平成28年度第2回産業労働事情懇談会議事概要 日時: 平成29年2月16日(木)15:00〜17:00 テーマ: ワーク・ライフ・バランスの実現に向けた取組と課題 招聘企業(業種): 情報通信業    <企業概要、ワーク・ライフ・バランスの実現に向けた取組> ○ 1975年設立。ソフトウエアとハードウエアに関する研究開発・製造・販売。売上54億円(2015年)、  従業員約380名(うち非正規雇用17名)。男性が約85%、女性が約15%。エンジニアの比率は約8割  で300人以上。   IT分野では、自動運転に向けた先進的な技術にも大学や研究機関と連携し対応。 〇 2012年から全社プロジェクトとして、働き方に関する取組を実施している。これは、働き方の見  直しを通して、生産性・付加価値の向上等を実現し、社員一人ひとりの人材価値と満足度を向上さ  せ、楽しく勝ち続けられる社員・組織を作ることを目的としている。 〇 2009年のリーマンショックを契機に人材開発施策に注力を始め、2012年以降これからの労働力減  少・大介護時代の備えとしてワーク・ライフ・バランス施策を整備した。 〇 働き方に関する制度を地道に整備・積み重ねてきたが、その土台にあるものは「働き方の見直し  ・働き方改革」で、その上に「人事考課」、さらにその上に制度・施策(「これからの働き方を  サポートする制度」「多様な働き方の制度」「多様な休み方のための制度」)がある。 〇 人事考課の中で「生産性」という項目を明示的に設けている。生産性の高い人材、時間当たりの  生産性が高い人材を的確に評価していくということを会社の方針として示すとともに、それを  1年に1回というサイクルで必ず見直し、評価する体制を取っている。 〇 各制度、施策では法整備がされる少し手前のところで将来的に法対応されるであろう制度を前倒  しで取入れたり、法定をやや上回る制度を導入する取組を少しずつ積み重ねている。   例えば、休み方のための制度に関して「積立保存有給休暇」があるが、これは2年たって失効  した有給休暇を最大60日まで積み立てることができ、育児や介護、あるいは私傷病で利用できる  ものである。今年1月から施行された法改正で介護休暇や看護休暇が半日単位で取得できるようにな ったがこれも前倒しで既に導入していた。また、働き方をサポートする制度(キャリア開発支援や 両立支援)では、公的制度等も積極的に利用しながら少しずつ整備を行った。(昨年の有給休暇取 得率は81.2%で前の年より約10%上昇) 〇 2012年以降、4期に渡ってプロジェクト形式で取り組んできたが、継続させていくのは難しく、  特に経営トップからの社員へのポジティブメッセージの継続的な発信は大きな力になっていると感  じている。また、実施の主旨・意義、成果・効果も継続的に発信し、目に見える成果や効果を急ぎ  すぎないのがポイントと考えている。 〇 取組の成果としては、働きがい・働きやすさ・長期就業志向・WLB満足度などが取組前と比較す  るといずれも上がり、また、売上げは上がりつつ、年休の取得率は大幅に上がり、平均所定外労働  時間は下がっており、取組によって、社員一人あたりの利益の向上を実現した。 〇 仕事と介護との両立支援の状況については、介護制度(介護休業のみ)の利用実績が2010年と  2011年にあり、現在、介護に直面している社員は10名前後。両立支援の効果については、セミナー  の実施やガイドブックの公開を進めた結果、制度の内容や位置づけの理解向上や、個人情報の把握、  フォロー体制の整備など会社として支援していくという姿勢も示すことができた。 〇 今後の課題は、多様な働き方のへの取組として、テレワーク等の段階的導入や年休取得促進日の  設置・積立保存有給休暇の範囲拡大であると考えている。    <主な意見交換> 【Q】相対的に労働時間が長くなってしまうような社員を働き方改革に巻き込むために工夫した点は   あるか。また、取組に参加しているのは社員全体の何割ぐらいか。 【A】長時間で対応せざるを得ない等、意見は多くあった。1期目は、希望を募り、プロジェクトチ   ームを選んだが、2期目以降は指名することとして、全体に広めていくようにした。    参加者の規模は、2015年に直接チームとして参加したのは約半数だが、現在は全社プレゼン大   会という形で取組内容・成果について共有しているので100%である。     【Q】取組活動を進める上で、繰り返しの「対話」以外に何か心掛けでいることや、実施している   ことがあるか。 【A】取組の効果についてアンケート等でデータをとり、効果を示せるようにした。    【Q】休業中の連絡の仕方については、コミュニケーションの取り方が難しいと思うが、実際、どの   ような形をとっているのか 【A】私傷病の休業中の場合は、月1回、最低限のチェックボックスをいくつかチェックすれば   いいものを他の書類と一緒に書面で提出してもらうという、できるだけ負担のないような方式で   やっている。産休・育休中の場合は、事前に面談等で説明をした上で、月1回、「お子さんの年   齢」、「近況」「会社に対する質問」といった簡単な項目をメールでフランクに負担にならない   程度にメールで連絡してもらう形をとっている。    【Q】取組を全社チーム方式で3年ほど続けてパイロット的に実施されているが、その実施目的と実   施後の効果が目的どおりであったか。    また、女性活躍促進企業のデータベースの登録をしておられ、企業情報の開示をされている。   情報開示することによって、企業や会社を選ぶ方にとってプラスになると思っているが、その辺   について、実際の効果や実感されていること、あるいはここは変えた方がいいのではというご意   見などあれば伺いたい。 