は様々な「挑戦機会」を提供している。 ○ 社内大学では、「必須プログラム」以外に「選択プログラム」や「選抜プログラム」がある。  「選択プログラム」では、社員が自ら講師となり、職種や部門を越え、知識や経験を教え合い学び  合う講座が年間約50講座ほど開設され、すべての社員が自由に受講している。「選抜プログラム」  では、リーダーシップの育成開発を目的とした海外研修や、普段の業務をやりながら社内で抱えて  いる課題にプロジェクトリーダーとして取り組む1年間の研修プログラムがある。 ○ 「未来人材会議」を導入し、部門を越えた職種ごとの人材育成を行っている。 <主な意見交換> 【Q】貴社が最も重要にしているのは「ビジョン、社是、経営理念」であり、かつ、「従業員の方が   やりたいことをやってもらう」とのことだが、それで必要な人材が集まったり、成長して仕事を   したりするのか疑問に感じた。給料や労働時間、通勤の便などの労働条件についても選ぶ基準と   する傾向もあるかと思うがどうか。 【A】基本的には、仕事をバリバリやりたいというタイプを採用している。給与なども大事だが、そ   こよりも、面白い仕事がしたいという人を採用している。フレックスタイム制を導入しており、   有給休暇取得率は87%くらいである。給与に関しては転職市場の状況を把握しており、平均より   は高めである。 【Q】貴社は、社員が自ら自分を伸ばすための仕組みを設定し、そこに積極的に参加するような方を   採用しているが、このような自己啓発を促進するために会社として取り組んでいることや、特に   社員自らがいろいろなプログラムを選択するのに、自発的に手を挙げていくのに効果があった仕   組みがあれば教えてほしい。 【A】人事としては、社員をお客様と考え、いかに社員が受けたいという研修プログラムを提供する   か、受けた後に学んだことが定着するようなフォローをしていくかを一生懸命考えることが、何   においてもすごく大事だと思っている。我が社では、新規事業の提案などを実際に体験してもら   うために、ハードルを下げる工夫をしたり、研修プログラムの作成や制度設計をするときには社   員を巻き込んで協力してもらったりしている。 【Q】雇用の流動化が高まりすぎると企業としては投資した人材育成のお金が回収できないという問   題があり、なかなか積極的になれないという話があると思うが、貴社では転職者を応援したり、   新規事業を子会社にしたりといった際に、どう考えているのか。 【A】雇用の流動化はしたほうがいいと思っている。結局、雇用が流動化しないので、会社が社員に   対して魅力ある場を作らない。流動化をしてしまえば、会社は社員のことを大切にするので、労   働時間も短くなり、教育研修の場も提供する。    違うことをやりたいのにずっとつなぎ止めておくのは、逆に非常に非効率だと思う。人が動い   ていったほうが、魅力のある会社とか魅力のあるビジョンに人が集まるのではないかと思う。 【Q】海外事業展開を積極的にされているようだが、それを支える人材をどう育てているのか。 【A】基本的な考え方は国内の子会社と一緒で、M&Aした会社では自分たちで経営してもらうとい   う考え方を採っている。現地でその事業をやっている人たちと一緒にやっていくという考え方を   重視しており、我が社の日本人社員が社長をしている単独経営の子会社もあるが、駐在させて実   際にその実務をやってもらって育成していくしかないと思っている。 【Q】売上収益を6期連続過去最高を更新し、ここ5〜6年で非常に大きく伸びているが、これは生   産性向上という観点から言うと、どの辺りに転換点があったのか。特に収益を伸ばすのに一番有   効だった取組は何か。 【A】これはM&Aなども含んでいるため、同じ事業で伸ばしたということではない。生産性を向上   させるために、インプットの量を減らしていく工夫もしながら、同じ事業でちょっとずつ伸ばす   ということをやりつつも、全然違う事業でシンプルに売上げを伸ばすほうが早いと思っている。   そういうイノベーションとか、新しい事業やアイディアをいかに生み出すかということは、結構   気にしている。 【Q】「未来人材会議」について、もともと横のつながりや組織的な流動性があると思うが、あえて   これを入れて何か変わったことがあるのか。また、横串で様々な職種を分けているが、その効果   や、思ったようなことができているかどうかを教えてほしい。また、この会議は一種の階層制   で、レベルがあり「情報共有」となっているが、役割分担や目指しているところが会議のレベル   によって違うと思われるが、どのような感じか。 【A】社内の各事業の規模はばらつきがあり、100人を超えているような所もあれば、数人というの   もある。そのような場合は上司が別の職種ということがあり、人材育成がそのラインだけではで   きない。そこで、例えば全社でその職種のマネージャーが横串を刺して、全メンバーの育成を考   えるようにしている。