平成29年度第1回産業労働事情懇談会議事概要 日時: 平成30年1月31日(水)15:00〜17:00 テーマ: 働き方の多様化に対応した人材育成への取組と課題 招聘企業(業種): 建設業 <企業概要、働き方の多様化に対応した人材育成への取組> ○ 昭和31年10月設立。創業は江戸時代。 ○ 企業理念は、「技術と技能」「信用と信頼」「真摯」。 ○ 経営ビジョンとして、グループの強化・融合と人の教育・発展をしていくことを考え、「教育」  をメインテーマに挙げている。その中の「目標」として、現行工事の維持・継続に基づく人材の育  成、「計画化」として、企業内職業訓練校を基礎とした教育プラン、「日々の実践」として、企業  内訓練校に沿った教育を社内及びその後のOJT等として行っている。 ○ 建設業として架設業の社会的地位向上を図るため、直接雇用の採用を増やし、業務体制の計画推  進に力を注ぎたいということを目的として、平成6年4月に東京都認定の「建設施工系とび科」の  企業内職業訓練校を開校。1年間に1,600時間(座学:558時間、実技:1,042時間)の教習と特別  教育、技能講習の受講を行っている。 ○ 高卒採用時(18歳)からのキャリアパスを作成し、管理職になるまでに取得すべき資格や年代ご  との年収などを提示しており、社内の教育訓練や定着率の向上に役立てている。 ○ 若手建設技能者の入職・定着率を向上させる施策の一環として、2011年度から元請け企業におい  て「優良職長手当制度」が発足されたが、当社からも数名が優良職長の認定を受け、クラスの認定  基準に応じた手当が元請企業から本人に直接支給されている。 ○ 業界としては、まだ日給制が主流である中で、示しているキャリアパスでは月給制をとってお  り、賞与や福利厚生、休暇制度などを含めた待遇について、いかに総合的にみてもらえるかが課題  となっている。 ○ 新卒者の採用確保のため全国を回っているが、今の高校新卒者の求人ルールでは、7月1日に求  人目的の学校訪問が解禁されるまで動けず、9月中旬の採用試験及び面接試験までは会社見学等の  場を除き生徒と直接話をする機会がなかなか持てないため、訓練校の意義や良さを多くの生徒達に  伝える事が難しく、とても厳しい状況が続いている。   <主な意見交換> 【Q】貴社のキャリアパスは非常に分かりやすくて、よくできているというのが率直な印象だが、こ   れは全ての従業員の方に知らせているのか。訓練校に入っていて、社内で働いている方のキャリ   アパスか。 【A】キャリアパスは従業員全員に知らせている。これは訓練校卒の社員を主体としてつくっている   が、現在直接雇用の日給月給の社員もおり、将来的には月給制にしていきたいと考えているた   め、全て見せている。また、直接雇用の日給月給の社員の去年の平均年収が訓練校出身者より若   干低くなっているが、これが今後、週休2日制になった時にどういった給料を払っていかなけれ   ばいけないかというのが、我が社にとってもこの業界にとっても大きな課題の一つだと思う。 【Q】職業訓練校は1年だが、1年後はみんなレベルがほぼそろって上達するのか、それとも生徒に   よってばらつきが出てくるものなのか。 【A】当然ばらつきは出る。1年間平等に教えたいと思っているが、もともと知識のある生徒と知識   のない生徒、とびになりたいと思っているが高いところが得意でないことが途中で分かった生   徒、建築学科を出ている生徒は言葉の理解力は速いが、そうでなくてもやる気があり、あっとい   う間に追いつく生徒もいる。また、1年間体も鍛えているので、それも上達の一つになってい   る。高校のときの成績というのはあまり関係ない。 【Q】25歳ぐらいまでに必要な資格をほぼ取り終え、そこから先もやる気によって、人によって違い   が出てくるということだが、実際はどのような感じか。 【A】毎年、最低2回から3回面接しているが、その際、若い社員には、将来の希望を全部書かせ、   次のステップまでの必要な資格や、25歳までにとる資格の順番を確認している。必要な資格は平   等に取らせるようにしている。 【Q】新卒などの人集めに非常に苦労されているということだが、そのために今後どういう取組を進   めようと思っているのか。また、業界全体で必要な基本的技能をスキルアップするために、訓練   校でトレーニングし、手当も出すというスキームを作っている一方で、そこに人が集まらない現   状があるようだが、企業側の要因がすべてなのか、働く若手側にも問題があるのか。 