平成27年度第2回産業労働事情懇談会議事概要 日時: 平成28年1月29日(金)15:00〜17:00 テーマ: 生産性の向上と人材の有効活用の取組と課題 招聘企業(業種): 製造業 <企業概要、生産性の向上、人材の有効活用の取組> ○ 製造業(総売上高353億円、従業員約5,300名)で、極細ステンレスワイヤーロー プメーカーとして事業を始め、、その事業で培ったステンレス技術を活用し、医療分 野へ進出し、現在はメディカル事業(医療機器分野、約85%)とデバイス事業(産業 機器分野、約15%)の2つの事業を展開している。  医療分野への進出に当たっては、医療に関する専門家の知見を活用した。医療分野 では後発メーカーであるが、独自のステンレス技術でワイヤー(カテーテル)製品を 製造。素材から製品までの一貫生産体制を整えている。 ○ 日本では研究開発や試作に特化し、生産は全て海外工場で行っている。生産は、大 半をタイの工場で行っているが、ベトナムにも生産拠点があり、タイからの生産の移 管を進めることによって、分散化を図っている。 ○ 元々は産業機器を手がけていたが、プラザ合意による円高などがあり、生産をタイ 工場に移管。空洞化した国内において新たな事業への展開を検討し、自社のステンレ ス技術を活かすことができる分野であり、かつ社会貢献可能なカテーテル治療の医療 機器分野へ、進出をした。 ○ 後発メーカーであるにも関わらず、様々な国で高いシェアを獲得できたのは、産業 機器分野時代から保有するステンレスの撚線やトルク性などの技術力を活用すること ができたことが大きい。また、有名な医師の要望に応え、難しい病変の治療を可能と する製品を開発し、その製品の医師の評判によりその使用が拡大していくといったこ とがある。 ○ 治具・工具の改良によって、熟練の職人でないとできなかった工程を平易なものと し、製造工程を徹底的に見直すことにより、中間製品の滞留を減らし、生産速度を上 げることなどから、各工場の生産性の向上に努めている。 ○ 主に循環器系の製品を製造しており、最近は他の血管系である末梢・腹部・脳など の製品も製造している。このような全身血管領域に関する製品は複数の診療科にまた がることとなるが、1人の営業員が担当する「マルチセールス」という営業体制を組 んでいる。 今後は、国内では直接販売の強化を、また、海外では販売を拡大するための体制強 化を計画している。 ○ 新卒採用は20〜40名程度、事務系よりも技術系の採用が大半を占めている。また、 中途採用も約30名程度で、技術系、事務系に偏りはなく、正社員の離職率は約6.0% 程度と低い。高齢者についても再雇用をしており、現在20名程度いる。 ○ 人材育成では、人材育成のための組織があり、様々な技術の伝承、独自の製造技術 を毎年数名ずつ、2年から3年計画で養成している。また、中途採用・新卒の導入研 修、語学研修、管理職研修がある。 <主な意見交換> 【Q】日本の技術水準は非常に高いというイメージがあるのだが、海外の工場で医療機器 のような高度な技術の製品を生産できるのか。 【A】進出先の社員は、箸で食事する生活様式なのか環境によるものなのか、細かな作業 や目視検査業務に向いている。量産工程の作業については日本が学ぶ立場にあるほど である。 【Q】価格競争の面で、最近は円安傾向にあるが、円高が進んだときに、国内での製造の 回帰は考えているか。 【A】為替については、海外売上げの大半がドル建てであるが、製造を担うタイ子会社が バーツ建決算、ハノイ子会社がドル建決算であり、売上と原価で変動が相殺されるナ チュラルヘッジが利いている状態にあるため、円安、円高になっても、為替による大 きな欠損はない。 【Q】付加価値を生み出すことから、医療分野に進出を果たしたが、今後更なる展開を考 えているのか。 【A】現在は血管内治療器具に特化する方針としている。未着手の部位、患部、領域があ り、これに向けた血管内治療製品の開発に取組む考えである。 【Q】ホワイトカラー部門における生産性の向上において、マルチセールスによる効果 は大きいと思うが、それ以外に一般事務における生産性向上の方策はあるか。 【A】他社の営業は、一人の営業マンが、薬から医療器具まで1つの診療科に特化して営 業を行うが、当社のマルチセールスは、血管内治療製品のみのセールスであり、複数 の診療科に営業を行うことが可能である。 