【A】取組を全社チーム方式で3年ほど続けてパイロット的に実施した目的は、一部で検討した   ものを全社に展開して、チームできちんと改善PDCAを回していくという習慣付けが出来るように   なること、その方法や成果を共有することで全社に広げていくという効果を狙って実施したこと   でもあったが、実際の実務に沿った内容をチームできちんと検討し、関係性も良くしながら進め   ていくことができたという点では効果につながったと思う。    情報開示に関しては、内定者に入社前に確認した情報を聞くと、「ワーク・ライフ・バランス」   と「残業時間」という回答がかなりの割合であり、そういった情報をきちんと開示できるところ   があることはありがたい。    【Q】特に助成金の手続について、ここは簡素化した方がいい等、何かご要望・ご意見があればお伺   いしたい。    また、テレワークについて、問題意識や今後、日本全体で進めて行く上で、こういったことを   やっていってはどうかという提案があればお伺いしたい。 【A】公的制度や助成金の手続きについて、厚生労働省の事業として実施されている部分に関して特   に大変だったということはなかった。    テレワークについては、まず前提として、労働時間についての自己管理ができること、また、   「時間で評価しない」ということについて会社側と従業員側でしっかりと信頼関係が取れている   ということが前提になると思う。会社が能力で評価することも従業員も納得していると思うが、   テレワークは会社から離れた場所での仕事となるので、働いた時間・場所でなく、アウトプット   を会社がしっかり見て評価することができること、やはり信頼関係ができていないと難しいと思   っている。    【Q】働き方改革に先進的に取り組まれているが、ノウハウのようなものがあるのか。それが普遍的   なものであるなら、具体的にどういうところなのか。    また、地道な取組を続けなくてはならないという話があったが、取組を始めた時と手応えを感   じた時の時間的な距離感(タイムラグ)といったものがあれば教えてほしい。 【A】正直なところ、業種や職種によっても違いがあるが、やはり優秀な人が活躍してくれるように   したいというのはどこの企業でもあると思う。健康で意欲高く働けるという大前提の土台として、   時間の中で結果を出すという意識を持ち、そこに向けてトレーニング的なものも含めて早い段階   からやっていくということが必ず結果につながるのかなとは思っている。    タイムラグの件は、取組を始めて1年たった頃に、幸い、取り組んだチームの「コミュニケー   ションの質の満足度がすごくあがった」というアンケート結果と、「離職率が低くなった」とい   う結果がが出たことが次につなげるという意味で大きかった。ただ、結果を示せるような段階に   なるには3〜5年という時間は必要だと思う。そのぐらいの時間がたたないと一過性のものか   判断できない。    【Q】取組により、生産性の向上として成果、労働時間も短くなったということだが、取組参加者と   参加していない人との間で、寄与度にポジティブな差がでているようなデータがあるか。    また、採用時においてこの取組について賛同・チャレンジしたいと言っている人はどのぐらい   いるのか、女性の採用にどれだけつながってきているのか。 【A】参加・不参加の差のデータはない。また、採用に関しては「この取組で社名を知りました」と   いう話は出てきている。新卒採用、中途採用にしても入社の際の面接でワーク・ライフ・バラン   スや長時間労働についての具体的な質問が出ることが増えてきたという実感はある。女性の採用   につながっているというのはデータとして確認はできていないが、特に新卒採用に関しては女性   の応募者が増えているという実感は持っている。    【Q】事業体としての持続性と生産性を上げられているということで、IR的広報の価値もあると思う   が、IRにおけるアピールの効果のようなものがあれば伺いたい。 【A】IRや広報上のアピールの効果については、広報というところに踏み切ったのが昨年の後半以降   なので、これからどのような効果が出てくるか期待しているところである。    【Q】エンジニアの生産性を計るのは難しいということだが、人事評価の項目として、例えば生産性   に関してはどういう内容を記載させているか。また、AI、IOTが進むと機械に労働力が代替され   る、正社員が要らなくなるといった議論があるがどう感じているか。リアリティはあるか。 【A】エンジニアの場合は生産性を上げる取組をきちんと継続的にできているかといった視点で評価   していくというところにとどまっている。客観的な数字をベースにした評価ではなく、定性的な   ところでみている状況である。    また、AI、IOTといったもので労働力が置き換えられていくことにリアリティを感じるかどう   かだが、本当に単純な事務作業というのは当然置き換わってくるだろうし、最終的には芸術であ   ったりクリエイティブな分野、設計といったところ以外は置き換わったとしても不思議ではない   という意識は持っている。ただ、やはり人をしっかり見ていって、人の意欲を上げるような仕組   みづくりを考えたりすることは人がやるべきだと思っている。AI等での置き換えというものがな   かったとしても、本当に付加価値の高い仕事というのがどの部分なのだろうという意識を持ちな   がら、仕事をしていかないとなかなか企業全体が成長していくことは難しいと思っている。