【A】建設業は、よく3K、5Kという表現をされるが、現在は昔の印象とは全く変わってきている   ので、実際に明るく仕事をしている社員の様子を表現できる場や「つくる楽しみ」を伝えていく   場がもっと必要であると思う。    また、業界全体でのスキルアップについては、当社では投資と考え、希望があれば少しずつ率   先して行かせるようにしているが、補助金申請等の書類を作成することが難しく、他社も不慣れ   で抵抗感があり、なかなか出せないということもある。手続きを簡素化していただけるとありが   たい。働く側は、最初は会社から行けと言われて嫌々行くのが大半であるが、帰るときはみんな   来て良かったと喜んでいる。 【Q】少子化が進み若い人が減って行く中で、終身雇用的な長期雇用についてどう考えているか。ま   た、一方で景気・雇用情勢がよくなり、人手不足と言われている中で、最近、就職氷河期世代が   問題になっているが、学卒時に正社員になれず、非正規のまま中年になっているような方が貴社   のキャリアパスに乗りたいとなった場合や、女性がこの業界に入りたいとなった場合などは、入   る余地があるのかどうか。 【A】弊社では長期雇用をメインに考えており、基本的には60歳定年・65歳までの基準でやっている   が、高齢でとびの仕事が体力的に困難になった場合でも、給料は少し下がるが、職種を変更する   ことにより70・75歳まで長期に働いてもらっている。これは協力会社の社長にも話をしている。    中途採用も募集しており、経験がある方はすぐ弊社のキャリアパスに乗れるかと思う。経験が   ない方も本人の努力や目標の明確化などができれば、ある程度は乗れるし、実際に乗れた方もい   る。    女性の進出については、これまでに青森から女性のとびを2名採用するなどの実績がある。求   人活動を通じ、今後は安心して住める寮の確保や、訓練校を卒業した後の職種の選択についても   検討する必要があると考えている。 【Q】とびの職に関して機械化・省力化されるような技術進歩の影響はあるか。また、自動化して、   必要な人数が減るということはあるか。 【A】現在、職人と言われる人間が年間に大体3万人から5万人減っていると言われていて、それは   少子化の問題や、3Kとか5K、賃金の問題かもしれないが、現実的に減っていくことは確かな   ので、我々でなくゼネコン側のほうが技術的にいろんな開発を進めている。    技術の進歩という点では、現場でタワークレーンなど揚重機が非常に発達してきている。ま   た、積層化工法も一つの進歩であり、これにより自動化が進んでいくと思う。ただ、建設業にお   いては、必ず人がやることが残る。人が減っている中で、HALやより重量の積めるフォークリフ   トなどの技術進歩により省力化がなされてきている。 【Q】貴社の実例に即してでも業界実例でもいいが、技能を持った人材ということで、貴社あるいは   業界のスキルが高い方が、工業高校や一般の企業など企業の枠を越えて指導に行くという実態は   どのぐらいあるのか。 【A】まだ回数としては少ないが、例えば3〜4年前から国土交通省が始めた「工業高校キャラバ   ン」に当社も出前授業という形で参加した。このときに国交省の担当者から勧められたことが   きっかけとなり、当社でもキャリアパスを作成した。現在も各地の高校において説明会を開催し   たり、学校から依頼を受け「建設現場での技術指導」や「建設業についての知識」の授業などを   行ったりもしている。 【Q】貴社は、学校経営をされているが、その中で講師陣は、生え抜きだけではなくて、ゼネコンや   設計事務所などほかの企業で経験を積んだ人材を受け入れておられるということだが、その方は   実際にどこか外部で研修を受けた上で講師として活動させているのか。 【A】正直、講師の方の中には、受けの良い方、悪い方、後ろで聞いていてこちらが眠くなる方、生   徒が1つ質問すると、これを1時間ぐらい教えてしまう方などおられるが、年に数回、講師の方   と話し合いの場を持って意見交換している。 【Q】建設業界に限った話ではないが、一定の技能を持った人材がそれを他の同業でも生かしてもら   うというときに、人によっては教え方に難があるというのも多々見られるという話も聞くが、免   許・資格という意味の指導員講習ではなくて、教え方指導みたいなものはないか。 