平成26年度第1回産業労働事情懇談会議事概要 日時: 平成27年3月4日(水)13:30〜15:30 場所: 厚生労働省専用第23会議室 テーマ: 生産性の向上と効率的な働き方のための取組みと課題 招聘法人(業種): 医療業 <法人概要、生産性の向上、効率的な働き方のための取組み> ○ 施設としては、本院と2つの分院の計3箇所の病院施設と介護老人保健施設がある。 本院は急性期病院として救命救急や一般病床、回復期リハビリ、緩和ケアをカバーし ており、救命救急センター、地域中核災害医療センターにも指定されている。分院は 慢性期病院として療養病床をカバーしている。また、介護老人保健施設では、ショー トステイやデイケアもカバーしている。その他、居宅介護をカバーする地域包括支援 センターなどがある。ベッド数は、法人全体で1,217床、うち本院が737床である。 ○ 事業収益は、順調に増加しており、平成26年度で300億円程度である。このうち8割 は本院が占めている。設備投資をずっと続けているため、減価償却費が年間20億円以 上かかっており、利益は出にくい状況である。 ○ 職員数は約2,000名で、4年前に約1,700名だったところから業務の拡大に合わせて 増員している。2,000人のうち約1,000人が看護職、医師は230名程度となっており、職 員の7割以上が女性。 ○ 新卒採用は若干減少傾向で平成26年度は127名。中途採用は平成26年度121名で、大 きな変化はない。 ○ 平成26年度の離職率は7.8%で、低下傾向となっている。これは、看護師の離職がだ いぶ減ってきているというのが大きな要因。 ○ 第三者機関の客観的な評価を積極的に取り入れ、改善・向上に結びつけており、国 際標準化機構のISO9001、ISO14001、ISO15189などを取得している。 ○ 本院の1日の外来者数は現在2,000名前後。一時期2,400名位まで増え、午後の手術 ができなくなるというような影響が出てきたこともあり、外来患者を開業医に受けて いただき、あえて外来を減らすような活動を進めている。開業医では難しい患者さん を本院へ紹介してもらうことで、順調に紹介率が上がっている。 ○ 手術件数は毎年増えており、平成26年度は6,900件程度。 ○ 平均在院日数は、順調に減ってきて11日程度になっており、全国平均の17日程度に 比べるとかなり短くなっている。ただ、急性期の難しい患者さんがだんだん増えてき ており、この11日位が1つの壁になっている。 ○ 病棟の新設を順次行っており、積極的に設備の充実を図っている。 ・ 最先端の医療設備(内視鏡外科手術支援ロボット、最新の放射線治療装置、高性 能CT装置など)の導入。 ・ 救命救急センターでは、床には何も置かず、機器を上から吊す形にして、作業が しやすい環境を整備。 ・ ドクターカーの運用を開始。 ・ 緩和ケア病棟の新設。屋上庭園やラウンジを設け、患者さんと家族の方が最後の 時期を過ごせる設備としている。 ・ 小児病棟を新設、新生児集中治療室、新生児治療回復室を設置。子どものストレ ス軽減のため、壁の絵柄や看護師の服装に工夫。 ・ 女性専用エリアを設け、最新検査機器を導入した新たな検診センターを整備。受 付で受診者に渡されるIC入りリストバンドで、ロッカーの解錠、受診の順番の案 内、本人確認、データ管理などが行えるスマート検診を実現。 ・ 新たな調理方式を採用した厨房を設置し、各病棟で配膳することにより、暖かく 安全な食事が提供可能に。 ・ 非常時にベッドとして使える椅子や柱に埋め込まれた酸素・吸引設備など、災害 拠点病院として、避難者の受入が可能となるよう施設を整備。 ・ 最新技術を取り入れ、電子カルテシステムを中心として、再来受付機、外来待合 表示、画像統合管理室など関連システムを統合。医療の安全・質の向上に成果を上 げている。また、物流倉庫に電子カルテシステムと連動したデジタルピッキングシ ステムを導入し、作業効率が格段に向上。 ○ 地元の市町、医師会、当院を中心に、地域医療連携ネットワークを構築し、地域医 療機関との効率的な病診連携を圏域内で展開。具体的には、当院と地域医療機関をイ ンターネット上の暗号化通信で結ぶ地域連携システムを導入。紹介状の作成や返書の 確認、診察・検査の予約、紹介患者の診療情報(電子カルテ、CTやMRIの写真な ど)の共有がオンラインで可能となっている。接続医療機関数は110程度で、歯科医療 機関も含めると、160程度となる。 ○ 専門医、専門認定看護師、作業療法士、臨床工学技士などの専門家によるケアチー ムが連携して治療をサポートするチーム医療を推進。医療の安全と向上を支えている。 ○ 時代のニーズに合わせ分野ごとのスペシャリストを養成し、医療の質向上を図るた め、教育を充実。診療情報管理士、認定看護師、認定薬剤師等の育成に力を入れてい る。認定看護師、認定薬剤師は、様々な専門分野があり、安全管理、感染管理などの 専門的視点から、患者のQOL向上に関わり、早期退院に寄与するという目的で、診 療情報管理士は、カルテに記載されている診療情報の活用、処理、管理の質を高め、 医療の質向上に貢献する目的で、資格取得に関する必要経費の支援を行っている。結 果として、入院患者の在院日数の短縮、早期社会復帰、入院待機患者の早期受け入れ、 病院の臨床指標の把握・改善などにつながっていくものと考えている。また、認定看 護師については、それぞれの専門分野をいかして、専門外来(糖尿病透析予防外来な ど)に深く関わってもらっている。 ○ 民間企業で行われているQC教育を、当院でも品質向上のために取り入れている。 インストラクター教育を行い、インストラクターから各職場へ展開する形にしている。 院内で改善事例の発表会を行い、優秀者が外部大会へ参加することにより、新たな知 見を得る機会にもしている。こうした取組みにより、「改善の習慣」「考える力」 「コスト意識」というものが根付いてきたので、更に一歩進めて、改善提案制度とい うのを次年度から進めていこうと思っており、改善への取組みを評価して、報奨金を 出すことを考えている。 ○ 東南アジアへの医療支援に参加しており、海外での経験を重ねることで自己研鑽に つなげる職員研修の一環にも位置づけている。 ○ 出産後も働ける職場環境の整備として、職員専用保育園を整備しており、7時から 22時まで保育を実施、週2日は24時間保育を実施している。 ○ 定時の時間帯ではカバーしきれない患者への対応が時間外勤務を行わなくても可能 となるよう時差勤務を導入・拡大。また、看護職員の労働負荷の軽減のため、通常夜 勤は16時間であるところ、12時間夜勤の導入を進めている。この他にも、看護部で ワークライフバランスのための取組みを先行して実施しており、有給休暇を計画的に 取得できるようにするためのバースデイ休暇や3連続休暇、パートナーシップ体制の 導入、看護助手業務の拡大、産前産後、育児期の各種制度の周知などの取組みにより、 諸制度の認知度の向上、「定時に帰る」意識の向上、有給休暇の取得率の向上などの 成果が出ていることから、他部門への展開も考えている。 ○ 法人全体で見ても、所定外労働時間は少しずつ減少してきており、有給休暇取得率 は上昇してきている。 ○ 職員の評価方法は、年2回人事考課を実施しており、上期は業績考課、下期は業績 考課、行動考課としている。 ○ 賃金は役割に応じた設定としており、管理職については年俸制を導入している。昇 格(昇給)は、人事考課結果、所属長推薦をもとに面接審査を実施して決定。 ○ 職員配置の決定方法は、中期事業計画の他業務量の増加も盛り込みながら人員計画 を策定し、事業の拡大に合わせて人員を確保している。また、診療報酬の施設基準要 件を満たす人員を優先的に配置している。 <主な意見交換> 【Q】医療分野では人手不足ということが言われている中で、貴院は比較的堅調に採用で きているようだが、人手不足状況に置かれているのか。また、看護師を中心に離職率 が低下傾向とあるが、どのような取組みや工夫をしているのか。 【A】看護師も医師も勿論不足状態ではあるが、交通の便が良い立地ということに加え、 教育システムが良いということが採用に好影響を与えている思っている。看護師は給 与というよりも自分が早く成長できるかに主眼があるようで、先輩がどのように教育 を受けどのように育ってきているかという評判で入ってくる。医師についても、初期 研修の態勢がしっかりていることが非常に重要で、その辺の仕組みも整備しつつあ る。 また、最先端の医療技術、医療機械を積極的に導入していることにより、そういった 設備のある病院で研修したい、働きたいという医師も多い。更に職員食堂のカフェテ リア方式の導入や院内保育所の充実等の福利厚生施設の整備も非常に大事だと考えて いる。こうしたこと、特に教育がシステマティックにできていることが、離職率の低 下にも寄与しているのではないかと思っている。 【Q】看護師の勤務体制について、3交代制から2交代制に移行している状況なのか。ま た、月平均の夜勤日数が減っていて、それが看護師の離職率の低下につながっている ということはあるか。 【A】2交代制に移行済みであり、その中で更に12時間夜勤へのテストを行っている状況 である。また、夜勤回数については、月当たり4.5回以内で回している。看護師の力 量を見て夜勤に入る時期を少しずつずらしたりしていることも、離職率低下につな がっていると思われる。 