それにより半期の目標設定、評価、中長期の育成の支援をしていくという   ことを職種ごとにやっており、評価への納得感がなかったり、育成についての成長に関する話が   できなかったところを補完している。またこの会議は、人事がいろいろな職種の専門的な育成・   研修を考えるときや、各部門で埋もれてしまいそうな人材をピックアップする際に活用している。    役割分担は、メンバークラスに関しては機能ごとで、管理職以上に関しては課長や部長などの   役職ごとである。 【Q】HRM(人的資源管理)の関係の制度というのは、制度間の補完性があるとよく言われている   が、そうした場合にHRMの制度の中でよくあるのが目標管理制度と評価制度であり、貴社の場   合、特に人材育成との関連の中で見たときに、評価制度はどんな位置づけなのか。 【A】評価は、年2回行っている。当社の理念、社是、行動指針等を身に付けて体現している人、周   りに対していい影響を及ぼせる人は昇格させるが、業績を上げた人には賞与で報いるという考え   方を採っている。併せて、職種によってはスキルマップというものがあり、現在、一般社員は6   等級あるが、各6等級×5や×10のマトリックスによって、人材育成と完全に連動させている。    管理職に関しては、リーダーの役割は提供する価値を極大化することであり、優秀な人材を集   め育て、その人たちが情熱を燃やせるようなビジョン・戦略を描いてモチベーションを引き出し、   最後に仕組み化していくという、人×情熱×仕組み化の3つの軸を管理職のスキルにしている。 【Q】2008年にこのプロジェクト始めたきっかけは。また、業績を見ると、2013年ぐらいまでは人材   投資の効果そのものがすぐに現れていないように見える。一般的に、人材投資をすると業績が上   がるまでにタイムラグがあると思われるが、その間にされた試行錯誤のうちで、正に生産性が上   がるとか売上げが上がることに直結するような、具体的な工夫などがあれば教えていただきたい。    「挑戦し、失敗する人」について応援されているが、失敗し続ける方をずっと後押しするのも   会社としてはなかなか難しいのではないかと思うがどうか。    また、貴社の企業内大学は、社内の6段階に分かれているスキルのレベルと合わせたプログラ   ムとなっているのか。各プログラムはそれぞれどのぐらいの時間でどんなことを具体的に教えて   いるのか。 【A】このプロジェクトは、経営理念に定めているような暮らし全域や社会の「不」を解消していき   たいと考えた時、現状の組織や人事施策の状況では、求める人材の採用や育成は難しいのではな   いかと、桁替えしようということで、社員を巻き込む形で立ち上げた。    2点目の業績に関しては、2011年からビジネスモデルを変更しているため、業績の伸びが止   まったというよりも、それを理解してもらうまでの時間だったと思う。    3点目の、挑戦し、失敗し続けているような人は、ちゃんと学んでいるためか、あまりいない。    4点目の企業内大学のプログラムは、等級に合わせているものと役職に合わせているもの両方   あり、「必須研修」のようなスキルの獲得に必要な研修は時間を掛け、一般的な研修スタイルで   丸一日のスタンダードな形でも実施している。内容は、自分の考えを発表させるなどフィード   バックするような手法に替えている。「選抜研修」について、例えば、管理職を集めて、社長か   ら直接メッセージを伝えるようなセッションにおいては、2時間の講義形式だが、途中でディス   カッションや発表を挟み、できるだけ自分ごととして受け取って考えられるような内容に工夫し   ている。「ゼミナール」は、内容は社員同士が教え合うプログラムで、仕事が片付いた後の夕方   6時か7時ぐらいから大体1時間半から2時間ぐらいで、社員の負担になり過ぎないような形で   実施しており、教える側も学ぶ側にも十分に配慮し、疲れや疲労が溜まってしまわないような内   容としている。 【Q】一般職の賃金は、スキルだけが連動しているのか、それとも意欲や挑戦のようなものも連動し   ているなら、それはどのように反映されているのか。管理職の賃金制度は具体的にどのようなも   のか。 【A】挑戦の項目に関しては、各等級の定義に役割定義のようなものがあり、等級が上に行くほど大   きい挑戦をするような定義が入っている。等級が上がるごとにこの規模感の挑戦をしていこうと   か、こういう人たちを巻き込んでやっていこうというのが反映されるようになっている。    管理職に関しても同様に各等級の役割定義があり、人×情熱×仕組み化の、もう少し細かいス   キルが入っている形になっている。 【Q】労働市場の生産性が低いところから高いところへの労働移動を促すために、リカレント教育の   促進や、ジョブ型にもっと人を切り替えていくべきではないかと理念としては言われているが、   実際には、日本の特に中高年の転職では、年を取れば賃金が上がるというような期待・約束、い   わゆる賃金カーブがあるから逆に移れなくなってしまうということがある。    