一般事務としては、基幹系の情報システム化がある。システム化によって効率性が 上がった。ほかには、可能性としては、管理部門について、アウトソーシングするこ とにより合理化を図ることが考えられる。 ただし、研究開発に関しては、研究開発に莫大な投資を行っているビッグカンパニ ーと競合しており、企業戦略上の観点から、削減できないと考えている。 【Q】なぜ、中途採用は新卒と同じくらいの人数を採用しているのか。 【A】急激に業績が上向き、新卒で採用し育成するのでは間に合わない場合、高い技術や 技能を持った者を採用することがある。 開発というのは基本的に世の中にない物を作ることである。よって、医療機器メー カーから当社に転職するケースはほとんどない。転職者は、化学メーカー、自動車メ ーカーなど様々な産業からである。中途採用は継続的に行っている。 【Q】付加価値を生み出すような産業を引っ張っていく人材は、場所や時間も柔軟な働き 方のほうが良いと聞くが、勤務制度的なもので、何か工夫はされているのか。 【A】在宅で行える業務を担当している社員や、家庭の事情などから会社が認めた場合な ど、多くはないが、在宅勤務で働いている社員はいる。 ただし、業務によって向き不向きがあり、機械を使う部門などでは、在宅勤務は 難しい。 なお、研究開発と情報システム部門は、業務の性質上、基本的に裁量労働制度を 導入している。 【Q】技術系や一般職も含め、最近の学生について何か要望はあるか。 【A】自分が学生の頃よりは、抱えている情報量は格段に多いが、いかに整理するかが重 要ではないかと考える。 また、以前は管理職志向が強かったが、専門性を極める働き方を希望する傾向が 強くなってきているように感じる。 【Q】2016年の新卒の採用は、事務系がゼロとなっていて、技術系は前年と同様の人数 を採用となっているが、現在、事務系の人材が過剰で、技術職の人材が不足している のか。 【A】事務系は募集しており、水準を満たせば採用するが、満たさなかったり折り合わな かったりで採用に至っていない。慢性的に人手不足である。    技術系の場合、大学の専攻と就職先が結びつきやすいことがあり、採用活動を行い やすい面がある。 【Q】事務系の採用がゼロなのは、新卒者の採用時期が後ろ倒しになったことが原因なの か。また、採用に関して前年より工夫したことはあったか。 【A】作業的なスケジュールの変更はあったが、特に大きな変化はなかった。 【Q】正社員の男女比が3対1と女性数が少ないが、今後の男女比や、女性正社員につい て、御社の考えを聞きたい。 【A】もともと技術系の会社であることから、女性が少ないのが現状である。女性の技術 者には優秀な方が多くいる。性別で起用格差はなく能力評価で行っている。女性の産 休や育休の女性社員が30名近くいる。 【Q】日本のメーカーは良い製品を作れても、それを売るのが苦手だと聞くが、どうやっ て海外でも売ることができたのか。 【A】学会等で当社の製品が使われたことが、大きな宣伝となっている。アメリカの高名 な医師に推奨され、非常に知名度が上がったこともあった。 【Q】もともと国内製造メーカーで、実際に国内の労働者を海外に配置転換をするに当た って、苦労した点や気をつけた点はどんなことか。また、海外の工場で指導者として の配置転換が多かったのか。 【A】以前は、東南アジアには行きたくないという社員もいたが、3年、5年で戻るとい うサイクルが出来てくると、躊躇する社員はいなくなった。 【Q】マルチセールスを試みられたとき、何が一番大変だったか。 【A】当初の営業は、各診療科の営業職それぞれが製品に関する技術的な知識を身につけ、 循環器、脳それぞれ担当するという状況であった。当社の製品は複数の診療科にまた がるものだが、効率性の観点から、経営側からのトップダウンで1人複数の診療科を 受け持つマルチセールス方式に移行することを指示した。通常、営業は診療科ごとに 行うものであったので、抵抗感はかなりあった。循環器の営業担当に脳の営業担当を 同行させ、知識を習得させることから始めた。マルチセールスは、コスト以外でも、 多様な情報が集まるようになり、より良い活用方法や幅広い応用が見つかるといった、 製品の改良やマーケティングの観点からもメリットがあった。 今後は、ガイドワイヤーの一層の利用頻度の向上に向け、活動を続けていきたいと 考えている。