【Q】生産性について、急性期であれば、手術件数を増やして在院日数を短縮していけ ば、自ずと生産性というものは上がっていくと思うが、他方、いわゆる慢性期の方々 に対する病院としての生産性の向上というのは、どういった方策があるのか。 【A】非常に難しいところ。本院は急性期をカバーしているが、地域の状況からして超急 性期に重点を置かざるを得ない。そうなると重病の患者さんが増え、在院日数は逆に 延びることになる。また、分院は、今まで療養だけだったのが、多少の亜急性期の患 者さんでも、分院に受けてもらわざるを得ないということになってきている。そうす ると、そこで働いている看護師のレベルを少し上げなければならないなど、調整がな かなか難しい。本院の病床利用率は、病棟の新設により今は95〜96%に抑えられてい るが、長い間100%を超えていた。分院の病床利用率は95%程度なので、どのレベル で分院に移って頂くかということもある。患者さんに移って頂くとき、当方で転院先 を探すところまでやっているという状況で、当院は準市民病院的な性格も多少あるの で、入院の時に必要日数をお話しして、それを過ぎたら出ていって下さいというよう に割り切ることは難しいところ。 【Q】離職した看護師の復職支援のようなものはしているか。 【A】看護師の復職支援について、制度があるわけではないが、当院に戻って来たいとい う元職員を何名か把握している。例えば、離職が多くなってしまったときに、パート なら働けるという方を少し採用する等している。 【Q】管理職について年俸制を導入しているということだが、病院での年俸制とは、どう いう評価基準・制度となっているのか。 【A】特に医師の部長以下に年俸の枠組みを導入し、超過勤務時間がみなし時間を超えた 場合は追加で手当を支払っている。また、科によって繁忙度も異なることから、賃金 体系を科によってゾーン分けし、能力に応じた支払いに近づけたいということで、年 俸制を入れている。 【Q】離職者の離職理由として大きなものは何か。また、職種、性別などにより傾向のよ うなものはあるか。 【A】離職の理由は、大きく医師とそれ以外に分かれる。医師については、医局の人事が 絡むものなので、恒常的に離職が発生する。ただ、離職と同じくらいの数の医師が来 てもらえるので、数が減るということではなく、むしろ総数は増加している。医師以 外については、離職率は低下しているものの、女性が多い職場のため、離職理由とし ては出産・結婚を機に辞める方が多い。また、メンタルの面で辞める方が少し増えて いると感じているので、注視している。 【Q】QC教育を導入したきっかけは何か。その結果、顕著に何か改善が図られたことが あれば教えて頂きたい。 【A】QC教育は、平成22年からスタートしており、看護部から始めて、全職員に広げて きた。具体的事例としては、リハビリ入院患者について総合実施計画書というものの 未作成が多かったところ、これを実施するにはどうしたら良いかを改善した事例など があり、部署単位での困り事を少しずつ改善し、少しでも作業効率が上がるようにし ている。 【Q】育児短時間勤務について、利用状況はどうか。また、利用面の工夫などがあれば、 教えて頂きたい。 【A】育児短時間勤務の利用状況は、利用率は手元にないが、60名ほどの者が利用してい る状況。今の当院の規定では、時間帯が1つで、8時半始業の6時間勤務、終業が16 時45分となっているが、終業時間は同じで朝を短くするように現在準備を進めてお り、利用率が向上することを期待している。 【Q】職員の評価方法について、上期業績考課、下期業績考課、行動考課とあるが、業績 考課と行動考課の違いは何か。また、能力評価は取り入れていないのか。 【A】基本的に業績考課は成績の量や質といった内容と態度を見ており、行動考課は能力 を見ている。ただ、能力を持っているだけではなく、行動に起こした部分、実績も含 めた能力を見るという考え方から、行動考課としている。 【Q】外部の評価を積極的に取入れているが、そのきっかけは何か。 【A】外部評価の導入のきっかけは、医療の質に関する研究会のスタートを知り、その評 価項目を見て、日本医療機能評価機構がスタートしたときに、認定を取得した。それ から、国際的なISOなども視野に入れて、医療だけではなく、法人全体として第三 者評価を受けつつ質を上げるべきだと当時のトップが判断し、取組みを開始してい る。 【Q】貴院は、医療サービス分野において高い評価を受けており、部門ごとの数値目標の 設定等に取り組んでいると聞いているが、特に、どの部分が高く評価されていると考 えているか。IT投資の部分を含めてお聞かせ願いたい。 