平成27年度第1回産業労働事情懇談会議事概要 日時: 平成27年12月15日(火)15:00〜17:00 テーマ: 生産性の向上と人材の有効活用の取組と課題 招聘企業(業種): 小売業 <企業概要、生産性の向上、人材の有効活用の取組> ○ 食品スーパーマーケット(総売上高940億円、従業員約1,400名)で、東京都を中 心に40店舗を展開し、どちらかといえば、地域を絞って集中的に出店するドミナント 形式での店舗展開をしている。ドミナント形式には、商品転送等がしやすく、在庫や 機会ロスを最小限にとどめられるという物理的なメリットがある。 ○ 店舗は、駅から徒歩圏内にあるため、数駅先の顧客も交通機関を利用し来訪する。 また、小売業では、いち早くポイントカードを導入。現在、ポイントカードを使用し て買い物をするお客様が大半で、リピート客が多い。 ○ コンパクトな店舗が大半だが、1人当たりの売上高、1平米当たりの売上高は高い 水準にある。 ○ 一般的なチェーンストア型スーパーマーケットは、本部のバイヤーが商品を買い付 け、各店舗に送り込むという本部主導であるが、弊社では各店舗、各部門の従業員が お客の声を聞いた上で店舗の部門単位で仕入れを行う形になっている。 ○ 売場を担当する社員が、仕入れから受注、価格設定、販売まで行っている(試食販 売も社員が行う場合も多い)。そのため、店舗ごとに置いてある商品、値段が違う。 また、お客様一人一人のニーズに的確に応えるため、1品からのお取り寄せも行って いる(この結果、豊富な品揃えにつながっている)。 毎日、市場で店に合った掘出し物、鮮度の高い商品をお客様のニーズと天候に合わ せ、適量かつ安価に朝仕入れる市場直送のため、昼前には各店舗の店頭に鮮度の良い 商品を並べることができ、また、社員自身が仕入れてきた商品のため、当日中に売切 ろうというモチベーションも芽生える。その結果、在庫ロスが大きく生じない。 ○ 労働時間削減の取組として、夜に強い店舗においても営業時間を1時間前倒しし、 平成27年10月下旬から全店21時に統一した。一方で、平成27年10月に時間短縮し た全ての店舗で、売上、収益がダウンした。 ○ 売り場を担当する社員が仕入れから販売までを行うため、社員には、考える力、経 験、知識、人柄が重要であり、相応の資質と意欲を持った人が求められ、結果として、 正社員比率が高くなっている。 ○ 主力社員は、20歳代、高校卒が7割。毎年150〜180名を、地方の学生を主体に、 新卒で採用している。入社する時に自分の進みたい職種を希望してもらい、その職種 を全うさせる方式をとっている。このモデルの良いところは、1つの道を極めていく ことで、知識や経験値が養われ、本人のやる気や覚悟も養われることである。 2016年春の入社予定は150名で前年実績より約30名少ない。採用コストは上がっ ているが、優秀な人材であれば採用したいと考えている。 ○ 高齢者は65歳まで新規採用しており、雇用上限は70歳。外国人のパートタイムは、 200名抱えている。中途採用を再開しており、昨年度は30人。 ○ 臨機応変に対応、一子相伝の職人のような形でFace to Faceで取り組んできたため マニュアルは整備されていなかった。基本は現場でのOJTを考えている。しかしなが ら、パートを戦力化するために、パートタイムのマニュアルの作成、強化に取組んで いる。 ○ きめ細かなサービスを行いすぎるため日本の生産性は低いと言われることもあるが、 弊社では、おもてなし、きめ細かなサービスを提供することで差別化を図っている。 ○ 生産性向上の課題として、労働時間の短縮に試行錯誤しながら取り組んでいるが、 小売業の特性として、従業員の帰り際であってもお客様から注文、問い合わせがあっ たら対応せざるをえず、労働時間短縮が難しい面がある。 <主な意見交換> 【Q】小売やスーパーは、扱う商品に類似性があり、ある意味価格競争の要素が強いので はないかと考えられ、そうなると、従来型の、一括仕入れ大量販売といった方法が競 争力という観点では強いのではとの見方もできると考えられる。 他店舗と同じ商品も扱いつつ、他社と競争する中で利益を上げていくという、そ の利益の源泉はどういったところにあるのか。どのような形で成長していくことを考 えているのか。 【A】他社との大きなモデルの違いは、他社は生鮮(八百屋、魚屋、肉屋)の比率が4割、 当社は、5割を超えており、毎日市場へ行き良い物を仕入れ、日替わりの商品をコン スタントに提供していることである。都市部で、消費意欲が旺盛という立地の中で生 鮮食品を核として、ついでに加工食品を購入してもらうという形で行っている。加工 食品だけで捉えたら、大手他社との対抗は厳しいため、生鮮部門に力をいれている。 【Q】人の要素が大きい印象がある。各店のマーケットを会得し、それを実戦に移すとい った人材の育成をどうされているのか。また、育成をする立場に立つ社員をどのよう に育てているのか。 【A】人材育成のための方法やツールが具体的にあるわけではなく、各店舗でその店舗の 考え方にそって育成をしていく。OJTが中心であることから人に起因する部分があり、 いい職人の上司につくと成長する。そして人事ローテーションとしてその人にあった 上司のところに配属できるようにするといったことを行っている。また、店舗の大き さなどによっても社員の能力が発揮出来る場合があり、そのようなことも考慮して異 動をしている。人事育成のマニュアルがない分、個別に細かいケアをして対応をして いる。 教育する立場の社員については、ピラミッド型のため人数が少ない。そのため、志 とスキルを持った人材をいち早く育てていかなければならない。教育する立場の人材 の不足のためマニュアルの作成が必要になってくるが、一方でマニュアルを作成する と、考える力が弱体化してしまうという悩みを持っている。 