貴社では賃金カーブがあるか。また、上のポジションの人材をどのくらい内部市場から   採って、どのぐらい外部市場から人を採ろうとしているのか。そして労働生産性の低いところか   ら高いところにという話でいうと、新卒だけではなくて、中途の方も当然たくさん採用されてい   ると思うが、どういう業界から転職してきている方が実態として多いのか。 【A】社員の7割が転職者で、職種はエンジニアやデザイナーが多い。賃金は年功序列や年齢給では   なく、40歳からずっと給料が上がらない人もいるが、ジョブ型なので社員も賃金カーブを期待し   ていない。    管理職のクラスの外部からの採用は、ほとんどしていない。一般社員の真ん中から上あたりの   外部からの採用が多い。幹部は内部で育成する方針でやっている。 【Q】大学教育など、早くからプログラミングなど専門性を磨くような教育や、あるいは欧米のよう   に30代40代で1回、1年、2年なり大学院に入り直して専門性を磨くような仕組みが必要ではと   主張する人事担当者もいるが、貴社でももっと自分の会社以外の要素がこうだったらいいのにな   という所があれば教えてほしい。 【A】何のために勉強するのかが分かっていないのが一番の問題だと思っている。自分がやりたいこ   と・夢中になることに対して熱中していく過程でスキルの幅が広がっていくという学び方、自発   的に学んでいくようなスタイルにしないといけない。スキルはあるが意思がないのは一番厳し   い。自分がどうしたいのかを考えるきっかけや、自分の意見を出す場がたくさんあることがとて   も大事だと思う。    学び直すことに関してはなかなか難しいと思う。今は1つのことを磨いて広げていくというよ   うな考え方、自分の専門性を活かして他の人と組み合わせてやっていくという発想が強くなって   いる。例えば、営業で月給50万円もらえていた人がITを2年間学んでITの職種で50万円でどこか   に転職できるかというと、なかなかそんなに甘くはないのだろうと思う。 【Q】採用した学生が学んでいたカリキュラムが入社後に全く役に立たない、役に立つけれどもそれ   だけでは足りないなど、企業の中でOJTをやらなければならないような状況はあるか。 【A】一部の職種では、学んできたことをそのまま活かせたり早期に戦力になるが、一方でなかなか   難しい場合もある。 【Q】貴社では中途採用にも力を入れているが、福利厚生が社内コミュニケーションを活発化させる   ということについてどう考えているか。もし取り組まれているなら、どのような取組か。また、   意外と評判がいい取組があれば、教えてほしい。 【A】優秀な人であるほど仕事が選べるので、それなりの給料がもらえるというのは当たり前で、そ   の上で何をやるのか・誰とやるのかはすごく重要であり、周りとのコミュニケーションを取るた   めに支援するのは有効だと思う。コミュニケーションのための予算としては、管理職だけでなく   各部門にも一人当たり支給している。 【Q】モチベーションや内発的動機を維持、向上させるに当たっては、人事評価が納得できるという   ことが重要だと思うが、貴社が360度評価をするに当たって何か工夫している点、あるいはうま   く行っていないという点があれば教えてほしい。 【A】当社の場合、360度フィードバックと言っており、評価には連動させていない。半年に1度、   経営理念やガイドラインに則した行動ができているか、自分の部門の周りのメンバーから   フィードバックしてもらう。評価に連動させていないのは、そのメンバーのことが見えない人も   いるためである。これに対して当社は管理職の評価を一番重視しているが、こちらは記名式にし   ている。疑心暗鬼になって誰がこんなことを言ったのだとなってしまうので、記名式にして   フィードバックをする形でやっている。 【Q】ミドル層の管理職の方が、どのようにフィードバックをしていいかよく分からないという悩み   はよく聞くが、ミドル管理層の方にフィードバックのやり方など、企業内大学で研修をしている   のか。 【A】研修でも行うし、マニュアルを紹介したりしている。 【Q】毎年100人ずつぐらい採用して30年後にその中から10人ぐらい部長が出て、更にその中から役   員になって社長になっていくというような所と比べると、一人一人の従業員にモチベーション・   やる気を持たせて社業を発展させていくという貴社の人事のやり方は大変そうな感じがするが、   日頃苦労していることはどんなことか。 【A】我が社で一番残業時間が多いのは人事である。皆が好きなことを言うので、それを実現した上   で組織として組み合わせることや、仕組みを作って皆が同じように運用を評価できるようにして   いるが、そこで納得感が出ない時には、人事が介入してメンバーと上司の話を丁寧に細かく聞い   ているところが苦労しているところである。1日に何人も面談して、社員一人一人の小さい悩み   を解消したりしているので、そういう意味ではとても大変である。