【A】指導員は一応講習会はあるが、性格的な面は変わらない。新年会などの行事の中で講師の方に   も声をかけて話すようにしている。また、生徒達からの意見・評判も聞いている。    講師はこれまでは50代中心だったが、生徒は18歳の孫のような世代のため、今後は、30代ぐら   いの若い講師も入れていく方向で考えている。訓練校は「とびを架設工(たか)に変える」を標   榜にして、職人を養成することを中心的にやってきたが、内容はどちらかというと「職長」を養   成するという形に変わってきているので、現在、訓練校出身者は35歳くらいで大半が職長になっ   ている。彼らは現場でかなりの指導能力が身についているので、この中からも次の講師をと考え   ている。また、現場での作業との兼ね合いで大体4年くらいを目処に講師を交代していこうかと   思っている。 【Q】訓練校の位置付けは、貴社が主に高卒者を技能工という位置づけで採用し育成していくための   ものか、それとも関連会社の方も含めて、年間の活動を通じ育てていくといった位置づけなのか。 【A】訓練校については、グループ会社の社員に対しても学歴を問わず門戸を開いているが、訓練中   の賃金の違いや協力会社の社長の考えもあり、まだ入ってきていないというのが現状である。 【Q】技能工については、コア人材として職長になっていくようなタイプの人を専ら採用し育成する   ための組織として学校があると受け止めたが、それ以外の人材・人員については、組織上どの部   門が管理しているのか、また、技能工、現場の方は別系統で管理していくという方式など、コア   人材とそれ以外の一般的な方も含めて、人事系統、管理の仕方はどんな形になっているのか。 【A】人事、庶務についても一元化し、役員は総合的に見ている状況で、最終的には社長の判断を仰   ぐ体制にしている。ただ、工事については、ある程度次長、課長に権限を持たせている。将来、   営業面、経理・庶務面についてはできる範囲でコアな技能工の中心となる者から、権限を持つ者   を選んでいきたいと思っている。    また、25歳ぐらいになると、将来、職長を目指したいのか、職人一本で行きたいのか希望が出   てくるので、それに必要な資格を取らせたり、勉強会等を行ったりしていく中で総合的に人事を   決めている。 【Q】今後、2020年東京オリンピックがあるが、それを境に建物の受注の内容や量、場所などがどの   ように変わっていくと想定しているのか。それに応じて会社の採用の方針や育成、会社の体制な   どどのように考えられているか。 【A】東京オリンピック後に関しては、東京都の開発や公共事業などの話を聞いており、元請け業者   が受けるかは分からないが、そんなに悲観していない。首都機能移転の話が昔あったが、そうい   う状況になったら会社も移るしかなく、社員と一丸になって生きていく方法を考えていこうと   思っている。    今いる体制の中で人を育てながら受注量を増やしていこうと考えており、人を教育しながら少   しずつ会社を伸ばしていきたいと思っている。同じ志を持ち、同じ目的を持つ社員を育成してい   けば、専門業者として選ばれる会社になるのではないかと思っている。現場の社員が選ばれると   いうことが大切なので、きちんと育てた社員を数多く持つことが大切になってくる。 【Q】業界全般の話では、離職率が高く、人手不足というよりも担い手不足と言われているが、定着   支援として取り組んでいることはあるか。    また、専門工事業団体も現在、社員化に向けた取組をされており社会保険の加入率も上がって   きたが、100%ではない。直接雇用の中でも正社員化が一番安定していると思うが、日給月給の   方とのアンバランスがある中で、正社員化に向けた取組として貴社が苦労している点を教えてほ   しい。 【A】定着支援では、住宅手当や家族手当などの手当を支給したり、有給休暇の取得促進をしたりし   ている。    また、日給月給の社員に対する正社員化に向けては、社会保険や有給休暇、退職金(建退共と   個人積立)等について、半年ごとに本人と会って3年かけて説得している。    ただ、日給月給とのアンバランスはどうしても生じるので、日給者の賞与は、日給が高い分、   伸び幅を少し上がる程度としている一方で、月給者の給与は少しずつ上げるけれども、賞与もそ   れなりに多く出せるような形で差別化し、年齢が上がると、その差を解消できるようにしてい   る。