【Q】高校卒の勤続年数はどうなっているのか。 【A】創業58年で、店舗数が40店舗になったのが15年程前からなので、若い人材が飛 躍的に増加しており、勤続年数は、伸びているところである。会社全体として平均年 齢は30.3歳となっている。 【Q】キャリアパス、例えばチェッカーの方のキャリアパスをどう考えているのか。 【A】例えばチェッカーについて、出産後であったり、高齢になったりしたとき、シフト 制があるなど特に特別な扱いがなかったために辞めてしまう社員もいたが、それでは 良くないと改善をし、カンパニーの事務を補佐するポジションに就け、事務を取り仕 切ってもらうポジションをこの秋に新設した。    その他、ワインソムリエや何らかの1級資格等、興味を引くような資格の取得をし てもらい、引き続き働いてもらえるよう検討が必要であると考えている。具体的な策 が現在あるわけではないが、問題意識は持っている。 【Q】労働時間を短くした理由について教えてほしい。 【A】特別条項付き36協定により、労働時間の短縮へと方針を固めた。45時間で、まず 帰ることを目標に、パートタイムの人数を増やし、業務のやり方を見直し、効率的に なるようツールを探している。労働時間を意識することで、以前は品揃えがユニーク であったのに、売り切る時間・余裕がなくなり、限られた時間で売り切ることができ るような保守的な商品構成になってしまっているのではないかということがある。こ れは、機会ロスでもったいないところであり、今までのビジネススタイルを工夫して いく時期にさしかかっていると考えている。 【Q】スーパーマーケットの業界において、労働生産性を上げていくためには、どのよう なことが考えられるのか。また、国や自治体としては、どのような協力が考えられる か。 【A】商品価格の適正価格が確保されることが必要である。また、スーパーマーケットの ような労働集約型産業には、労働力人口の確保と労働生産性の向上が必要である。労 働生産性の向上は、おもてなしのレベルを下げることになる。しかしながら人手を確 保できれば、教育によってリテールの強化が可能と考えている。特に主婦層の確保が 望まれるところであり、女性の進出ができるよう皆が働きやすいようインフラを整備 し、労働力を確保することが重要と考える。特に、飲食、小売、物流、建設業で重要 となっている。    労働時間についても、土日は店を開けないとか、欧米のように4時間は昼の時間に 営業しないといったインフラがないと、今の日本はオーバーストアの状況になってい て、人(労働力)と人手不足が相まって、結果として長時間労働の問題につながって しまうのではないか。 【Q】我が国は、非常に高いサービスを提供している一方で、価格に転嫁されていないと 言われる。そこで、価格転嫁はきちんと進んでいくのかどうか。また、価格転嫁する ためには、政府としてやるべきことは何か。 【A】価格転嫁については、価格を上げると消費者は敏感に反応するので、基本的には上 げられない状況である。食品業界ではダンピング合戦が続いており、業界全体で、本 当の適正価格を話合うことが必要ではないかと考える。 労働力の確保策の一層の取組が望まれる。労働力を確保できれば、さまざまな方策 が可能である。賃金が上がっても、付加価値を付け、「入り」を増やせば、十分「勝 機」があると思う。 【Q】ビジネスモデル以外に働き方について、企業は、正社員、パートに期待しているこ とは何か。また、パートタイムから正社員への登用はどうか。 【A】パート、正社員だからということはなく、創意工夫の下で一生懸命やってくれる人 材を望む。 したがって、パートタイムでもやる気があり、正社員を希望される方がいれば是非 正社員として活躍してほしいと考える。しかし、長時間働けない、子育てなど制約が あり、パートタイムから正社員になりたいという方は少ないのが現状。 【Q】正社員の評価制度や表彰制度など、人材育成の中で業績や能力を評価し、賃金等に 反映しているのか。また、実行段階で、部門間での不公平感が生じていないか、その 対応はどのようにしているか。 【A】労働生産性の高い人材を重視し、年2回の賞与評価などの評価を行っている。賞与 については、部門に偏りがないように、幹部が集まり、賞与会議を行っている。 【Q】人手不足の状況は、3、4年前の比較的景気が良くなかった時期と比べ、現在はど うか。また、人口減少下の中、人手不足がさらに進むことを踏まえ、営業時間短縮以 外、セルフレジなど設備面での工夫として何かあるか。 【A】確かに、3、4年前は買い手市場であったが、現在は選ぶことが厳しい状況。パー トの確保のため他社と同様に時給を上げた場合には、並びで既存社員の賃金も上げな ければ辞めてしまうこと。したがって労働生産性はそれほど変わらないのに、人件費 だけ上がっていくという状況にあると考える。 設備面では、セルフ対応レジの導入を昨年、一昨年と検討してきたが、店舗の広さ などに課題がある。狭い店内にセルフレジを置いたとしても、そこでお客様が詰まっ てしまうと行列ができてしまい、お客様に失礼となってしまう。ただし現実的にうま く回るのであれば導入したいとは考えており、本年は1、2店舗実験的に導入する予 定ではある。 【Q】いつから正社員主体で経営しているのか。また、御社で実施しているビジネスモデ ルは同業他社も同じようにできるか。 【A】創業当時から正社員主体で経営をしている。人でなりたっており、人員を圧倒的に 投入するため大規模な先行投資が必要となる。そして、立地、商品力、付加価値、機 動力の4つが常に絡み合い、人の要素が大きいビジネスモデルで成り立っているため、 今から他社が真似をすることができるかどうかわからない。