【A】病院が行っている業務で、保険点数の取り漏れというのが意外にあり、そこを改善 していこうというところからスタートしている。また、病院全体の年度方針を受け て、科ごと部ごとの方針も立ててもらうが、その際収益の目標も立ててもらってお り、そうすると例えば手術件数の目標も出てくる。手術件数を増やすための課題を検 討し、例えば、週間予定表の組替え、麻酔科医師の確保、臨床工学技士や事務の職員 を増やすなどして、改善を図っている。その結果を年度終わりにフォローしながら やってきている。今後、電子カルテのシステム更新に合わせて、部門ごとの損益や手 術ごとの損益が出せるようにすることも考えている。 ITシステムに関しては、民間企業とも組んで、何か新しいことができないか意見 交換等は継続して行っており、デジタルピッキングシステムなどもそうした中で導入 している。 【Q】地域の医療の連携を進めていくことによって、本院では重症患者が増えて、亜急性 期に近い患者を分院で分担するようになったということであるが、そうした中で、 トータルでの生産性、効率性を維持・向上させていく上での秘訣は何かあるのか。 【A】本院の副部長クラスを分院の看護部長に入れ、そこで何が必要とされているのかと いったことを見てもらい、本院に戻すといったローテーションを行うことで、分院が どこまでの患者を受けられるか、もう少し受け入れを増やすにはどうしたらよいかと いったことを把握できるようにしている。 【Q】貴院は小児科の拡充などに取り組んでいるようであるが、診療科の中でも、小児 科、産婦人科など、努力しても採算が上がりにくい診療科があると思う。そういった 診療科において採算面でもうまくいくための秘訣はあるのか。 【A】地域に母子医療センターがないため、地域医療への貢献ということもあり、大学医 局とも相談しつつ、採算度外視の部分もある中でやろうという判断をしたという側面 が強いと思う。    【Q】利益は出にくい状況にあるということだが、経営上、病床利用率の水準は95%で良 いと考えているか。もっと高めたいと考えているか。 【A】年によって赤字になったり黒字になったりしており、大きな投資をしたときは償却 が増えて赤字になり、投資が少し落ち着くと黒字になるといった傾向がある。病床利 用率は、100%を超えると、まだ迎えが来ていないのに次の患者さんが来たから出て 下さいということになってしまい、それは良くないと思っている。病床利用率を年度 目標に掲げるようなことはやめておこうと考えている。 【Q】本院と分院で採用は一括か別々か。また、先程看護部長の話があったが、より下の レベルで人事交流はあるのか。 【A】医師や技術職、事務は基本的に本院採用で、看護師、介護職は事業所別の採用と なっている。人事交流については、看護師、薬剤師、放射線科の技師、事務職などで 行っており、特に次に課長になるクラスなどは積極的にローテーションをかけて、分 院の状況も学んでもらっている。当然適材適所があるので、看護師も急性期の仕事を ということで入ってくるが、手術室など厳しい環境に入ると、性格的に合わないとい う人もいて、そういう場合は違う部署へ配置することになるが、すぐに100%対応でき ないこともあるため、それで辞めてしまうケースもゼロではない。 【Q】地域医療連携がかなり進んでいて紹介率も上昇しているようだが、逆紹介率につい ても伸びているのか。 【A】逆紹介は順調に増えており、逆紹介率は平成26年度平均で46%、先月単月では50% を超えている。開業医と連携する上で、紹介患者を増やそうとすると、まず当院から 開業医への逆紹介を増やさないといけないということで進めてきた。開業医も、大き な病院に患者を取られるのではないかということで、患者紹介を躊躇することも多 かったが、ここ数年で良い循環が生まれてきて、紹介患者数もぐっと増えてきた。 【Q】1日平均の入院患者数はどう推移しているのか。外来を減らして新入院を増やす方 向で考えているのか。 【A】そのとおり。新入院は、1日70名ぐらいという状況。 【Q】地域医療連携ネットワークを構築されているが、このような地域のシステムは、貴 院の地域がかなり先進的な状況なのか。それとも同程度の取組みが全国的に見られる ものなのか。 【A】先取りしていると感じている。大都市では、大きな病院がいくつもあるため、どこ が核の病院になるかという難しい問題があるが、当院周辺には、当院以外に大きな病 院がなかったという環境もある。高齢の開業医だとなかなかパソコンを触りたがらな いということもあり、全ての病院で完全に機能しているとまでは言えないが、これだ けの開業医全てとつながっている地域というのは余りないのではないか。